この日のライブは、CRCK/LCKS(以下、クラクラ)が10月16日に発表した1stアルバム『Temporary』のリリース・パーティーとして開催されたもの。
アメリカでの留学を終え帰国した小西遼(Sax, Key, Vocoder,etc)が、ジャズ・シーンで活躍するメンバーを含む5人編成でスタートしたクラクラと、60年代~90年代のブリティッシュ・ロックに大きな影響を受けつつ、現在進行形のロックミュージックを奏でるシンガー・ソングライターのラブリーサマーちゃん。彼らの出自は全く違うが、実は驚くほど多くの共通点を持ち合わせている。
先日には、クラクラの小田朋美(Vo,key)がストリングス・アレンジを手掛けた新曲「LSC2000」をリリースしたラブサマと、12月18日に新作EP『Temporary2』のリリースと都内初のワンマン公演を同時に行うクラクラ。共演を終えた彼らは今、どんな心境でいるのだろうか。ラブリーサマーちゃん、小田朋美、小西遼による貴重な鼎談をお届けする。
男の子から教えてもらった
─ラブリーサマーちゃんとクラクラの対バン、両方のファンにとっても「驚きの組み合わせ」だったと思うのですが、そもそもどんな経緯で実現したのですか?
小田:私がみんなに「やりたい」って。もともとはYouTubeでラブサマちゃんの存在を知って、そこからアルバムを聴いていたんです。で、今回のツアーで対バンを決めることになったときに「ラブサマちゃんと出来たらいいなあ」って。
ラブサマ:そうだったんですね。私は、友達の男の子が小田さんのファンで薦められて。聴いたら好きになりました。
小田:私もラブサマちゃんは男の子から教えてもらったよ(笑)。とにかくメロディセンスが好き。歌ももちろんいいんだけど、曲が大好きなんですよね。実は私、最近ラブサマちゃんの新曲「LSC2000」のストリングス・アレンジをやらせてもらって。
ラブサマ:めっちゃ嬉しかったです。
小田:その歌詞を読ませてもらったときに、勝手に共通点みたいなものを感じたんですよ。この曲、お客さんのことを歌っているじゃない? こういう距離感で対峙してるのってめっちゃいいなって。あと、ラブサマちゃんはTwitterも好きで何かと見ちゃう。なんか輝いてるというか、ツイートにエネルギーがあるじゃないですか。
ラブサマ:ヒャハハハ! Twitterやってて良かったあ。
小西:キレ方がいいんだよね。
小田:そうそう。あくまでもポップになんだけど、ちゃんと怒れる人。それってすごく大事だと思う。私はTwitterだとうまく怒れなくて、ガチになっちゃうから羨ましい(笑)。パブリックで「怒り」を上手く出せる人は素敵だなあって思うし、それはラブサマちゃんのパフォーマンスにも感じる。いい意味での「怒り」がある気がするんだよね。
ラブサマ:ほんとですか? 昔は「内容証明送るぞ!」とか呟いてましたけど。
小田:それはガチ怒りだね(笑)。あと、「ラブリーサマーちゃん」っていう名前のセンスもすごく好きだな。私も名前に「ちゃん」ってつけたい時期があって。でも、どんなのがいいか全然思いつかなくて(笑)。
ラブサマ:「オダトモちゃん」可愛いじゃないですか!
「カッコいい音を出してる自分」を信じること
─小西さんは、ラブサマちゃんとの対バンについてどう思いました?
小西:対バンのことは、小田から提案があって、もう即OK。俺には思いつかないアイデアだし「メッチャいいじゃん」って思いました。音源自体は小田ほど聴き込んでなかったけど、もちろんラブサマちゃんのことは知っていて。ちょっと異種格闘技戦のような面白さになるだろうなと思ってましたね。で、実際にやってみたら音源以上にライブが刺さっちゃって。
ラブサマ:へえ!
小西:俺、ライブでぶっ飛んでいるやつ好きなんですよ(笑)。ラブサマちゃんがライブでペダルを踏むときの感じとか超絶かっこいい!
