そんな幾何学模様がこの度、およそ2年ぶりに来日。OGRE YOU ASSHOLEやんoonらを迎えて、10月初旬より東京、大阪、名古屋にてライブを行うほか、朝霧JAM 2019にも出演するという。「サイケデリック」を独自の視点から捉え直した唯一無二のパフォーマンスは、今後「語り草」になること必至だ。
高田馬場の路上でひっそりとスタートし、楽器演奏もビギナー同然だった彼らが、何一つツテもなく海外でひとかどの存在になるまでには、一体どのような試行錯誤があったのだろうか。バンドリーダーでドラマーのGo Kurosawaに、そのプロセスやノウハウを詳しく訊いた。

左からDaoud Popal(Gt)、Ryu Kurosawa(Sitar,Organ)、Go Kurosawa(Dr,Vo)、Tomo Katsurada(Vo,Gt)、Kotsuguy(Ba)
幾何学模様は2012年夏、東京の路上でのバスキングから活動をスタート。通算4作目の最新アルバム『Masana Temples』(2018年)は「Discogsで最も集められた日本産レコード 2018年~2019年上半期」の首位を獲得。世界各国でソールドアウト公演を連発し、アメリカ最大級の音楽フェスティバル「ボナルー」、ヨーロッパ3大フェスのひとつ「Roskilde」にも出演を果たすなど、日本のサイケデリアを代表する存在となりつつある。また、メンバーのGoとTomoは、自身のレコードレーベル「Guruguru Brain」をアムステルダムを拠点に運営。2014年以来、幾何学模様を含めた多くのアジアン・アーティストの作品をリリースしている。
「自分たちがやりたいこと」を貫いた先に
─単刀直入に伺いますが、多くのインディバンドにとって憧れのフェスであるLevitationやデザート・デイズに、一体どうやって出られるようになったのですか?
Go:最初は僕らも都内のライブハウスとかに出てたんですよ。
─なぜ、人が集まらなかったんでしょう?
Go:僕らが日本で活動していた頃はシティ・ポップとかが主流でしたけど、そういう音楽を正直カッコいいとは思えなかったんですよね。自分たちがやりたいこととも全然違うし。だったら、そこで真っ向勝負するのではなく違う方法を考えようと。
それでまずは、「TOKYO PSYCH FEST」と銘打った自主企画のイベントをやり始めました。それもDIY精神というか、アートワークやTシャツのデザインなどを、有名な作家にお願いするとかではなく、自分たちの身近な人に手がけてもらったんです。少しくらい下手でも、それが自分たちの好きな感じだったらいいよね、みたいなノリで。フェスの価格設定にしても「どれだけライブに人が集まる文化を作るか?」みたいなことを考えながら決めていました。
─例えば?
Go:(日本の)ライブハウスって、普通は平日だと2500円、ワンドリンク600円で、Tシャツの値段は2000円以上とかするじゃないですか。そんな「5000円の娯楽」ではなく、チケット1枚500円とか1000円くらいで楽しんでもらうにはどうしたらいいかと。
そのうち外国人のお客さんがどんどん増えてきて。そこからですね、「もしかしたら海外で通用するかも」と思うようになったのは。それで、(2013年に)初めてオーストラリアでツアーをやったのが大きなきっかけになりました。
米ウィスコンシン州ミルウォーキー撮影の映像シリーズ「Hear Here Presents」でのライブ映像。「In A Coil」「Kogarashi」「Green Sugar」の3曲をプレイしている。
日本語のまま発信したものが、世界のどこかに届くのも夢じゃない
─今は、メンバーの皆さんはどこにお住まいなんですか?
Go:僕とTomo Katsuradaはオランダに住んでいて、あとの3人は日本にいます。東京、大阪、福島と離れているんですけどね。2年前までは高円寺でハウスシェアして、仕事の合間を縫ってツアーに出ていました。そんな時期が2、3年続いたのかな。
─アムスに住むメリットはどこにありますか?
Go:ヨーロッパのど真ん中にあって、パリにもロンドンにも行きやすい。
『Masana Temples』収録曲「Nazo Nazo」
─みなさん、バラバラな場所に住んでいるのに活動が成り立っているのは、インターネットの力も大きいですか?
