―Rolling Stone Japanでのインタビューはおそらく1年振りくらいです。年末でもあるので、先ずは今年=2019年を振り返ってみたいのですが、4月の武道館公演に続いて、6月にはアジアツアーを成功させましたが、その後はどんな風に過ごしていたのですか?
来年3月にリリース予定のアルバムを完成させたのと、先日ニュースで取り上げていただいたので、皆さんご存知の通り、剣道に精進していました。大学の朝稽古にほぼ毎日出ていたんです。
―剣道へ精進することで音楽へのフィードバックはありましたか?
フィードバックさせるなんてことは考えていないです。と言うより、考えちゃいけない。でもそれを世間がどう思うかは別です。面白いなコイツは、って思ってくれる人もいるでしょう。その反応は嬉しいですが、音楽とは別ですね。
―そして、デビュー40周年記念日の8月25日に、2000年のチャゲアスの韓国公演のDVD『CHAGE&ASKA LIVE IN KOREA 韓日親善コンサート Aug.2000』リリース。日韓関係が大変な時のリリースで、ASKAさんらしいなぁと。
あれはもう絶対にリリースしなきゃダメだと思い敢えてリリースしました。
―なるほど。
過去CHAGE and ASKAの時がそうでしたから。『万里の河』のあと全然ヒット曲がなくて、でも10年目ぐらいの時に、『SUPER BEST』っていうアルバムが一年間チャートに入ったんです。一年間ですよ。その頃から”コイツら昔からこんなことやってたんだ”っていう人がドーっとリスナーに入ってきてくれました。だから今またそれをやらなきゃいけないですよね。
―改めて、韓国公演のDVDをリリースした意図は?
民間交流だけは絶対切らしちゃいけないんです。それは、恐らく僕は一生言い続けると思います。政治では無理ですから。音楽とスポーツはできます。音楽もスポーツも皆好きだから、という大衆が繋がっていれば、政治も国民の顔を伺うはずです。
―その架け橋にああいう映像を一度残しておけば、確かに何かのタイミングでそれを掘り起こして観てくださる方もいっぱいいますよね。
本当は韓国でもリリースしたいんです。韓国は日本の音楽のマーケットをまだ開いません。ならば「ライブドキュメント」とカテゴリーを変えれば、「映画界」からアプローチできますよね(笑)。
―現状では難しいですか?
これからです。
―可能性はまだ残されていると?
はい。十分あります。これは2000年の韓日が初めて手を繋いでやった、初めて日本人を受け入れたライブのドキュメント映画だと。
―映画『ウッドストック』と同じだぞと?
そうそう。ちょっと考えて構成変えればやり方はいくらでもありますよね。
―DVDをリリースしてネトウヨからバッシングみたいなものは?
全くないです。ネットで、ちょこちょこあったかもしれませんが、目についたのはなかったです。むしろ、この時期にありがとうみたいな方が多かったかな。それよりも僕の脱退騒ぎが(苦笑)。
―そうですよ! かなりの波紋でしたが……。
まあでもね、「見ててください」としか、今は言いようがありません。僕は、考えなしに動くことはしません。
10年振りのCDシングルをリリースした理由
―はい。さて、2019年11月20日にシングル「歌になりたい」がリリースされました。ASKAさんにとっては10年振りのCDシングルです。正直、今、シングルが機能する音楽業界の土壌がない中で、あえてこの曲をシングルで切っていこうというのは?
自分がここ数年で作ってきた曲の中でも、シングルにしなきゃいけない楽曲だなって大作ができたので。それはメロディが出来上がった時点で自分のブログで報告したぐらいです。これもタイミングがよく、この曲が生まれた宿命・運命もあったんでしょうけど、早々と去年のビルボードライブの最終日にこの曲を公表出来ました。なおかつその後次のツアーのトリにこの曲を演奏しました。それで、満を持して今回シングルでしょ? だから表に出ていないプロモーション期間としては半年ぐらいありました。そういう運命みたいのを背負った曲なんだと思います。
「歌になりたい」Music Video
―新しい信念というのは?
