淡く透明感のある歌詞世界と、きらびやかな轟音ギターが有機的に混じり合う。結成からおよそ6年、3ピースのロックバンドであるリーガルリリーの1stフルアルバム『bedtime story』が、遂にリリースされる。


タイトル通り本作には、母親が子供を夜寝かしつけるために読む物語のようなファンタジックかつピリリとエスプリの効いた歌詞が並んでいる。サウンド・プロダクションは、USグランジ~オルタナティヴ・ロックの影響を強く受けたこれまでの路線は健在ながら、シューゲイザー~ドリーム・ポップの要素を取り入れた楽曲もあり、ヴァラエティ豊かなアレンジや奥行きと広がりのある音像が印象的だ。昨年、新メンバーに加わった海による躍動感あふれるベースと、今作で初めてタッグを組むエンジニア采原史明の手腕ももちろん、本作の中で多大な貢献を果たしている。

年明けには中国のオルタナティヴ・ロックバンド、Chinese Footballと中国4都市を回ってきたばかりだというリーガルリリー。そのヴォーカル&ギターで全ての作詞作曲を手がけるたかはしほのかに、アルバム制作エピソードなど詳しく訊いた。

─年明けの中国ツアーはどうでしたか?

たかはし:ノリノリで楽しんでくれるお客さんが多かったです。「音」に対して自分を解放している姿に、演奏しているこちらも引っ張られましたね。今回、Chinese Footballの「NEW YEAR TOUR」に同行させてもらって、4都市でライブをやったんですよ。以前から私は彼らの大ファンで、2年前に来日したときは普通に客としてライブを観に行ってたんです。で、その時に買ったTシャツを自分たちのライブで着たら、ヴォーカルのXubo(徐波)さんが何かで知ってくれて。それで日本のライブにリーガルリリーを呼んでくれたことから交流が始まったんです。

─じゃあ、今回はゆっくり話す機会もあったのでは?

たかはし:そうなんです。
日本語も少し話せる人たちなので、いろんなことを教えてもらいました。やっぱり行ってみないとわからないことも多いですよね。中国って、行くまではちょっと閉鎖的というか……世界が一つの国だとしたら「もう一つの国」っていうイメージがあったんですよね。同世代の学生にしても、ちょっと怖そうなイメージがあったんですけど、会って話してみたら日本の若者と変わらないというか。むしろ、日本よりもエネルギーに満ち溢れているし、未来に対する自信もすごくあるのだなって思いました。

─そして今回、待望の1stフルアルバム『bedtime story』がリリースされますが、制作するにあたって何かコンセプトやテーマはありましたか?

たかはし:アルバムって、通して聴いていると飽きてしまうことって多いじゃないですか。なので、まるで1曲ずつ違うバンドが演奏しているような、バラエティ豊かなものにしたいなと思いました。全ての楽曲を並べてみたときに、まるで母親が子供を夜寝かしつける時に読む絵本みたいだなと思ったことから、『bedtime story』というタイトルにしました。

「言葉」の中に感じる「絵」

─ほのかさんのお母さんは図書館のボランティアで子供たちに「読み聞かせ」をしていたそうですね。その影響もありますか?

たかはし:家にはたくさんの絵本があって、そういう環境で育ってきたので影響はあると思います。それに、今もたまに子供の頃に読んでいた絵本を読み返すことがあって。それまで気づかなかった魅力を新たに発見すると、自分の成長を感じますね(笑)。
当時はダイレクトに心を動かされていたのが、今はシーンごとに自分のこれまでの人生をオーバーラップさせてしまうのでしょうね。生きていると、そんなふうに感動するポイントが変わってくるのは面白いなあって思います。

─ちなみに、大人になってから読んでも面白かった絵本というと?

