この先10年間はより多くの人が音楽にお金を払うものの、一人当たりの支払い金額は減少する、と大手投資銀行ゴールドマン・サックスが音楽産業に関する最新レポートを発表した。

自画自賛が大好きな音楽業界にとって、ウォール街の象徴的存在による賞賛ほど嬉しいものはない。
米現地時間6月5日、ゴールドマン・サックスはレコード音楽市場が2030年までに450億ドル(およそ4兆9000億円)に成長する、と予測した自己資本調査レポートを発表した。成長の原動力は、音楽ストリーミングサービスの定額料金を払う11億5000万人のユーザーと、米国をはじめとする先進国市場における40%のサービス普及率である。音楽業界関係者であれば、誰もが微笑まずにいられない数値だ。

ゴールドマン・サックスが「Music in the Air」というタイトルとともに2017年に公表した、当時からすでに成長していた音楽産業の展望を予測したレポートでは、音楽ストリーミングサービスが20年近くにわたって悪化し続けている音楽産業の収益を復活させ、2030年までには440億ドル(およそ4兆8000億円)の産業に成長する、と予測していた。しかし、今月初めに公表された同社のレポート(「Streaming crescendo; raising our industry forecasts」というタイトル)は、当初の予想を10億ドル上回る結果となった。その背景には、「予想よりも早い有料ストリーミングサービスへの適応」とSpotify、ワーナー ミュージック、ユニバーサル ミュージックなどの主要企業からの「前向きなアップデート」にある。さらに、ゴールドマン・サックスは定額制の有料ストリーミングサービスによって、2030年までに当初予測した271億ドル(およそ2兆9000億円)ではなく、275億ドル(およそ3兆円)の収益が見込めるとして、数値を改めた。同社は、新興市場における定額サービスユーザー数が当初予測した5億3000万人ではなく、2030年には7億7800万人に達すると確信している。

より多くの人が音楽にお金を払うようになっても、一人ひとりが払う金額は減る、というのがゴールドマン・サックスの見通しだ。同社は、加入者一人当たりの平均売上(ARPU)が2018年は32ドルだったのに対し、2030年には24.60ドルに急降下すると踏んでいる(当初は2030年も2018年とほとんど変わらないARPUを見込んでいた)。なぜだろう? それは、音楽ストリーミングプラットーフォームがファミリーなどの一部のターゲット層に対して大々的な割引キャンペーンを実施すると同時に、新規ユーザーの取り込みを目的に他のエンターテイメント会社とのセットプランを提案しているからだ。だが、「ARPUの短期的な減少傾向を踏まえた、ユーザーによるスピーディーな適応は、業界全体の収益構造を支える企業には長期的かつ有益である」とゴールドマン・サックスは言う。
時間の経過ともに、サービス解約率の減少も見込める。

音楽ストリーミング全体の話をすれば、ひとつのサービスがすべてを支配することはない、とゴールドマン・サックスは考えている。「音楽ストリーミング市場は競争率の高さを維持しつつも”ひとり勝ち”状態にはならない」とリサ・ヤン氏が率いる同社のインターナショナル リサーチ チームは報告した。ヤン氏のチームは、SpotifyやApple Musicが業界のリーダー的存在であり続ける一方、2030年にはSpotifyが32%、Apple Musicが16%と(2018年の同時期と比べるとSpotifyが38%ダウン、Apple Musicが20%ダウン)、両社のシェアが「時間とともに減少する」と予測している。そしてAmazon、YouTube、Facebookなどのグローバル企業のシェアが10から14%アップする、という見通しだ。さらにゴールドマン・サックスは、中国を拠点とするTencent Musicのグローバルレベルでの有料サービスユーザー数が2018年から11%アップしたのに対し、2030年には23%アップする、と踏んでいる。

同社のレポートは、2018年に有料ストリーミングサービスの総合ユーザー数が2億5500万人になり、4年連続で世界の音楽産業の売り上げ増加に貢献した、という国際レコード・ビデオ製作者連盟(IFPI)による最新の音楽産業レポートの内容とも合致している。
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