今、世間から熱狂的に愛されているバンド「King Gnu」のギター&ヴォーカルであり作詞作曲を担う首謀者である、常田大希。King Gnuが絶好調な状態であるなか、常田による新プロジェクト「millennium parade」が始動した。
King Gnuのツアー中だった4月5日に、millennium paradeとしての1stシングル「Veil」を発表。その後5月22日に初ライブを開催。常田は今、King Gnuで、そしてmillennium paradeで、なにをしようとしているのか?

King Gnuのツアー最終日、millennium paradeのリハーサル、そして初ライブ当日の密着取材とインタビューを通して、常田大希の頭脳と心を解剖する。最後に見えたのは、常田の才能と意欲の奥にある寂しさだった。

King Gnu初の全国ツアーの熱狂と「白日」のヒットに対する冷静な眼差し

4月21日。私は台場にある、Zepp DiverCityにいた。King Gnuにとって「初」の全国ツアーの最終日。この日は、当初予定されていたツアーのチケットにあまりにも多くの応募が殺到したため、「追加公演」として開催が決定されたものだ。

会場は、私がこれまでここで観てきた他のアーティストのライブとはまったく違う種類の熱狂に包まれていた。1階のフロアはもちろん、2階までお客さんがパンパンに入っていて、この日のライブを待ち望んでいたからこそ一瞬一秒を存分に楽しもうとしているオーディエンスたちの熱気が凄まじかった。人気が急加速しているバンドの初ツアーとなるとここまでの熱狂がオーディエンスから生まれるのか、と驚いたし、そういったオーディエンスの期待を軽く超えてくるほどKing Gnuのパフォーマンスは素晴らしかった。みんなが待ち望んでいる楽曲を演奏し、全員で合唱しながら、常田大希がポストクラシカルな演奏をひとりで始めてオーディエンスの視線を惹きつける場面もあれば、MCで井口理(Vo,Key)が笑いをかっさらう場面もある。
誰が食べても美味しいと思える「ごちそう」を調理して提供する場面と、誰も体験したことのない「刺激物」を与えて身体に衝撃を走らせる場面の、そのバランスが絶妙のように思った。

「地方の盛り上がりがもっと凄かったですね。お客さんに影響を受けることの面白さを初めての全国ツアーで体感しました。お客さんによってその日のバンドも変わるし、お客さんのエネルギーによって俺がしこしこ部屋で作った楽曲に熱量を増やしてもらって進化していくんだなって。『Prayer X』が特に、このツアーで俺が作った以上の曲になったと思ったんですよね。曲の頭をみんなが大合唱してくれて。King Gnuに関しては『みんなで歌ってなんぼ』という感じで曲を作っているので、もっと歌って欲しいくらいに思っているんですけど、ツアー中にメンバーから『これはそういう曲だと思っているから、もっと歌って欲しい』とかを発信してちゃんと伝えていく作業をしていたのもよかったのかな。とにかく、特に『Prayer X』の景色を見たときに、こんなことあるんだなっていう喜びを感じて、それがこのツアー最大の収穫でした」

常田大希は今、なにを見て、なにを感じ、なにを創ろうとしているのか
4月21日 東京・Zepp DiverCity「King Gnu One-Man Live 2019 ”Sympa"」(Photo by Kosuke Ito)

このツアーでも大歓声を持って迎えられた、King Gnuにとって現時点での最新曲「白日」は、坂口健太郎主演ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)の主題歌だったが、YouTubeの動画再生数は公開から約3カ月で3000万再生超え、ストリーミングチャートでは上位にランクインし続けてロングヒットを記録、ラジオチャートでもリリースから3カ月経った今もランクインし続けている、という状況だ。昨年のあいみょん「マリーゴールド」や米津玄師「Lemon」のように、この曲が2019年のヒットソングの代表として年末の『紅白歌合戦』で聴ける可能性は大いにあるだろう。こういった「ヒット」と「熱狂」を手にすることで、より挑戦的な表現や自分のやりたい表現を世に出しやすくなる側面もあると思うが、常田はこの状況をあくまで冷静に捉えている。

「これが届くだろうな、っていうものが届いてる印象なので。状況が好転してるというふうな印象はないですね。
『白日』に関しては、売れてるヒットチューンを研究して狙ったわけではないですけど、新しい要素はほとんど入れてなくて。今までKing GnuがJ-POPとしてやってきて食いつきがよかったものを入れる、という方向性で作ったものです。曲の作り方が変わっているのは、全部サビのつもりで作っているからかな。Aメロ、Bメロもサビに持っていけるくらいの強度のもので構成しているから、そういう強さはあると思う。でも、こういうものがこんな広がり方をするんだ、というようなサプライズは別にないんですよね」

