ソロデビューから10年目までの歩み
ー2011年にソロデビューしてから現在まで、LiSAさんの10年は「進化」の連続だったと思うんですよね。疾走感のあるキャッチーなポップロック、重厚かつドラマティックなロックなど、進化前の姿をどこかに残しつつパワーアップしてきたというか。
LiSA:私は(LiSAとして)デビューする前から、自分のなかでずっと好きな音楽があるんですよね。そこからアニメと寄り添い、お客さんたちと楽しみながら、「これを楽しんでくれるんだ。じゃあ、次はこういう味でどう?」っていうふうに、自分の好きな音楽を少しずつ色濃くして、味を足してきた感じがします。
ー改めて全タイトルを聴き直してきたんですけど、サウンドの振れ幅は広いのに、どの作品にもLiSAさんの遺伝子がしっかり感じられたんですよ。
LiSA:自分自身はバンドの音楽がすごく好きで、そういう生き方を夢見てきたんですけど、結果的に受け入れてもらったのはソロとしての私だった。そのことが自分の個性に繋がっていると思っていて。表向きは白だけど、反対を向いたら赤、みたいな感じでいろんなカラーを出せるし、いろんな人と交わることもできる。それがソロの醍醐味ですよね。そういう意味で、好きな人たちと関わりながら音楽を作らせてもらったのはありがたかったです。
ー多くのアーティストと交わりながら、自分の可能性を引き出すことができた。
LiSA:そうですね。しかも、尊敬している人ばかり。SiMのMAHさん、TOTALFAT、PABLOさん……彼らのような音楽は作れないし、あそこまで説得力のある演奏もできない。じゃあ直接お願いしよう、みたいな。そこから信頼関係を築いてこれたのは自信にも繋がりましたし、そのおかげで活動を続けられている気がします。
ーもっと俯瞰してみると、LiSAさんが「進化」を重ねる一方で、アニソンの世界でもたくさんの変化があったと思います。
LiSA:ただ、最初はアニソンのことを大して知らなかったんですよね。『キテレツ大百科』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『セーラームーン』の主題歌とか、『るろうに剣心』の曲をジュディマリが歌ってたなとか。その程度でした。
ーソロデビューするタイミングで、そういう世界があると知ったわけですか。
LiSA:私が最初にやらせてもらったのは劇中ソングですけど(『Angel Beats!』の作中バンド、Girls Dead Monsterのユイ役の歌唱パートを担当)、そういうものがあるのも知らなかったくらい。
ーアニソンのライブイベントにも行ったりするようになって。
LiSA:そうですね。お客さんの前で自信をもって歌えるようになりたかったので、「私のほうが愛してるわ」って言えるくらい、いろんなアニメを見て勉強しました。
ーもともとはバンド界隈で音楽をやってきたわけじゃないですか。そこからアニメの世界に飛び込むのはどんな心境でしたか?
LiSA:最初は不安でした。私みたいにアニメを深く知らない人間が携わっていいのかなって。でも、アニメを制作しているスタッフの方々が「この作品を作るのが夢でした!」と話しているのを見て、私はこの人たちの愛情を背負って歌うんだな、ひよってる場合じゃないと。しかも、まだ私はデビュー前だったのに、(ライブで)大勢のお客さんが待ってくれていて。
ーアニソンについては白紙に近い状態でのデビューだったけど、作品に携わる方々の情熱を知って使命感が生まれ、そこから約10年間の活動を通じてアニソンの魅力を発信してきた。そう考えるとユニークな歩みですね。
LiSA:アニソンの好きなところは、主題歌をずっと聴いてるうちに、(相乗効果で)その曲だけじゃなく作品全体まで好きになるところ。その連帯感がいいなって思うし、自分が歌ううえでも大切だと思います。だからLiSAというアーティストとしての表現と同じくらい、自分が歌うアニメにも愛情を注いで歌ってきた結果、作品とともに曲も愛してもらえるようになったと思います。
アニソン界におけるジャンル越境、ロックシーンと結びつける試み
ーバンド界隈にいた立場から、アニソン独自のマナーで悩んだりしたこともありましたか?
LiSA:というよりは、ロックが好きな人たちが扉を開いてくれるまで時間がかかった印象ですね。「放っておいて」と思われてたかもしれないけど、アニソン側のお客さんは最高だし、ロック側にも素晴らしいライブをする人たちがたくさんいる。ここは絶対に相性よさそうだなって。そうやって企んでる身としては、ちょっと歯がゆい部分もありました。
ーバンドマンの熱い演奏と、ピュアなアニメ好きの熱狂ぶりをジョイントさせるというか。
LiSA:ジャンルで分断されてるのがもったいないと思ったんですよ。ある意味、どちらも閉じこもっている空間だったので。でも、お互い突ついたら絶対に好きになりそうな確信があったんです。どちらの魂も好きな私としては、友人を見るみたいに「このふたり、絶対に仲良くなると思うんだけどなー」って感じでしたね。
ーそこから少しずつ距離を縮めていったわけですね。
LiSA:すごく地道にやってきましたけど、おかげで少しずつ信頼してもらえた気がします。10年ずっと貫いてきたからこそ、仲間に入れてもらえたのかなって。
ー今だから「認められた」という手応えもあるわけで、はじめのほうは悔しい経験もされたのでは。
LiSA:ありますね。初めてのシングル(2011年の「oath sign」)をOPテーマに起用してくださった『Fate/Zero』は、そこに信頼関係を築いてきたアーティストさんではなく、何も知らない私が関わるとなって、「なんでLiSAなの?」ってたくさん言われました。
ー紅白に選ばれるほどになった今でも、新しい舞台はアウェイに感じてしまう?
LiSA:そうですね。ロックフェスに出させてもらうときもそうだし、例えばMAHさんが曲を書いてくれるときも、お客さんはきっと「なんで関わるの?」みたいな気持ちだったと思う。そこはもう、納得してもらえる作品を作るしかないですよね。いつかわかってもらえるように誠実に作っていこうと。
ーそのポジティブさの原動力ってなんですか。
LiSA:私にチャンスをくれた人の顔に泥を塗りたくないし、チケットを買ってくれた人を後悔させたくない。でも一番はやっぱり、必要としてもらえたり、自分を信じてもらえることが嬉しかったんだと思います。
ー自分にとって、この約10年で変わらなかったものってなんだと思いますか?
LiSA:その時その時に、自分のできる全部を注ぐってことですね。作品に対してもそうだし、ライブでもそう。
ー目の前のものに全身全霊で挑む、と。
LiSA:blink-182のトラヴィス・バーカーが言ってた、「Live Fast, Die Fun」って発言がすごく印象的で。

