通算3作目のニューアルバム『Dedicated』を携えて、2016年以来となるジャパン・ツアーで全国5都市を廻るカーリー・レイ・ジェプセン。ツアー初日の10月7日、NHKホールで開催された東京公演の独自レポートをお届けする。


※この記事はセットリストのネタバレを含みます。

全米シングルチャート9週連続1位を記録した「Call Me Maybe」の大ヒットから7年も経つが、ここ日本でもカーリーの人気はまったく衰えていない。今年6月のプロモーション来日でメディアを賑わせた彼女は、その一環で行われたスぺシャルライブで10月の全国ツアーをサプライズ発表。東京公演はそこから1カ月ほどで完売し、名古屋公演もソールドアウトするなど、その人気ぶりは今も健在だ。

2013年の初ジャパンツアー(東京公演は赤坂BLITZ)では、とにかくティーンの熱狂ぶりが印象的だった。今回も10~20代の女性ファンが目立っていたが、ラジオやTVCMなどで楽曲が繰り返し使われたのもあり、客層はすっかり幅広くなったみたいだ。NHKホールに足を運んでみると、カーリーの音楽と青春を過ごしてきた世代から、”洋楽の入り口”として出会ったであろう中高生のキッズ、優れたエンターテインメントを求めるミドルエイジまで、いろんな人が集まり賑わっている。開演前からグッズ・コーナーには長蛇の列ができ、カーリーのサイン入りポスターが貼られた一角は記念撮影エリアとなっていた。

やがて定刻通り、19時ちょうどに客席が暗転。4人編成のバンドを従えて、カーリーが姿を現わすと黄色い大歓声が巻き起こった。ライブは『Dedicated』の収録曲「No Drug Like Me」でスタート。ブロンドのショートカットをなびかせつつ、カーリーは力強く歌ってみせる。
その後は、2ndアルバム『E·MO·TION』(2015年)から2曲続けて披露。タイトル曲「E·MO·TION」ではカーリーがキュートな振り付けを見せ、「Run Away With Me」ではアーバンなサックスが吹き荒れるなか、カーリーと観客が(椅子席も気にせず)一斉にジャンプする。4曲目の「Julien」でミラーボールを吊るしていたように、80sディスコに影響を受けた『Dedicated』の流れを汲んで、ライブはとにかく終始ダンサブル。新たに導入されたスクリーンのVJ演出も、各楽曲と絶妙にシンクロすることで相乗効果をもたらしていた。

カーリー・レイ・ジェプセン、ツアー初日・東京公演で見せた「ポップの極北」

Photo by Alex Perkins

そして、まだ序盤にも関わらず、代名詞の「Call Me Maybe」をプレイ。カーリーが客席にマイクを向けると、会場中がシンガロングの嵐に。いまやスタンダードとなった感もある名曲だけに、その盛り上がりは凄まじいものがあった。さらに興奮冷めやらぬなか、『Dedicated』でも随一のポップチューン「Now That I Found You」を熱演。カーリーが得意とするノリノリの展開に、ムードはすでに最高潮だ。

その後は、愉快に弾けたりしっとり聴かせたりしながら、目まぐるしくステージが進行していった。テンポの良さは驚異的ですらあり、開演から40分が経過するよりも先に、10曲目の「Fever」までやり終えたくらいだ。それもそのはず、彼女はMCもそこそこに、間髪置かず曲をプレイしていく。
歌いっぱなしなのに疲れたそぶりも見せず、水もまるで口にしていない。そのプロ根性とスピード感は、あのポール・マッカートニーのステージングとも近いものがある。

テイラー・スウィフトの『Reputation』ツアーを例に挙げるまでもなく、ここ数年のメインストリームでは競い合うように、凝りまくったステージ演出がトレンドとなっている。カーリーほどのポップスターであれば、もっと派手な演出に頼ってもおかしくはない。しかし、彼女はあくまで自分の歌とバンド演奏のみで勝負し続ける。この真っ直ぐでナチュラルな姿勢には、カーリーの音楽家としての矜持も窺える。もちろん、客席に投げキッスを見舞ったり、バンドメンバーとお揃いのステップを踏んでみせたりと、ライブならではの見せ場作りも抜かりない。「Too Much」ではMVを再現するように、カーリーと瓜二つの金髪ウィッグをメンバーが被って笑わせた。

