90年代に5枚のミリオンシングルと3枚のミリオンアルバムを放った国民的バンドWANDSが、新たなボーカリスト・上原大史を迎え、第5期WANDSとして約20年ぶりに動き始めた。現在もビーイングに所属する大島こうすけ、折に触れて大島と音楽活動を行ってきたギター柴崎浩がWANDSの再始動について考えていることを知ったプロデューサーの長戸大幸が、かねてよりボーカリストとして高く評価していた上原を彼らに引き合わせたことで、2000年3月の解体ぶりに動き出したストーリー。
楽曲制作を開始した第4期を経て、大島は楽曲提供と制作に専念。キーボード木村真也が合流し、第5期WANDSとしての活動が始まった。

2019年11月17日に大阪・堂島リバーフォーラムで第5期始動第一弾ライブを行い生配信、2020年1月29日には約21年ぶりのシングル『真っ赤なLip』のリリースも決定している。カップリングには柴崎浩アレンジによる「時の扉」、「もっと強く抱きしめたなら」のWANDS 第5期ver.が収録される。のっけからフルスロットルで動き出した第5期WANDSの3人にインタビューを敢行した。

ー11月17日に大阪で、WANDS第5期の初ライブが行われました。WANDSと銘打った数年ぶりのライブ、どんな雰囲気だったんでしょう。

柴崎 : メンバー構成が変わっているということで賛否両論あるだろうなと思っていたし、どんなものだろうって見られていることは前提として考えていました。なんとも言えない緊張感がありましたね。

ーメンバー間の雰囲気は、どのような感じだったんでしょう。

上原 : 柴崎さんと木村さんがすごく和やかな2人なので。僕はガチガチだったんですけど、優しくしていただいたので和やかな感じではありましたね。


柴崎 : いや、十分緊張していました(笑)。

木村 : 今までにない緊張はあったよね。

上原 : 3人とも緊張している雰囲気ではあったんですけど、ピリついているような感じではなく、緊張するねーっていう雰囲気でした。

ーキャリアの長い木村さんも、やっぱり緊張された?

木村 : もちろん。柴崎と何かをすることが何十年振りだったので。まあ、いつもと変わらぬ柴崎でいてくれて、よかったです。あの頃と何も変わらずで。

柴崎 : 俺も思ったよ。WANDSの木村真也だった。弾き方が当時と変わっていなくて。

WANDS第5期始動「この3人で格好いい音楽ができればWANDSになる」

2019年11月17日、大阪での無料ライブイベント「DFT presents 音都 ONTO vol.6」に登場した際の様子

ーライブの手応えはいかがだったんでしょう?

上原 : 僕にとってはレジェンドというか、みんなが知っているあのWANDSの新しいヴォーカルとしてのお披露目だったので、正直ほとんど受け入れてくれないんじゃないかと思っていたんですよ。でも実際にやってみたら、思った以上に前向きに捉えていただいて。
応援してくださる雰囲気の方々がいっぱいいてくれて、すごく励まされました。自己紹介をしたときに、すごい拍手をしてくださって、受け入れてくれた感じが嬉しかったですね。

ー柴崎さんも賛否両論あると考えていたのが意外です。言ってみれば、WANDSご本人じゃないですか。

柴崎 : 90年代にやっていたものが受け入れられているという認識があるので、メンバーが変わったことで拒否反応を示す人もいるだろうなって。もちろん今後、どういう作品を残していくか、どういうライブをしていくかで見せていけたらとは思っていたんですけど、1番最初というのはやっぱり緊張しますよね。

ー2000年のWANDS解体から約20年、どういう気持でWANDSという幻影のとうなものと付き合ってきたのかお訊きしたいなと思って。どうしたって、WANDSという見られ方はついてまわるものだと思うので。

柴崎 : 僕はWANDSというものを残したい気持ちがあって。みんな、自分の母校があるじゃないですか? 廃校になってしまうと寂しいけど、移転したり、改築したり、形や色合いが変わっても、学校があることが嬉しい。そういう感情はWANDSを応援していた人にもあるんじゃないかなって。もちろん、自分を人に紹介してもらうとき、「元WANDSの」とかよく言われていたし、切っても切れない関係ではあったんです。
時が経って、いろいろな人にお会いするときに「WANDSよかったな」とか「すごく好きでした」とか言っていただいて。いろいろなバンドが再結成をする中、「WANDSまたやらないの?」って言われることも多かったので、時々考えたりはしていましたね。

ーWANDSというイメージから離れたいと思ったことはなかったですか?

