性的人身売買および共謀の容疑がかけられていた億万長者の米投資家、ジェフリー・エプスタイン。起訴後勾留中の独房で首を吊って死亡し、大勢の被害者たちが怒りに震えた。
真実が明かされる前に終焉を迎えると思われていたが、刑事起訴取り下げの公聴会が開かれたことにより、被害者たちが体験談を語れる最後の機会が設けられた。

2週間前、堕ちた金融家ジェフリー・エプスタイン被告が66歳で死んだと報じられた後、大勢の被害者が怒りに震えた。正義を追及することも、法廷で真実を明るみにすることもできなくなってしまったからだ。

だが火曜日、アメリカ連邦地方裁判所のリチャード・バーマン判事は、故エプスタイン被告に対する刑事起訴取り下げの公聴会を開くことを決定した。そうすることで、十数人の女性たちが法廷で自分たちの体験談を語るという、おそらく最後のチャンスを与えたのだ。

「非常に憤りを感じていますし、残念です。
この事件では正義は果たされませんでした」と言うのは、まだ14歳のころエプスタイン被告から性的虐待を受けたと主張するコートニー・ワイルド氏。以前マイアミヘラルド紙にもエプスタイン被告から受けた虐待について暴露した彼女は、火曜日の公聴会で最初に証言した。ワイルド氏はエプスタイン被告を「臆病者」と呼び、彼の死は、正義を追求するチャンスを「自分も含めその他被害者から奪った」と言った。

合計12人の女性が法廷で口を開いたが、大半は匿名、あるいは”ジェーン・ドウ”という仮名で証言した。全員が、ようやく裁きの場でエプスタイン被告と対面できるかと思いきや、彼の死でそのチャンスが奪われたことに怒りを表した。そのうちの1人は、被告の死は「また新たなトラウマになりそうだ」と言った。


メトロポリタン矯正センター(MCC)でのエプスタイン被告の死について、捜査官は明らかな自殺だと断定したが、彼に対する性的目的での人身売買罪および共謀罪は取り下げられることになる。だが事件に対する世間の関心の高さを考慮して、バーマン判事は検察の起訴取り下げの前に公聴会を開くという、異例の判断をくだした。「自分に不利な判決が下される前に被告が亡くなったとはいえ、公衆はいまもなお、検察の起訴取り下げ手続きに関心を抱いているであろうと裁判所は考えます」と、バーマン判事は8月21日の裁定でこう述べた。

エプスタイン被告の告発者らの代理人を務めるブラッドリー・エドワーズ弁護士は、合わせて15人の被害者が出廷したと記者声明の中で述べた。彼は公聴会を「歴史的事件」と呼び、「被害者も、公判手続きの重要な一部であるという事実を裏付けるものです」と述べた。

ビル&ヒラリー・クリントン夫妻やドナルド・トランプ大統領ともつながりがあった裕福な金融家エプスタイン被告は、今年7月ニュージャージー州テターボロ空港で、性的目的による人身売買および共謀罪で逮捕、起訴された。
のちに公開された起訴状によると、彼は2002年から2005年にかけ、ニューヨークとパームビーチにある自宅で14歳も含む「数十人もの」若い少女を凌辱したとみられる。

2006年、エプスタイン被告は未成年者への性行為教唆で起訴されたが、当時のフロリダ州検事、アレクサンダー・アコスタ氏の計らいで司法取引に応じ、有罪答弁を行った。エプスタイン被告は13カ月の禁固刑を言い渡されたが、通勤刑が認められたため、刑期のほとんどをパームビーチのオフィスで務めた。司法取引の詳細は2018年にマイアミヘラルド紙の調査記事が出るまで公表されなかった。記事が掲載されるや瞬く間に怒りの声があがり、トランプ政権下で連邦労働長官を務めていたアコスタ氏はのちに辞任に追い込まれた。

7月の逮捕以降、エプスタイン被告は起訴内容について無罪を主張していたが、裁判を控えた8月10日、独房で死んでいるのを発見された。
エプスタイン被告の富と人脈ゆえに、自殺ではなく実は殺されたのだという憶測が飛び交ったが、こうした説を裏付ける証拠はひとつもない。ニューヨーク州監察医のバーバラ・サンプソン医師も、彼の死は自殺であると正式に発表した。

このような憶測が飛び交う中、エプスタイン被告の告発者らは、彼が法廷で裁かれる姿をこの目で見るチャンスが死によって奪われたと、憤りをあらわにした。「ジェフリー・エプスタイン被告が、虐待した被害者と法廷で顔を合わさずに済んだことに怒りを覚えます。我々はこの先一生、彼から受けた傷を背負って生きていかなくてはならないのに、彼は自ら犯した罪や、大勢の人々に負わせた傷やトラウマの代償を支払うことはないのです」と、告発者の1人ジェニファー・アローズ氏も、彼の死後ローリングストーン誌に宛てた声明の中で述べた。

ローリンストーン誌は以前、エプスタイン被告の死によって、彼に対する刑事裁判の可能性は事実上絶たれたと報じたが、被害者には依然、彼の遺産管理人に対する訴訟の道が残されている。
FBIも、エプスタイン被告の事件に関わった可能性のある共謀者について捜査を続けると約束した。エプスタイン被告の元恋人で「マダム」と呼ばれていたギレーヌ・マックスウェル氏は、被告のために若い女性を調達していたという疑いがもたれている(マックスウェル氏はこうした主張を再三否定している)。

公聴会の間、エプスタイン被告の告発者は検察に直接呼びかけ、エプスタイン被告の死に関わらず、今後も共謀した容疑者の捜査を継続するよう訴えた。「お願いです、始めたことは最後までやり通してください」と、告発者の1人サラ・ランサム氏は言った。