ー今回はあくまで”対談”ですので、基本的にはお2人でご自由に話を進めてください。僕はあくまで交通整理役というか、ときどき口を挟ませていただくことになると思います。
LUKE(スティーヴ・ルカサー、以下同):ああ、どうぞ。好きなようにやってくれ。どんな話題を振ってもらっても大丈夫だ。何でも訊いてくれ。ただ、俺の回答には気をつけてくれよ。期待していることは言わないかもしれないからね(笑)。俺はちょっとクレイジーだからな。なにしろツアー生活を43年も続けているから。
―TAKUROさんもまた、この生活を20数年にわたり続けてきているわけです。
TAKURO:ええ、25年になります。まず今、スティーヴさんに言いたいのは、僕の拙い英語をご容赦ください、ということで。
LUKE:いや、問題ないよ。それにキミは、着ているものがとても素敵だ。見るからにロックスターのようじゃないか!
TAKURO:恐縮です(笑)。実はTak Matsumotoから、よろしくと伝言を預かっています。彼は、僕の親しい友人のひとりなんです。
LUKE:そうなの? 彼はブリリアントなミュージシャンだ。Takのことはよく知っているし、大ファンだ。俺にとっても最も親切な人間のひとりだといえる。
TAKURO:彼は僕に言っていましたよ。とにかくあなたは紳士ですごく良い人だ、と。
LUKE:僕からもよろしく伝えておいてほしいな。また会うのを楽しみしている、とね。実は彼にディナーを奢らないとならないんだ。本当だよ(笑)。
TAKURO:ええ、彼から聞きましたよ。一緒にレストランに行かれたとか。
LUKE:素晴らしいレストランに連れて行ってくれた。すごく楽しかった。実のところ、数年前の彼の英語は、やっとそれなりになりつつある、という感じだったけども、今はかなり上達している。だけどおかしいのは俺たちがお互いに同じようなことを言い合っている、ということ。「俺の英語は……」「いや、俺こそ日本語ができないし」みたいにね。そこで2人のギタリストが、ほとんど身振り手振りと感覚だけで会話をして楽しんだ、ということなんだ。時には言葉以上にそれがモノをいう。だから俺には理解できたんだよ、彼の言うことが。俺が彼に対して話せる以上に。
―今回、TAKUROさんはTakさんのお世話になっているんですよね?
TAKURO:ええ。彼は僕のソロ・アルバムのプロデューサーなんです。1枚目も2枚目も、彼がプロデュースしてくださって。
LUKE:ああ、(彼がプロデューサーを務めているということは)やっぱりキミはロックスターなんだな。どうりでそれっぽく見えると思ったよ。実際にそうなんだな。許してくれ(笑)。
TAKURO:いやいや(笑)。

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LUKE:俺もだよ。すべてはビートルズから始まった。そして今、俺はビートルズのメンバーのひとりと一緒にここにいる(=リンゴ・スターのツアーに同行)。
TAKURO:最高です! 実は僕、ビートルズのファンクラブの会員なんです! 今なおシネ・クラブとかに入っているんです。
TAKURO:僕は今、実はロサンゼルスに住んでいるんです、家族とともに。そして僕は毎朝、子供たちを学校に送っていく時にラジオを聴くんですが……。
LUKE:……ところで「shit」って日本語で何と言うんだい?(笑)。ラジオでかかるのが全部shitというわけじゃないよ(笑)。ただ、俺はもう年寄りだからな。キッズの音楽は好きにはならないことになってる。
TAKURO:聴こえてくるのはギターが入っていない音楽ばかりで……なんだかちょっと悲しくなってしまいます。
LUKE:いや、戻って来つつあるよ、そういう音楽も。俺の息子のトレヴとマイク・ポーカロの息子のサム、そしてワン・ダイレクションのバンドのドラマーがZFGというバンドをやっているんだ。素晴らしいシンガーと一緒にね。えっと、名前はジュールス(Jules Galli)だったかな。彼らはレコードを出したばかりで、ビルボードなんかのチャートでもトップ30に喰い込んだよ。音楽的には、ハード・ロック・バンドを従えたアース・ウィンド・アンド・ファイアーとでもいう感じかな。
TAKURO:それは良いニュースですね。でも、本当にときどき悲しくなるんですよ。
LUKE:戻ってくるよ。振り子って知ってるだろ? あれと同じで、揺れてまた戻ってくるものなんだ。
TAKURO:なるほど、そういうものですか。