柴崎 : 離れたいという感情は全くなかったですね。むしろ、僕が脱退したのは97年でしたけど、あのまま続けていたらどうなっていたんだろうと、たまに考えることもありました。

WANDS第5期始動「この3人で格好いい音楽ができればWANDSになる」

WANDSのギタリスト柴崎浩

ー木村さんはいかがですか? WANDSとの20年近くの付き合い方というか。

木村 : 自分は完全に裏方になると決めてやっていたから、何かをする上で元WANDSということを言われることが、ちょっと負担だと思うときはありました。すごく身勝手な意見ですけど、柴崎とちゃんと話をしないで別れたので、1回話した上で何かをしたいというのが、今回関わらせていただいた1番の理由です。音楽を目指して昔一緒にやっていたし、別に仲が悪かったわけでもない。中途半端で終わったと感じている方もいると思うので、それを消化した上で、きちんとした形で続けていきたい気持ちがあったんです。

ー再開するにあたって、柴崎さんとはどんな話をされたんですか?

木村 : 「久しぶり」「あ、どうも」みたいに、昨日電話したくらいの感じでした(笑)。2年前ぐらいにイベントでちらっと会って、ちょっとは話をしたんですけど、昔の友人というのは、やっぱり時を経ても変わらないんだなと感じました。

ーそういう歴史の中に上原さんが入っていくわけですが、ライブのMCでもおっしゃっていましたけど、相当な覚悟が必要だったんじゃないですか。


上原 : 先程言ったように、WANDSは自分が子どものときからずっと知っているレジェンド的存在なので、最初はいやー無理だろうみたいに思っていました。嬉しい気持ちもあるんですけど、それより不安の方が大きくて。長戸(大幸)さんの中でもWANDSは大事なバンドで、ヴォーカルとして僕を選んでくれたことはすごく嬉しいことなので、頑張ろうという気持ちで決断しましたね。

ーWANDに新ボーカルということに対して懐疑的なリスナーも少なくなかったと思います。そうした人たちを実力で納得させるようなライブだったと思います。本当にすごいハマっていた。上原さんがヴォーカルだったからこそ、再始動できるんじゃないかという手応えに行き着いたところはあるんじゃないでしょうか。

柴崎 : 今回リリースするシングル含め、何曲か新曲をレコーディング制作する中で、上原くんが歌うものを聴いて、より一層WANDSとしてやりたいなという気持ちが強まりましたね。

木村 : 僕はアレンジャーもやったりするのでより強く思うんですけど、声というのは最高の音源なわけです。上原くんの声は本当に最高の音源だと思います。

上原 : ありがとうございます。

ー上原さんの音楽ルーツとか、音楽体験を訊かせていただけますか。


上原 : 小6からギターを弾き始めて、中学生で楽曲を制作することが好きになり、MTRとかで録音をしはじめたんです。友だちとフォークデュオやら、バンドやら、いろいろな活動もしていて。事務所に入ってからは、歌ったり弾いたり、楽曲提供や歌詞の提供をしたりとか、いろいろなことをやってきましたね。

WANDS第5期始動「この3人で格好いい音楽ができればWANDSになる」

WANDSのボーカリスト上原大史

ー歌だけではなくて、曲も作ったり、アレンジまでされていたんですね。

上原 : もともと歌手になりたい気持ちは全くなかったんです。最初はギタリストに、次はエンジニアとかクリエイターになりたいと思っていた。周りから歌を褒めていただいたり、もっと表出た方がいいよと言っていただいて、徐々にヴォーカリストになっていったという感じですね。

ー生粋のヴォーカリストとして、歌をやってこられたと思っていたのでびっくりしました。

上原 : いやー世の中何が起こるか分からないなって感じですね(笑)。ヴォーカリストとしてやり始めたのはだいぶ大人になってからなので、最初は自信がなかったです。歌うことはずっと好きで歌っていたんですけど、俺はヴォーカリストなんだという自覚を持ち始めたのは本当に最近ですね。

ーちなみに上原さんは、どのような音楽を好まれて聴いてきたんでしょう。


上原 : 小学校のときは親の影響でサイモン&ガーファンクルとかをよく聴いていたんですけど、ジャンル偏りなく音楽を聴いてきました。昭和歌謡やヘヴィメタルを聴いたり、J-POPももちろん聴いていたり、EDMも聴いていました。

ー偏らずに聴いていた理由はあるんですか?