Go:それは大きいですね。普段から、例えば鼻歌だけとかそういうアイデアの断片を送り合ったり、自分の感覚に引っかかったもの……楽曲に限らず映画や絵画、ネットで拾った動画などのイメージを毎週送り合ったりして、それを共有しながら「この映像にはこういう音が付けられるかな」みたいな感じで、さらにアイデアを乗せていくというか。そうやって音楽以外のところからインスパイアされて曲が生まれることも多いですね。
─とても興味深いです。具体的にはどんなイメージが共有されてきたのですか?
Go:最近だと、例えばゴブリンが手がけた『サスペリア』のサントラや、ポポル・ヴー、ビトウィーンの音源……あとはスピリチュアル・ジャズもメンバー内で流行っていますね。そういうものにインスパイアされつつ、自分たちが持っているオリジナリティとは何か?とか、自分がいいと思っている感覚と、他のメンバーのそれをどうやって混ぜるか、みたいなことをいつも考えています。それってインターネットを介しているからこそ出来ることなのかなと。
─確かに。
Go:昔みたいに、みんなでスタジオに入って朝までジャムるとか、そういうことを毎日のようには出来なくなったけど、その代わり今はツアーの始まる10日前とかに集まって、スタジオに入ってそこで曲を作ったりジャムったりしているんです。
幾何学模様がセレクトしたプレイリスト。ブルックリンのイベント団体、PopGun Presentsによる企画。
─非常に夢のある話ですよね。遠距離でバンド活動を続けていくなんて昔は考えられなかったけど、今は地球の裏側に住んでいてもバンドのメンバーでいられる。それに、自分たちの音楽を理解してくれる人が周りに一人もいなくても、地球上のどこかには熱狂してくれる人がいる可能性もあるし、そういう人にちゃんと届くようになったわけですから。
Go:そうなんですよ。すごくグローバルに考えられるようになったのは大きいですよね。「メンバーとはなるべく近い距離にいて、デモテープをレコード会社に送って、下積みを積んでからデビュー」みたいなことだけが選択肢ではなくなったという。僕ら、英語が全く分からなくても洋楽を聴いて感動したのと同じように、日本語のまま発信したものが、世界のどこかで暮らしている誰かに届いて感動してもらうことすら夢じゃないっていう。
海外で求められている日本発のバンド像とは?
─とはいえ、海外で活動する上で大変だったこと、不便に感じたことなどもたくさんあったんじゃないでしょうか。
Go:我々が慣れ親しんでいる「ポピュラー・ミュージック」や、それにまつわるカルチャーって、結局は米英を中心とした英語圏のものじゃないですか。英語圏にいる人たちにとっては、自国の音楽はヒットすればそのまま世界中のオーディエンスに広がるし、アメリカで一番売れたバンドは、他の国でも一番売れる。でも、日本で一番売れたバンドがコーチェラに出たり、マジソン・スクエア・ガーデンに出演したりすることは滅多にない。当たり前なんだけど、そういうのを肌で感じるようになって。
こちらでは僕ら、絶対に「日本人」「日本のバンド」と見られますからね。ただ、ネイティブで英語は話せない代わりに、日本人しか持っていない感覚というのも絶対あるわけじゃないですか。彼らがヒップホップを浴びていた時に、僕らはJ-POPを聴いて育ってきたわけですから(笑)。そういった独自性をこちらのシーンやメディアにどうアピールし、どう受け入れてもらえばいいか。それを常に考えているし、チャレンジでもあります。

超満員のオーディエンスが幾何学模様のライブを見守っている光景。
─そこはある程度、戦略みたいなものもありました?
