コートニー・バーネットが最初のフルアルバム『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit(原題)』を2015年にリリースしたあと、友人から転送されたコメントを読んだ彼女は笑ってしまったという。それは「ABCスープを一杯食べたら、あんたよりも上手な言葉を吐き出せる」というものだった。
「それが面白いって思っちゃった。知らない人が、私は下手だって言っていたわけで、これが頭の片隅に残っていてね。『じゃあさ、それを使ってあげようじゃないの、ふざけんじゃない』って思っただけ」と、ローリングストーン誌に語った。
そして彼女は、そんな気分の悪い一節を「Nameless, Faceless」に入れ込んだ。この一節には、そのコメントへのバーネットの返事だ。「自分を中心に世界がまわっていると思うなら、あんたは考えが甘い」と、続く。新作アルバム『Tell Me How You Really Feel』からのファーストリリースのこの曲は、オスの攻撃性に対する痛烈な攻撃で、コーラス部分の歌詞はマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』の一節を言い換えたものだ。すなわち「暗闇の公園を通り抜けたい/女が男を笑えば男は怯える」と。ブリーダーズのキム・ディールが歌うバックコーラスも相まって、キャッチーで元気ハツラツな曲になっているが、一歩間違えば脅迫めいた歌になってしまう。しかし、そんな両義性がこの曲の核心ともいえる。
『Tell Me How You Really Feel』(2018年5月発売)に収録された曲の多くが、魂の探求に関わっている。ただ、バーネットは魂をまだ見つけていないようだ。「はっきりとした方向性はなかった。いつくかの事柄を理解しようとしたし、そうしているうちに最初よりも大きなテーマに変わった」と、バーネットは言う。2017年のカート・ヴェイルとのアルバム『Lotta Sea Lice(原題)』のレコーディングを行う前に今作の作業を始めていたが、彼女曰く、他のプロジェクトでの曲作りで忙しくて作業が中断していたとのこと。またファースト・アルバム『Sometimes I Sit~』のリリース後、彼女はグラミー、ブリット・アワード、ARIA(彼女の地元オーストラリアのグラミー的な賞)の最優秀新人賞にノミネートされた。「そのせいで相当なプレッシャーを感じたけど、私の場合、一番のモチベーションは自分が自分に課すプレッシャーだと思う。それ以外のことは全部無視しようと決めたし、自分のために興味深いアルバムを作りたいと思ったわけ」と、バーネットが説明する。
最終的にフラストレーションを題材にした楽曲で構成されるアルバムが完成した。彼女はこれを「感情の燃えカス」と呼び、前作『Sometimes I Sit and Think~』の楽曲よりも現実を見据えた直接的な表現で、さまざまな人間関係を解明している。バーネットはリハーサルルームを手配して作業した。そこでは、机に向かって強制的に歌詞を書いたという。
「毎日、自分と向き合って、日々自分の中で起きていることを整理するって興味深いことよ」と、彼女は笑いながら言う。ある意味で、このアルバムはバーネットの日記のようなものだ。そこでの彼女は(「Nameless, Faceless」のように)特定の課題に取り組んだり、自分自身を研究したりする。出来上がった曲のインスピレーションが何かははっきりとわからない上に、自分を苛つかせる原因もよくわからないのだが、全曲に共通することは「内観の報い」のようなものだと彼女が教えてくれた。「完全に曖昧なものがかなり明らかなものに変わる様子が面白いって思う。テーマは一貫していたから、一歩下がって、アルバムを作れるだけ出来上がったかって確認しときに、すべてのつじつまがバッチリ合った」とバーネット。
ゆっくりと出来上がったアルバムのオープニング曲は「Hopefulness」で、冒頭の歌詞が「憎むために生まれた人など皆無/生きているうちにどこかでそれを学ぶ」だ。そこからゆっくりとクレッシェンドして、フィードバックするギター・ソロへと突入する。「それがある意味で、絶望とその絶望から必死に希望を持とうとする状態を表す感情よ。それくらい切り離せないもので、そこから生まれるエネルギーってかなり奇妙ね。
そして、「その感情と向き合って解消する方法を見つけること、生産的に生きるために何ができるかと考えることが大きく関係していると思う。その奇妙なエネルギーを他の何にどんなふうに変えるってことね」と続ける。
絶望を理解するという考えは、同作品に収録されている「City Looks Pretty」でもはっきりと分かる。この弾むような曲では「時々悲しくなる/そんなに悪くない」と歌う。そして、軽快でメランコリーな「Need a Little Time」(コーラス部分では「自分と君から逃げる時間が少し必要だ」というヘヴィーな歌詞が登場する)もそうだ。ちなみにこの曲はアルバム収録曲の中で唯一彼女が一気に書き上げた曲で、恋人のシンガーソングライター、ジェン・クロアーと森の中の山小屋で過ごしていたときに完成した。また、一見アップビートな「Crippling Self-Doubt and a General Lack of Confidence」にはブリーダーズのキムとケリー・ディールがフィーチャーされ、コーラスの「私は何も知らない」の直前でアルバムタイトルと同じ歌詞「あなたの本音を教えて」を歌っている(バーネットがキム・ディールと知り会ったのはデジタルメディアアウトレットTalkhouseのポッドキャストの席で、その後はメールで連絡を取り合っていた。ブリーダの新作でバーネットが歌ったこともあり、彼女も自分のアルバムに参加してもらったわけだ。「二人の声って本当にいいのよ」とバーネット)。
次に続くのが、パンク風の「Im Not Your Mother, Im Not Your Bitch」。
男性がテーマの曲はすでに紹介した「Nameless, Faceless」だ。バーネットはメルボルンの暴力についてリサーチしている最中に、アトウッドの作品の言葉(「女に笑われることを男は恐れている、男に殺されることを女は恐れている」)を知った。「暴力について書かれたものを読むたびに、『どうしてこんなことが出来るの?』や『どうしてこんなことをしたの?』ってみんな思うでしょ。それを理解しようとしてみた。あの言葉はある記事に書いてあて、とてもパワフルだって思ったのよ。短い文章で大きな事柄をシンプルに効果的に言い表している。
純粋な希望の瞬間が訪れるのは、最後の曲「Sunday Roast」だ。この曲では「あなたが最善を尽くしているのは知っている/あなたはよくやっているって思う」と歌う。彼女は、「友だち同士で一緒に夕食を囲むという基本的で単純なことと、友情にある思いやり、温かさ、愛情について歌っている。でも、それ以外のことにも触れていて、友だちの苦しむ姿とか、彼らを助けても役に立たない感覚とか。大きな世界観では、この曲は1曲目(「Hopefulness」)に通じるし、小さい世界観で見ると世界中の最悪な問題に集約する。楽観的に終わらせたくてこの曲を最後に持ってきたのよ」と語る。
このアルバムがついに完成した昨年、バーネットはツアーに向けて準備を進めていて、ファンたちと希望を共有することを彼女は楽しみにしていた。まあ、曲によっては希望を持つ努力を分かち合うとも言えるだろう。彼女の公式サイトでは、アルバム・タイトルにちなんだ「本音を教えて」という質問に、ファンが率直に答えるコーナーも設置。もちろんバーネットも人々の意見をチェックしていて、冒頭の「ABCスープ」のようなインスピレーションの素を探しているという。同じくらい効果的な文章に出会ったかとたずねると、「まだよ。
フジロックフェスティバル 19の16時30半からWHITE STAGE に登場するバーネット、ステージが楽しみだ。
(YouTubeのLIVE Channel 1でも、同時刻からストリーミング配信される。)