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LUKE:特定のサブ・ジャンルというのがある。EDMだったり、ポップ・ミュージックだったり、ラップ・ミュージックといったものが常にね。メタルもそのひとつだ。で、それが何だろうと、人々はギターが聴こえないのを寂しく思っているよ。その証拠に、俺のバンド、TOTOのライブには、一時よりもずっと若い聴衆が来るようになっているんだ。みんな、観に来たいんだよ。「わあ、あの年寄りたちを見てみろよ、本物の楽器を演奏してるぜ!」という感じで興奮していてね。たとえばこの前、12月と1月にオーストラリアでフェスティバルに出たんだ。客層は18歳から24歳までのキッズが中心で、俺たちの前に登場したやつらは、揃いも揃ってラッパーやらEDMやら機械的な音楽ばかりで、ただボタンを押すだけの演奏をしていた。プロ・ツールスに前もってレコーディングされているからだ。そんななかで俺たちが出ていって演奏したら、オーディエンスは熱狂していたよ。彼らは俺たちがやるような本物のライブ演奏を観たことがなかったからだ。逆に俺たちも圧倒されたよ。なにしろ「ギャーッ!」と叫ばれるんだからね、若いオーディエンスに。「こいつら、俺たちに対して熱狂してるのか? こっちは年寄りの集まりだぞ!」という感じだった(笑)。あの経験はすごく励みになったよ。
要するに今の若い世代は慣れていないだけなんだよ。俺たちは実際にステージの上で演奏して、正真正銘のジャムをしていて、毎回同じことを繰り返すわけでもない。即興演奏もするし、時にはアクシデントも起こる。だけど俺たちは、きわめて高いミュージシャンシップのおかげで、どこにでも進んでいけるんだ。
TAKURO:ええ。
LUKE:つまり俺たちは今でも、いわゆるロックンロール・バンドなんだよ。実際にショウに来れば、それ以上のものがあるんだ。
LUKE:日本の人たちは忠誠心が強いよね。TOTOの場合で言うとヨーロッパのファンもそうなんだけど、一度好きになったら、ずっと好きでいてくれるんだ。
TAKURO:忠誠心がある。ええ、それはすごくわかります。
LUKE:いつも言っているんだ。世界の他の場所でどんなことが起こっていようと、俺たちは日本に行けるし、そこに行けば人々もみんな観に来てくれる、とね。その時期に、ヒット曲があろうとなかろうと。毎回そうだからこそ、戻ってくる価値があるんだ。それに比べるとアメリカは気まぐれだ。好きだと言っていたかと思うと、何かの拍子に大嫌いだと言い始めたりする。好きになったり嫌いになったりの繰り返しなんだ(笑)。
TAKURO:本当ですか? アメリカではそんな感じなんですか?(笑)
LUKE:けなされて、また応援されて。そんなことを繰り返しているよ。だけど今では俺たちも、自分たちのキャリアをふたたび自分たちの手で管理できるようになったからね。マネージメントも自分たちでやっているんだ。俺たち全員がチームとして話をする。ビジネスは変化しているし、それと共に変わっていかなくてはならない。上手くやるためには自分たちが自分たち自身にとってのボスにならないといけない。
TAKURO:ご自身で、マネージメント会社も運営しているんですよね?
LUKE:ああ、そういうことだ。
―GLAYも自らのマネージメントを立ち上げてから久しいですよね。TAKUROさんご自身が、自ら会社を始めようと考えた切っ掛けは何だったんですか?
TAKURO:まず最初に、僕は自分のマネージメント会社を作ったんです。
LUKE:俺たちもそうだったよ。
TAKURO:10代の頃、僕はバンドの仲間たちに「よし、東京に行こう」と声をかけたんです。夢を掴もう、夢を実現させに行こう、と。それから東京に移り、最初の10年ほどはレコード会社とマネージメント会社に所属していたんです。
LUKE:うん、当然そういうことになるよな。
TAKURO:でも……なんか”ザ・ビジネス”という感じになってきてしまい……。
LUKE:稼ぎたかったら自分たちでやらないといけない。現実の話をすると、俺たちは当初、あくまで趣味として音楽活動を始めて、楽しんでいた。ただ、それがそのうちビジネスになってくると、そこに様々な問題が伴うようになってくる。なにしろビジネスというのは、利益が上がるレベルで維持していかなくては成り立たないものだからね。
TAKURO:まったくそのとおりですね。
LUKE:そこで俺には、むしろラップの連中から学ぶべきことがあったように思う。というのも、彼らが最初にやり始めたからね。彼らは自分たちでレコード会社をスタートさせて作品をリリースして、マネージメントも自らやった。オールドスクールな形でレコード契約をしている俺たちにはほんのわずかなパーセンテージでしか実入りがないのに、あいつらは何十億ドルも手にしていた。そこで「これは一体どういうことなんだ?」ということになったわけだよ。

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TAKURO:はははは! 当然そういう疑問を抱くことになりますよね。今ではコンサートを行い、レコードを売って、その報酬を自分たちで管理することができています。昔の僕たちは、それをやっていませんでしたけどね。今では完全にコントロールできるようになっていて。予算面とかについても。
LUKE:なんか、俺たちが経験してきたことってよく似てるんだな(笑)。
―2人が「自分の音はこれだ!」というのを見つけたのは、いつ、どんな時でしたか?
