―よろしくお願いします。
チバ:うん。ビール買ってきたから。1本どう?
―いただきます。それで思い出したんですけど、ACIDMANの大木伸夫さんが、以前フジロックに出演した時、ライブの前日、緊張して眠れない夜をホテルで過ごしてしたら、ホテルの廊下を酔って放歌している人がいて。ドアの覗き穴から見たらチバさんだったそうで……。
チバ:ウソ? ダメじゃんそれ。たぶん、俺はライブが終わってご機嫌だったんだろうね。でも、それは大木くんに悪いことしたな。
―それが、酔ったチバさんを見て、緊張が解けたそうです(笑)。フジロックって、海外アーティスト勢も多いから独特な感じがあると思いますし。
チバ:あんまり関係ないと思うけどな。まぁ俺も最初はイキがってたけど、今となっては別に……だね。日本のバンドだけのフェスも海外のバンドが出てるフェスも全部一緒な感じになってきてると俺は思うからね。
―そこに隔たりはないですか?
チバ:ほとんどないと思うな。まぁつまんないフェスはつまんないけどな。ショーケースみたいなのはやっぱつらいな。
―フェスといえば、去年の9月に開催された「AIR JAM 2018」へのThe Birthdayの出演は、チバさんのファンだった横山健さんの願いが叶うカタチで実現したんですよね?
チバ:ファンじゃないよ。普通に知り合いだよ。健が屋根裏でバイトしてて、対バンしたりとかしてた。たぶんドラムはクハラだったんじゃないかな、その頃は。
―そうだったんですね。さて……ニューアルバム『VIVIAN KILLERS』の話を。
チバ:ない。そもそも枚数なんか数えてない。俺が数えると間違えるんだもん。しかも10枚の中に『MOTEL RADIO SiXTY SiX』は入ってないってことでしょ? だから俺の中では11枚目みたいなイメージなんだよ。
―なんで『MOTEL RADIO SiXTY SiX』はカウントされないんですか?
チバ:まあ、ミニアルバムっていうね。その言い方が俺は大っ嫌いで。なんとか変えてくれって言ったんだけど変えられなかった。
(ビールをグビグビと呑む)
そうだ! ライブ・アルバムも出してるじゃん俺! いっぱい出してるよ(笑)。
―急にうれしそうですね(笑)。つまり何枚目のアルバムを作ってるっていう感覚はないと?
チバ:そういう感覚はないよ。10枚目だから何とかって別にないでしょ。ないし、10枚目って思ってないしさ。
―僕は大好物でした。
チバ:ありがとう。
―最後の曲「OH BABY!」が終わった時にウルっとくるくらい良かったです。
チバ:おっ!そっち派ね。
―はい。あと随所にロックンロールへのオマージュが垣間見れて、そこもくすぐられました。だって、今年のグラミー賞、主要4部門でバンドのノミネーションはグレタ・ヴァン・フリートの1バンドだけで。
チバ:言ってみたら、俺らは時代に沿ってないってことだよね(笑)。まぁでもソロアーティストのほうがパワーが強いんだろうね。
―逆に言うとバンドは弱くなってるんですかね?
チバ:わかんない。それは俺に聞かれても。
―ええ。『VIVIAN KILLER』のようなバンドの素晴らしいアルバムが出るとすごいうれしくなって「ほら見たことか!」と言いたくなるんです。
チバ:ああ。ビール、もう1本呑む?
(冷蔵庫からビールを2本出してくる)
はいよ。
―ありがとうございます。アルバムの話に戻りますが……平成が終わるじゃないですか?チバさん的にはどうですか?
チバ:別に。そういえば、元号って今もう日本だけなんだってね。ってことは、みんな西暦で数えてるの?
―普通はそうですね。
チバ。:そうなんだ。元号って俺たち日本人には馴染みがいいんじゃないの?