たかはし:今ぱっと思いつくのは『どうぞのいす』。母親が何度も読んでくれていたので今も好きですね。小さい頃は絵柄の可愛さや、話の面白さに惹かれていただけだったのが、今読むと新しい魅力がどんどん出てきて。「まだまだ発見できそうだな」って思っている絵本なんです。子供の頃はまず「絵」に目が行きますけど、大人になるにつれて「言葉」の中に「絵」を感じるようになっていく気がします。

─絵本に書いてある文章は、ちょっとリズミカルで音楽的なものも多いですよね。

たかはし:そうなんです。母親が読み聞かせしてくれる時も、オノマトペの部分をリズミカルに読んでくれたのが、すごく楽しかった記憶があります。

─工藤千紘さんによる描き下ろしのジャケットも、何となく非現実的な、夢の中で出会った女性のような雰囲気が絵本っぽいなと。観る人の心の状態で、笑っているようにも悲しんでいるようにも、怒っているようにも見える気がします。


たかはし:実はこの絵、私たち3人の写真を合成して、それを基にして描いてくださったそうなんです

─そうだったんですか。

たかはし:子供のようでもあるし、大人でもあるようなタッチですよね。何歳なのか分からない感じも好きですし、目がとても印象的で吸い込まれるような魅力がありますよね。バンド名のリーガルリリーの「リリー」は一人の女性をイメージしているのですが、工藤さんだったら理想の「リリー」を描いてくださるんじゃないかなと思ってお願いしたんです。とても素敵に仕上げてくださって嬉しく思います。

─今作は、これまでのオルタナ色に加え、例えば「ベッドタウン」「GOLD TRAIN」「ハナヒカリ」などシューゲイザー~ドリーム・ポップ的な要素が加わりました。以前のインタビューで、ほのかさんは「最近シューゲイザーを好きになった」とおっしゃっていましたよね?

たかはし:以前からシューゲイザーは聴いていたのですが、例えばマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかは最初はあまり良さが分からなかったんです。でも最近マイブラを聴いた時に、「音を映像化させるってこういうことなんだ」と気づいて。音に対して五感全てを研ぎ澄ます大切さを、マイブラに教えてもらったんですよね。

マイブラとの出会いを経てのサウンド・プロダクション

─他に好きなシューゲイザー・バンドはいますか?

たかはし:私、「シューゲイザー」の正確な定義がわかってないかも知れないんですけど……ピンク・フロイドとかソニック・ユースはどうですか?

─どちらもシューゲイザーより前に登場したバンドですが、確実にシューゲイザーに影響は与えていると思います。

たかはし:じゃあ、シガーロスやジーザス&メリーチェインはどうでしょう(笑)。「ハナヒカリ」は、ジザメリの影響が結構あったと思うんです。


─なるほど。ギターもかなり重ねていますよね。奥行き感や広がり感も以前より増した気がします。個人的にはリーガルリリーのコード感からはピクシーズを、ギターの音色からはコクトー・ツインズを連想したのですが。

たかはし:ああ、両方とも影響受けていますね。あとは、ビョーク、ペイヴメント、デス・キャブ・フォー・キューティーとか。ブラーの『13』もよく聴きました。

─サウンド・プロダクションも今までとはかなり違うのでは?

たかはし:違いますね。メジャーデビューしてから音にこだわる時間も増えて、エンジニアの采原史明さん(凛として時雨クリープハイプきのこ帝国)に色々相談しながら音作りをしていきました。今までで最も「自分が出したかった音」に近づけたと思います。エフェクターも今まではファズとリヴァーブ、ディレイ、コーラスの4つしか使ってなかったのを、今回はファズもいろんな種類を試してみたりして。「こっちの方が音のヌケがいいから使ってみよう」みたいに、ファズの種類だけでも曲ごとに色々試してみました。


─今作で、個人的に特に好きなのは「GOLD TRAIN」なのですが、この曲はどうやって作ったのですか?

たかはし:元々はめちゃくちゃスロー・テンポの弾き語り曲を、テンポを上げてバンド・アレンジにしたらカッコ良さそうだなと思ったのですが、仕上がるまでに一番時間がかかりました。速くなると、なんていうか「普通の曲」になってしまうんですよ。コード進行もあまり変化しないから凡庸に聞こえてしまい、それなら最初のバージョン通りにゆっくりの曲にして、歌詞と雰囲気を聞かせた方がいいんじゃないかと思ってゆっくりにしてみたんですけど、それはちょっと「逃げ」なんじゃないかと(笑)。最終的には曲の途中でリズムを半分にしてみるなど、展開に緩急をつけたらカッコよくなったので良かったです。

─曲を作る時によく映像を思い浮かべるそうですが、この曲にはどんな映像が浮かんでいましたか?