LUKE:俺は、依然としてそれを探しているよ。今も家に帰れば練習している。こんなことを言うのはトレンディじゃないのは承知の上だけど、俺は今も生徒のようなものだよ。習得には程遠いと思う。学ぶべき本をたくさん持っているし、実は若い連中も聴く。スナーキー・パピーという素晴らしいバンドがいるが、ギター・プレイヤーはマーク・ラッティエリで、彼らが本を出したと言ったから、俺はすぐに手に入れた。妹に注文してもらって俺の家に2日間後に来た。Amazonでね(笑)。それがインスピレーションを受ける1冊なんだよ。俺はそういうバンドを聴くんだ。素晴らしいミュージシャンシップが大好きだし、そういうものに触れると「希望がある!」と実感できるんだ。わかるかい? 万人向けのポップ・ミュージックではないかもしれない。だが、老いたミュージシャンとしては、あれほど上手い若者たちがやるものを聴くのはすごくエキサイティングなことだし、謙虚な気持ちにもなるんだ。「わぁ!」と思ってしまう。音楽というのは非常にパーソナルなものなんだよ。1人の人間のものだ。全員が全部を大好きになる、というものではない。それが人生を興味深いものにしているんだと思う。
TAKURO:すべて言われてしまいましたね。僕にはもう何も言えませんよ(笑)。僕ももちろん、まだ自分の音というのを探し続けていますよ。
LUKE:ミュージシャンというのは、ある朝、目を覚まして「俺は素晴らしい! もう努力は必要ない!」なんて決して思ったりしないものだからね。俺は、毎晩同じものをコピーし続けたいとは思わない人間なんだ。自分でデザインしたものなら毎晩同じものをプレイする。音楽にはそういう面もあるよ。ああいうふうにプレイしてもらいたい、と求められることもあれば、こういうのを聴きたいのは分かってるけど自分としては……と思う部分もある。だが、自分自身が成長しながら、あれこれと試せる場所というのを持っていなくてはいけない。俺の決めたルールは、「いつも自分より上手いミュージシャンと一緒にプレイしろ」というものだよ。そうすれば成長する。
TAKURO:僕も自分の部屋で毎日ギターの練習をしているんですけど、その様子を息子がいつも見ているんです。
LUKE:息子さんはいくつなんだい?