Photo by Kentaro Kambe
ー10代のときに見聞きしたものの影響は大きいですか。
LiSA:ELLEGARDENもずっと好きで。細美(武士)さんこそロックスターだと思っていたし、前を歩いてきた人たちが精一杯を注いでくれたから、私たちみたいな下の世代が育ってこれたと思ってるので。同世代のフォーリミ(04 Limited Sazabys)、SiM、coldrainみたいに、横に並んで頑張っている人たちを見ても、その血を裏切らず、しっかり受け継いで活動している人たちがの音楽しか届かないんだなーって。そう思うと今は、自分が見てきたものが嘘じゃなかったなって感覚があります。
声優アーティストの大躍進、10年間のピークタイム
ーアニソンに話を戻すと、2010年代は声優の躍進が目立った印象です。
LiSA:私がデビューした頃にはすでに盛り上がっていましたね。もっと前からそういう流れはあったのかもしれないけど、自分が知ってる範囲でも水樹奈々さんが声優としてもアーティストとしても活躍していたし、花澤香菜さん、戸松遥さん、sphereなどもそうですよね。作品に対する敬意とか感謝の気持ちも強いですし、声優というのは役者なわけで、みなさん表現力にも秀でている。それにもちろん、心地いい声を持っている。声のプロが歌うだなんて、聴きたいに決まってますよね。
ーそういう声優さんの活躍もありつつ、LiSAさんがアニソンの枠を超えた活躍をしているように、ジャンルの外側まで活動が広がっていったアーティストもいますよね。同志じゃないですけど、そういった点で共感する人はいますか?
LiSA:まずはMaynちゃん。私よりは活動歴は先輩ですけど、多くを切り拓いてきた人ですよね。エイルちゃん(藍井エイル)もデビュー時期は私と近いんですけど、番組で一緒になったりすることも多くて。みんなで一緒にシーンを作ってきた感覚があります。
ーバンドでも、そういうシーンってありますよね。
LiSA:みんなで戦ってる人がいるほうが全体的なレベルが上がるというか。ヒーローが一人だけだと全然盛り上がらないもので、競争心って大切なんだなって思いました。ずっと先を一人で走っていると、置いていかれてるのか先を走っているのかわからなくなりそうじゃないですか。でも、同時期にいろんな人がいると、みんなで個性や得意技を競うことができる。それはお客さんもそうかもしれないですね。キャラソンのなかでも「○○単推し」とか「箱推し」とかいろいろあるんですけど、みんなすごく誠実だなって思います。それだけ同じシーンのなかで、魅力的なコンテンツがたくさんあったんじゃないかな。
ーこの10年間で、そのシーンが特に盛り上がってると思ったのはいつですか?
LiSA:一番そう感じたのは、μsが「紅白」に出てドーム公演をやったとき(2015年)。意識しなくても(情報が)目に入ってきたし、キャラソンというひとつのコンテンツがドームという到達点まで辿り着いたんだなって。キャラソンはたしかに盛り上がっていたけど、そんな一気に行くんだって。あの年の年末はすごかったですよね。キャラソンが突然テレビで流れるようになって、社会現象っぽくなってましたよね。
LiSAが選ぶ、2010年代を象徴するアニソン
ーここからは、LiSAさんに選んでいただいた「2010年代を象徴するアニソン」について聞かせてください。
LiSA:さっきも話したように、私にとってキャラソンの衝撃は大きくて。最初の3つはキャラクターが歌ってる主題歌を選ばせてもらいました。
ー1曲目は「READY!!」。アニメ版『アイマス』のOPテーマですよね。
LiSA:最初に話したようにアニメは詳しくなかったんですけど、ゲームの『アイマス』にはめちゃくちゃハマって。私もプロデューサーさんだったんです。だから、ゲームで育てていたアイドルがアニメになって、その子たちが目の前で歌って踊ってる……「はぁ~~~!」みたいな(笑)。アニメもすごく面白かったし、「READY!!」は振り付けも含めてすごく好きです。まず曲がいい。
ーすごくキャッチーですよね。
LiSA:私はアイドルもすごく好きで。なかでもハロプロが大好きなんです。特にあやや(松浦亜弥)が好きで、この曲は少しあやや的な楽曲を、自分が育てたアイドルたちが歌ってくれるみたいな感じ。私が作った曲じゃないのに、つんく♂さんみたいな気持ちになっちゃって(笑)。だから余計に思い入れがありましたね。アイドルマスターさんとコラボさせていただいたこともあるんですけど、(振り付けを)完璧に踊りました(笑)。