Go:例えば日本人というだけで、アシッド・マザーズ・テンプルやフラワー・トラベリン・バンド、裸のラリーズとかと比べられるわけです。音楽性は違っていても、「日本人くくり」みたいな。それは仕方がないとしても、こっちのフェスって白人以外のバンドがヘッドライナーになることがあんまりないんですよ。ヒップホップはまた別だけど、結局バンドだとまだそういう文化が続いている。なので、そこでどうやって白人以外のバンドが出られるのかを、まあ戦略的というよりは、現実を受け入れつつ抜け道を探るというか。
そりゃそうですよね、外国人が日本に来て、片言の日本語で生粋のJ-POPをやろうとしても、そんなに面白くないじゃないですか。彼ら(海外の人々)と同じような音楽をやっても、「いや、もういるから」ってなるのは当然で。
─確かに(笑)。
Go:「だったら僕らにしかできないことってなんだろう?」ということを考えるようになりましたね。
この投稿をInstagramで見るKikagaku Moyoさん(@kikagaku.moyo)がシェアした投稿 - 2019年 6月月21日午前11時31分PDT今年6月にクルアンビンと共演した北米3公演は全てソールドアウト(NYのセントラル・パーク公演ではコナン・モカシンも登場)。オファーが届いたきっかけは、マーク・スピア(Gt)が幾何学模様のファンであること。このように彼らは、海外でミュージシャンズ・ミュージシャンとしての地位を確立している。
※関連記事:クルアンビンを育んだ「異文化」と「ミニマリズム」の源流
※関連記事:OGRE YOU ASSHOLE×コナン・モカシン対談:両者の考える「サイケデリック」
─海外で活動していく中で、日本人バンドとしてこんなことが求められているなとか、こういうのが受け入れられやすいのだな、などと思ったことはありますか?
Go:やっぱり「欧米の人が思う日本らしさ」がしっかり出ていると、ウケるのかなとは思いますね。見た目だけでもそう。あとは英語を話すのが苦だと難しい。こっちにも音楽業界の本とかあるので、最初はそういうのを読んだりネットで調べたりして、マネージャーやプロモーター、ブッキング・エージェントなどの存在を知りました。「ツアーってどうやるんだろう?」と思ってBORISのFacebookを読んだり(笑)、Facebookイベントに直接コンタクトしたり。そういう調べ物が楽しいと思える人は向いていると思います。ビザの取得についてなども調べなきゃならないのに「そんなの面倒臭い、音楽のことしか考えたくない」となってしまうようだと、ちょっと大変かなって。
─ぶっちゃけ、バンド活動やレーベル運営などの経済的な部分はどうやって回しているんですか?
Go:僕ら5人組のバンドなんですが、マネージメントも自分たちでやっています。で、ブッキング・エージェントがアメリカとヨーロッパにいて、彼らがライブのブッキングをしてくれている。今、「Guruguru Brain」というレーベルをTomoと2人で運営しているんですが、そこではアジアの音楽を出していて。海外で一緒に住みながら、どうやったら音楽で食べていけるのか最初は試行錯誤しましたね。一晩のライブでいくらもらえれば、5人の全員が食べていけるか?とか。今はそれで生活できるようになったんですけど、最初はメンバー全員が別の仕事をしていて、そこからちょっとずつ音楽だけで食べていけるようにシフトしていきましたね。
Guruguru Brainの最新リリースは、タイの5人組サイケバンド、カーナ・ビーアブード(Khana Bierbood)が今年1月に発表したアルバム『Strangers from the Far East』。
東京の路上から世界へ、そしてまた日本へ
─ところで幾何学模様は、結成時にはどんなコンセプトがあったのですか?
Go:「ミュージシャンっぽくないことをやろう」と思っていました。日本の若いバンドはみんな上手いので、逆に「あまり練習しなくても出来る音楽をやろう」と。なんていうか、「頑張ってる感」があるバンドが好きなんですよ(笑)。プロフェッショナルなステージというよりは、ステージ上で試行錯誤している感じが伝わってくるような。ハプニングが常にあって、「大丈夫かな」って思うような感じ(笑)。それが欲しかったので、あまりバンド経験のないメンバーを集めましたね。
─最初はどんな活動をしていたのでしょうか。
Go:高円寺や高田馬場の路上で演奏をしていました。その頃は、「楽曲を演奏する」というよりも、ひたすら音を出し続けるみたいなことをしていましたね。そのうち、少しずつメンバーが増えていって。なんでもいいから楽器を持ち寄って、一緒に音を合わせているうちに少しずつカタチになっていきました。コミュニティというか、ミュージック・コレクティブみたいな……誰でも入ってこられる音楽家集団みたいになったらいいなと思っていたのですが、その頃はまだ海外のことは全く考えていなかったです。
─最初は女性ボーカリストもいたんですよね?
Go:ただ、それも固定というわけではなくて。レコーディングするまでは、友達や、その兄弟、路上やライブハウスで会った人たちに「今度、路上で演奏するから参加しない?」みたいに誘いながら活動していたんですよ。お客さんなんて、全然いなかったです(笑)。立ち止まって観てくれたり、「面白いことやってるね」って声をかけたりしてくるのは、大抵は音楽マニアみたいな変な人たちだけです。

─そこから、自分たちのサウンドはどう変化していきましたか?