TAKURO: 7歳です。
LUKE:俺の息子がどうやってギターを弾けるようになったと思う? 俺がギターをやったんだが、ドロップDにチューニングして渡したんだよ。それを小さなマーシャルに繋いで、これがピックだ、おまえの指をこうやって使うんだ、と教えたんだ。そして、「ああ、合ってる合ってる。いいぞ」となったんだ。彼はドラムをプレイしている。子どもというのは誰でも何かを叩きまくることから始めるものさ(笑)。で、俺は息子に言ったんだ。自分の部屋に行け、3日後にお前が書いた最初の曲を持ってこい、とね。自分の耳に良いと思えるものを書け。馬鹿げたテクニックを使え、と。音楽を学ぼうとしている子どもたちに数学の授業みたいなやり方で教えようとするやつらが大勢いる。そんなのが楽しいはずもない。子どもに教えるんだったら、すぐに音楽を書かせるんだよ。そうすれば、まずエキサイトする。そうなってから、チューニングの仕方を教えるんだよ。こういう仕組みになっているんだぞ、とね。
何かを習得する前に、インスパイアされる必要があるんだよ。最初から天才レベルのことなんて期待しちゃいけない(笑)。そうだろ? そして俺は子どもたちを引きずり込んだ。俺の子どもたちは、スタジオのカウチで寝泊まりしながら育ったよ。毎日だ。俺と住んでいたからね、幼い頃は。だから俺が彼らを引きずり込んだんだ。そしてそのうち興味が芽生えた。とはいえさっきも話したように、息子にはそれが効いたけど、娘は効力がなかったわけだ(笑)。
TAKURO:なるほど。7歳の息子が僕に、「パパ、ステージの上で演奏する時にナーバスになる?」と訊いてきたんですよ。それに対して「もちろんなるよ、どのステージでも、毎晩、ものすごくナーバスになるよ」と答えたら、息子は「アドバイスをあげるよ」と言うんです。「ステージの上では練習している時のように弾いて、練習している時はステージに立っているようにプレイすればいいんだよ」と。
LUKE:ビューティフル! その発想は7歳のレベルを遙かに超えているよ。年齢以上に魂が成熟している。俺の息子も、実年齢よりも遙かに冷静だし、遙かに賢いし、遙かに落ち着いているよ。むしろ俺よりもね。だからよく「パパ、落ち着いて!」と言われる(笑)。リラックスしなよ、いつも考え過ぎだよ、とね。俺はこれまで、たくさん悪口も言われてきた。「おまえは疑うまでもなく最低で最悪だ」みたいなレビューを書かれたりすることもあった。「いったいどうしたんだ?」と言いたくなるよ。俺はただ、ベストを尽くしているだけだ。だけど、生きていくためにはパンチの受け方も学ばなくてはいけない。誰かにジャッジされている、という感覚が人をナーバスにさせるんだよ。
顕微鏡の下に置かれて、わずかなミスをしても、ちょっと転んだだけでも許されない。なかには何らかの理由でただただ嫌いだ、というやつらもいる。なんとか俺たちを酷い目に遭わせてイメージを悪化させるための計画を練ってたりするような連中もね。そういったことに、いちいちナーバスになるんだよ。ただ音楽をプレイするだけじゃなくてね。音楽をプレイするのは楽しいことだ。ただ、そこで、何故やりたいのかという理由も、そのための能力というのも必要になってくる。だから「みんなは俺がやっていることを気に入っているだろうか? 俺は十分に上手いんだろうか?」と考える。そういうことを考えながら生きていくんだ。それって本当にぞっとするような、奇妙な妄想だよ。それが頭の中を過ぎるんだ。いつも自分を証明しなくてはいけない。毎日の日課のようにね。ほとんどの人たちはそんなことをする必要もないまま生きているのに。
TAKURO:うーん、そうですね。自分の人生の証明、というか……。
LUKE:心理的に頭と魂を痛めつけようとするやつらがいる。なにしろ見ず知らずの誰かから、お前が嫌いだと言われるんだから。お前のプレイが嫌いだ、お前の髪型が嫌いだ、お前の靴が嫌いだ、とね。それがどんな音楽の作り手にも起こるんだ。しかもソーシャルメディアは、それをものすごい倍率で肥大させ、悪化させていくだけ。安っぽい判断を真に受けて、「これはクールじゃない」と考える人々がいるからね。

Photo by Hikaru Hagiwara
TAKURO:僕はまったくそういった雑音をチェックせずにいますよ。
LUKE:ああ。俺自身もそれはとうに止めている。残念なことに、俺には酒を飲み過ぎ、自分で馬鹿なことをしでかしていた闇の時代がある。俺はそれをとても恥ずかしく思っている。穴があったら入りたいほどだ。そして、自分について何か書かれているのを目の当たりにするんだ。25万人が、俺のことを最悪だと言っている。俺が何十年も前にやったことを、まるで昨日の出来事のように扱いながらね。フェアなことじゃないよ。想像してみてくれよ。人生でいちばん愚かなことをしでかして、それを万人がテレビ画面で見ていて、「おい、あの馬鹿を見ろよ!」と言って娯楽にしているんだよ。これは普通の人生ではないよ。おかしな話だ。
TAKURO:僕はあなたの目にどう見えていますか? 大丈夫ですかね?(笑)
LUKE:君のルックスは最高だよ。今の話は、誰にでも当て嵌まる例として挙げたんだ。誰にでも起こり得ることだ。キミが目の前に座っているからキミのほうを差して言っただけのことでね。実際、俺の人生はそんなことばかりの連続だった。だから、身をもって知っているんだ。
<INFORMATION>

『Journey without a mapII』
TAKURO
ポニーキャニオン
発売中