―そうなのかもしれません。で、平成ってことで言うと、先日観た芝居の受け売りなんですが、平成の時代で売れた小説は、SFではなく、推理小説なんだそうです。どんなにストーリーが複雑でも必ず最後に犯人がわかる推理小説を、答えがないSF小説よりも、人々は好んだと。それと理想を謳ったユートピア小説よりも、現実を体現したようなディストピア小説が売れたらしいんです。でも、僕は『VIVIAN KILLERS』の中で時々顔を出すユートピア感に救われたんです。
チバ:バンドの話もそうだけど、俺は時代に沿ってないんだよね(笑)。ダメだよ、それじゃ。
―でも、そういう理想や希望を謳っているところに救われたし、そういうポジティヴな部分ってロックンロールの大事な要素だと思うんです。
チバ:でも、それは人によるんじゃないかな。
―そうだとは思います。でも、チバさんの何気なく書くポジティヴな言葉に救われる人、多いと思うんです。だって世の中的にはニュースをつければ悲惨なニュースしか出てこないし……。
チバ:。みんなそうやって、今の時代はダメとかって言うじゃない? でも、ずっとダメなんだって。人類は、縄文時代よりも前からダメなの。だから、あの頃は良かったなんてまったく思わないから。そこはね、本当そうだと思うよ。ずっとその時代その時代に、その時その時で嫌なことはあるわけよ。それを今更……今更っていうか「今こんなだから」とか言ってもさ、そんなの昔っからあるんだから。縄文時代だっていざこざはあったわけでしょ。きっと戦争もしてただろうし。そんなのね、ずっとあるの。当たり前の話なの。その中でもいいこともあるわけじゃない。生きていてさ、嫌なことばっかりなわけじゃないじゃない。それを俺は歌ったんだと思うよ。歌っているんだと思うよ、最近は。
―そういう言葉を書く時、チバさんはどんなことを思っているんですか? 例えば『VIVIAN KILLERS』収録曲「青空」の”お前の未来は きっと青空だって”は?
チバ:「青空」に関してはちょっと思うところがあって。それは個人的なことなんだけど、それが世界に対して言ってるようなイメージになってももちろんいいと思うんだけどね。
―「青空」の”お前”は特定の人がいたんですね。
チバ:とっかかりとしてはそうだね。
―「FLOWER」という曲には”君が思うほど この世界は それほど腐ってはない”って出てきます。
チバ:うん。……と思ったから。そう思ってるから。
―それは何か具体的な出来事があってそう思ったんですか?
チバ:なんかふとした時に……。なんかさぁ、思う時あるでしょ?
―あります。「 THIRSTY BLUE HEAVEN」の”肯定しよう この世界を”は?
チバ:まずはそこから始めないと、っていう感じの感覚はちょっと俺にもあって。大概さ、否定から始まるじゃない、ロックとかパンクとかって。だと思うんだけど。それこそ嫌だなと思ってることがあるとして、まずはそれを「なるほどね。そういうことなんだね」ってことを理解することから始めようって。その上で否定すればいいっていうことだと思うんだよね。鼻っからNOって言わないように、できるだけ今はしようとしてて(笑)。
―それはどんな嫌な奴にどんな嫌なことを言われても?
チバ:嫌な奴はもう俺とことん嫌うからね(笑)。
―肯定してないじゃないですか(笑)!
チバ:してないね(笑)。
―肯定から始まってないじゃないですか(笑)!
チバ:そうだね。まずいね(笑)。
―矛盾してますよ。
チバ:そういうもんだよ。
―でも確かにパンクやロックは抗いや否定から入りますよね。
チバ:もちろん俺たちもそういうところからバンドやったり、ギター弾いたりとかが始まった。そこに憧れたりとか、いいなって思って始めた。その精神は忘れてないけど、まあ肯定するのもいいんじゃないかなっていうことだね。
―そう思わせることが最近あったんですか?
チバ:いや、別に。
―日々の心構えとして?
チバ:そうだね。例えば、タクシーを止めて、〇〇までって言うじゃん。で、「すいません、このへん来たばっかりで道わからないんですけど」って言われたらさ、それを肯定しなきゃいけないわけよ。そう言われたら「ここで新宿通りに出てね、そこ行ったら左に曲がってもらって」とか説明するとか、そういうのも大事だなと(笑)。そうじゃない? それはもうしょうがないからさ。「わかんないだったら運転するなよ、タクシー」って言えないじゃん。そいつにだって生活があるわけで。
―それは本当にそう思います。みんな一生懸命生きているわけですもんね。
チバ:だからそれを肯定しようって言ってるんだよ、俺は。たぶん。
―逆にチバさんが嫌いな奴ってどんな奴ですか?
チバ:嘘つく奴。まあ、俺も嘘つきだけどね(笑)。
―ダメじゃないですか(笑)。
チバ:仲間とか、そういうところで嘘つく奴は嫌いだね。
(互いにビールをくびぐび呑み、2本目を空ける)
ビール、もう1本呑む?
―はい。「FLOWER」の歌詞にはジョン・レノンが出てきますが、ジョン・レノンは結構聴いてたんですか?
チバ:そうでもないんだよね。でも最初に聴いたいわゆるロック・アルバムっていうかバンドのアルバムは、うちの実家にあった『レット・イット・ビー』なんだよね。それをガキの頃、毎日毎日「これかけて、これかけて」ってオカンに言ってたらしいんだ。
―『レット・イト・ビー』の何が気に入ったんですかね?
