ONE OK ROCKのニューアルバム『Eye of the Storm』がついにリリースされた。サウンド面でも、レコーディングのマナーにおいても、激変作と評して過言ではないニューアルバムだ。


日本のロック・シーンの頂点に立つバンドであり、同時にロックが死にかけているUSシーンで孤軍奮闘するバンドでもある彼らは、今回のアルバムでアメリカで、世界で勝てるハイブリッドなロック・サウンドを生み出し、新しいステージを切り拓くことに成功している。Takaに話を訊いた。

ー前作『Ambitions』がアメリカでは「フュエルド・バイ・ラーメン」からのリリース第一作で、あのアルバムから大きくONE OK ROCKのサウンドメイクは変化し始めたわけですが。

そうですね。

ーこの『Eye of the Storm』はさらに大胆な転換作で、バンドの方向性としてある意味吹っ切れたのかなと。

やはり『Ambitions』を作ったことが大きかったんです。当時、あのアルバムのレコーディングは正直かなり戸惑いましたから。前作の海外盤には「American Girls」って曲があったんですけど、あの曲は僕自身、もう作っている段階から「本当にこれはONE OK ROCKとして正解なのかな?」っていう気持ちにまでなったんですけど。

ーフュエルド・バイ・ラーメン側からオーダーされて作った曲ってことですよね。「アメリカではこういう曲が必要だよ」って。

そうなんです。こういう曲を作って欲しいと言われて。
でも、そこはわかっているんですよ。戸惑ったからといって単に反発するんじゃなくて、自分がしっかり受け止めて、受け止めた上で見えてくる新しい景色を見ないことには始まらないっていう。僕らがアメリカに来ている意味っていうのは、いわゆるアメリカのポップだったり、カルチャーも、もちろん勉強したくて行っているので。レーベルのA&Rとコミュニケーションを重ねていく中で、アメリカで活動をしていく中で、やっぱりそっちのほうがいいって思えるようになった。でも、(「American Girls」を)シングルにだけはしたくないって気持ちはありましたけど(笑)。

ー(笑)。

そういうこともあって「American Girl」はアメリカ・バージョン限定っていうかたちでリリースしたんです。でも、結果的にはやっぱりあの曲がアメリカではすごくラジオでかかったんですよ。あと、各州の女の子を選ぶビューティー・コンテストの主題歌に勝手になっていたりとか(笑)。

ーアメリカン・ガールだけに。

なんでこの曲がこんなにフィーチャーされるんだろうって。でもあの曲のアメリカでの影響力は本当に大きくて……やれと言われたことが嫌だったのに、ちゃんとかたちとして返ってくるっていう経験は、やっぱり大きかった。
アメリカで車を運転していて、自分たちの曲がラジオから流れてくるなんてなかなか経験できないですよね。前作であの時、やれと言われたことを半信半疑でやったら、そうして大きな成果として返ってきたってことは正直、自分の中でも驚きでした。その経験を踏まえて、こういうことをしっかり噛み砕いて続けていくことが大事なんだなって。そういう気持ちになったところで作ったのが今回のアルバムなんです。

ー今作もアメリカ・レコーディングだったんですよね。

あとイギリスでもやりましたね。LAとイギリスです。『Ambitions』のワールド・ツアーが始まったのと同じタイミングで作り始めてはいたんです。でも、あのツアーは1年くらい回って100本くらいやったツアーで、なかなか時間が取れなくて。だから実際の日数でいうと1年もかかっていないんですけど、ツアーをやりながらアルバムを作るとなると、どうしてもそのくらい時間がかかってしまうんですよね。そこが自分的には苦しいところなんですけど。今回はフュエルド・バイ・ラーメンのA&Rの人間と密に話しながら……彼にほとんどプロデューサーみたいな立場で関わってもらって、レコーディングを進めていったんです。
それで……40曲、50曲くらいデモを作ったんですけど、その中から吟味して、皆でディスカッションしながら、僕の意見も当然入れながら、最終的にアルバムの曲数に絞られたって感じですね。

ー今作は前作にも増してすごいプロデューサー陣、共作陣が揃っていますけど、この人選は誰がどうやって決めたんですか?