「サプライズ」--常田に限らずKing Gnuのメンバーは、メロディ・歌詞・声を含めた「歌」が重視される日本の大衆音楽のあり方や、サウンドメイクのこだわりや工夫にまでなかなか耳が向かない日本のリスナーに対する葛藤をこぼしていたりもするが、そういった日本の音楽文化の状況に対するある種の諦めをひっくり返してくれるようなサプライズを、本当は薄っすらと願っているのだと思う。「それはもうしょうがないというか……伝わろうが伝わらまいが、という心持ちではいます。伝えていこうとはしてますけど……特に期待はしてないです」。常田はそう話すが、では、なぜKing Gnuとは別の新プロジェクト「millennium parade」を始動させたのか? そこではなにを企んでいるのだろうか。

ローンチパーティ開催前に行われた3D映像演出のリハーサル

5月16日、木曜日。深夜の恵比寿LIQUIDROOMへ呼んでもらった。そこでは、6日後に開催を控えている「millennium parade」の本格始動を告げるローンチパーティ『”millennium parade” Launch Party!!!』に向けたリハーサルが行われていた。このローンチパーティでは3D映像によるライブ演出を行うことが事前に発表されていたが、3Dライブを初めてやるLIQUIDROOMで、最新テクノロジーを使いながら、問題なく実施できるかどうかの現場テストを行う必要があったのだ。


本公演の映像をプロデュースしたのは、常田がスタートさせたクリエイティブブレーベル「PERIMETRON」。現在のメンバーは、映像プロデューサー/デザイナーの佐々木集、映像作家のOSRIN、3Dビジュアルエディターの神戸雄平、スタイリストの松田稜平、広告映像制作会社から独立したプロデューサー・西岡将太郎、アシスタントの井本翔、計7人。そして本公演のテクニカルサポートとして、比嘉了(Backspace Productions Inc.)とKezzardrix(INT)らが参加していた。そもそも、ライブ演出のなかで「音」「映像」「照明」を同期させるシステムを構築できる人が日本ではまだ少ないのだが、この日のためにそれを実現できる人員が集まり、さらには3D映像をリアルタイムで歌に合わせて動かすプログラムなども使われていた。常田は、こういった3Dライブの構想を約2年前から描いていたという。

「今カルチャーとして世界に出ていけている日本人って、あんまりいないと俺は思っていて。劇伴だと坂本龍一さんとかいますけど。アイドル文化とか、アニメタイアップを取ってアニメのヒットとともに海外でツアーをする、それが海外進出だ、って日本の音楽業界はやっているところがあって。でも自分はその姿勢とか、ルートには違和感がある。そういうものが、洋楽まがいのことをして海外に出ていくより圧倒的に面白がられるのもわかるんだけど。川久保玲さん(ファッションデザイナー。「コムデギャルソン」の創始者)が『パリコレ』で『黒の衝撃』と言われるような形で乗り込んだみたいに、俺らも『これだ!』というものをやるべきだと思っているんですよね。
そのためには海外の人も体験としても楽しめて、惹きつけられるものが絶対に必要。そこの壁を破るにはどうしたらいいのかなって考えたときに、3Dだとか、演出面で個性を持って丸ごと飲み込めるようなことをしないとなって」

つまり、『”millennium parade” Launch Party!!!』が開催される5月22日は、常田が海外に向けて表現を発信するための、日本のカルチャーが新たな手法を持って世界で勝つための、始まりの一歩となる。

5月16日23時頃、現場リハーサルのために3DプロジェクターがLIQUIDROOMに搬入され、映像チームと音響チームによる機材セッティングが始まった。テクニカルな準備が通常のライブよりも数倍必要で、映像を映し出すまでにも手間がかかるし、映像と音を同期させるシステムを動かすためにも時間を要する。24時40分頃になってようやく、真っ暗いフロアのなか、3D映像が紗幕に映し出された。常田自身もここで初めて3Dメガネをかけ、3D映像がどんなものかをチェックする。「おお」と思わず声をこぼす常田らPERIMETRONメンバーたち。そこからさらに、各チームによる細かなチェックと調整が続いた。フロアのお客さんに映像がかぶらないようにするためにはどうすればいいか。「背が低い女の子とか、ちゃんと見えるかな?」という常田の配慮を解決するにはどうすればいいか。3D映像が一番迫力を持って目の前にまで出るためにはどうすればいいか。--新しい試みだからこそ、現場テストをやってみて初めてわかることだらけで、22日の公演を成立させるための微調整が粘り強く続けられた。
しかも、本番6日前で、まだ映像の内容が完成していないものもあった。テクニカルチームがフロアでハードの調整を続けるなかで、常田たちがロビーでソフトの話し合いも行う。常田の瞼もだんだん重たくなるなか、現場リハーサルは朝の5時半まで続いた。