たかはし:私は以前、川沿いに住んでいて、川へ行ってアコギで弾き語りをしていたんです。川の上には電車が渡る橋があり、夜になると漏れた光が川に移って、それが光の線のようになっていたのを見たときに「GOLD TRAIN」というタイトルが思いついて。その綺麗な光の線には、サラリーマンの「ため息」が充満していたり(笑)、これから好きな人に会いにいく誰かの「ワクワク」が詰まっていたり、いろんな感情が含まれているのは素敵だなと思ったことから曲作りが始まりました。

─この曲はミュージックビデオも最高ですよね。夕暮れ時の、ほんの束の間の美しい瞬間が見事に切り取られていて。

たかはし:いや、すごいですよね! ディレクターの中山佳香さんは私と年が近くて、途中で水たまりに映った私たちが反転するところ、すごくカッコよかったです。

言葉に合わせてメロディが動いている

─リーガルリリーの楽曲って、ひょっとして歌詞から先に書いていることが多いんじゃないかなと思ったんです。特にAメロの譜割がリフレインにはなっていなくて、言葉に合わせてメロディが動いている。
そこが、いい意味で「洋楽っぽい」と感じるのかなと。

たかはし:ああ、確かに! 今作は歌詞から書いている曲が多い気がします。まさにAメロは歌詞から作っていますね。英語は日本語に比べてなんでもメロディにしやすい気がして、「羨ましいな」と思う時もあります(笑)。

─その歌詞についてもお聞きします。映画『惡の華』主題歌として書き下ろした「ハナヒカリ」の中の、”飛び交った戦闘機”や”戦前の兵隊さん”というフレーズをはじめ、「そらめカナ」の”爆心地”、「林檎の花束」の”前線”、「1997」の”催涙弾”など、戦争を想起させる表現が頻繁に使われています。

たかはし:単に戦争に対して「反対」とか「賛成」とかそういうことを訴えたいのではなく、近くの大切な人が、怖い場所へ向かわないでほしいという気持ちを言葉にしたかったんです。そうやってみんなに大切な人がいて、それだけで幸せだと、それ以上のことは望まないと思えたら、戦争なんて起きないはずなのになって。

─そういう思いは、小さい頃から戦争の絵本を読んでもらったことも影響していますか?

たかはし:していると思います。例えば、どれだけ怖い「おばけ」の本を読んでも、「怖いなあ」とは思わなかったんですよ。子供ながらに脅かそうとしているのが見えてしまったというか。でも戦争の本は、悲しいし怖いし、そういう感情を一番強く揺さぶられたので。それがずっと今も残っているのだと思います。

─ちなみに「ハナヒカリ」という言葉は、ほのかさんの造語ですか?

たかはし:そうです。私の中では花火をイメージしていて。花火っていわば爆弾の一種なのに、綺麗な花を咲かせるっていう。そこが「惡の華」のタイトルと通じるなと思って付けました。

─「そらめカナ」で描かれている歌詞の世界観は、こうの史代さんの漫画『この世界の片隅に』にも通じる気がしました。こうのさんの作品も、「戦争反対」を声高に訴えるのではなく戦争中に人々がどんな暮らしをしていたかを描くことで、読み手が戦争について考察を深めるきっかけを与えてくれていますよね。

たかはし:うん、まさにそうですね。実は3日くらい前に『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観に行ったんです。やはり、とてもいい作品でした。

─いつも歌詞はどのように思いつくのですか?

たかはし:考えながら組み立てていくのではなくて、自分の心の一番上にある感情をそのまま貼り付けていくというか。最初に絵を思い浮かべて、それについて湧き出る感情をうわーって書いていくだけなので、それで抽象的になっちゃうのかなと思っています。言葉どうしの辻褄を合わせようとはせず、聴き手の解釈に任せている部分が多いんですよね。

─「嬉しい」「悲しい」と言った言葉の間にあるような、うまく言葉にできない感情を、歌詞とメロディを組み合わせることで表現しているというか。

たかはし:はい、そうだと思います。

「キツネの嫁入り」の由来

─それと、「キツネの嫁入り」では”全部忘れた 失くした”とか、「子守唄のセットリスト」では”忘れものをしてる 失くしものをしてる”など、ほのかさんの歌詞には「失くしもの」「落としもの」というワードがよく出てくるなと思いました。