今はあまり具体的なことは言えないんですけど、音楽業界の改革に繋がることですね。
―この「歌になりたい」の背景について聞かせてもらえますか? 確かオフィシャルの動画インタビューでこの曲の背景には楳図かずおさんの『漂流教室』があるとおっしゃっていたと思うのですが。
高校生時代に、楳図かずおさんの『漂流教室』を、毎週毎週、いまかいまかと待ちながら読んだんです。これはもう漫画にあらずで、画の付いた小説だと思っていました。SF小説だと。そのぐらい色んな展開があった。今では漫画を読むことはほとんどありませんが、でも人生最高の漫画を一つあげてごらんなさいって言われたら、文句なしに『漂流教室』を挙げます。それを楳図さんとお会いした時にお話ししました。
―アハハハハ! 真面目な話に戻すと……今のこの時代が『漂流教室』そのものだということですか?
曲を作っててメロディが浮かんだ時に、さあ何を書こうかとふと浮かんだのが『漂流教室』。『漂流教室』をテーマにしてしまおうと。だから書くのはすごく早かったです。
―それはつまるところ『漂流教室』で描かれているあの世界が今だと?
そうですね。これはまたいろんな憶測を呼んでつまらないことを言われがちなので、あまり未来を語っちゃいけないですけどね。未来は予測できないから。だけど今のままいくと、環境の問題になっていくのは確かで、地球環境の変化だから、その変化に応じて環境はつくられていきます。『漂流教室』の砂漠の先には何かがあると思ってて。砂漠という時代を迎えただけの話で、それを迎えないと次がないですから。ただ僕達は、地球46億年の歴史の中で、人類が生きてるのなんて、針の1ミリにも満たない。それで文明とか偉そうなことを言ってるんだけど、ただ単に人間が誕生して、生活しやすい気候だっただけの話。その時に我々がたまたまいただけの話ですから。その先どうするかって考えて、生き残ることは大切だろうけど、人間が環境を変えようとか、何とかっていうのはもう、宇宙規模でいくと人間の思い上がりで、そんなことできるわけがない。もちろん気象を動かすことはできるし、気象をつくることもできます。実際やっていることですから。そんなことを起こしたって地球の浄化作用で元に戻るだけで、人がいなくなったらまた元に戻りますから。たまたまこの生命が反映できる時代にいて、それで自分達が地球を制したような気になっているだけで、そんな制したような人間もやがて滅んでいきますから。そうなったらまた地球は浄化されて元に戻る。そういう意味でいくと『漂流教室』には、この先どうなってしまうんだろう、こうなるんじゃないだろうかという世界が描かれているんです。
―ASKAさんとしてはこの「歌になりたい」を通して皆にそういうことを気づいてほしいと?
そこまでは考えてないです。楽曲として、すごく良い曲だねって言ってもらえればそれでいい、もうそれでOKなんです。

Courtesy of DADA label
ASKAがアイスランドで感じたこと
―「歌になりたい」のミュージック・ビデオはアイスランドで撮影されていますが、アイスランドを選んだ理由は?
プロデューサーが選んできたんです。そのプロデューサーのプレゼンを受けて、監督が「よし! ここで」行こうと。で、監督が自分の頭の中に描いていることを説明に来たんですが、正直僕にはさっぱり分からなくて。アイスランドと「歌になりたい」が結びつかないわけで。土壇場で行くのをやめようかと思ってたぐらいですから。それぐらい監督の中にある世界が、どうしても掴めなかった。ただその監督をクリエイターとしてすごく認めていて、きっと彼の頭の中にあるものに、まだ僕が触れてないだけだと。触れた時には何かの現象が起きるだろうと思っていました。自分が理解さえすればこれはいいものになると思ったのでとにかく信じようと。それで、アイスランドに行ってみたら、正に『漂流教室』じゃん!って。そこからは一気にでしたね。
―実際に足を踏んだアイスランドはどうでしたか?