上原 : 中学校のとき、曲を作ることに没頭していたのはあると思います。最初はアコギだけでMTRに録音をして歌を作っていたんですけど、物足りなくなってシンセを買って。T.M.Revolutionとかいろいろ聴いているうちに、打ち込みのギターの音が入っていたら格好いいと思って、エレキギターを買って弾いているうちに今度は弾くのが楽しくなり、速弾きにハマって。イングウェイとか、マイケル・シェンカーとか、そのあたりのハードロック、メタルを聴くようになって。そんな感じで、気づくといろいろな音楽を聴いていたのかなと。

木村 : マイケル・シェンカー…(笑)。

一同 : (笑)。

上原 : 兄貴もLArc-en-Cielのコピバンをやっていたし、親父はいつも家でフォーク・ギターを弾きながら歌っていたりしたので。わりと音楽家庭だったなと思います。

ーこれだけいろいろ音楽を知っていたら、3人共通の話がしやすいですね。

柴崎 : そうですね。コミュニケーションが楽ですね(笑)。

ー楽曲制作にあたって、共通のリファレンスになるような音楽やアーティストはいますか?

柴崎 : 強いて言えば、今のところは過去のWANDSの作品ですね。それぞれ過去のWANDSを頭の片隅に残しつつ、やってこなかったこともいろいろできたらいいなと思っています。まだどのバンドが格好いいよねというのは、話したことないですね。当時からそれぞれ自分がやりたいものを書いていたバンドではあったので。

木村 : 好きなミュージシャンの曲のあそこどうよみたいな話はたぶんしていたと思うんですけど、ちゃんとこれが好きと言う発表みたいなのは当時からたぶんなかったと思うんですよね。

柴崎 : うん、なかった。

ーこの20年間でお客さんの中でもWANDSの楽曲への愛情が加味されていって、よりパーソナルなものとして大切に聴いている人も多いと思います。YouTubeのコメントやTwitterを見ていても、WANDSへの思い入れの強いお客さんが多いですよね。その中で、新曲はどのくらい手をつけているんでしょう。

柴崎 : まだたくさんはないんですけど、何曲かはレコーディングしました。

ー約21年ぶりのシングル『真っ赤なLip』の作詞は、上原さんが行なっています。WANDSの詞を書く上でどういうことを心がけたんでしょう。

上原 : この曲は『名探偵コナン』のタイアップということで、ミステリアスで何が起こるか分からない部分がテーマだったんです。何曲かデモがあがっていて、それぞれに歌詞を書いたんですけど、最後にこの曲の歌詞を書いたので、なかなか書けなくて。曲調がおしゃれで、大人っぽい雰囲気だったので、ちょっとテーマを変えて、男女の大人っぽい雰囲気で作ったんです。ちなみに「真っ赤な」というワードはコナンの次のテーマというか、イメージカラーらしくて、これはたまたまなんです。コナン用にこの使えと言われたみたいに思われるかもしれないんですけど、偶然一致したというだけなんです(笑)。

ー歌詞を書く上で、過去のWANDS曲の歌詞は意識されましたか?

上原 : WANDSのイメージからはズレないようにしましたね。ガキっぽくなったりポップ過ぎないようにとか、ほどほどにワイルドとか。WANDSらしさは意識しました。

ー作曲、編曲は第4期のメンバーでもある大島さんです。楽曲制作に専念のためと書かれているので、今も第4のメンバーみたいなイメージなんでしょうか。

木村 :力を貸してほしいなとは思っていますけどね。

ー他のバンドにはない感じですよね。WANDSのこの体制っていうのは。

木村 : このバンドの中にいるのであまり考えたことはなかったんですけど、言われてみればそうですよね。

柴崎 : TOTOに在籍した事あるメンバーが入ったり出たり、ライブに出たり出なかったりみたいなのを思い出しますね。言われてみれば、あまりそういうのは普通はないのかくらいの感覚なんです。