ラブサマ:嬉しいです……。私、考え方がバンドマンなので、ここぞというところでファズを踏んでギターを歪ませて「どうだ、カッコいいだろ!」みたいなことしか考えてなかったんですけど(笑)、クラクラって「このペダルを踏めばOK」とかとは違う音楽の作り方、ライブでの魅せ方をしているじゃないですか。それで結構くらってしまったというか、あの日の帰り道にいろいろ考えちゃって。「私はなんでファズを踏んでばっかりなんだろう」って。
楽しかったんだけど、あの素晴らしい集団を前に、如何に私が足りないつまんない人間なのかと打ちひしがれてしまった 私は私の愛してる音楽がちゃんとかっこいいことを説得力を持って演奏したいよ…良い曲良い演奏したいよ…うー— ラブリーサマーちゃん (@imaizumi_aika) October 19, 2019
(全員笑)
ラブサマ:だから、小西さんにそう言ってもらえて本当に救われました。
小田:「ファズを踏んだ時のかっこよさ」を心から信じてることが、ラブサマちゃんのステージからは伝わってくる。
小西:本当にそう。どんなに理論を学んで音を構築したところで、「ファズを踏んでカッコいい」とか「クラブのドアを開けた瞬間にぶっ飛んだ」とか、「クラシック・コンサートの最初の1音でやられた」とか、そういう原体験みたいなものが一番強いって俺は思ってる。どんだけ速いフレーズが弾けようが、どんだけ難解な演奏をしていようが、それでガツンとかませられなければ音楽としてカッコいいとは言えない。もちろん、「自分は今この文脈で、こういう音源を作っている」みたいなのもメッチャ大切だけど、それで感動させられないとねって。だから、そこは優劣じゃないんだよ。
─小西さんが、そう思い至ったのはどんな経緯だったのですか?
小西:……これ、書かないでもらった方がいいのかも知れないけど(笑)、クラクラはジャズ系のイベントでは「あんなのジャズじゃねえ」って言われるし、ロック系のイベントでは「あんなのバンドじゃねえ」って言われることも結構多くて。「超絶技巧」なんてフレーズで語られることも多いんだけど、「お前、超絶技巧が何かわかってねえだろ!」って思うことも多いんですよ。俺たちなんて、超絶技巧でもなんでもない。大切なのは、ロックとかジャズとか関係なく「カッコいい音を出してる自分」をちゃんと信じられるかどうかじゃないかなって。
ラブサマ:めちゃめちゃ分かります。
2018年7月15日、新宿Marzにて行われたライブのダイジェスト映像
大切なのは「人間としてのエネルギー」
─さっき小田さんが言っていた「お客さんとの距離感」については、ラブサマちゃんはどう思っているんですか?
ラブサマ:いいライブって、お客さん込みで決まるじゃないですか。
小西:実は、クラクラのメンバーは根っから明るいやつっていないんだよね。
ラブサマ:そうなんですか!?
小西:俺も小田も、ネガポジで言ったら「ネガ」の方。決してクラスの中心にいたタイプではない。けど音楽には救われた経験があって、「音楽の力だけは信じよう」と思っているバカの集まりなんだよね(笑)。だから、お客さんに対して「心を開こう」と意識しているというよりかは、「これが俺たちの信じていることなんだけど、皆さんどうっすかね?」みたいな感覚なのかも。

Photo by Takanori Kuroda
ラブサマ:ああ、なるほど。さっきも言いましたけど、あの日クラクラのライブを観た後、腑抜けになってしまったんですよね、凄すぎて。
小田:私もメッチャそうだよ!