昼間は15℃から18℃ぐらいの間。夜になると撮影ロケ地に入っていく間はもうマイナス2℃。車の中が人の呼吸でフロントガラスが曇って。思ったのはおおよそほんの少し前までは、思ったこともない土地に来てしまったっていう。人生で旅行とか行くじゃないですか。アフリカまでは想像つきましたが、ただ南極、北極とかあの辺は想像がつきませんでした。まさか自分がアイスランドに行くなんて思ってもみなかったですから。1600万年前の地球の姿がそこにまだ残っているって言われているんですけど、これがその姿だったのかなって思いながら感慨深く見てきたんですけどね。そこらここらに火口があって。普通火口って火山だけど、火山じゃなくて平地に火口があって。割れ目ですよね。その地割れから噴煙が噴き出ていて、それが至るところにあって。結局火山と一緒だから溶岩に繋がるわけですよね? 溶岩の上に火山灰が積もって、その火山灰を養土にして、苔が覆い茂ってて……。何だろう、想像もしなかったものを見れてしまったっていう。もうそれに尽きますね。
―ええ。
あとはそういう土地でMVを撮れたことの喜びだけですね。だからアイスランドについて語ってくださいって言われても語るものはなにもないです。唯一語れるとしたら、よくあの土地に35万人もの人が固まって住んでるなって。帰りに、剣道の先生達がお酒をたくさん飲まれるので、duty freeにお土産のお酒を買いに行ったんです。でも、ウィスキーがほぼない。棚に並んでるのはほぼウォッカ。ウォッカはちょっとと思って、少しだけ棚にあったウィスキーを買ってきました。そのウィスキーでさえ60何度です。寒い国の人達の生活様式に入り込んだお酒だからそうなっていくんでしょうけど。日本より小さな面積の国。でもあの過酷な環境の中で、35万人が暮らしているということ自体が信じられなかったですね。どこもそうでしょうけど、大陸を発見したらそこは自分の土地だと決めて、そこから居座って、住めば都となっていくわけですから。東京に生活している自分達には想像がつかないだけで、向こうの人達にとっては普通に当たり前のことなんでしょうけど、すごく大変ですよね。夏が短くて、あとは全部冬ですから。
ニューアルバムは最高傑作になる
―さて、12月10日から全国ツアー「ASKA premium ensemble concert -higher ground-」が開催中ですが、今回のツアーはバンドとストリングスの融合によるライブとなります。こうした試みはどこから出てきたのでしょうか?
言ってしまうと偶然です。前回はご縁いただいて、復帰後初のライブをビルボードさんでビルボードさんのオーケストラチームと一緒にライブをやらせてもらった。でも、皆さんご存知のように、初日以外は風邪が治らなくて、最終日まで体調が戻らなかった。せっかくお待ちいただいた皆さんには本当に申し訳ないことをしてしまった。それがずっと心の中にありました。そんな中、次のツアー(『ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA -40年のありったけ-』)が1カ月そこそこで始まり、それに関しては自分の中では、やれたと思えて。それで、今回のツアーを秋からバンドでやることは決まってはいたんですけど、そこにまたビルボードさんが声をかけてくれたんです。「何か面白いことを一緒にやりませんか?」となりました。

Courtesy of DADA label
―なるほど。
ただ、そうなった時に、バンドツアーに45人ほどいるストリングスチームをつけるのは流石に無理があって。バンドサウンドのライブだと、弦がどんなに綺麗な音を出しても、その音をどれだけマイクで拾っても何にも聞こえないですから。だったら、クラシック家の意識を変えていただいて、全員がバイオリンなどの弦楽器にピックアップマイクを付ければいいと。そうすると、彼女達が聴いてきたサウンドじゃないけれども、ELOみたいにできるんです。
―言われてみればELOの手法ですね。
少しだけ説明すると、ビートルズはレコーディングにおいて弦をロックに取り入れて大成功しました。その後に皆がそれをやり出したんですけど、バンド+ストリングスを極めたのがビートルズの申し子のジェフ・リン率いるELO。そして、よくよく考えるとELO以降そんなことをやった人はいないんですよ。それで、今回も縁あってビルボードさんなので、ELO以降誰もやってこなかったバンド+ストリングスで全ツアーを回ります。具体的にはストリングス15人がツアーメンバーになって全国を回るわけです。
―ASKAさんのブログに”ライブの軸は見えてきた”とありましたが、具体的には今回、何がライブの軸になりますか?
