大黒柱のニューメタル、アンダーグラウンドの支配者、スタイル交配の新興勢力まで。ローリングストーン誌が選ぶ、2019年最高のメタル・アルバムをカウントダウン形式で紹介。


細分化されたジャンルとサブジャンルを有するメタル音楽の2019年は、メタリカが刺激を受けたデヴィッド・ボウイの言葉を借りると、「面妖に向かって進み、未知に直面した(turned and faced the strange)」といえる。スリップノットはアンビエントなサイコドラマと共に猛攻を配置し、オーペスは内面の暗闇を抱擁し、オーストラリアのサイケロッカー、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードは現実離れした本物のメタル・アルバムを解き放ち、ラムシュタインは我々一般人は知りたくもない方法で熱狂的なファンに祝いの旗を振らせた。それ以外だと、トゥールが13年ぶりに待ち望まれた5枚目のアルバムを発表し、ドリーム・シアターからメイヘムまでメタルファンのお気に入りバンドが彼ららしいスタイルの新作を発売している。しかし、ローリングストーン誌の批評家たちの投票を集計したところ、これから紹介する10枚のアルバムが最も高評価を得た。

10位 Korn『The Nothing』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


ハードコア・バンドのヴェインやコード・オレンジなどが音色面でオマージュを表明し、リル・ウージー・ヴァートやビリー・アイリッシュのルーズ・ファッションが流行している今年、ニューメタルは2010年代最後の年に2度目の風が吹いた。しかし、このジャンルの先駆者として崇められているKornは、90年代に自分たちが生み出したジャンルの枠内に収まったことが過去一度もなかったし、これこそがKornの音楽が世代を超えてはみ出し者たちの心に響いた一番の理由である。
1994年のデビュー時にKornのフロントマンであるジョナサン・デイヴィスは、アメリカの伝統的な男らしさを排除して、何年も続く性的迫害を紡いだトラウマを衰退する郊外のゴシックへと変貌させた。半年の間に母親と別居中の妻を亡くしたデイヴィスは、これと同じカタルシスの泉からアルバム『The Nothing』を作り上げ、やたらと感傷的で見苦しい姿をさらけ出して悲嘆に暮れる権利を主張する。まずは「神は俺を物笑いの種にしている」とエレクトロメタル曲「Idiosyncrasy」で嘆き、エンディングの衝撃的なゴスロック曲「Surrender To Failure」の"I failed”でその嘆きを完璧にものにしている。(SE)

9位 オーペス『In Cauda Venenum』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


オープニング曲「Garden of Earthly Delights」で始まるアルバム『In Cauda Venenum』には、全編通して流れるある種のテンションがある。2005年の『Ghost Reveries』以来の傑作と言えるこの作品のテンションに気づくと、次に何が起きるのか気がかりになってしまう。2曲目「Dignity」がディープ・パープル風の叫ぶようなキーボードと発作的なリフで始まると、フロントマンのミカエル・オーカーフェルトが「嘘の貴公子」について歌い出す。
これはダークで想像力を刺激する、まさにオーペス印の曲だ。彼らは何年も前にデスメタル的な要素を捨て去り、往年のプログレッシブ・ロック的なサウンドを導入したのだが、オーカーフェルトの歌声には、それがハミングであっても、今でも怒りを感じ取ることができる。ざらついたリフ満載で失恋や片恋のトーチソングと謳っている通り(心を揺さぶられるほどアコースティックな「Lovelorn Crime」では"Ill always wait for you”という歌詞があるほどだ)、この作品は現在のオーペスの姿を如実に表しているだろう。その証拠に、彼らは母語であるスウェーデン語でもこのアルバムをリリースしている。アルバム・ジャケットは、暗い建物の窓から人の影が浮かび上がっており、作品の本質を炙りだす完璧なメタファーだ。これは耳に聞こえる音よりも複雑で、記憶に長く留まるアルバムと言える。
(KG)

8位 ラムシュタイン『Rammstein (Untitled)』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


ラムシュタインのフロントマンであるティル・リンデマンの歌声には独特の味がある。ざらついた声で媚びるような歌い方をするのに、妙に魅力的なのだ。その理由は、彼独自の言葉遣いにメロドラマを感じることかもしれない。物悲しく、こん棒で打たれるような衝撃を与えることが多いバンドの音楽と、彼の声の親和性が高いことかもしれない。もしくは、ユーロトラッシュ特有の田舎臭さだったり、単純にリンデマンが歌うドイツ語の歌詞の響きのせいかもしれない。その実、彼らの歌詞はみだらで、際どすぎて、同じ内容を英語で歌っていたら、アメリカのラジオ局では確実に放送禁止になるだろう。
10年ぶりに発表されたラムシュタインの新作で、最も輝いているのがリンデマンの声だ。彼は母国への嫌悪感を歌い(「Deutschland」)、冷戦時代のスパイに対する自分の思い出を揶揄し(「Radio」)、怪しげなセックスを大いに語る(「Ausländer」「Sex」「Puppe」)。リンデマンは今年ソロ・アルバムをリリースしており、この作品も素晴らしい。一方、ラムシュタインが最適の火種を手に入れるとあっという間に燃え広がる存在だと証明したのが今作と言える。(KG)

