米アラバマ出身の8人組ソウル/ファンク・バンド、セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズがまもなく初来日。4月15日~16日にかけて大阪・東京のビルボードライブで公演を行うほか、通算3作目『ヤング・シック・カメリア』の国内盤も本日4月3日にリリースされた。
アメリカ南部のヴィンテージ・サウンドを継承しつつ、最新作ではモダンな要素も取れ入れてきた彼ら。今回は、中心人物のポール・ジェーンウェイ(Vo)による電話インタビューをお届け。

―現在、ツアーの真っ最中ですが、どうでしょう?ツアーは楽しんでいますか?バンドの調子は、いかがですか?

いいと思う!(笑)。昨年9月にニューアルバムをリリースしてからというもの、かなりの数のツアーをこなして来たんで、みんな調子がいいよ。かなり強烈なライブをやっているんで、ちょっと大変ではあるけど、文句は言えないね。

―4月にはオーストラリアをツアーする前に日本に立ち寄って、大阪と東京でライブをすることが決まっていますね。日本公演が決まった時は、どんなことを思いましたか?

とてもエキサイトしたよ。日本は僕がずっとプレイしたいと思っていた国だけど、まさか自分がバンドに入ってプレイすることになるなんて、夢にも思っていなかった。だから、このことは一生忘れないよ。そしてうまく行って、また行けるといいな!

―日本に来るのは初めてですか?

ああ。だから今回は妻も連れていくんだ。早めに行って、出来ることをやっておきたい(笑)。
聞いた話では、日本の人はみんな温かくもてなしてくれるそうだし、公共交通機関がとても発達しているらしいね。食べ物も楽しみだ。アメリカの片田舎のアラバマで育った身からすれば、全く別世界だよね。昔から神秘的なところだと思っていた。ものすごく遠くて、僕が慣れ親しんでいるものとは違いそうなんだもの。でも、そこが魅力的なんだと思うな。

―来日公演では、どんなライブを見せてくれるのでしょうか?

僕たちのライブはハイ・エナジー・ショウで、山あり谷ありだ。バラードがあるかと思うと、ダンサブルな曲もある。日本のオーディエンスがどんな反応を示すのか見当もつかないけど、僕たちはどこへ行っても、いつもやっているショウをやるだけだよ。このバンドがスタートしてからずっとそうしてきたんだ。

―ブロークン・ボーンズは、2000年代の半ば、ポールとジェシー・フィリップスが出会ったことがきっかけで始まったそうですが、どんな出会いだったんでしょうか?

僕たちはバンドでプレイして出会ったんだ。彼は楽器店で働いていたんだけど、そこに僕が一緒にバンドをやっていたヤツも働いていたんで、ジェシーは僕がいたバンドでベースを弾くことになった。
そして意気投合したんだ。随分昔のことのように思えるな。実際昔だけど、僕たちはすごく仲のいい友達になった。でもそのうち、「僕たち、これからの人生どうすればいいんだ?」って思うようになって、「有終の美を飾るために、レコーディングをして僕たちの音楽関係に終止符を打って、別々の道を歩もう」と思ったんだけど、実はそこからザ・ブロークン・ボーンズが生まれたんだ。クレイジーだよね(笑)。ジェシーは僕の結婚式の時の付添人で、親友であり、ビジネス面ではバンド仲間という稀な関係なんだ。

―お2人の音楽の趣味は同じだったのですか?

そうだね。彼が僕のアパートにやって来た時、僕はトーキング・ヘッズの『Remain In Light』を持っていたんだけど、それを見た彼は「あっ!」って言った。僕たちの趣味は同じだったんで、ソウルについて、そしてあらゆる音楽についての話をした。意気投合したよ。僕は教会で歌って育ったんで、彼は「じゃあ、それを元に曲を書こうよ」と言った。そうして始まったんだ。


南部ソウルの新世代、セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズが語る成功までの歩み


―ブロークン・ボーンズというバンド名は、どんなところから?

あれはジェシーが考えたんだ。僕は自分の名前なんか入れたくなかったけど、”セント・ポール”の部分はからかい半分なんだ。僕は教会で育ったし、酒も飲まないんでね。絶対に飲まないわけではないけど、こうすると面白いと思ったんだろう。ブロークン・ボーンズは、僕たちが最初に書いた曲が「Broken Bones And Pocket Change」で、「Broken bones and pocket change That is all she left me with」というくだりがあったんだ。つまり、このバンドは金がなくなったってこと(笑)。

―おっしゃるように、あなたは10歳の頃から教会で歌っていたそうですね?

4歳の時に始めたんだ。物心ついた時からとにかく歌ってきた。

―その後、いわゆる世俗の音楽にも興味を持つようになったわけですよね?

