※この記事はセットリストのネタバレを含みます。
全米シングルチャート9週連続1位を記録した「Call Me Maybe」の大ヒットから7年も経つが、ここ日本でもカーリーの人気はまったく衰えていない。今年6月のプロモーション来日でメディアを賑わせた彼女は、その一環で行われたスぺシャルライブで10月の全国ツアーをサプライズ発表。東京公演はそこから1カ月ほどで完売し、名古屋公演もソールドアウトするなど、その人気ぶりは今も健在だ。
2013年の初ジャパンツアー(東京公演は赤坂BLITZ)では、とにかくティーンの熱狂ぶりが印象的だった。今回も10~20代の女性ファンが目立っていたが、ラジオやTVCMなどで楽曲が繰り返し使われたのもあり、客層はすっかり幅広くなったみたいだ。NHKホールに足を運んでみると、カーリーの音楽と青春を過ごしてきた世代から、”洋楽の入り口”として出会ったであろう中高生のキッズ、優れたエンターテインメントを求めるミドルエイジまで、いろんな人が集まり賑わっている。開演前からグッズ・コーナーには長蛇の列ができ、カーリーのサイン入りポスターが貼られた一角は記念撮影エリアとなっていた。
やがて定刻通り、19時ちょうどに客席が暗転。4人編成のバンドを従えて、カーリーが姿を現わすと黄色い大歓声が巻き起こった。ライブは『Dedicated』の収録曲「No Drug Like Me」でスタート。ブロンドのショートカットをなびかせつつ、カーリーは力強く歌ってみせる。

Photo by Alex Perkins
そして、まだ序盤にも関わらず、代名詞の「Call Me Maybe」をプレイ。カーリーが客席にマイクを向けると、会場中がシンガロングの嵐に。いまやスタンダードとなった感もある名曲だけに、その盛り上がりは凄まじいものがあった。さらに興奮冷めやらぬなか、『Dedicated』でも随一のポップチューン「Now That I Found You」を熱演。カーリーが得意とするノリノリの展開に、ムードはすでに最高潮だ。
その後は、愉快に弾けたりしっとり聴かせたりしながら、目まぐるしくステージが進行していった。テンポの良さは驚異的ですらあり、開演から40分が経過するよりも先に、10曲目の「Fever」までやり終えたくらいだ。それもそのはず、彼女はMCもそこそこに、間髪置かず曲をプレイしていく。
テイラー・スウィフトの『Reputation』ツアーを例に挙げるまでもなく、ここ数年のメインストリームでは競い合うように、凝りまくったステージ演出がトレンドとなっている。カーリーほどのポップスターであれば、もっと派手な演出に頼ってもおかしくはない。しかし、彼女はあくまで自分の歌とバンド演奏のみで勝負し続ける。この真っ直ぐでナチュラルな姿勢には、カーリーの音楽家としての矜持も窺える。もちろん、客席に投げキッスを見舞ったり、バンドメンバーとお揃いのステップを踏んでみせたりと、ライブならではの見せ場作りも抜かりない。「Too Much」ではMVを再現するように、カーリーと瓜二つの金髪ウィッグをメンバーが被って笑わせた。
気づけば、あっという間に終盤。「東京、アイ・ライク・ユー!」というカーリーの前置きを挟んで始まった「I Really Like You」で、客席のテンションも爆発する。”Like”を伝えるために”Really”を繰り返すサビは、普通の”I Love You”よりも遥かにエモーショナルに響く。この甘酸っぱさこそ、カーリーの真骨頂だ。
本編のラストを飾ったのは、『Dedicated』の先行シングル「Party for One」。軽快なサウンドに乗せてカーリーが踊り回ると、文字どおりパーティーのようにハンドクラップが巻き起こっる。そこからブレイクをほとんど挟まず、アンコールで3曲を披露。カーリー流のシンセポップを極めたアンセム「Cut to the Feeling」で75分・全21曲のフィナーレを飾った。

Photo by Alex Perkins
この東京公演を振り返ってみると、最新作の『Dedicated』と、『E•MO•TION』及び『E•MO•TION: Side B』『E•MO•TION REMIXED +』から10曲ずつプレイされた反面、1stアルバム『KISS』(2012年)の収録曲は「Call Me Maybe」のみ。そんなセットリストからも、今のカーリーが目指しているものが見えてくるはずだ。
『KISS』の頃は一発屋になることを危惧されたカーリーだったが、コアな音楽ファンも唸らせた次作『E·MO·TION』で雑音を一蹴し、さらなるリスペクトを獲得した。そして、制作に4年を費やし、200曲も用意したという魂と情熱のアルバム『Dedicated』を完成させたことで、ようやく彼女は過去の栄光から解き放たれ、独自のアーティスト像を確立することができたのではないか。
筆者は2013年に一度だけ、カーリーに取材したことがある。そのとき彼女は、子供の頃からウィリー・ネルソンやヴァン・モリソン、ブルース・スプリングスティーンなどに親しみ、ビリー・ホリデイに憧れる一方、キンブラなど同世代の才能にもシンパシーを示していた。音楽家として広い視野と豊かなバックグラウンドをもつ彼女は、10年以上前のインディーズ時代にはフォーキーな音楽性を志向したものの、やがてシンセポップ路線に移行。期せずしてジャスティン・ビーバーとの出会いを果たし、遅咲きのブレイクを飾ったのは周知のとおりだ。そこからの道のりは、ポップスターとして”選ばれてしまった”自分の運命を受け入れるための旅路だったに違いない。
カーリーはあのとき、『KISS』について「ピュアなポップ・アルバムを作りたいと思ってた。考え過ぎなポップじゃなくて、人々がいい気分になれるような音楽をね」と語っている。この言葉どおり、彼女は煌びやかな80sサウンドとともに”ピュアなポップ”を長らく追求してきた。そして現在、カーリーは流行に流されない普遍性と、シンガーとして完璧と言いたくなるほどの表現力を手にしている。そこには前述のとおり、余計なものは一切存在しない。彼女はいよいよ、ポップの極北にまでたどり着こうとしている。

Photo by Alex Perkins
〈ツアー情報〉

The DEDICATED TOUR JAPAN 2019
2019年10月7日(月)東京・NHKホール
※公演終了
2019年10月9日(水)愛知・Zepp Nagoya
OPEN 18:00 / START 19:00
2019年10月10日(木)福岡・Zepp Fukuoka
OPEN 18:00 / START 19:00
2019年10月11日(金)大阪・Zepp Namba
OPEN 18:00 / START 19:00
2019年10月13日(日)仙台・Sendai GIGS
OPEN 17:00 / START 18:00
詳細: https://www.creativeman.co.jp/
〈リリース情報〉

『デディケイティッド』
2019年5月17日(金)発売
国内盤CD:UICS-1351 ¥2,300+税
※17曲収録、歌詞対訳付
※日本盤限定デザイン・スリップケース仕様 & ボーナストラック2曲収録
試聴・購入:https://umj.lnk.to/Carly_Dedicated