ニューヨーク州ハンティントンで最近行われたトリビュートコンサート『The Bizarre World of Frank Zappa』は、公演前にこの日のギタリストについて蘊蓄をたれるダイハードなファンから公演前のドゥワップに至るまで、ロックの偶像破壊主義者も認める百点満点のコンサートだった。
公正を期すために言っておくと、ギターを弾き、シャツをたくし上げ、ひげをいじるホログラム像はまさにあの世からフランクがよみがえったかのようだった。声まで本人そのもの。1974年の未公開ライブ音源が使われていたのだから当然だ。それでも見ごたえ十分で、満員御礼の会場からはスタンディングオベーションが送られた。「初めはちょっと悲しくなりました」とファンの1人、アネリー・インディラは公演後にこう言った。「彼がこの世にいないと思うと、一瞬胸がぎゅっと絞めつけられました。でもすごく気に入りました。すごく変わってますよね。なかなかよくできていたと思います」
この日のコンサートはソールドアウト。
「いままで行ったコンサートの先々で、ファンの方々に感想を聞いてみたんです」と言うのは、故ロニー・ジェイムズ・ディオのウェンディ夫人。Eyellusion社ともゆかりのある人物だ。「否定的な意見はひとつもありませんでした。みんな私に、彼をよみがえらせてくれてありがとうって感謝するんです」
だが、この手のコンサートを世に送り出すのはたやすいことではなかった。「一番大変だったのは、どんなコンサートなのか人々に理解してもらうことです」 と、ジェフ・ペズティス氏は言う。ザッパやディオのツアーの制作会社Eyellusion社のCEO兼共同創設者だ。「言葉で説明するのは非常に難しいですね。YouTubeや写真とは比べられませんから。
ザッパやディオのコンサートに関して言えば、Eyellusion社は特設ステージを製作した。真ん中にホログラムを浮かび上がらせ、両サイドでミュージシャンが演奏する。その周りをLEDスクリーンがぐるりと取り囲み、エキサイティングなアニメーションが流れる。オービソンやホリー、ワインハウスのショウを手がけるBase Hologram社は、ミュージシャンの前に半透明のスクリーンを設置して、そこにホログラムを投影している。後者は最新エフェクトを駆使しているが、Eyellusion社の場合は19世紀のマジシャンが使った”ペッパーズ・ゴースト”という、アクリル樹脂の上に動画を投影する手法をアレンジしている。
「我々のテクノロジーのおかげで、膨大な自由が手に入りました」というのは、Base Hologram社の配信およびツアー制作部門のCEOを務めるロバート・リンジ氏。「ホログラムを袖からステージに向かって歩かせたり、バンドやオーケストラ、音楽監督や観客と交流させるとか、何でも可能になったんです」
リンジ氏いわく、オービソンのホログラムのロンドン公演では客席の通路で踊り出した人がいたという。ディオのショウでは子供連れの家族客を見かけたと、ペズティ氏も言う。「夕べ18回目の公演を終えたところですが、おそらく観客の15%は15歳以下の子供でしょう。私もびっくりしましたね」
バディ・ホリーの遺産を管理するSandhaus Entertainment社のフィル・サンドハウス氏は、ホログラム市場に乗り出した当初は懐疑的だったと言う。
だが、この手の体験は留まるところを知らない。この先の将来の展望と比べれば、現在行われているツアーはほんの序の口だ。ホログラム以外でも、サウンドガーデンは最近、コンサート映像を「生の」サラウンドサウンドとミックスするという”コンサート体験”なるものを試験的に始めた。クイーンも「ラブ・オブ・マイ・ライフ」の演奏では、フレディ・マーキュリーの映像をブライアン・メイの隣に重ね合わせるという演出をもう何年も続けている。デヴィッド・ボウイやピンク・フロイドといったアーティストも近年、お宝コレクションを活用したオリジナル巡回展を行っている。
だがホログラムは他にはない成長チャンスを秘めている。ホログラムショウの成果を目の当たりにしたEyellusion社、Base社の重役らは、まだまだ成長の余地があると考えている。Base社は現在、ホイットニー・ヒューストンのホログラムにシンガー、ダンサー、ミュージシャン18人を従えた大規模なツアーを計画している。また、ミュージアム向けの恐竜ショウや、歴史的人物をテーマにした作品なども進行中だ。Eyellusion社もコンサートの演出方法の拡大を検討している。
「これが常識を超えてほしいですね」というのは、アーメット・ザッパ氏。Eyellusion社のエグゼクティヴ・ヴァイス・プレジデントでグローバルビジネス展開を担当している。「今後、他のアーティストたちがこの世を去っていきます。今後もこうしためくるめく体験を提供してゆこうと思うならば、人々を魅了し、音楽を後世に残していくにはテクノロジーがカギとなるでしょう」
もちろん、誰もかれもがホログラムを歓迎しているわけではない。音楽ジャーナリストのサイモン・レイノルズ氏は、この手のツアーを「幽霊の奴隷化」と呼んでいるし、ディオンヌ・ワーウィックはホイットニー・ヒューストンのホログラムツアーを「ばかばかしい」と一蹴している。エイミー・ワインハウスの元夫も、来る亡き歌姫のツアーを「子供だましのお遊び」と称している。
ジム・モリソンやジャニス・ジョップリン、ジョン・リー・フーカー、ラモーンズの遺産を管理するジェフ・ジャンポル氏も同様に、あまりそそられていない。彼は昨年オービソンのホログラムツアーを見に行ったが、オービソンの遺産管理人が賭けに出たことを称賛しつつも、音楽は素晴らしかったが会場は見るからに空席が目立ち、オービソンの亡霊はおもったよりも動きが少なかった、と言った。
ジャンポル氏はトゥパック・シャクールのホログラムがコーチェラでお披露目された際、彼の遺産を管理していた。だが彼は、この手のイベントではペッパーズ・ゴースト以上のものを見たいと言う。「ジム・モリソンが自分のところに歩み寄ってきて、じっと目を見つめながら歌ってくれて、くるりと回って立ち去っていく。それを他の人が360°全方向から見られるようなものが出てほしいですね」と彼は言う。「それならきっと面白いでしょう。でも、クオリティもお粗末な映像を、19世紀の技術でプロジェクトシートの上に投影するなんてのは何度も見飽きています。もう十分ですよ」
もちろん、誰もが彼と同意見ではない。中にはホログラムツアーに何度も通うファンもいる。