7位 トゥーム・モルド『Planetary Clairvoyance』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


トロントのトゥーム・モルドは2018年の傑作『Manor of Infinite Forms』でデスメタル・ドロップの手法を完成させた。EDMと同様に、不気味なサブジャンルの一つの最高の喜びが出現したのは、同アルバム収録曲の大胆さが衝撃的なハーフタイム・グルーヴとスリルを大量に放出したときだった。
そして新作『Planetary Clairvoyance』で、彼らは表面上を少し小綺麗にした(アコースティックなブレイクを入れたり、サイファイな音風景を取り入れたり)が、その仕返しは前作よりも過酷だ。つまり、例をあげると、「Infinite Resurrection」のブラストビートの旋風は、気取ったハードコアらしいブレイクダウンへと絶え間なく吹き続け、その変化は聞く者のトカゲ脳に衝撃を与える。これは百発百中のこん棒を振り回す、狡猾で複雑な技術を必要としたゲームであり、これこそが、彼らと同様にアンダーグラウンドで活躍するブラッド・インカンテーション、ゲイトクリーパーなどのデスメタル・バンドが傑作をリリースした今年の中で、『Planetary Clairvoyance』が突出している最大の理由でもある。(HS)

6位 キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード『Infest the Rats Nest』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


それはうだるように暑いオーストラリアの熱波だったのか。それともスチュ・マッケンジー(Vo,Gt)が遂に怒りを爆発させたせいなのか。とにかく、ここ10年間ヘヴィ・メタルへ色気を出していたノイジーなサイケロック集団キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードが、15枚目で遂にヘッドバンガー作品をリリースした。
しかし、このアルバムの驚異的な点は、まるで本物のメタルに聞こえることなのだ。インディ・ロックをルーツに持つグループなのだから、普通ならちょっと気取りながらメタル風のアプローチをした音楽を期待するところだが、キング・ギザードはメタル銃を連射する。そして、この作品の音楽はあらゆるところに食指を伸ばす。重低音、うねり、モーターヘッド的抵抗から高速のメタリカ風リフまで。そしてマッケンジーは持てる能力を全て使ってレミーやマット・パイク的な唸り声を絞り出しながら、ディンゴを撃つ歌(「Plant B」)を歌い、他の惑星を植民地化する金持ち連中への軽蔑を表す(「Mars for the Rich」)。宇宙的なトリッピーさがあるとは言え(宇宙を扱った曲は1曲だけでなく、もう1曲金星の歌もある)、本能的な音楽を作りたいという世俗的な欲望に身を委ねた証拠がこの作品であり、聞くものをワクワクさせる。(KG)

5位 ダークスローン『Old Star』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


四半世紀前、ダークスローンは醜い内輪もめ騒動と世界的な報道合戦の震源地近くに立っていた。それが90年代初頭のノルウェーのブラック・メタル界だった。そして2019年、このデュオは同シーンで今でも長老として崇められている。しかし、現在の彼らの音楽はブラック・メタルと共通するサウンド要素も、このジャンルに分類され得る要素もない。ハイテク・デスメタルのグループから生でローファイな一本調子とレトロで露骨な意地の悪さのチャンピオンへと彼らは変化しており、がさつでありながら優雅、古典的でありなが高度に進化していると感じる、カテゴリ分け不能のメタル音楽を完全にするべく音楽活動を続けている。アルバム『Old Star』は、2017年の傑作『Arctic Thunder』の流れを踏襲した作品で、小さな叙事詩を紐解き、豊かに織り込まれた不格好なリフとノクターノ・カルト(Gt,Vo)の苦悩の唸り声から最高のドラマを描き出すことに焦点が当てられた。見事に歯ごたえのあるサウンドが、歩調もタイムもみだれたままのこのバンドの音風景を容易に、そして完璧に仕上げている。「俺たちが『Arctic Thunder』と『Old Star』をレコーディングしたのは古い防空壕で、80年代後半にリハーサルやデモ作りで頻繁に使っていた場所だった」と、ノクターノ・カルトはニュー・ノイズ誌に語っている。「あの防空壕の音響はひどいもので、スタジオに入ると戦争体験しているようなものだったが、あの戦争だったら俺たちは嫌いじゃない」と。(HS)

4位 アルセスト『Spiritual Instinct』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