「READY!!」
765PRO ALLSTARS
『THE IDOLM@STER ANIM@TION MASTER』OPテーマ(2011年)
ー次は「Stand Up!!!!」、『てさぐれ!部活もの』のOP曲です。
LiSA:この曲は岡崎体育さん「MUSIC VIDEO」のアニメOPバージョンみたいな感じ。「カメラが下からグイッとパンして」みたいな、アニメのオープニングでよくある映像やシーンを詰め込んでましたよね。こんなことやっていいんだって(笑)。これはやっぱり、作品と楽曲がリンクしていないとできないなって。曲もめっちゃハマってましたし、キャラクターたちが歌ってるのも素敵でした。
ー歌詞もメタ構造だし、曲調がコロコロ変わっていくのも特徴的ですよね。ヒャダインさんの曲みたいなぶっ飛んでる感じ。
LiSA:ずっと踊り続けられるテンポとビート感ですよね。「アニソン」と聞いて真っ先に浮かぶ曲かもしれないです。ポップで展開がいっぱいあって、女性声優さんの甲高い声で歌っている……というか喋っている、みたいな。こういう感じが私にとってアニソンのイメージ。言葉遊びが楽しい曲も多いですよね。音楽っていうより(歌詞の)音を楽しむ感じ。聴いていると元気になってくる。

「Stand Up!!!!」
鈴木結愛(西明日香)
佐藤陽菜(明坂聡美)
高橋葵(荻野可鈴)
田中心春(大橋彩香)
『てさぐれ!部活もの』
OPテーマ(2013年)
※『てさぐれ! 部活もの関連曲集「てさぐれ! 歌もの」』収録
ー3曲目は「ぐだぐだいってんじゃねえ!」。
LiSA:『gdgd妖精s』という作品がまず好きで。少し前に『ポプテピピック』がバズってましたけど、あれに近いタイプのアニメというか。声優さんがそのキャラの声でバラエティ番組をやってるみたいに、その場でアドリブをやってる空気感がすごい伝わってきて。そういう作品の雰囲気と「ぐだぐだいってんじゃねえ!」っていう、ちょっと性格悪そうな女の子が可愛く歌ってる感じが作品に合っていて、とっても好きですね。