チバ:わかんないんだよな。昔の木のSANSUIのデカイ家具調のステレオで聴いてた。高校くらいまでずっとそのステレオでレコードを聴いてたね。今ね、そのステレオは仏壇置場になってる。
―そのステレオ、まだ音は鳴るんですか?
チバ:鳴らない鳴らない。もう木が腐ってて傾いてるし。その上に仏壇置いてあるから、仏壇も傾いてる(笑)。
―(笑)。「FLOWER」で何故ジョン・レノンを引っ張り出してきたんですか?
チバ:ジョン・レノンが生きてたらなんて言うかなって思ったっていうのもあるんだけど。
―それは何に対してですか?
チバ:さっき言ってたような世間一般じゃないけど、社会情勢とか。っていうのもあったんだけど、ただ単に語呂がいいなと思った。っていうのもある。仮歌の時から”ジョン・レノンを~”って歌ってたんだよね。
―じゃあ仮で入れたジョン・レノンという言葉に引っ張られて歌詞全体が出来た部分もあるんですか?
チバ:それはないかな。あっ、わかんない。あるかな? なんかそういうのをインタビューする人ってみんな聞くけど、俺にとってはどうでもいいんだよ。そのきっかけなんてどうでもよくて。出来たもの……レコーディングし終わって、全部歌詞も入れて、出来上がったのがすべて。それのとっかかりみたいな部分は、関係ないんだよな、俺には。
―だからみんな、僕も含めて、さっきの推理小説症候群なのかもしれないですよね。答えが欲しい。答えがないと落ち着かない
チバ:答えはだから、出来上がったこの曲だし、このアルバムなわけよ。それ以外に答えはない。
―答えという話でいうと、シングルでもリリースされた「THE ANSWER」という曲がありますが、”問い”はなんだったんですか? チバさんは何を問うて生きてきて、「THE ANSWER」を書いたのか?
チバ:そんな深い意味はないよ。
―でも人は生きている間、何かを問うてないですか?
チバ:そんなに考えなくていいと思うけどな。まぁ、答えは……ないね。
―答えがないっていうことはやっぱり何かを問うてる気がするんです。
チバ:例えば「THE ANSWER」に虹が出てくるけど、あん時の虹はきれいだったなぁ……それを思い返して、なんであの時虹がきれいに見えたんだろうなとかさ。そういうことなんじゃないのかな。単純だよ、俺の言ってることなんて。
―「THE ANSWER」にはエゴン・シーレも出てきますが、これも深い意味はない?
チバ:深い意味って?
―エゴン・シーレってヒトラーと同時代の画家なので……。
チバ:そうなんだ。でも、そういう意味とか全然ない。友達の家にエゴン・シーレがあったんだよ。じゃねぇかなと思う(笑)。
―(笑)。ちなみに、絵を観に行ったりするんですか?
チバ:めったに行かないな。あっと思った時は行ったりするけど。よっぽどのことがないと行かないよね。
―レコードは買ってます?
チバ:全然買わなくなっちゃった。持ってるレコードで事足りるんだよ。
―「DISKO」という曲には”いつかのディスコで あの45 心臓を貫かれてからさ”ってありますが……。
チバ:45って書いてないよ。いや、書いたな(笑)。
―(笑)。っていうかチバさんディスコに行ってたんだ!っていう(笑)。
チバ:高校の時、行ってたな。ナンパしに。
―新宿とかですか?
チバ:ううん。地元。
―地元どこでしたっけ?
チバ:藤沢。
―藤沢にディスコあったんですか?
チバ:あったんだよ(笑)。当時ワム!とか流れてた(笑)
―(笑)。ディスコに行ってたのも意外ですが、「THIRSTY BLUE HEAVEN」という曲は”アリスクーパー 血ヘド吐いて”という歌詞から始まりますが、チバさんがアリス・クーパーを聴いていたのも意外でした。
チバ:それがさ、俺あんま知らないんだよね、アリス・クーパー(笑)。
―やはり(笑)。アリス・クーパーってKISSとかそっち系ですからね。
チバ:そうだよね。前にさ、アリス・クーパーのライブを映像で見たことがあって。で、見たらさ、ギターとベースがいるんだけど、そいつらが弾いてないの。後ろにトラがいて、その人たちが弾いてるの。格好だけなの。すっげーなと思って。なんかマンションみたいなステージを組んだけど、弾いてない。すげー! 弾いてねぇんだ!と思って。それをアリス・クーパーはやってたんだなと思って。でも、曲とか知らないんだよね。
―アルバム『Killer』とか聴かなかったですか?