常田大希は今、なにを見て、なにを感じ、なにを創ろうとしているのか

現場リハーサル中、常田とPERIMETRONメンバーは話し合いを重ねる。右にいるのは勢喜遊(King Gnu)(Photo by Ray Otabe)

常田の構想と才能を信頼して、各分野のプロフェッショナルたちが新しいことへの挑戦心と、それを実現できる創造力を持って集まっていたが、5月22日の本番に対する不安や緊張をあの場にいたすべての人が抱えていたと思う。

なぜ今、新プロジェクトなのか? 世界で勝負するための表現とは

5月22日、水曜日。ついに本番。当日のリハーサルでも想定外に時間を要していて、様々な先鋭技術を用いながら新たなことをやるためには、予期せぬトラブルから逃れられないことを実感する。19時開場、20時開演の予定だが、17時半になってようやく通しリハーサルができる状態に。会場全体に緊張感が走るなか、「1回通そう! トラブったらすぐに教えて」とチームを牽引する常田。

常田大希は今、なにを見て、なにを感じ、なにを創ろうとしているのか

本番前のリハーサル中、ステージ上には緊張感が溢れていた。(Photo by Ray Otabe)

無事にリハーサルを終えて、19時25分、ようやくドアが開いてお客さんを迎えることとなった。
開場中、スクリーンには「PUT YOUR GLASSES」という文字と子どもが3Dメガネをかけるイラストが映像で流れ、お客さんは入り口で配布された3Dメガネを装着しながら開演を待つことに。この日のライブのチケットも、即完だった。会場内に入りたくても入れなかったKing Gnuファン、常田大希ファンが大勢いた。

そもそも、これほどまでにKing Gnuが絶好調のタイミングで、なぜmillennium paradeを始動させようと思ったのか? どんな仕事や職種においても、絶好調なときにこそ新たなことを始めるべきだ、という考え方もあるが、多忙な時期が落ち着いた頃に次のことに取り組む、という選択肢だってもちろんあるはずだ。

「このライブをやろうと決めたのは、半年くらい前ですかね。タイミングを探ってはいました。バンドで売れた人が、ソロで音楽的に凝ったふうなことをやりだす、っていうのはよくあるけど、そういうのと一緒にされたら困るので(笑)。ソニーミュージック(所属事務所兼レコード会社)と契約したときから、King Gnuで2年間猛烈に走る、ということを言っていたんですよ。今がちょうど3年目を迎えたところで。契約当初から、もともとやってたmillennium paradeをやるよって言っていたんです」

常田は2017年にKing Gnuを始める前から「Daiki Tsuneta Millennium Parade (DTMP)」名義で活動していて、millennium paradeとしてのローンチパーティで披露された新曲のなかには、2016年にリリースされたアルバム『http://』の収録曲を発展させたものもあった。たとえば、この日1曲目に演奏された「Fly with me」は、『http://』収録の「Down&Down」を発展させたもの。常田いわく、millennium paradeとしての楽曲は常に作っていて、ライフワークに近い状態だという。King Gnuでの曲作りと、millennium paradeの曲作りにおける意識の違いを、常田に言葉にしてもらった。

「とにかく、まず日本の音楽業界の価値観から離れたかった。どっちも『トーキョー・カオティック』『トーキョー・ミクスチャー』というのがコンセプトではあるんですけど、King Gnuはそれが日本の音楽業界のなかで、millennium paradeはその文脈ではない、世界から見たもの、っていうのかな。ワールドワイドで見たらKing Gnuよりmillennium paradeのほうが広がる可能性は全然あると思っているんですよね」

以前のRSJの取材で、King Gnuは日本における大衆歌を作ることを目的としていて「海外は視野に入れていない」とはっきり答えていたが、その一方で、millennium paradeでは世界のリスナーと繋がることを猛烈に意識している。常田の作家性を表すワードとも言える「トーキョー・カオティック」を、彼自身は世界に向けてどう活かそうと考えているのか。