「ぐだぐだ言ってんじゃねえ!」
gdgd妖精s
『gdgd妖精s』OPテーマ
(2011年)
※『おいでよ!妖精の森』収録
ー4曲目はUNISON SQUARE GARDENの「オリオンをなぞる」。彼らが2019年に発表したトリビュートアルバム『Thank you, ROCK BANDS!』でLiSAさんがカバーしていた曲ですよね。
LiSA:私自身、田淵(智也)先輩からアニソンを学んでいて。一緒に制作するうえで勉強になることが本当に多いんです。彼自身も曲を作り込んでいて、アニメがすごく好きなんだろうなって思うし。その一方で、UNISONというバンドも守らなくちゃいけないから、リーダーとしての責任感もあるんですよね。「オリオンをなぞる」は『TIGER & BUNNY』という作品にちゃんと寄り添いつつ、UNISONのファンにも愛されている。まさに私の目指しているところで、どちらのファンにも応えているのがすごいなって。

「オリオンをなぞる」
UNISON SQUARE GARDEN
『TIGER & BUNNY』OPテーマ(2011年)
ー最後はフジファブリックの「徒然モノクローム」です。
LiSA:志村正彦さんが亡くなったあと、バンドが3人編成になったあとの曲ですけど、『つり球』のキャラクターの名前がサビに全部入ってるんですよ。そこに作品への愛情も感じつつ、バンドの再スタートに対する意気込みとか、それまでのフジファブリックを好きだった人を置いていかないって気持ちが、音や言葉からすごく伝わってきて。ただ作品にあてがわれたのか、本人たちの愛情がしっかり注がれているのかは、曲を聴けばすぐにわかるので。私はその人たちの姿勢が伝わってくる楽曲がすごく好きだし、自分自身もそういうアーティストでありたいなって思います。

「徒然モノクローム」
フジファブリック
『つり球』OPテーマ(2012年)
※アニメ盤ジャケ
ー最後に、次の10年にはどんな未来を期待していますか?
LiSA:まだ叶えたいことがいっぱいあるので、まだまだ守りではなく攻めていきたいですね。あとは、みんなと毎日楽しんでいけるような形で音楽を続けていきたい。一時の伝説じゃなくて、ずっと一緒に生き続けていけるような音楽活動を送っていけたらと思います。あとは、子どもたちが信じているものを、大人がしっかりサポートしていけるような世の中にしていきたいです。
LiSAが選ぶ、2010年代を象徴する曲
「Let it Go」
映画『アナと雪の女王』主題歌
アニソンを歌っていて快感なのは、難しい曲を歌いこなしているとき。攻略してる感じと言いますか。そこは子どもの頃から変わってなくて、みんなが「難しい」「高い」「歌えない」って言ってるものを平気で歌ってる自分が楽しくて、MISIAさんや小柳ゆきさんの曲を歌ったりしてたんですけど、最近はそういう曲がそんなになかった。そのなかで見つけたのが「Let It Go」で、「これは英語を覚えて歌いたい!」と思って、速攻で映画館で2回観ました(笑)。
「This is Me」
映画『グレイテスト・ショーマン』主題歌
『君の名は。』を観たときも思いましたけど、やっぱり作品と一緒に作られた音楽って強いんですよ。「This is Me」もそう。(劇中の)どういうシーンで、どういうタイミングで流れるのか、念入りに話し合って生まれた音楽っていうのはすごく強い。
「私の世界」
TVドラマ『泣くな、はらちゃん』挿入歌
麻生久美子さんが大好きで、なかでも『泣くな、はらちゃん』での役はお気に入り。世界を斜めから見ているタイプの主人公で、そんな彼女が本心を歌ったのがこの曲。”だからお願い 関わらないで 私のことは ほっといて”っていうフレーズが印象的で、こういうのを歌にしてもいいんだなって。華原朋美さんが「あきらめましょう」という曲で”リセットしましょう パッパパラッパ”と歌っていたのもそうだけど、誰もが心のなかに秘めた本音を歌ってる曲、自分の心を許してくれる曲に出会えるとスッキリしますよね。

Photo by Kentaro Kambe
LiSA
岐阜県出身。『ソードアート・オンライン』など数々の人気アニメ主題歌を担当し、国内外でヒットを記録。2018年には初のベストアルバム『LiSA BEST -Day-』『LiSA BEST -Way-』を2タイトル同時リリース、オリコンウィークリー1位・2位を独占。圧倒的な熱量を持つパフォーマンスとポジティブなメッセージを軸としたライブが人気を博し、アニソンシーンだけでなく数多くのロックフェスでも活躍するライブアーティストとして、その存在感を示している。2019年末に「第70回NHK紅白歌合戦」初出場を果たす。最新シングルは「unlasting」。
https://www.lxixsxa.com/
Edited by Toshiya Oguma