具体的には軸とかそういうのはなくて、最後にはやり切った感とお客さんの「ライブを観た!」という満足感。そして「また来たい!」という期待感。それがあれば何でもOK。よく、テーマ性や軸みたいなものを語ろうとするあまりに、それがなされなかった時の崩れ方って大きいので。それよりも何がなんでも「よかった!」って言ってもらえること。もうこれのみです。エンターテイメントを一言でいえば「楽しかった」ですよ。「楽しかった」「また来たい」「また観たい」。これが全てです。
―楽しみです。最後に来年3月発売予定のニューアルバムの予告を。今回のツアーでもアルバムからの新曲を披露されるようですし、ブログによれば歌入れまでは既に全曲終わったと?
はい。全曲歌入れ終わってます。もうね、これは最高傑作ですよ。15曲入りです。
―内容としては?
内容としては、もう素晴らしい!(笑)。
―ハハハハ!
過去アルバムを作る度に「これは最高傑作です」と言い続けてきましたが、本当は「前とはまた違うものができました。そしていいですよ」って言うために使ってきた言葉で、さっきの楳図かずおさんの話で出てきたよくできたアルバムっていう言い方をすると、やっぱり『NEVER END』はすごくよくできています。ただ、今回は『NEVER END』を超えたと思っています。期待していてくださいな。

Courtesy of DADA label
<INFORMATION>

SINGLE
「歌になりたい/Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ」
DADA label
発売中
2020年3月20日、 New Album発売決定!!
タイトル / 収録楽曲数:未定
DADA label
▼配信情報
■ハイレゾ音源&通常音源配信サイト・e-onkyo「Weare」https://weare-music.jp/ *ASKAのインタビュー記事も掲載。
■通常音源配信サイト・iTunes https://itunes.apple.com/jp/album/id1484933600?app=itunes
・Google Play Music https://play.google.com/music/m/Bt3c3zhinhjixyhyqjnvfbn2sqa
・Amazonデジタルミュージック https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZKGB9N9
・レコチョク http://recochoku.jp/album/A1012757120/
・mora http://mora.jp/package/43000033/A78278/
・music.jp http://music-book.jp/music/Artist/1489159/Album/aaacboqp
・dミュージック https://music.dmkt-sp.jp/album/A2001616506
・オリコンミュージックストア https://music.oricon.co.jp/php/cd/CdTop.php?cd=SPC02522416 他
【billboard classics ASKA premium ensemble concert -higher ground-】
2020年1月3日(金)福岡・福岡サンパレス ホテル&ホール
2020年1月6日(月)大阪・フェスティバルホール
2020年1月9日(木)東京・東京国際フォーラム ホールA
2020年1月11日(土)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
2020年1月15日(水)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
2020年1月18日(土)新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
2020年2月2日(日)群馬・高崎芸術劇場 大劇場
2020年2月9日(日)神奈川・神奈川県民ホール 大ホール
【特別公演】2020年3月20日(金・祝)熊本・熊本城ホール メインホール
【追加公演】2020年2月11日(火・祝) 開演 東京文化会館 大ホール
チケット:11,800円(税込・全席指定) ※特製プログラム付き ※未就学児入場不可
コンサート情報 特設サイト:http://billboard-cc.com/classics/aska2019/
ASKA Official Site「Fellows」
https://www.fellows.tokyo/