フランスのブラックゲイザー、アルセストが6枚目のアルバムをリリースした。「これらの2つの究極が自分の内側で争っている」とネージュ(Vo,Gt)がSpotifyのシリーズ番組『Metal Talks』で語っていた。「俺には欠点も闇もある。(中略)そしてそれが俺の魂の道筋なんだ。そういう状況を受け入れて生きないとダメなのさ」と。活気がどんどん積み上がる「Protection」では、ドラマーのウィンターハルターの無慈悲で破壊槌のようなドラミングと相まって、ネージュのトレモロの震えが加速する。そして「Sapphire」では、ネージュのギターが増長するポストパンクのリフを密かに騒動に紛れ込ませるのだ。次に待ち構えているのがノルウェー人アーティストのキャスリーン・シェパード、別の名をシルヴェーヌ。彼女は「LÎle Des Morts」のスラッシュのど真ん中で、ネージュと共にオペラ風のセレナーデを披露している。このような完璧なコントラストこそがアルセストの真骨頂だ。それこそ、毛布を少し上げて、その隙間からまばゆく光る荘厳なノイズを見ている感覚とも言える。(SE)

3位 ガシー・ウィルド『Gastir — Ghosts Invited』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


世間がGaahl(Vo)について知っていることはたくさんあるが、ノルウェーのこの禁じられたブラック・メタル・シンガーはこれまでTrelldom、Gorgoroth、God Seedなどのフロントマンを務めてきた。彼はゲイであることを公表しているベジタリアンのヴィジュアル・アーティストでもある。しかし、これまでの彼の経歴があらわになっても、メタル界で最も得体のしれない人物であることに変わりはなく、彼のモチベーションは謎のまま。そのミステリーが彼の最新グループ=ガシー・ウィルド(Gaahls Wyrd)の1stフルアルバム『Gastir — Ghosts Invited』を一層魅惑的にしている。頭蓋骨がカタカタと音をたてるメタル・リフの間に、正体不明のギター・ブレイクが突っ込まれ(不気味な「Ek Erilar」で確認してほしい)、歌詞が囁かれ(「From the Spear」の歌詞を解読してみよう)、ボウイ風のドラマが展開され(「Ghosts Invited」)、イゴール・ストラヴィンスキーの交響曲で使った方が活きると思われる不協和音アレンジが施されている(「Though the Past and Past」)。何かに取り憑かれたような音楽だが、不覚にもその音楽に支配されたいと思ってしまうのだ。(KG)

2位 ムーン・トゥース『Crux』
ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10


このアルバムはコンヴァージを一瞬彷彿させ、その次にジョン・メイヤーを思い出すかもしれない。辛抱強くこのまま読み進めてほしい。ロングアイランド出身のムーン・トゥースの2ndアルバムには錬金術的な何かがあり、注意散漫なジャンルのマッシュアップが巧妙なハイブリッドに変貌してしまうのだ。「Omega Days」や「Motionless in Sky」のような曲にはバンドの趣旨替えの証拠は一切なく、プログレ・メタルの怒りとR&Bの辛辣さが仲良く噛み合っている。パワーバラッド特有の優しく囁いて歌う手法が野獣モード炸裂の楽曲に問題なく溶け合うなど想像だにしなかったのだが、『Crux』の鳥肌モノのタイトル曲のおかげで、それが現実のものとなったようだ。初期のマーズ・ヴォルタが、最強のフックを保ちながら、ロック・バンドでも幅広く冒険的なサウンドを取り入れられると証明して以来の快挙だろう。(HS)

1位 スリップノット『We Are Not Your Kind』

『.5: The Gray Chapter』でベーシストのポール・グレイの死を悼んでから5年。反体制の人々に向けた猛烈な速さのアンセムを詰め込んだ6枚目のアルバムで、スリップノットが戻ってきた。「ひどく保守的な世代の連中を撃退しようと頑張っている生きづらい人々、環境に適応できない人々、利口な人々」のための曲を集めた作品だと、コーリー・テイラーが「Birth of the Cruel」で吐き出すように言う。

『We Are Not Your Kind』は再活性化されたスリップノット・サウンドが一巡して戻ってきた感じがする。ある意味でまとまりのないホラーショーのようだ。ダークなポップ・ハーモニーをだみ声で歌うロックラップとは対象的に、クラウンが作った小競り合い曲「Nero Forte」でテイラーはあざ笑いながらうぬぼれた態度で、繊細な瞬間に場違いな陽気さを加える。「Critical Darling」のキャッチ&リリース系メロディでは、福音伝道者たちと気候科学者たちが予報したとして、テイラーは人間が一番の原因の大災害への用心を呼びかける。「その予報がもう始まっている/俺が見ることもない終焉が/天国がなければ地獄もないと俺たちは自分に言い聞かせる」と。5月に「あんたらは悪者がほしいんだよ。だから俺がお望みの悪役を与えてやる」とテイラーが語っていた。しかし、スリップノットの曲でよく歌われるように、自分の心の遅く底に潜む悪者ほど自分を不安にさせる悪者はいないのだ。(SE)