そうだね(笑)。教会も好きだったけど、大きくなるにつれ、外の世界に目を向けるようになったんだ。僕は人口800人の町で育ったんだけど、外にもうちょっと目を向けるようになったら、そっちが大好きになったんだよ。それでバーで歌ったりギターを弾くようになったんだ。


―その手の音楽のどんなところに惹かれたのでしょうか?

外界から隔離された狭い世界で生きていたところへ、ビートルズやローリング・ストーンズといった音楽を聴くと、「ワオ!」って思うよね。人生や音楽観が変わるよ。それまで、僕にとっての音楽は神との交流だった。それがビートルズやストーンズ、レディオヘッドまでを聞くと、教会音楽でないものにハマるようになったんだ。本を読んだり、音楽を聴いたりした。遅れを取り戻さないといけない気がした。「早くビートルズの曲を覚えなくちゃ!」って思ったよ。今思えば変だけど、なんせ小さな町でのことだったからね。でも、素晴らしかった。ある意味、宗教を見出したようなものだったよ。そういった音楽は僕の人生を変えたんだ。

―教会音楽以外で最初に惹かれたのは、誰の何という曲だったか覚えていますか?

子供の頃、教会音楽以外で聴いていたのはソウルだった。
オーティス・レディングにサム・クック、そしてスタイリスティックスという70年代のグループがいた。サム・クックの「A Change Is Gonna Come」とか、アレサ・フランクリンがいいシンガーだと思った。今でもそう思っているよ。彼らはいつの時代にも優れたシンガーだもの。それからティーンエイジャーになると、レディオヘッドの『OK Computer』とかを聴くようになった。「これ、何だ?」って思ったのを覚えているよ。

―教会で歌っていた経験は、現在のバンド活動にどんなふうに役立っていますか?

100%役立っているよ! ライブで歌うということは、そこにいるみんなと心を通わせることだと僕は思っている。本当に素晴らしいコンサートを観ると、クレイジーな気分になる。心が通い合っている気がするんだ。教会でも、ライブでも、僕は常に100%の力を出して歌う。ライブに4人しかいなくても、5万人もいても、自分が持っている力を全て出し切るんだ。

―その後、バンドは2014年の1stアルバム『ハーフ・ザ・シティ』のヒットをきっかけに人気を伸ばしてきましたが、これまでの活動を振り返ってどんなことを感じますか?

今思うとクレイジーだよね。
あの1stアルバムの曲は、5日間で書き上げてレコーディングしたのかな? そんなに早く作り上げたアルバムで、あそこまで成功したなんて。いまだに驚いているよ。おかげで、僕は家を持つことが出来た(笑)。ぶっ飛ぶよね。まさか世界を見られるなんて思ってもみなかったけど、『ハーフ・ザ・シティ』で火がついたんだ。それで、「さあ、ツアーに出てやろうぜ!」という感じだったんだ。

―その後は全て順調だったのですか? バンドとして辛い時期もあったんでしょうか?

1年で200回ライブをやったんで、あれはかなりキツかったな。それに僕は、その年に結婚したんだ。あれだけの数のツアーをこなしていると、必ず家族にストレスがかかる。そして僕にとって一番大切なのは妻であり、家族なんだ。しばらくツアーに出ていると、もうメンバーと話すこともなくなる。8人でヴァンに乗っていると、自分のスペースもあまりないしね。でも、僕にとってはそれが仕事なんだ。父親は建設業を営んでいたし、母親は看護師だった。それと同じ、仕事なんだよ。好きとか嫌いとかじゃなくて、ただひたすらやるんだ。でもね、僕は以前道路にアスファルトを敷く仕事をしていたんだけど、今の仕事の調子の悪い日は、その時とは比べものにならないよ(笑)。だから、良かったと思っているんだ。

―今回、来日公演に合わせ、日本でリリースされる『ヤング・シック・カメリア』についても聞かせてください。3部作の第1弾だそうですが、その3部作にはどんなテーマやコンセプトがあるんでしょうか?

アメリカ南部は複雑でね、宗教のこともあるし、複雑な歴史があるんだ。そして僕はそこの出身なんだよ。僕は、僕と父親の関係、そして父親とそのまた父親の関係について考えてみた。それで、各アルバムをそれぞれについてのものにしようと思ったんだ。1枚目の『ヤング・シック・カメリア』は僕なんだよ。僕の世界で、それをクリエイティヴィティの源にして、追求しようとした。僕たちには異なる部分もあれば、似通った部分もある。誰だって、家族と自分を重ね合わせることが出来る。それがアイディアなんだ。

アルバムのテーマ、そしてタイトルは、カラヴァッジョの絵画『病めるバッカス(Young Sick Bacchus)』が元になっているけど、”Camellia”(椿)はアラバマ州花なんでそうしたんだよ。というわけで、これは故郷、僕を表わしている。カラヴァッジョが描いたのは、病を患っていた彼自身の自画像なんで、僕はかねてからこれは興味深い画像だと思っていた。それで、こうしたんだ。かなりの重構造になっていて、重ね過ぎて複雑かもしれないけど、僕はこのアルバムをとても気に入っているんだ。

―音楽的には、これまでのストレートなR&B/ソウル・サウンドからの脱却というテーマもあったそうですね。ストレートなR&B/ソウル・サウンドのままでかまわないというファンも少なくないと思うのですが、なぜ脱却が必要だったのでしょうか?

