カインドネスことアダム・ペインブリッジの存在感は、2011年にアルバム『World, You Need a Change of Mind』でデビューして以降、年を重ねるごとに強大なものになっている。プロデューサー/ソングライターとしての評価もうなぎのぼりな彼がここ数年で関与した作品は、ソランジュ『A Seat at the Table』、ブラッド・オレンジ『Freetown Sound』(共に2016年)、ロビン『Honey』(2018年)など、現行シーンの気分を象徴する重要作ばかり。こうしたプロデュース・ワークの充実に伴って、9月にリリースしたばかりの5年ぶりの新作『Something Like a War』は日本を含めた各国の音楽メディアにおいてかつてない歓迎をもって受け入れられている。
カインドネスがプロデュース/共作した楽曲を集めたプレイリスト
時代の空気を先取りしたデビュー
イングランド東部ピーターバラ出身のカインドネスは2009年にリプレイスメンツのカバー「Swingin Party」で登場したのち、2011年には自ら立ち上げたレーベル「フィメール・エナジー」より第一弾シングル「Gee Up」を発表。その後数枚のシングルを挟んで、翌2012年のアルバム『World, You Need a Change of Mind』で本格デビューを果たしている。フレンチ・タッチ隆盛の立役者である故フィリップ・ズダール(カシアス)をプロデューサーに迎えた同作は当時すでにピークを越えつつあったチルウェイヴの文脈で語られることが多く、その淡く酩酊感をたたえたディスコ・サウンドは確かにチルウェイヴ以降の感覚がダイレクトに反映されたものではあったが、カインドネスのそれはもっとファンキーで肉感的だった。
シックとアーサー・ラッセルを掛け合わせたようなシャープなディスコ・ファンク「Gee Up」、同時期にトロ・イ・モアも取り上げていたシェレール「Saturday Love」の引用が光るエレガント・ディスコ「SEOD」、そしてトラブル・ファンク「Still Smokin」をサンプリングしたワシントン・ゴーゴーの見事なリコンストラクション「Thats Alright」。この翌年、2013年にはダフト・パンクの『Random Access Memories』によってディスコ/ブギー再興の動きがいよいよメインストリームに浮上することになるが、ブラック・ミュージックの素養を強く感じさせる『World, You Need a Change of Mind』はそんな流れのなかに置いても十分に耐え得る強靭なグルーヴを有していた。インディ・ダンス・シーンの並み居る新世代アーティストのなかにあって、カインドネスはデビュー当時から「別格」だったのだ。
洒脱なセンスが光る、2ndアルバムでの飛躍
また、『World, You Need a Change of Mind』にはジャジーな「Bombastic」やアニタ・ドブソンの1986年のヒット曲のカバー「Anyone Can Fall in Love」など、ちょうど再評価の兆しが見え始めたAOR的なアプローチも見受けられたが、前作から一転して多数のゲストを起用して作り上げた2014年リリースの2ndアルバム『Otherness』では、その感覚を流行のアトモスフェリックなR&Bのマナーでスタイリッシュに昇華している。
そのあたりは「Who Do You Love?」や「Itll Be OK」といった80年代アーバン・コンテンポラリーのオマージュにわかりやすく打ち出されているが、やはりここでもカインドネスのブラック・ミュージックに対する造詣の深さがアルバムに厚みを与えている。クール&ザ・ギャング「Jungle Jazz」~ジェイド「Dont Walk Away」の系譜を意識させるオープニングの「World Restart」も心憎いが、やはり「This Is Not About Us」でのボブ・ジェイムス「Take Me to the Mardi Gras」や「With You」でのアート・オブ・ノイズ「Moments in Love」など、ヒップホップのクラシックなサンプリング・ソースを随所に織り込んで曲にフックを生み出していく洒脱なセンスこそが彼の真骨頂。
新作『Something Like a War』は集大成的アルバムに
いま、カインドネスが到達しているのはそういう境地だ。心地よいグルーヴを提供してくれるインディ・ダンス系アクトは大勢いるが、彼のように確かな見識に基づいたブラック・ミュージック/ダンス・ミュージックの血脈みたいなものをスマートに楽曲に落とし込める者は数少ない。今回のニュー・アルバム『Something Like a War』は、そんな肉体と頭脳の絶妙なバランス感覚でダンス・サウンドを構築してきたカインドネスの集大成といっていいだろう。前作の「Ill Be Back」を発展させたようなゴスペル調のスピリチュアルなハウス・トラック「Raise Up」を筆頭にいままでになくビート感の強いダンス・オリエンテッドな内容だが、そのどれもに穏やかなソウル・フィーリングと漆黒のグルーヴが息づいている。
『Something Like a War』には、これまでの基準からはまったく異なるタイプのゲスト・アーティストがふたり招かれている。ひとりは、いまや米R&Bシーンきっての売れっ子ソングライターでもあるグラミー賞の常連ジャズミン・サリヴァン。もうひとりは、ギャング・スターとザ・ルーツから愛された90年代の東海岸ハードコア・ヒップホップを代表する女性MCバハマディア。凛としたブラックネスを体現する、この2名のキャスティングから垣間見えるカインドネスの成熟と未来は11月の来日公演でより鮮明なかたちで提示されるにちがいない。普段クールに構える彼のファンクネスがエモーショナルに湧き上がる、その瞬間を目の当たりにできる絶好の機会になる。
〈公演情報〉

カインドネス来日公演
2019年11月19日(火) 渋谷 WWW X
OPEN 18:30 / START 19:30
オールスタンディング:¥6,500(税込/別途1ドリンク代)
※未就学児 (6歳未満) 入場不可
企画・制作・招聘:Live Nation Japan
協力:Beatink
お問い合わせ:info@livenation.co.jp
公演リンク:https://www.livenation.co.jp/show/1279056/kindness/tokyo/2019-11-19/ja
〈リリース情報〉

『Something Like A War』
カインドネス
発売中
国内盤はボーナストラックが追加収録、歌詞対訳と解説書が封入
詳細:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10320