たかはし:多いですね(笑)。私、本当に失くしものや落としものをしてしまうんですよ。前にあったこととかもすぐ忘れてしまう。だから音楽を作って覚えておこうとしているのかもしれない。日記を書こうとするといつも三日坊主になってしまうのに、なぜか曲作りだけは続いているので。

─曲作りが、日記や備忘録の代わりになっているのかもしれないですね。

たかはし:そう思います。忘れたり失くしたりすることが生活の一部になっているので(笑)、それと共生していくための手段の一つになっているんでしょうね。小さい頃からよく自作の曲を口ずさむなどしていたし、曲作りも生活の一部というか。それを職業にして、お金をもらっている人が世の中にいることを知ってからは(笑)、自然と音楽の道を志すようになっていました。歌詞やメロディの断片みたいなものは、今も毎日思い浮かんでいるので、普段はそれをストックしておいて、本格的にレコーディングに取り掛かるようなった時に、引っ張り出して仕上げるという感じでやっています。

─「1997」は、ほのかさんの生まれた年のことですよね。”私は私の世界の実験台 唯一許された人”というラインには、どんな気持ちを込めましたか?

たかはし:「実験」って、ものすごく保険を掛けて安全に行う場合もあれば、危険を顧みず思い切って大胆にやる場合もありますよね。あるいはダイナマイトのように、人々のためを思って行われた善意の実験が悪用される場合もありますよね。いろんな実験があると思うんですけど、私は私の「実験」を人生でするしかないんだなって。

─「人生は実験だ」という人もいますよね。

たかはし:そう思えば、気持ちも楽になるんじゃないかなって。今まで私、ずっとボーッと生きてきたので、自分のやっていることは何なんだろうと悩んでしまったこともあって。私のためにやっているのか、他人のためにやっているのかをぐるぐる考えていたら、この曲のテーマに行き着いたんです。

─ちなみに、「キツネの嫁入り」というタイトルの由来は?

たかはし:これ、実話なんですよ(笑)。救急車のサイレンを聴くと思い出してしまう実体験についての曲なんですけど、スタジオに入ってプリプロをしていたとき、”晴れた月曜日の救急車のサイレンを聞いて”の部分を歌っていたら近くにほんとに救急車がやってきて。「これはもう、(サイレンの音を)録って入れちゃおうと。しかもそのサイレンと、曲のキーまでピッタリ合っちゃったんですよね。

─そんな偶然あります?(笑)

たかはし:ほんと不思議ですよね。これはキツネの仕業なのかなあと思って「キツネの嫁入り」という名前にしました(笑)。なんか、忘れるために作ったというか。嫌な思い出を、面白おかしく昇華したい気持ちもありましたね。

─「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というチャップリンの名言もありますしね。曲にすることは、ある意味「供養」なのかもしれないなって聞いていて思いました。

たかはし:あ、いいですね。確かに「供養」かもしれない。今回、アルバム用にたくさん曲を作って、また新たなライブの見せ方も考えられそうだし、次に作る曲の幅も広がっていきそうなので、それがとても楽しみです。

<INFORMATION>

リーガルリリー、言葉とメロディが生み出す「魔法」の秘密

『bedtime story』
リーガルリリー
Ki/oon Music
2月5日発売

<収録楽曲>
1. ベッドタウン
2. GOLDTRAIN
3. 1997
4. 林檎の花束
5. キツネの嫁入り
6. そらめカナ
7. ハナヒカリ
8. 猫のギター
9. まわるよ
10. 子守唄のセットリスト
11. ハンシー
12. bedtime story

リーガルリリー 2020年全国ツアー
リーガルリリーpresents「bedtime story」

2020年3月1日(日) 札幌ベッシーホール
2020年3月6日(金) 金沢vanvan V4
2020年3月7日(土) 新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2020年3月14日(土) 広島セカンドクラッチ
2020年3月15日(日) 福岡BEAT STATION
2020年3月19日(木) 仙台enn 2nd
2020年3月27日(金) 名古屋CLUB QUATTRO
2020年3月28日(土) 梅田CLUB QUATTRO
2020年4月3日(金) 高松DIME
2020年4月8日(水) マイナビBLITZ赤坂
http://www.office-augusta.com/regallily/
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