”レトロ”なソウルのレッテルから脱却したかったんだ。僕たちの音楽はR&Bスタイルに足を突っ込んではいるけど、一方でモダンなプロダクションも使っている。ジャック・スプラッシュ(※)を起用したけど、彼は素晴らしかった。だから、”レトロ”なスタイルから脱却したかったんだ。同じ部屋でみんなでライブでやるんじゃなくてね。それはもうやったことだから、何か新しいことをやろうと思ったんだ。

※シーロー・グリーンやアリシア・キーズを手がけるプロデューサー。ボビー・コールドウェルと結成したユニット、クール・アンクルも話題に。

―先ほど、レディオヘッドも好きだとおっしゃいましたが、具体的にはどんなふうに影響を受けていますか?

僕たちはいろんなものに影響されているんで、それがすべてアルバムに表われているんじゃないかな。レディオヘッド、デヴィッド・ボウイ、プリンス、オーティス・レディング、なんでもありさ。いいじゃないか、今はすごくいろんな音楽にアクセスすることが出来るんだからね。それに僕たちはアルバムを3枚リリースしてきたから、(作を重ねるごとに)進歩の跡がうかがえるはずだよ。でも、僕のヴォーカルが入ると、おのずと自分たちらしい音楽になるんだ。

―『ヤング・シック・カメリア』はバンドのキャリアにとって、どんなアルバムになったという手応えがありますか?

いろんな意味で、これは成熟したものだと思う。1stアルバムはたったの5日間でレコーディングされたし、2ndアルバム(2016年の『Sea of Noise』)は「これは何だ?」というところから始まった。今作では、僕たちが何者で何をやるのかをしっかりと把握していたんで、とても気分が良かったんだ。とても新鮮だったよ。「これが『成熟』ということなのか」「これがバンドということなのか」と思ったね。いろんなものからの影響でいろんなサウンドになっている。これはいい感触だと思う。「これからはどの方向にも行けるし、何をやっても気持ちよくやれる」と思えるからね。

―ツアーで忙しいとは思いますが、3部作の第2弾、第3弾はいつ頃リリースしたい?

今、取り組んでいるところだよ! いつリリースされるのか、はっきりしたことはわからないけど、絶えず取り組んでいるのはたしかだ。家にいる時はデモを作っているんで、そのうち出来るんじゃないかな。やっていることに意味を見出せると、前進しやすいんだ。次の2枚が楽しみだよ。

―近年、全米各地から少なくない数のアーティストがFAMEスタジオでレコーディングするためにアラバマにやって来ていることも含め、アラバマのミュージック・シーンが盛り上がっている印象があります。

素晴らしいと思う。アラバマ・シェイクス、ジェイソン・イズベル、ドライブ・バイ・トラッカーズと、この州からは素晴らしいものがたくさん出て来ている。アラバマ州には遺産があるんだ。マッスル・ショールズがあるからね。FAMEレコードやスタジオもあるし。僕にとっては夢のような存在だから、自分が生み出している音楽でその遺産を称えないといけないと思うんだ。アラバマのほとんどのミュージシャンがそう思っていると思う。みんな、世界でも最高の音楽に教わったんだからね。ここには素晴らしい歴史があるんだから。サン・ラ、ナット・キング・コール、エミルー・ハリス、ウィルソン・ピケット、ほかにも大勢いる。

―最後に、これからのブロークン・ボーンズの目標を教えてください。

そうだなあ。もちろん、日本もその一環だけど、新しい国に行って、新しいオーディエンスを獲得して、築き続けて行くこと。そして常に、完璧なアルバムを追求している。作るたびに、「これだ!」って思えること。それが僕の目標だ。今あるものの上に築き上げて行くこと。それを続けて行くんだ。

南部ソウルの新世代、セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズが語る成功までの歩み

セント・ポール & ザ・ブロークン・ボーンズ
『ヤング・シック・カメリア』
2019年4月3日(水)発売
国内盤ボーナス・トラック収録

再生/日本バージョン購入リンク:
https://lnk.to/YoungSickCamellia
日本公式サイト:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/StPtBB/
海外公式サイト:
http://stpaulandthebrokenbones.com/

セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズ来日公演

2019年4月15日(月)
ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11341&shop=2

2019年4月16日(火)
ビルボードライブ東京
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11340&shop=1
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