2020年2月11日(火・祝)東京・恵比寿LIQUIDROOMにて、ポスト・ハードコアの重鎮envyが新アルバム『The Fallen Crimson』のリリースを記念して、ワンマンライブを開催した。

結成から25年目を迎えるenvy。
ここ数年間はバンドにとって大きな変化の期間だった。2016年にバンドのフロントマンであった深川哲也(Vo.)が脱退。翌々年の2018年2月には飛田雅弘(Gt.)と関大陸(Dr.)が脱退するも、同年4月に深川がバンドに復帰する。9mm Parabellum Bullet滝善充(Gt.)とkillieのyOshi(Gt.)、heaven in her armsの渡部宏生(Dr.)をサポートメンバーに加え6人体制として再出発を切った。そんな新体制初となるアルバムが、2020年2月7日(金)に発売された今作『The Fallen Crimson』だ。

新アルバムのレコ発を兼ねたワンマンライブ。過去体勢を想うファンも多い中、この日は新たに完成させた6人のenvyを見せつけるという点で最良のステージとなった。本記事では、そんな本公演をレポートする。

新アルバム『The Fallen Crimson』を改めて聴きながら会場に向かう。envyの再出発を象徴する1枚となった今作は、意外にもポスト・ハードコアというジャンルにenvyらしく真っ正面からぶつかった作品だ。過去曲と比べるのは野暮かもしれないが、やはり新体制が生み出すサウンド面の変化を感じる。ゲストボーカルを迎えたり、ボコーダーを取り入れるなど新たな挑戦もおこなわれている。
深川哲也が叫ぶ歌詞に焦点を合わせると、過去作に比べ希望を歌う曲が増えたようだ。それは、envyの再出発という未来に向かっていく姿勢にも現れているのかもしれない。

そんなことを考えながら東京・恵比寿LIQUIDROOMの会場に入る。ステージ正面にはドロップに書かれた「envy」の文字がライトに照らされゆらゆらと光っていた。18時45分、観客で一杯になった会場にSEが流れると、滝善充、中川学、渡部宏生、yOshi、河合信賢が登場。ギターのアルペジオが轟音に変わると同時に、深川哲也が登場した。期待の1曲目は、新アルバムの1曲目を飾る「Statement of freedom」。一発で分かる轟音の多層的な音像。不思議と細部まで聴き取ることができるトリプル・ギターが作り出す音の壁が全身に迫り、感情溢れる深川のシャウトが脳に突き刺さる。

そして、アルバムの曲順のまま、「Swaying leaves and scattering breath」「A faint new world」へと続く。時にポエトリーに、時にメロディアスに曲は移ろいつつ、ジャンルレスな物語を紡いでいく。轟音に身を委ねながら、その中の1人1人の演奏に集中すると、そのどれもがサウンドの構成の重要なパートを担っていることに気がつく。
先ほど述べた3人の表情豊かなギター。それをまとめ上げる中川の存在感のあるベース。轟音の推進力となっている渡部のアグレッシブなドラム。その世界を指揮するかのように伸びやかな身体表現でシャウトを生み出す深川。6人は曲が進むにつれ荒れ狂う速度を増し、空気を切り裂くような演奏へと変化していく。

本作から使われることになったボコーダーもサウンドのアクセントとして曲を彩る。4曲目「Footsteps in the Distance」では、曲の最後に深川が<ただ1つ救いがあるなら、僕はここに戻るよ>と語る。その言葉が、ここでは深川の復帰を意味しているようだ。観客の歓声に呼応するように新アルバムの中でも激しい「Marginalized Thread」へ。フロア前ではモッシュが起きるほどの熱狂。確実に轟音の中に観客の叫び声が集結していく。”エモーショナル”という言葉では足りないほどの感情の渦がそこにはあった。


そこから、2006年発売『Imsomniac doze』収録の「Scene」へと展開すると、そのまま速度を増して新アルバムの「Fingerprint Mark」、2001年発売『君の靴と未来』から「Left Hand」へ。新旧入り混じった構成が自然に思えるほど、この日のライブは一本の筋が通ったように完成していた。曲が終わり拍手の中、深川がMCをおこなった。

深川「どうもありがとう。先週ようやく1年間かけたアルバムができました。去年の10月くらいには録り終わっていたんですけど、タイミングもあってやっとリリースできました。どうでしたか? 今までとは勝手が違う中で、新しく3人に入ってもらって。自分にとっては何もかもが新鮮で、負担もかなり軽減されました。でも、その分3人の負担も多かったと思うんですけど。とにかく、いいアルバムができたと思います。まだまだやりたいことがあるので、もう少しだけ時間を貸してください。」

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そんなMCから、再び演奏へと戻る。envyの作り出す美しさは、時にシューゲイザーのような美しさを生む時がある。
まさに、「Worn heels and the hands we hold」ではそのような優美な空間から、気がつけば轟音の渦へと変化していくそのストーリーにのめり込んだ。<今日を精一杯駆け抜ける君に 鼓動刻む明日は来る>そんな歌詞を叫ぶ深川のシルエットが淡い光に照らされ浮かび上がる。

曲間には、河合がマイクを通さず「うまく言えないっすけど、感謝してます! ありがとう!」と叫ぶと、彼に大きな拍手と歓声が贈られた。そこから、「Go Mad and Mark」で”静と動”の焼き付くようなコントラストを見せつけると、雨の音や自転車のかけていく日本の原風景が思い出されるような音が会場を包み、新アルバムの「Hikari」へ。この楽曲は、アルバムの中で唯一の日本語タイトルがついた曲だ。”Light”ではなく”Hikari”と題して表現したかったものは何であろうか。

気がつけばもうライブも終盤。「Dawn and Gaze」を披露し、深川が「envyの道がこれからも続きますように」と呟くと、本編ラストは新アルバムの最後を飾る「A Step in the Morning Glow」へ。改めて、朝焼けのような光に6人のシルエットが浮かび上がるライティングとステージの絵作りに目を奪われた。演奏を終えた6人がステージを降りると、鳴り止まない拍手はすぐにアンコールへと変わった。

再び6人が姿を表すと、新アルバムにゲストボーカルとして参加したRopesのAchikoが登場し、「Rhythm」を披露。彼女の透き通るような歌声とともに、楽曲は別次元の美しさへ。
この日7人で披露したのは1曲だけであったが、その大きな可能性に観客は目が釘付けになっていた。

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そこから、「A Warm Room」でさらにもう一段階ギアをあげたかと思うと、全てを焼き尽くすかのような「Farewell to Words」。観客も共鳴しこの日一番の盛り上がりを見せ、本公演は終了した。

新アルバム『The Fallen Crimson』単体の良さを表現するだけではなく、過去曲とうまく重ねることで、envyの新たな姿を見せつけられるようなライブであった。25年の歴史のその先に期待が高まる。

Photo by Yoshiharu Ota

<開催概要>

envy
LAST WISH ”THE FALLEN CRIMSON” release oneman show

開催日:2020年2月11日(火・祝)
会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM

=セットリスト=
SE. Zero
01. Statement of freedom
02. Swaying leaves and Scattering breath
03. A faint new world
04. Footsteps in the distance
05. Marginalized thread
06. Scene
07. Fingerprint mark
08. Left hand
09. Worn heels and the hands we hold
10. Go mad and mark
11. HIKARI
12. Dawn and gaze
13. A step in the morning glow
-en-
14.Rhythm
15.A warm room
16.Farewell to Words
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