※この記事は現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.05」に掲載されたものです。
これまでサポートだったAAAMYYYがメンバーとして加入し、新体制となった2018年のTempalay。『なんて素晴らしき世界』の収録曲「どうしよう」がBTS(防弾少年団)のTwitterで紹介され、バズが起こったのも記憶に新しい。「転換期」の1年について小原綾斗(Gt, Vo)、藤本夏樹(Dr)、AAAMYYY (Cho, Syn)に語ってもらった。
海を越えて、BTS(防弾少年団)へ
ー2018年10月にBTS(防弾少年団)のTwitterで「どうしよう」が紹介されて、かなりバズりましたよね。あの一件をどのように捉えていますか?
小原:防弾少年団からツイートされたよ」ってLINEが来て知ったんですけど、往年のパンクバンドかな? と思って。人間椅子みたいな、遠藤ミチロウさんとか町田町蔵さんとかが昔そういう名前でやってそうじゃないですか。
ー字面だけ見るとね(笑)。じゃあ、BTSのことはよく知らなかった?
小原:知らなかったです。で、そのツイートの写真が送られてきて、見たら1500万フォロワーとかで、「あらら」っていう。
藤本:俺もよく知らなかったんですけど、前日にたまたま知り合いとBTSの話をしていて、MVとか見てて、その翌日にツイートされたからびっくりしました。
AAAMYYY:私も知らなくて。
ーみんなあんまり知らなかったっていうのは結構意外ですね。ビルボードで1位になったこととか、一時期かなり話題になったけど、そういうこともあとから知ったと。
小原:だから、そんなに興奮とかもしてないんですよね、実は。そこでバッといくとかも、そんな思ってなかったというか。
ーあのツイートがあって、二次的な広がりとか反応もあったんじゃないですか?
小原:特にはないんじゃないですかね?
AAAMYYY:数字的なことはあったかもしれないけど。
スタッフ:サブスクは一気に上がりましたね。特に、海外のApple MusicとSpotifyでは今も継続して聴かれています。
小原:「ピコ太郎現象みたいになるんじゃないか?」とかも言われて、それはそれで嬉しいから、ジャスティン・ビーバーのフォロワー調べたら、1億人いて、桁違うなって(笑)。
ーそもそも「どうしよう」という曲は、「Tempalayのことをもっと多くの人に知ってもらうために」作った曲で、ある意味してやったりだと思うんですよね。同時に、「あの曲は今の自分のポップの限界で、あれ以上ポップな方によると自分を見失っちゃうから、ギリギリのラインを目指した」という話だったと思うんですけど、そうやって作った曲がピックアップされたことで、ソングライティングに対する考え方には何か影響がありますか?
小原:いや、全然ないですね。Tempalayとしてどう見せていくかは常に考えているんですけど、どう受け入れられるかはあんまり考えてないというか、Tempalayとしてどうあるかっていう方が大事なんで。
ー世界的なポップスターが日本のインディバンドの楽曲をピックアップするというのは、「ポップの概念が変化している/広がっている」という言い方もできるように思います。そこで、「今の時代におけるポップとは?」という話もしてみたいなって思うんですけど。
小原:今アメリカで売れてるポップってなんなんですかね?
ーいろんな答え方ができると思うけど、チャートだけ見たら、「今のポップはヒップホップである」っていうのもひとつの答えだとは思います。(藤本)夏樹くん、どうですか?
藤本:僕は今のポップはアイコンだと思います。その人の音楽が好きっていうよりは、その人自身が好きで、その人のものを支持するっていうのがほとんどだと思うんです。だから、「ポップな音楽とはなにか?」って言われると、めちゃめちゃ難しい。アイコンになってる人が、今どんな音楽に目を向けてて、実際やってるのかを見るしか、ポップってものがなんなのかはわからないと思います。逆に言えば、そのポップスターがファッションに目を向けたり、映像に目を向けたり、そういうのが昔以上に全部関係して一緒に動いてるのが今なのかなって。音楽だけのスターって最近はいなくて、「その人のすべてを支持する」みたいな、今のポップスターはそういうイメージですね。
小原:昔からそうではあったと思うけど、より一層そうなってきましたよね。
ーマイケル・ジャクソンなんてまさにそういう存在だったわけだけど、それがより多角化してるというかね。AAAMYYYさんはどう思いますか?