木村 : いいものができるんだったら、自由にこれからも変化していくんじゃないかなと思っていますね。

ー三者三様でみなさん音楽に詳しいし、楽曲制作も自由自在にできる部分はあると思います。一方でリスナーのWANDSに対するイメージもある。この先、どういう風に5期WANDSを進めていこうと考えてらっしゃいますか。

柴崎 :あまり神経質には捉えていなくて。90年代、僕が参加していたときも、わりと自分が好きなように演奏していたし、ギターに関してはそんなに意識することはなくて。メロディを作る際に、「あ、WANDSだ」と思えるものを作れたらいいなという感じですかね。そんなに大きく外れることはないんじゃないかなと自分の中で思っている。当時WANDSをやっていた頃の感覚と、今こういうサウンドをWANDSでやってもいいと思うみたいな提案の両方を組み合わせていけたらいいんじゃないかと思います。

上原 : 実際に曲を聴いてみると、爽やかな歌もあれば、「世界が終るまでは…」みたいな壮大な曲もあれば。「Secret Night ~Its My Treat~」みたいな格好いいロック曲もあって、すごく幅広くやって来られていて、ファンそれぞれのWANDSらしさがあるんじゃないかなと思いました。「世界が終るまでは…」で入った人は「世界が終るまでは…」がWANDSらしさだと思うし、「もっと強く抱きしめたなら」の人は爽やかなポップスがWANDSだと思っているだろうし、全員が納得するように応えるってすごく難しいと思うので、トータルで格好いいとなれば、それがWANDSなんじゃないかなって。この3人でできる格好いい音楽ができれば、特にこうじゃなきゃみたいなのはないんじゃないかと思います。

木村 : 上原くんが歌えばWANDSになるんじゃないですかね。新しいことにチャレンジしていくだろうし、やっていけば昔のように戻ったりもするだろうし、新しいWANDSにもなるんだと思います。彼の声さえあれば。

WANDS第5期始動「この3人で格好いい音楽ができればWANDSになる」

WANDSのキーボーディスト木村真也

ー『真っ赤なLip』のカップリングには、「時の扉」と「もっと強く抱きしめたなら」が収録されています。WANDSの大名曲を歌うというのは、上原さんにとってどんな気持ちだったんでしょう?

上原 : 光栄でもあるし、受け入れてもらえるかなという気持ちもありました。やるからにはやれることをやるしかないなという感じですね。何をやっても否定する人もいれば、受け入れてくれる人もいるだろうし、そこはコントロールできないところもあると思うので。自分でやれるだけのことをやっていくだけです。

ーこの先、WANDSをどんなバンドにしていきたいと思いますか。

上原 : 当時WANDSを好きだった人にも今のWANDSを愛していただきたいし、WANDSを知らない世代――WANDSってパッと文字を見ても何も思わない人が楽曲を聴いたときに、ネームバリュー抜きにして「なにこれ、かっけー!」ってなってもらえるようなバンドになれたらいいなと思っていますね。子供がかっけーって家で曲を聴いていたら、親が「あんたWANDS知ってんの?」みたいな感じで、「なんでおかんも知ってるの?」って会話が生まれたらおもしろいなと。名前に頼ることなく格好いいバンドとして頑張りたいですね。

木村 : 僕はもともとWANDSだったので(笑)。ちょっと難しいですね。何かありますか?

柴崎 : うーん、古くからの応援してくれている人と、全く先入観のない人と、その両方にアピールしたいという強欲なことを思っていて。そんなことできるんだろうかと思いながらも、そういうことをやっていくバンドなのかなと思っていますね。

木村 : たしかに。WANDSっていいねと単純に言わせたいですね。

<リリース情報>

WANDS
NEW SINGLE『真っ赤なLip』

発売日:2020年1月29日(水)
通常盤(CD):1000円(税込)
1. 真っ赤なLip  
2. 時の扉 ~WANDS 第5期 ver.~
   
タイアップ盤(CD):1000円(税込)
1. 真っ赤なLip 
2. もっと強く抱きしめたなら ~WANDS 第5期 ver.~ 
3. 真っ赤なLip -TV size-

WANDSオフィシャルサイト:http://wands-official.jp
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