ラブサマ:何言ってるんですか!(笑)。私の100倍くらい努力されていると思う。
小田:うーん、作曲とかはまあ、学校でやってはいたけど、それってライブは全然関係なくて。ライブでパフォーマンスすること、魅せることとかって全く別次元だから、そういうことはクラクラをスタートしたことでちょっとずつ学んでるところなんだよね。
さっき小西が言ってたことにも通じるんだけど、クラクラってメンバーのほとんどが音大出ていたりするから「真面目でエリート」みたいな言い方をされることも多くて、それはちょっと嫌だというかダメだと思ってるんです(笑)。確かに真面目なところもあるけど、舞台上でバンドやお客さんのことを引っ張っていくには、人間としてのエネルギーが何より必要なんだと思う。
自分が言いたいことより、言われたいことを書こう
─そういえば、クラクラはこの日のライブからフォーメーションが変わりましたよね。
小西:そうです。俺と小田のツーフロントから、小田のワンフロントにしました。
小田:今のラブサマちゃんの話で言うと、私は元々どちらかというとお客さんに萎縮してしまうタイプで。いわゆるディーヴァ系というか、場の雰囲気を自分のペースに持っていけるパワーを持つボーカリストでは全然ないんです。もちろんそれは経験値の浅さもあるとは思うんだけど、性格的な部分もあるなと思っていて。なのでクラクラをやる時も、自分が全面に出る感じじゃないなと。だからこれまで小西とツーフロントだったし、みんなの顔を見ながら演奏できるフォーメーションだったんです。
でも、ここ最近はずっとメンバーからもスタッフからも「小田がフロントでやった方がいいんじゃない?」と言われていて。やってみたら景色が全然違うんですよね。真ん中で歌うってすごいことだなって思いました。それをラブサマちゃんは最初からずっとやってるわけだからさ。すごいな、萎縮してる場合じゃないなって。
ラブサマ:でもあの日、私は自分のバンド・メンバーに今の話と全く同じことをLINEで送ってました。ちょっと読んでいいですか? 「(読み上げる)私の愛している音楽がかっこいいということを、もっと説得力(演奏力なのでしょうか、なんなのでしょうか)を持って演奏しなくてはならない。自分の愛すること、やりたいことを最大限表現することが、いかに素晴らしいか。クラクラを見てくらってしまいました」」だって。ヒャハハハ、読むんじゃなかった恥ずかしい(笑)。
─(笑)。お互いのカッコよさについて、同じように考えていたんですね。
ラブサマ:確かにクラクラは「バカテク集団」って言われてますけど、でも「上手いからカッコいい」ということではなくて、自分がカッコいいと思う音楽をやるにあたって求められる演奏力、必要な演奏力を身につけ、それを鳴らしているという必然性があるんですよね。で、それに到着するまでの過程を感じさせるような、気迫のある演奏に私はくらったんです。


─今、話に出てきた「超絶技巧」「バカテク集団」という形容詞、確かにクラクラの場合は先行しがちですけど、でも今作『Temporary』はまず「歌モノポップス」としての素晴らしさが前面にフィーチャーされていると僕は感じたんですよね。そのあたりのポップセンスが、ラブサマちゃんのポップセンスとも共鳴し合っているというか。
ラブサマ:そう! 「春うらら」とかメッチャいい曲じゃないですか? クラクラがただの「バカテク集団」じゃない理由ってたくさんあるんですけど、一番にいえるのは「歌詞とメロディと歌心」だと思うんですよ。この曲の歌詞、読んでみて下さいよ。”春うらら”で、”毛むくじゃら”からの”夏きらら”ですよ? こういう詞ってありですか!?
小田:あははは!
ラブサマ:”夏きらら”なんて言葉、ないじゃないですか。例えば井上陽水の「少年時代」に出てくる”風あざみ”というフレーズ。こんな言葉、実際はないのに、風あざみっていうのが何なのか、なんとなく伝わるじゃないですか。意味不明な言葉が「うん、わかる」ってなるのは、メロディと歌い回しと言葉が一つになっているからで。
どうせメロディに言葉を乗せるなら、それ単体で意味が成立する言葉より”風あざみ”みたいなマジックが起きた方がいいと思うんですよ。そこで”夏きらら”、”毛むくじゃら”なんですけど、これってメロディと言葉と小田さんの歌声と編曲が混じり合った時のマジックをすごく感じさせるんです。
小田:嬉しい。
ラブサマ:あと、「KISS」もすごい好き。この歌詞ってものすごくポジティブじゃないですか。サビで”不安な顔しないでさ”とか。それを聞いて、「そんなこと言われても……」って思う人も中にはいると思う。人に言う言葉として、”不安な顔してても良いよ”って言うことの方が、容易いと思います。でもクラクラは、そこをあえて言い切りというか断定してる。すごく勇気の要ることだと思うんですよね。それが、あの日ライブで弱った心にダイレクトに響いて泣けてきて。
小田:あの曲で、ああやって言い切ることに対しての抵抗はあった。「それだけの自信が自分にあるのか?」「人を励ます資格があるのか?」という気持ちはすごくあって、「KISS」を最初にライブでやったときは今までで一番緊張したんだよね。