AAAMYYY:夏樹の話はその通りだなって思って、今のアメリカにフォーカスすると、例えば、テイラー・スウィフトが曲を出すってなると、本人を含むチームが常にアンテナを張っていて、気鋭のトラックメーカーとかにお願いするわけじゃないですか? そこにジャンルは関係なくて、だからポップスにR&Bもヒップホップも入ってて、多様化みたいなことはすごく感じます。日本でも、宇多田ヒカルがいろんなラッパーとかトラックメーカーを入れてるっていうのは、一緒のことだと思いますね。
ー2人の話の裏を返せば、BTSという世界的なアイコンがTempalayをピックアップしたということは、Tempalayが2018年におけるポップの大枠にちゃんと入ってるってことですよね。
小原:……ありがたいですね。
ー他人事みたい(笑)。(小原)綾斗くんはどう思いますか? 今の時代のポップについて。
小原:どうなんですかね……もはや曲にしろ媒体にしろ、飽和してるわけじゃないですか? そんな中で、なにをメインカルチャーとして捉えるかって、めちゃくちゃ曖昧というか。まあ、そういう今だからこそ、芯の深いものというか。一過性でバッと取り沙汰されても、すぐに淘汰されていくと思うんで、5年後にもちゃんと残ってるやつが、今本当のポップをやってるんじゃないかなって。自分はそう信じてやってます。
ー時流どうこうではなくて、「自分はこれ」って思うことをやること自体が、今の時代のポップの要件かもしれないですよね。
藤本:今年出たアルバムの中で、The Prodigyの新作が衝撃だったんですよ。変わらなさ過ぎて(笑)。「まだこれやってんの?」っていう。でも、そういうのを聴くと嬉しさもあるし、やっぱかっこいいなって思っちゃうんですよね。
ー「誰かがいいって言ってるからいい」っていう時代だからこそ、「自分はこれ」のかっこよさが際立つとも言えますよね。それって一歩間違えれば単なる時代遅れになっちゃうけど、でもちゃんとアンテナを張っておけば、「自分はこれ」っていうものを作ったとしても、時代と接続できる。『なんて素晴らしき世界』はそういう作品だったかなって。
小原 いいまとめだと思います。全部僕が言ったことにしといてください(笑)。
ーダメです(笑)。
ーここからは2018年全体を振り返ってもらおうかと思います。
小原:めちゃくちゃ転換期ですね。脱退あり、加入ありで。
ー「個性の集合体になった」という話を以前してくれましたよね。
小原:新しいサポートのベーシスト(Aun beatzのKenshiro)も人間的に面白いやつだし、みんな日々頑張って、各々負けまいとケツ叩き合ってるんじゃないですかね。今までもそうだったけど、よりそうなったというか。だから、各々もそうだし、Tempalayにしても、本当に転換期だと思います。正直リキッドルームのワンマンがソールドアウトになるとも思ってなかったし、目に見えてお客さんが増えて、これから人前に出ることがもっと増えていくだろうから、そういう中でもっと変化していくんだと思うんですよね。今は……まだちょっとだけフワフワしてる(笑)。
ーまさに、変化の真っ最中だと。AAAMYYYさんは2018年のTempalayの動きをどう捉えていますか?
AAAMYYY:ちょっとずつ活動する場所が大きくなっているのは感じてるので、今のままじゃいられないというか。各々が磨き上げないと、上にはいけないじゃないですか? お互いでなにか言ったりはしないけど、そこは暗黙の了解というか……私もソロがあるし、夏樹もソロがあって、綾斗はこのバンドの核になるソングライターだし。今はそれぞれが日々いろんなものを吸収したり、いい景色を見たり、そういう方向にシフトしてるというか、いいものを作るために、みんなの生活がそうなってるんだろうなって思います。
ーそれぞれが違ういい景色を見ることで、3人集まったときにはこの3人でしか生まれない、新しいものが生まれると。
AAAMYYY:今は成長期ですね。
小原:だから最近膝痛いのか。
ー成長痛ね(笑)。でも今バンドの概念が更新されていってるのは間違いなくて、固定メンバーで、そのバンドの中だけで完結してるのもそれはそれでアリだけど、それぞれが個としても立っていて、ユニット的な動き方をしてるバンドがよりクリエイティヴなものを生み出している時代ですよね。
小原:この間Spincoasterの企画で、「テレパシー」を机並べて3人でやったら、すごく評判がよくて。あれは4人だったらできてなかったことを評価してもらえた、一個のトピックかな。より自由な発想を持てるようになったというか、基本的には、なにやってもいいですからね。
ーそんな時代だからこそ、ソロアーティストでもあり、バンドメンバーでもあり、RyohuくんやTENDREのサポートもしているAAAMYYYさんのような存在は非常に重要だと思います。AAAMYYYさん個人としては、2018年はどんな年でしたか?