「今回の演出でも、まあまだ『ローンチ』なので全然実現できてないんですけど、東京発のアーティスト、アジアならではのアーティスト感は意識しました。東京というのは、こんなにもしょうもなくて素敵な街なんだ、いろいろなカルチャーがごちゃ混ぜで節操も美意識もないけれど、変なところではめちゃくちゃ潔癖だったりするんだ、っていう」

「トーキョー・カオティック」を砕いて言うと、「対比」「ギャップ」「矛盾」ということになるだろう。たとえばKing Gnuでも、井口が面白キャラを演じる一方で常田はクールな佇まいを見せていたり、歌においても井口がJ-POPのポップソングらしく透き通った美声を聴かせる一方で常田は拡声器も使いながらロックンロール全開なしゃがれ声を出していたりと、King Gnuならではの「対比」「ギャップ」「矛盾」を見せることで大勢の人の心を揺さぶっている。そしてmillennium paradeのローンチパーティでも、「赤ちゃん」が「鬼」の仮面をかぶって踊っている映像や、「自由」と「統制」を表すような映像が3Dで流れたり、石若駿(Dr)、江﨑文武(WONK / Key)、安藤康平(MELRAW / Sax,Gt,Vocorder)、新井和輝(King Gnu / Ba)、勢喜遊(King Gnu / Dr)によるツインドラムの凄まじい迫力あるインプロヴィゼーションのあとに女性ボーカル・ermhoi(Black Boboi)の神聖な歌が響きわたったりと、「対比」「ギャップ」「矛盾」を落とし込んだ表現が多々見られた。

「それはある意味『わび・さび』とも言えるし。『わび・さび』というとミニマリストみたいな印象を抱きますけど、それをもっとデフォルメしてエンターテインメントに昇華させて、東京の街並みとか日本人の心の持ちようの対比を表現したい。音楽的な面でいうと、たとえばオーケストラサウンドをガンガン入れるだとか、違うカルチャーのサウンド同士をひとつの作品で調和させて成り立たせるということを意識していますね。そうやることで、俺が見えてる新しい音楽、自分のオリジナリティのある音楽ができる、っていうのは昔から思っていたので。Gorillazがやっていることって、本当は日本人がやるべきだったなっていうのはすごく思っているんですよね。イギリス人が、アメリカのサウンドを取り入れながら、アニメーションをやるっていう」

何度も「世界」を意識した言葉が常田から出てきたが、頭脳もバランス感覚も長けている彼は、決して日本のリスナーを置いてけぼりにしようとは思っていない。『”millennium parade” Launch Party!!!』で演奏された全14曲は、現在進行形のジャズもヒップホップもエレクトロもクラシックも内包した音楽性を鳴らしながら、フリージャズのパートがあれば、歌もののパートもあり、エクスペリメンタルな部分とそうではない部分のバランスが非常に考え抜かれているように思った。

「King Gnuからの導線は意識しています。ここであからさまに前衛的なものを出しても、King Gnuが好きで常田大希に興味がある人はついて来れないから。たとえば”Plankton”はめちゃくちゃ意識してる。この曲は日本の音楽業界から受けた影響がありますね。つまり、メロディが重要なんだなってこと。今までmillennium paradeで作ってきたサウンドに対して、めちゃめちゃ日本っぽいメロディを付けました。歌のメロディラインだけ聴いたらポップなんですよ」

ermhoiがヴォーカルを取る「Plankton」は、産業の象徴である車から、動物(家畜)たちが出てきてパレードし、最後には車が燃える、といった内容の映像演出だった。年内にこの楽曲をライブ以外の形でも発表する予定とのこと。ライブで1曲目に演奏した「Fly with me」も、年内に発表予定だそうだ。この曲では、佐々木集(PERIMETRON)とCota Mori(DWS)がコーラスとして参加し、重要なラップパートを担っていた。

「『Fly with me』は、金を稼ごうっていう曲。『田舎者の歌』っていうのがテーマで、日本から海外に行っても『田舎から出てきたぞ』ということを示せる曲だと思っています。俺たちチームの主題歌みたいな感じですね。ふたり(佐々木集とCota Mori)を入れたのも、ラップが上手いことよりも、『俺たちで金稼ごう』っていう自分たちの想いを伝えることが重要だったから。ラップに限らず、テクニック的なものよりグッとくるものってありますからね」

