ブリング・ミー・ザ・ホライズン(BMTH)の通算6枚目となるニューアルバム『amo | アモ』がリリースされた。最大のヒット作となった前作『ザッツ・ザ・スピリット』から3年11カ月振り。
新作は良い意味で期待を裏切る問題作となっている。

2015年の前作『ザッツ・ザ・スピリット』でアメリカ、イギリスでともにチャート初登場2位を記録し、世界各国で過去最高セールスを上げた彼らは、今年61回目を迎えるグラミー賞では、新作からの「MANTRA」が最優秀ロック・ソングにノミネートされている。2000年代を席巻したいわゆるモダン・メタルコアのシーンの中から出てきた彼らは、ヘヴィでブルータルな中にも独特のポップ・センスが光っており、シーンの中でもトップの人気を誇っていた。2012年にジョーダン・フィッシュ(キーボード)がバンドに加入してからは、ジョーダンがオリヴァー・サイクス(ヴォーカル)の右腕となってプロダクションに携わるようになり、オリヴァーのヴォーカルがメロディも表現力もともに大きく進化するとともに、エレクトロニックが大胆に導入されることによって、バンドはさらなる進化を遂げることになった。
 
新作『amo | アモ』の凄さは、おそらくバンドの進化を最前線にまで持っていくところにあるのだろう。『ザッツ・ザ・スピリット』はある意味、バンドがアリーナ・クラスの大物になるために必要なロック・アルバムだったという。しかし今の彼らが目指しているものは違う。

「今やもう新しいロックスターもアイコンも出てきてないよね。ロック・フェスにしても、いつまで経っても大御所ばかりが君臨してるままだ。一方、ラップのほうは毎日のように新しいアイコンが出てくるし、カルチャーになってる。音楽は常に新しいものが生まれて更新していくものなのに、ロックはちっとも進化していないんだ。ロックバンドだからできること、できないこととか、そういうのはもうどうでもいいんだよね。
だから僕たちはそれをロックと呼ぼうが何と呼ぼうが、音楽でしかないんだけど、今までに他の人がやったことのない新しいものを提示していきたかったんだ」(オリヴァー)

「制作をしてる時は自分たちがロックバンドだという意識はないね。もっとクリエイティヴな視点で、どういうサウンドが自分たちにとってエキサイティングなのかを追求してる。何かをクリエイトする時には、エモーショナルなものなのか、感動できるものなのか、意味のあるものなのかということが最も大切であって、アプローチは二の次なんだよ」(ジョーダン)

もはや伝統的なロック/メタルの叫ぶヴォーカル、ラウドなギターの音、ヘヴィなドラム&ベースといったものが全くない曲すら何曲もあるのだ。ヴォーカルにしても、エレクトロニックの導入にしても、ここではこれまでとは全く異なるアプローチが取られている。

「音楽をやるからには新しいことをやるべきだと思うんだ。トラディショナルなものにしても、今までに聴いたことのないバージョンのものをやるべきなんだ。今回、僕たちはいろんなトライを繰り返しながらチャレンジしていく中で新しいサウンドを追求していったよ。ヴォーカルのアプローチにしてもそうで、ヘヴィなところで叫ぶようなありきたりのことはもうしたくなかったし、音楽のテクスチャーに最も自然に融合するようなヴォーカルのアプローチを考えたんだ」(オリヴァー)

「普通のロック・バンドはエレクトロニックをヘヴィな要素として使うよね。元となる曲もロックの曲やメタルの曲だし。そこでエレクトロニックはハイエンドなスペクトラムとしてのみ使われるんだ。だけど僕たちはそういうことをしたくなかった。どの曲もエレクトロニックのアプローチが違うから、バリエーションも豊かになったし、かなりオリジナルなものになったと思うんだ。
それで6カ月もかかったんだけどね。バランスを上手くとって、聴いてて気持ちのいいものにするには時間がかかったんだ」(ジョーダン)

すでに伝統的なロックの枠には収まっていないものの、この新作にはロックを感じさせるものがあるし、何よりもブリング・ミー・ザ・ホライズンらしい音に聴こえるところがポイントとなっている。