チバ:全然聴かない。有名な曲あるじゃん。ベスト盤に1曲目に絶対入ってるやつ。でも、曲名が出てこない。聴いたら思い出すかも。
―なんで急にアリス・クーパーを歌詞に出したんですか?
チバ:知らないよ、そんなもん。
―自分の歌詞なんだから責任持ってくださいよ(笑)。
チバ:それは知らないよ。思ったんだから仕方ない。
―たいして知らないのにアリス・クーパーを?
チバ:たいしてじゃなくて、ほとんど知らない(笑)。
―語呂が良かったんですか?
チバ:そうだね。そうかもね。
―「DIABLO」で出てくる”軽く風が吹いた さぁワイルドシングを歌おう”の「ワイルドシング」は、チバさんの中ではジミヘンの「ワイルドシング」ですか?
チバ:いやいや、ヴァン・ヘイレンでしょ。最初に聴いたのはヴァン・ヘイレンだからね。絶対にトロッグスじゃないね。
―7月で51歳ですよね?
チバ:ん? あっ、51になるのか俺。
―死とか考えます?
チバ:死はね、いつかは来るので。
―恐怖とか?
チバ:恐怖ねぇ。その場になってみたら恐怖になるのかもしれないけどね。俺、火葬が嫌なんだよな。ミイラにしてほしいんだよね(笑)。実際、ミイラにしてくれって言ってるんだよ。
―(笑)。アルバムタイトル『VIVIAN KILLERS』のVIVIANは誰か具体的にイメージがあったんですか?
チバ:ずっとVIVIANっていうのは考えてて。考えててって言うか思いついてて。最初は違うタイトルだったんだけど、VIVIANは残して。それで、曲がVIVIANに刺さる、みたいなイメージで『VIVIAN KILLERS』にしたんだ。
―そのVIVIANってチバさんにとってどんなイメージの女性なんですか?
チバ:なんか〝つっぱらかったいい女〟っていうイメージかな。
―昭和の娼婦みたいな?
チバ:娼婦ではないね。
―もうちょっと具体的に言うと?
チバ:そうやって言われると困るな。オードリー・ヘップバーン。そんなイメージかな。
―彼女に刺さって欲しいと?
チバ:そういう女の子に刺さればいいなっていうのもあったのかもしれない。まあそれだけじゃないけどね。
―他には何が?
チバ:それこそこの記事を読んでくれたてアルバムを聴いてくれた人にも刺さって欲しいし。
―僕は刺さりました。アナログは出さないんですか?
チバ:出す! 重量盤で出す! レコードストアデイに出す!
―アナログ、買います! ところで、チバさんは音楽の聴かれ方って意識しますか? レコード、CD、デジタル、聞き放題とか。
チバ:俺はね、どーでもいい。みんな携帯とかで1曲ずつ買ったりするじゃない? それだと音が悪いとか言うけど、そんなんどーでもいいよ。それすらでも、良い音に俺たちは作ってるから。デジタルだと音が圧縮されてどーのこーのってよく言うじゃん。それはそれだよ。それですらいい曲だったらCD買ってくれるかもしれないし、ずっと聴いてもらえるかもしれないから。
―わかります。音質のことを言いだしたラジオで流すなって話になりますから。
チバ:そうだよ。ラジオだと局ごとに音質が違うわけでさ。
―そうなんですよ。そういえば、THE GOLDEN WET FINGERSやIM FLASH! BANDってもうやらないんですか?
チバ:しばらくないな。
―では、しばらくはThe Birthdayオンリー?
チバ:実は、ずっと作り続けているソロ・アルバムを完成させているところだね、今は。
―ソロ・アルバムを完成させたらThe Birthdayはしばらく止めてソロでツアーを?
チバ:ないよ。ソロ・アルバム、全部自分で演奏してるんだよ。一人で全部できないじゃん!
―エド・シーランみたいにループさせるとか?
チバ:そんな難しいこと!
―チバさん絶対やらないな(笑)。
チバ:やらないんじゃなくて、出来ない。絶対無理だよね。再現できる人いたらすごいよ。
―そんなに複雑に音を重ねているんですか?
チバ:違うよ。一発勝負だから。いろんなものが。二度と同じ音はでない。
―The Birthdayのツアーは5月から始まりますね。楽しみです。まずは横浜BAYHALL行きたいなぁ。
チバ:ぜひ。なんか今日は楽しかったよ。ありがとな。
(チバ、4本目の缶ビールを呑み干してインタビュー終了)

『VIVIAN KILLER』
THE BIRTHDAY
ユニバーサルミュージック
発売中