ラブサマ:やっぱりそうだったんですね。確かに、世の中には何にも考えずに「大丈夫だよ」とか簡単にいう人もいるし、そういう曲もあるじゃないですか。オダトモさんの歌詞には「色々あるけど、でもきっと大丈夫だよ」っていう、そこに思い至るまでのプロセスをちゃんと感じさせてくれるから説得力があるんだと思う。
小田:私、光GENJIの「勇気100%」がすごく好きなんですよ。”がっかりして めそめそして どうしたんだい”、”そうさ勇気100% もうやりきるしかないさ”とか、めちゃくちゃ言われたいじゃないですか(笑)。ただ、自分がそんな歌詞を書くなんてことは、今まで想像もしていなかったんだけど、よくよく考えたら「私、やっぱりそれ言われたいぞ」ってなって。それで『Temporary』を作るときに、「自分が言いたいことより、言われたいことを書こう」という気持ちが強まったんですよね。
─「自分が言いたいことより、言われたいことを書く」って重要なポイントかもしれないですね。
小田:ちょうどその頃、田中泰延さんの『読みたいことを、書けばいい。』を読んで、ストンと腑に落ちたというのもあります。もちろん、今までクラクラの歌詞に「自分の言いたいことを詰め込もう」とだけ思っていたわけではないんですけど、今回はとにかく「自分が言われたいことを書こう」と。「誰かを励ましたい」というよりは、「自分を励ましたい」というか。
でも、理想というか願望だけになってもお花畑なので(笑)、実際今まで自分が言われて本当に嬉しかったこととか、言われた当時は素直に受け取れなかったけど今になってその人がそう言った気持ちがちょっと分かるようになったかな?というような言葉も取り込みつつ作りました。
─ラブサマちゃんも、歌詞について変わってきた部分はありますか?
ラブサマ:今年4月にリリースした「ミレニアム」という曲は、最近の若い人たちの思考について考えながら書きましたけど、それまでは自分が辛いとか、自分の周りが崩壊していってるみたいなことばっかり書いていましたね。今は段々変わってきていて、新しくアルバムを作っていますが、その中ではかなり社会のことについて歌うようになってしまいました。
─それは、キャリアや年齢的なものも関係してる?
ラブサマ:いや、なんかもう普通に生きてて物騒すぎないですか? 痛ましい事件とか去年あたりから多くて、それに目をつぶれなくなってきたというか。
小西:なんか、膿が噴出してきてる感じはするよね。日本の惨状……化けの皮が剥がれてきた感がすごすぎて、もう気づかないフリはできない。
ラブサマ:そうなんですよね。
─ラブサマちゃんの、新たな歌詞の方向性も楽しみです。最後に、CRCK/LCKSはワンマン公演が12月18日にTSUTAYA O-EASTであります。
小西:実はクラクラ、都内で初のワンマンなんですよ。その日だけの仕掛けなんかも結構、用意していて。同日にリリースされる新作『Temporary2』の内容にも関係してくることなので、あまりネタバレしたくないんだけど。
小田:クラクラはこれまで手探りでいろんなことに挑戦してきて、ときには迷いが生じたこともあったと思うんですけど、やっと最近「これが私たちのカッコよさだ」と言えるところが見つかってきている気がしていて。それをワンマンでぶつけられたらいいなと思っています。
ラブサマ:楽しみ! 私は去年、バンドメンバーがガラッと変わったのですが、それでライブをやっていくうちにどんどん成熟してきているのを感じています。クラクラのライブを観て、もっと練習しなきゃと思いましたし……。
小西:いやでも、俺もサックスにファズかましたいって思ったよ。
ラブサマ:それ絶対かっこいい!

Photo by Takanori Kuroda
〈CRCK/LCKS〉

1stフルアルバム『Temporary』リリースツアーファイナル
日時:2019年12月18日(水)
会場:渋谷 TSUTAYA O-EAST
出演:CRCK/LCKS(ワンマン)
前売り:3,500円 当日:4,000円
開場:18:30 開演:19:30
e+:https://eplus.jp/sf/detail/2839980001-P0030002P021001?P1=1221

『Temporary vol.2』
2019年12月18日(水)リリース
CRCK/LCKS公式サイト:
https://crcklcks.tumblr.com/
〈ラブリーサマーちゃん〉

新曲「LSC2000/サンタクロースにお願い」
配信・会場限定リリース
https://linkco.re/amp/UxRHAMmd
VENUS PETER presents「MDC! Vol.2」
日時:2019年12月22日(日)
場所:新代田FEVER
出演:VENUS PETER/ラブリーサマーちゃん
武蔵野音楽祭
日時:2020年1月18日(土)
場所:吉祥寺SHUFFLE
出演:miida/ラブリーサマーちゃん
オープニングゲスト:初恋モーテル
ラブリーサマーちゃん公式サイト:
https://www.lovelysummerchan.com/