Go:1stアルバム『Kikagaku Moyo』(2013年)の頃は、本当に何もわからなかったんですよ。どうやってレコーディングするのかも。オーバーダビングって何のことなのかよく分からなかったし。でも、感覚的に「こういうレコードが作りたい」という気持ちがあって。それをもうちょっと言葉でも言えるみたいな。例えばパンニングを覚えて定位を整えたり、ギターをもう少し引っ込めるならリバーブを多めにかけるといいとか(笑)。
─1stテイクで完パケしたと聴いて驚きました。
Go:テイク数を抑えるやり方は今も変わらないですね。これまでずっとプロデューサーもつけてなくて、エンジニアさんと相談しながら試行錯誤してきました。
『Kikagaku Moyo』収録曲「Dawn」
─昨年リリースされた『Masana Temples』は、どこかブラジルっぽさがありました。
Go:ちょうど南米の音楽にハマっていた頃で。今、「Guruguru Brain」を手伝ってくれているポルトガル人のインターンと一緒に住んでいて、彼がいるとブラジルの音楽がよくかかっているんです。もちろん、僕らがボサノヴァをやろうと思っても絶対そうならないじゃないですか(笑)。言葉もリズム感も違うし。でも、その「違和感」が面白いと思わせるには、どうやってアプローチしたらいいか、みたいなことがインスピレーションの元になったりしましたね。
─色んなジャンルの音楽が混じり合って、もはやカテゴライズ不能になっていく感じは音楽シーン全体の流れでもありますよね。
Go:そうですね。例えばエレクトロ系のイベントにもドローンのバンドが出ていたりして。このジャンルでは、今まではこういう人たちがカッコいいとされていたのに、キュレーターやメディアが「こういうのもいいんじゃない?」と提示していくことで、どんどんジャンルが溶解して新しい文化が生まれているのは感じますね。
『Masana Temples』はジャズを軸に越境的なサウンドを奏でるポルトガルの奇才、ブルーノ・ペルナーダスをプロデューサーに迎えてリスボンで制作された。
─ところで、今回のツアーではOGRE YOU ASSHOLEとの共演もありますよね。彼らもサイケデリックというものを日本人独特の感覚で捉え直していて、アプローチやアウトプットは違えど、ある意味では幾何学模様とアティチュードを共にする部分もあると思うんですよ。
Go:楽しみです。
─幾何学模様は「サイケデリック」をどういうものだと定義していますか?
Go:サイケデリックの良さって、さっき話したように「下手でもいい」みたいな自由なところにあると思うんですよね。テクニックや様式じゃなくて、マインドの部分。音楽を聴いたり演奏したりした時の精神状態をどう変容させていくか……どれだけ違う場所へ持っていけるかに重きを置いているのが、サイケデリックだと思うんです。そこを僕らは大事にしていて。「こういう音楽をやっています」「こういうメッセージを伝えたいです」というよりは、聴いた時の感覚がどう変化していくかとか、そういう部分にフォーカスしてる。それさえ出来ていれば、下手だろうがどんな音を出してようがいいと思うんですよね。そういう自由な部分がサイケなのだと思っています。

幾何学模様 JAPAN TOUR 2019
【東京公演】
日程:2019年10月5日(土)
会場:Shibuya WWW X
Special Guest:OGRE YOU ASSHOLE
時間:open 17:00 / start 18:00
料金:前売り¥4,000(ドリンク代別 / オールスタンディング)
https://www-shibuya.jp/schedule/011360.php
【大阪公演】
日程;2019年10月7日(月)
会場;Shangri-La
Special Guest:んoon
時間;open 19:00 / Start 19:30
http://ldandk.sub.jp/shangri-la/live/live.cgi?DATE=201910?MODE=MONTH
【名古屋公演】
日程;2019年10月8日(火)
会場;Club Upset
Special Guest:De Lorians
時間;open 19:00 / Start 19:30
http://www.club-upset.com/home/event/kikagaku-moyo-japan-tour-2019/
【朝霧JAM 2019】
日程;2019年10月12日(土)13日(日)
会場;富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
※幾何学模様は13日に出演
https://asagirijam.jp/