最後に見せた、心の内。常田にとっての「孤独」と「幸せ」

チーム全体の務めによって『”millennium parade” Launch Party!!!』は、特に大きなトラブルもなく、オーディエンスから大拍手を浴びて終えることができた。情報量の多い映像、しかも3D、そして手練れのプレイヤーたちによる凄まじい爆発力の演奏によって、その場にいたオーディエンス全員が「圧倒されていた」という表現が適切かもしれない。すべてをやり遂げた瞬間、OSRINら映像チームはハイタッチをしていたし、常田いわくその後彼は涙も流していたらしい。本番を終えた常田は、安堵もあったとは思うが、それ以上に「ここからだ」という強い意志を持った表情と姿勢を示していた。

常田大希は今、なにを見て、なにを感じ、なにを創ろうとしているのか

5月22日、恵比寿LIQUIDROOM『”millennium parade” Launch Party!!!』。ステージ前に紗幕を吊るして公演が行われた。センターにてコンダクターのように客席へ背を向けているのが常田。常田を囲むのは、(左から)石若駿、安藤康平、江﨑文武、ermhoi、Cota Mori、佐々木集、新井和輝、勢喜遊。(Photo by Ray Otabe)

「ここが本当にスタートですね。演出もまだ強度がなさすぎるから、これを持って海外とかの会場を押さえてドカンとやるにはまだ早い。30歳くらいを目安にはしています。3年かけて固めていきたいですね」

常田大希の一連の現場に密着していてわかったのは、まず、常田には鋭い眼差しの分析力と、天才的な創造力と頭脳、そして仲間を想って統率するリーダーシップがあるということ。ただ、その眼差し、頭、心には、ただただ強さが溢れているわけではないということもわかった。その奥を覗くと、孤独や寂しさ、やるせなさを抱えているように見えた。それがときに、皮肉や怒りとなって、楽曲や会話の言葉にこぼれ落ちる。常田大希は今、自分の作る楽曲を通して人と深く繋がることを求めてもがいている。

「まあ、日本の音楽業界がどうこうっていうより、単純に俺が素直に繋がれる仲間が欲しい、というか。友達が欲しい、みたいな話に近いかもしれないです。やっぱりいろんな人の目に触れるようになって、自分と違うな、わかり合えないな、って感じることが昔より増えたんですよ。そういうつらさは、昔より今のほうが増えてきた。それは、ほとんど音楽に絡んだことですけどね」

この言葉が出てきたときは、常田は自分の感覚を共有できる人やわかり合える人を探すために、millennium paradeを通じて世界を旅しようとしているのだということがわかった瞬間だった。最初に話してくれた、King Gnuのツアーで「Prayer X」の景色を見て初めて得た喜びが常田にとってどれほど大きかったのかも感じ直した。それに、常田が個人で上がっていこうとするのではなく、「millennium parade」「King Gnu」「PERIMETRON」といったチームを組んで、わかり合える仲間を大切にしている理由も見えてくる。あるところの会話で「すべては人なんだよね」とこぼしたことの意味の重たさも、改めて私の頭をよぎる。

「基本的に、音楽を伝えるということは、自分と似た人を探す、友達を作る、ということとすごく似てると思うんですよね。ちゃんと伝わってるなって思えて、俺と同じような感じ方をしてくれているなって思う人がひとりでも増えることが、自分にとっての幸せだと思うから」

常田大希は今、なにを見て、なにを感じ、なにを創ろうとしているのか


常田大希
あらゆるカルチャーを呑み込む若き日本人アーティスト。東京芸術大学にて西洋音楽を学んだのちに、アメリカで行われている『SXSW2017』、『FUJI ROCK FESTIVAL』『GREENROOM FESTIVAL』『Mutek』など国内外多数のフェスに出演し頭角を現わす。2016年、DTMP名義でアルバム『http://』をリリース。2017年、King Gnu名義でアルバム『Tokyo Rendez-Vous』をリリース。2019年、King Gnu名義でアルバム『Sympa』をリリース。その他にも映画やドラマの音楽監督や、adidas、New Balance×Chari Co、Beams、Numero×Emporio Armaniなどファッションフィルムの楽曲提供、アメリカ版『Pokemon』『血界戦線』といったアニメーション作品への参加など、活動は多岐に渡る。そして2019年、新プロジェクト「millennium parade」始動。

<INFORMATION>

「Stay!!!」
millennium parade
配信中
https://millenniumparade.com/music

millennium parade Live 2019

2019年12月3日(火)会場:大阪 Namba Hatch
OPEN 19:00 / START 20:00

2019年12月5日(木)会場:東京 STUDIO COAST
OPEN 19:00 / START 20:00

プロデュース・企画:PERIMETRON
主催: Sony Music Labels Inc.
制作:Hot Stuff Promotion
チケット購入: https://l-tike.com/mp/
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