今回はピート(A&R)の意見を100パーセント取り入れて、「このプロデューサーとやったほうがいいよ」、「わかった」って(笑)。そうやって毎日違うプロデューサーとセッションをしていって。その中で僕らと合う人とやりました。中には僕が提案した人も3、4人いるんですけど、意外と、シングルは僕がやりたいと思ったプロデューサーとやった曲が多いんじゃないかな。「Stand Out Fit In」は別なんですけど。

ーあの曲のプロデューサーはデレク・ファーマン、カイゴからグレース・ヴァンダーウォールまで手がけている売れっ子ですよね。今回はロック系じゃない、いわゆるポップ、R&B系のプロデューサーも多く参加していて。

そうなんです。ジャスティン・ビーバーのプロデューサーのプー・ベアーとも今回初めて一緒にやって。

ージャスティンの主要ブレーンと言っていい大物ですよね。驚きの人選でした。


しかもそのきっかけが面白くて。「American Girl」を聴いたある映画の配給会社の社長が、『LEGO』っていう映画にこういう曲を使いたいから、新曲を書いてくれって言われて、それで映画用に書いたんですよ。そしたら、その社長がプーと仲が良くて、彼を紹介してもらって今回一緒にやることになったっていう。全部繋がっているんですよね。どこにチャンスが転がっているかもわからないですよね。

ープー・ベアーとやった「Head High」は、ソングライティングも彼とやってますよね。

あれは衝撃の体験でしたね。あの曲は、ほぼあの人が書いたような曲なんですよ。レコーディングの仕方からして俺はもうびっくりして。曲として歌わせてくれないんです。いきなり素で、アカペラで歌えって。「俺が一回歌うから付いてきてね」って。
プロデューサーの彼がまずはタラララ~って歌い出すんです(笑)。

ー(笑)。

そうやって録った僕の声を後から改めて別録したオケにはめ込んでいくっていう……もう謎でしたね(笑)。でもなぜかちゃんとハマっているんですよね。聴いてみたらなかなかいいなって。あの人はR&Bのプロデューサーですから。ロック・バンドなんてやったことないんじゃないかな。『ジャスティンもこうやってるんだよ』って言われて(笑)。

ーそういう、ロック・バンドらしからぬレコーディングや曲作りや、ボーカロイドでエフェクトをかけたTakaさんのボーカルなんかにしてもそうですけど、今回のアルバムはギター・ロックの音圧を高めていくんじゃなくて、むしろ音圧を抜いて広大なサウンドスケープを作っていく方向のプロダクションですよね。バンド・サウンド自体はすごくシンプルで。

そうですね。だって今回、ギターはエレキ、アコギに限らず、曲中では1本しか使ってないんですよ。
今までは必ず2本重ねてレコーディングしてたんですけど。オクターブがあったり。リフがあったり、アルペジオがあったりね、当然していたんだけど。でも今回はもう、1本だけって決めたんです。その1本の音圧が足りなければ同じギターの音を足すっていう、すごくシンプルな作りです。ベースももちろんそうだし、ドラムもそう。楽器隊はシンプルを通り越えたところまでいっていると思う。でも、それがやりたかったんです。シンプルなバンド・サウンドをプロダクションで埋めていって、答えはライブにあるっていうものを作りたかった。

ーキアーラがゲスト・ボーカルで参加している「In The Stars」も驚きました。なんだろう、ほとんどアリアナ・グランデの曲と言っても通用するようなポップ・ソングで。

そうですね、あの曲はもともと僕が歌っていたんですけど、彼女に歌ってもらおうって。そうしたら本当にすごくポップな、レディオ・ソングになったんです。

ーキアーラとのコラボは、リンキン・パークの縁で?

そうです。チェスター(・ベニントン)のトリビュート・コンサートがLAであって。僕も出させてもらったんです。あの時の僕はもう色々な感情を抱えてステージに立って歌っていたので、ほとんど何も覚えていないんです。悲しみを通り越えたところで生じる緊張感がすごくて、終わった後に本当に疲れて……それで映像を見返してみたら、「歌、ひどいな」って思いました。でも、それは僕だけじゃなくて、あの日出演していたアーティストはみんなそういう気持ちになっていたみたいなんですよね。キアーラとは、そんなコンサートで会いました。そう、会って裏で話した時に彼女も「全然ちゃんと歌えなかった」って言っていて……そこにはスティーヴ・アオキやZEDDもいたんですけど、みんなで終わった後に話していたんです。「俺ら、ここで会ったことをこの後ちゃんとかたちにしたいね」って。それからキアーラとも連絡取るようになって。