気づけば、あっという間に終盤。「東京、アイ・ライク・ユー!」というカーリーの前置きを挟んで始まった「I Really Like You」で、客席のテンションも爆発する。”Like”を伝えるために”Really”を繰り返すサビは、普通の”I Love You”よりも遥かにエモーショナルに響く。この甘酸っぱさこそ、カーリーの真骨頂だ。
それに何より、日本人リスナーにも親しみやすいキャッチーなメロディの応酬。どの曲もとことんポップだからこそ、カーリーのライブはいつだって楽しいし元気になれる。彼女が笑顔を絶やさずに歌い続けるうち、その笑顔は二階席のオーディエンスにまで広がっていく。それはもう絶景としか言いようがない。

本編のラストを飾ったのは、『Dedicated』の先行シングル「Party for One」。軽快なサウンドに乗せてカーリーが踊り回ると、文字どおりパーティーのようにハンドクラップが巻き起こっる。そこからブレイクをほとんど挟まず、アンコールで3曲を披露。カーリー流のシンセポップを極めたアンセム「Cut to the Feeling」で75分・全21曲のフィナーレを飾った。

カーリー・レイ・ジェプセン、ツアー初日・東京公演で見せた「ポップの極北」

Photo by Alex Perkins

この東京公演を振り返ってみると、最新作の『Dedicated』と、『E•MO•TION』及び『E•MO•TION: Side B』『E•MO•TION REMIXED +』から10曲ずつプレイされた反面、1stアルバム『KISS』(2012年)の収録曲は「Call Me Maybe」のみ。そんなセットリストからも、今のカーリーが目指しているものが見えてくるはずだ。

『KISS』の頃は一発屋になることを危惧されたカーリーだったが、コアな音楽ファンも唸らせた次作『E·MO·TION』で雑音を一蹴し、さらなるリスペクトを獲得した。そして、制作に4年を費やし、200曲も用意したという魂と情熱のアルバム『Dedicated』を完成させたことで、ようやく彼女は過去の栄光から解き放たれ、独自のアーティスト像を確立することができたのではないか。


筆者は2013年に一度だけ、カーリーに取材したことがある。そのとき彼女は、子供の頃からウィリー・ネルソンやヴァン・モリソン、ブルース・スプリングスティーンなどに親しみ、ビリー・ホリデイに憧れる一方、キンブラなど同世代の才能にもシンパシーを示していた。音楽家として広い視野と豊かなバックグラウンドをもつ彼女は、10年以上前のインディーズ時代にはフォーキーな音楽性を志向したものの、やがてシンセポップ路線に移行。期せずしてジャスティン・ビーバーとの出会いを果たし、遅咲きのブレイクを飾ったのは周知のとおりだ。そこからの道のりは、ポップスターとして”選ばれてしまった”自分の運命を受け入れるための旅路だったに違いない。

カーリーはあのとき、『KISS』について「ピュアなポップ・アルバムを作りたいと思ってた。考え過ぎなポップじゃなくて、人々がいい気分になれるような音楽をね」と語っている。この言葉どおり、彼女は煌びやかな80sサウンドとともに”ピュアなポップ”を長らく追求してきた。そして現在、カーリーは流行に流されない普遍性と、シンガーとして完璧と言いたくなるほどの表現力を手にしている。そこには前述のとおり、余計なものは一切存在しない。彼女はいよいよ、ポップの極北にまでたどり着こうとしている。

カーリー・レイ・ジェプセン、ツアー初日・東京公演で見せた「ポップの極北」

Photo by Alex Perkins

〈ツアー情報〉

カーリー・レイ・ジェプセン、ツアー初日・東京公演で見せた「ポップの極北」


The DEDICATED TOUR JAPAN 2019

2019年10月7日(月)東京・NHKホール
※公演終了

2019年10月9日(水)愛知・Zepp Nagoya
OPEN 18:00 / START 19:00

2019年10月10日(木)福岡・Zepp Fukuoka
OPEN 18:00 / START 19:00

2019年10月11日(金)大阪・Zepp Namba
OPEN 18:00 / START 19:00

2019年10月13日(日)仙台・Sendai GIGS
OPEN 17:00 / START 18:00

詳細: https://www.creativeman.co.jp/

〈リリース情報〉

カーリー・レイ・ジェプセン、ツアー初日・東京公演で見せた「ポップの極北」

『デディケイティッド』
2019年5月17日(金)発売
国内盤CD:UICS-1351 ¥2,300+税
※17曲収録、歌詞対訳付
※日本盤限定デザイン・スリップケース仕様 & ボーナストラック2曲収録
試聴・購入:https://umj.lnk.to/Carly_Dedicated
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