AAAMYYY:……すごい移動距離でした(笑)。自分でもびっくりするくらいスケジュールがパンパンで、今年は本当に休みがなかったです。でも、毎日楽しかった。Tempalayといてももちろん楽しいけど、いろんなアーティストの現場でいろんなことを経験して、私という一人の人間がいろんなところに点在してるような感じっていうか。面白かったし、勉強になったし、得るものがすごくて……滝を浴びてるみたいな(笑)。
小原:髪も伸びたもんね。
AAAMYYY:こんな伸びるんだ! ってくらい伸びましたね。だから、私自身も成長期でした(笑)。
ー多忙なスケジュールの中で、2月の『MABOROSHI WEEKEND』に続いて、10月にも『ETCETRA EP』と、ソロ作もいいペースで発表していますよね。
AAAMYYY:サポートをしたり、バンドに入っても、一個人としての制作は絶対止めたくなくて。私すごいワーカホリックなんですけど、自分がちゃんと発信してないと、得られないものがあると思うんですよ。サポートしたりしながらも、キャラクターとして確立させるには、自分という人間のアイデンティティをちゃんと表現しないと、そうはなり得ないというか。普通サポートっていうと、スキルとかはすごくても、その人自身の色があんまり見えなかったりすると思うんですけど、私はそうじゃなくて、AAAMYYYという人間の個を尊重してもらえるところで、その個を上手く使ってもらったり、いいものに落とし込んでもらえたら、そこに関わる全員にとってWin-Winなんだろうなって。
ー今って少しずつそういう人が増えてると思うんですよね。長岡亮介さんあたりが先駆けかなって思うけど、アーティストとサポートの両輪を上手く回している人が、音楽シーンをより盛り上げて、面白くしてる。AAAMYYYさんもまさに、そういう一人だなって。綾斗くんや夏樹くんからは、AAAMYYYさんのようなあり方っていうのはどんな風に見えていますか?
小原:AAAMYYYにしろ夏樹にしろ、面白いことを考えてる人たちなので、負けないように頑張って曲作ろうっていう、それだけです。
ー夏樹くんがJohn Natsuki名義でのソロ活動を始めたのも、AAAMYYYさんからの刺激がひとつの要因だったりしましたか?
藤本:いろいろ手を出してもいいかなっていうのは、前々からずっと思ってたというか。AAAMYYYとはもう3年くらいやってますからね。
小原:そうなんですよ。だから、今改まって聞かれても、変化ってそんなになくて。
藤本:AAAMYYYは知り合ったときからずっと、自分で作って歌う人のイメージだし。
ー今のAAAMYYYさんは知るタイミングによって、いろんな見え方がありますよね。ソロアーティストとして知ってる人、バンドメンバーとして知ってる人、誰かのサポートで知ってる人……だからこそ、媒介にもなり得るというか。
AAAMYYY:そうですね。私が関わってる人はみんなそれぞれ出所が違うから、私をきっかけに知ってくれたら嬉しいです。Tempalayはもちろん、私かっこいい人としか一緒にやらないんで、自信を持って、「どのライブも来てください」って言えます。
ーでは最後に、2019年の展望についてそれぞれ話してもらえればと。
AAAMYYY:2019年はもっと飛び回りたいですね。
ーさらに?(笑)
AAAMYYY:Tempalayでいろんなところに行って、楽しくライブをして、美味しいものを食べたり、爪痕を残したり。チーム感を高めて、みんなでバーン! とやりたいです(笑)。もうそうなっていくしかないから、目に見えているというか。パズルを完成させるみたいに、ちょっとずつピースが埋まっていく気しかしないので、そうなっていくのが楽しみですね。
藤本:まあ、来年も変わらないとは思うんです。いいもの作って、いいライブして、自由に、楽しく、活動できればいいんじゃないかな。
小原:一人でフツフツと思ってたんですけど、一生聴けるアルバムを作りたいなって。作り終わった後に果てるっていうか、「これ以上無理」ってなるような作品を作りたいですね。最近宮崎駿の本を読んでて、影響されてるんですけど、宮崎駿みたいな作品を作りたいです。今でこそすごくポピュラーですけど、当時はみんな衝撃だったと思うんですよね。ああいう突き抜けたものを作りたいです。
Edited by Yukako Yajima
「21世紀より愛をこめて」
Tempalay
SPACE SHOWER MUSIC
6月5日発売
Tempalay TOUR「21世紀より愛をこめて」
2019年6月6日(木)京都府 磔磔
2019年6月21日(金)石川県 金沢GOLD CREEK
2019年6月22日(土)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2019年6月23日(日)宮城県 spaceZero
2019年6月28日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
2019年6月29日(土)大阪府 Shangri-La
2019年6月30日(日)愛知県 APOLLO BASE
2019年7月3日(水)東京都 LIQUIDROOM
2019年7月5日(金)福岡県 THE Voodoo Lounge
2019年7月6日(土)広島県 CAVE-BE
2019年7月7日(日)香川県 高松TOONICE
2019年7月20日(土)北海道 BESSIE HALL
https://tempalay.jp/