ー現在のアメリカ市場は、本当にロックの状況が厳しくて。

死んでますからね。

ーええ、そんな中で唯一頑張っているのがフュエルド・バイ・ラーメンのバンドたちですよね。パニック!アット・ザ・ディスコや、トゥエンティ・ワン・パイロッツのような。

そうですよね。

ー彼らはもともとエモやパンクとしてカテゴライズされていたバンドでしたが、皆揃って新作で新しいことをやっていて、過去のカテゴライズをぶち壊していっている。そこにはやっぱり旧来型のバンド・サウンドではもはや勝てないっていう危機感があったからで、そういうロック・バンドとしての危機感を、ONE OK ROCKも共有しているんじゃないかと。

そういう危機感は、日本でやることに関してはないですよね。いいバンドがたくさんいるので、そのままやっていけばいいんだと思う。僕らも自分たちのやりたいようにやって、ドーム・ツアーをやらせてもらったんで。あのドームっていうのは自分たちにとってある意味、好きなように走ってたどり着けた最高のゴールだったんです。だから次のゴールは好きなように走って見たい最高の景色じゃなくて、社会人のように責任を持って、自分たちのレベルを上げて、幅を広げていくために走っていきたいし、その延長線上に素晴らしい景色があることを願ってるんです。だから日本のバンドに関してはこのままでいいんじゃないかなって思います。米津玄師みたいな人が出てきて、ああいう素晴らしいメロディを生み出していて。RADWIMPSみたいなバンドもいたりとか。日本のシーンはそうやって好きなように引っ掻き回せばいいんだと思う。でも海外でやっていくとなると、どうしても難しいですよね。

ーいいロック・バンドがロック・バンド同士で競い合える日本と、それこそドレイクやリアーナみたいな存在と対峙することを求められるアメリカのロック・バンドではシビアさが違うという。

そうですね。たとえば、昨年から映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしていますよね。あの映画がヒットした理由が僕にはすごくわかるっていうか……結局、今のロック・ミュージックって、もちろん普遍なものではあるんですけど、同時にファッションなんですよね。ロック全体がメタルのようになっているというか、全く違うジャンルの人が見た時に、ロックとすぐにわかるものがロックなんだよっていうか。中途半端な場所でダラダラやっていると、それはもう理解されない時代になっている。僕の感覚で言うと、振り切っているのが今のロックなんです。『ボヘミアン・ラプソディ』っていう映画、クイーンっていうバンドの振り切った分かりやすさ、まさにあれが今ロックに求められているものだと思うんです。

ークイーンと言えば、「Push Back」は無茶苦茶クイーンを感じる曲でした、コーラスとか。

ちなみに『ボヘミアン・ラプソディ』が公開される前から、僕の中で今回のアルバムのテーマはクイーンだったんで(笑)。「Push Back」はまさにそれを意識した曲です。あのコーラスも、メンバーにも歌って欲しいって気持ちがあったんで。だから『ボヘミアン・ラプソディ』がこういうタイミングで出たことに自分でも縁を感じて、勇気をもらったんですよね。あの映画を観たらきっと皆さんもわかると思うんだけれど、クイーンのレコーディングのやり方は、ギターを何本も何本も使って演奏して録るというよりも、プロダクションの段階で様々な音を入れたり、ボーカルを重ねてみたり、オペラで歌ったりすることで、曲を膨らませていますよね。僕らも今作ではああいうようなことを自分たちのレコーディングでやりたかったんです。そういう話を僕らのA&Rにしたら、彼は「トゥエンティ・ワン・パイロッツなんてギターさえ入ってないじゃない。それでもロック・バンドだよ」っていう意見だったんです。この人僕たちより冷めてるなって思いました(笑)。

ー(笑)。

ギターすらいらないって言い出したぞって(笑)。そういう意見をもらって、いろんなせめぎ合いの中で作っていったのが『Eye of the Storm』なんです。

ONE OK ROCKのTakaが語る新境地「プロダクションの緻密さと振り切った分かりやすさ」

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