「(モチベーションは)自分たちへのチャレンジだね。新作は今までに僕たちが作ってきたものとは違うサウンドになった。でも自分たち的には、今までで最高の曲を書いたということに尽きるね。カッコいい曲をいっぱい作りたかったから、エクスペリメンタルな曲がたくさん入ってる。だからと言って、ファンを裏切るようなことはしたくはないし、前のアルバムに対するディスリスペクトもないよ。ただ、新しい曲はどれもが昔の曲を吹き飛ばすくらいの勢いがあると思うね」(ジョーダン)

ロックバンドというしばりはもはや関係なく、自分たちにとって正しいと思える音を作りたかったという姿勢は、例えば「nihilist blues feat. Grimes | ニヒリスト・ブルース feat. グライムス」という曲にも表れている。自分たちが好きだった90年代のハウス・ミュージック、レイヴから影響を受けたというこの曲では、グライムスという非常にアーティスティックな女性アーティストをゲストに招いている。一方で、エレクトロニックとは真逆の伝統的な楽器、例えば弦楽器や管楽器を入れたり、オーケストラを使ったり、クワイヤを入れたりしながら、繊細な音のレイヤー作りもしている。

もちろん彼らならではのロックが炸裂する曲だってあるし、ヒット曲だってある。「MANTRA | マントラ」はもちろんのこと、クレイドル・オブ・フィルスのダニ・フィルスをゲストに迎えた「wonderful life feat. Dani Filth | ワンダフル・ライフ feat. ダニ・フィルス 」もそうだ。
ちなみにこの曲は元々リンプ・ビズキットのために行った曲作りのセッションから生まれたリフを元にしているという。ゲストで言えば、「heavy metal feat. Rahzel | ヘヴィー・メタル feat. ラゼール」で元ザ・ルーツのMCでヒューマンビートボクサーのラゼールが参加しているのも面白い。こういったゲストを選ぶセンスにしても、そこには異なる音楽やアイデアをミックスすることによって、新しい音楽を打ち出し、カッコ良くて意味のあるものを表現したいという創作意欲が見てとれるのだ。

そして、アルバム全体を通したテーマは「愛」なのだ。アルバム・タイトルの『amo』は、ポルトガル語で「愛している」という意味を持つ言葉であり、オリヴァーの2年前の離婚というパーソナルな経験からインスピレーションを得たものだという。

「離婚についてはあまり語りたくはなかったんだ。それでもしばらくすると、自分自身を見つめ直して、この問題にちゃんと向き合えるようになりたいと思ったんだ。離婚というトラウマ的なことを経験してしまうと、精神的に重荷を背負ってしまう部分もあってね。僕がラッキーなのは、音楽があったからそういう状況から抜け出すことができたことだ。愛には良いこともあれば、悪いこともあるし、奇妙なことだってある。愛は僕自身に影響を与えるし、相手にだって影響を与えるし、周りの人たちにも影響を与える。そこにはもはや怒りはなく、ちゃんと向き合って、乗り越えて、精神的に荷を下ろす感じだったんだ」(オリヴァー)

ロックがヒップホップに押さていれる今の時代、ロックバンドはどう時代と向き合った音楽を打ち出していくのか。
『amo | アモ』はそれに対する一つの答えなのかもしれない。

ブリング・ミー・ザ・ホライズン、進化の背景にあるもの「アプローチは二の次」

『amo | アモ』
ブリング・ミー・ザ・ホライズン
ソニーミュージック・インターナショナル
発売中
※初回仕様のみロゴステッカー封入/歌詞対訳付き

収録曲
01. i apologise if you feel something | アイ・アポロジャイズ・イフ・ユー・フィール・サムシング
02. MANTRA | マントラ03. nihilist blues feat. Grimes | ニヒリスト・ブルース feat. グライムス04. in the dark | イン・ザ・ダーク
05. wonderful life feat. Dani Filth | ワンダフル・ライフ feat. ダニ・フィルス 06. ouch | アウチ07. medicine | メディスン08. sugar honey ice & tea | シュガー・ハニー・アイス&ティー
09. why you gotta kick me when im dow? | ホワイ・ユー・ガッタ・キック・ミー・ホエン・アイム・ダウン?
10. fresh bruises |フレッシュ・ブルーゼズ11. mother tongue | マザー・タング12. heavy metal feat. Rahzel | ヘヴィー・メタル feat. ラゼール
13. i dont know what to say | アイ・ドント・ノウ・ホワット・トゥ・セイ
http://www.sonymusic.co.jp/artist/bringmethehorizon/

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