メジャーデビューから約3年半、6枚目となるシングルでの快挙である。
【動画】チャート首位を獲得したPassCode「STARRY SKY」ミュージックビデオ
それにしても、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。筆者が4年以上前に下北沢シェルターで観たライブでは、観客がステージに背を向けて自分たちだけで盛り上がっているという異様な光景が広がっていた。それはそれで熱気があったが、「メンバーはこんな景色が見たいわけではないんだろうな」と思った。それが今は、新木場Studio Coastを2日間完全ソールドアウトするまでに成長。もちろん、今はファン全員がステージに向けて拳を突き上げている。
しかし、メンバーは全く慢心していないどころか、危機感すら抱いている。今日からお届けするメンバーの個人インタビューを読んでもらえればわかるように、4人それぞれが様々な思いを抱きながらもがき続けているのだ。
今回のインタビューは「STARRY SKY」1位獲得のニュースで彼女たちの存在を知った人たちにとっては少々突っ込んだ内容になっているが、道なき道を泥臭く這いつくばりながら進んでいく4人の人となりが少しでも伝わったらうれしい。
インタビューの先陣を切るのは、ライブでも切り込み隊長を務める南菜生。グループのスポークスウーマン的な役割を担うことが多く、PassCodeの精神的支柱でもある彼女の脳内には、日々様々な思考が行き交っている。
―先日、インスタライブで僕とコラボ配信をさせていただきましたけど、配信が終わったあとにふと、「よくあんな唐突に始められたな」と思って。
よかったですよね。深夜だからこそ、いい雰囲気でいろいろ話せてよかったと思ってます。
―でも、ああいう配信ってアーティストによっては事務所に確認が必要なケースもあると思うんですよ。だけどやちいさん(南の愛称)の場合、ああやって突発的に始めても許される環境が整っているのか、やちいさんがスタッフから信用されているのかはわからないですけど、少なくともチーム内の人間関係が良好なんだなと感じました。
すごくいい環境でやらせてもらえてると思ってます。もしダメって言われても、やりたい理由を説明したらわかってもらえると思ってるので、信頼関係はしっかりしてると思います。
―それって徐々に構築されたものなんですか。
わりと昔から勝手にやらせてもらってるというか。いろんな発言にしても自己判断でやらせてもらうことが多くて、ダメなことはもちろんダメって言われるし、いいことなら「よかったよ」って言ってもらえるし、先にスタッフに確認するよりも自分の判断で動くほうがいいと思ったときは勝手にやったりします。
自粛期間中の過ごし方
―なるほどね(笑)。ところで、この自粛期間はどういうふうに過ごしてますか。
もともと趣味と言えるようなものがなかったので、ギター弾いたり、料理したり、絵を描いたり、これまでは趣味にもならなかったようなことにちゃんと取り組んでます。もしかしたらPassCodeの活動にも活かせるかもしれないし。
―最近、ゲスト出演したラジオ番組では「ゴロゴロしてる」なんて話してましたけど、実はダンスの練習も相当やっていたんですよね。
そうですね(笑)。ライブがあるときは、セットリストを決めてからそれに合わせて練習したりするんですけど、ライブがないと当然セットリストもないから、やることが無限になってしまうんですよ。だからやってもやっても終わらなくて、踊りすぎて足の裏に水ぶくれができてしばらく踊れませんでした。
―以前は、ダンスしている姿をSNS等でそんなに見せたがらない印象があったんですけど、最近はそんなことないですよね。
うーん、見せたいかと言われると見せたくはないんですけど(笑)、踊ることに対して苦手意識がなくなったというか……。ダンスはもともと嫌いだったんですよ。
―去年、YouTuberセゴリータ三世のチャンネルに出演したとき、実は「踊ってみた」動画にNGを出してましたよね。
ああ、「踊ってみた」になるとまた話が別って感じがするんですよね。自分がやりたい/やりたくないというよりも、PassCodeの見え方的に「○○してみた」っていうのは違うかなと思って。もっと違う形で見せるのはあるかもしれへんけど、全員揃ってダンスする姿を平面的に見せるかどうかは今の時点ではまだわからないです。
―単純にダンスを見せたいかどうかではなくて、もっと広い視点で見ていたんですね。
そうですね。それに、セゴリータさんのチャンネルに出演した当時はライブがまだ出来ていたから、ライブ会場に来てもらえたらダンスは見てもらえるしそれでいいと思ってたけど、こういう状況になって、どうやったらPassCodeの魅力をわかってもらえるんやろって考えたときに、ダンスもそのひとつになってくると思うので、あのときとは状況が違う分、また考え方も変わってくると思います。
―なるほど。今、世間の状況は混沌としてますけど、やちいさんのメンタル的には安定しているように見えます。実際のところはどうですか。
安定してるというか、安定させるしかないっていうのはありますね。
ツアー初日前に感じた葛藤
―そうやって自分を制御できるのは人として成長したからなんでしょうね。だって、やちいさんがどっしりしていなきゃいけない状況って前から変わらないと思うんですよ。だけど、今はPassCodeのメンバーとして自分がどう動くべきなのかがより明確に見えているんだなと今の話を聞いて思いました。
そうですね。自分が思ってる以上にメンバーもスタッフも自分のことを信用してくれてるんだなって。なので、「どうしたらいい?」っていう話を振ってもらえることが多くなった分、自分の感情だけで物事を動かさないほうがいいっていうことはここ2年ぐらいで考えるようになりました。自分の感情よりも優先すべきことが見えてきた。
―以前はもっと肩に力が入っていたし、焦りがもろに表に出ていたと思うんですよね。
ZENITH TOUR(「PassCode ZENITH TOUR 2017」)の頃はまだ割り切れないものがあったんですよ。「でも、本当はこういうふうに思ってるのに」って。
―それは何かきっかけがあったんですか。
メンバー4人で一緒にいると……これはお互いにあることなんですけど、「これは許せるけどこれは許せない」っていうところが各々にあって。でも、「自分がどう思うかよりもPassCodeのほうが大事やな」って思うとオールOKになるんですよ。だから、PassCodeの南菜生じゃなかったら許せないことも、PassCodeの南菜生だから全部許せる。そう思えるところまできているし、PassCodeが上手く回ることを優先すべきだと今は思ってます。
―そのせいなのかはわからないですけど、チームPassCodeの団結力が上がってる気がするんです。
いろんなことをみんなで乗り越えてきてるんで、それは確実にあると思います。
【画像】PassCodeアーティスト写真(2点)
―去年はZeppツアーのあと、秋から今年1月にかけて行われた「PassCode CLARITY Plus Tour 19-20」が行われました。このツアーはいかがでしたか。
長いツアーが始まる前はいつもそうなんですけど、どういうふうにこのツアーを回れるのか本当にわからなくて、初日のマイナビBLITZ⾚坂公演を迎えるまで不安のほうが大きかったんですよ。
―そんな葛藤があったんですね。
それ以降はいい日も悪い日もあったけど、例年のツアーよりはスムーズに回れた感覚がありました。で、ツアーファイナルの新木場Studio Coast公演が2日間あったんですけど、2016年12月28日にやったPaassCodeメジャー初ツアーのファイナルが同じ会場で、全然お客さんが入らなくて。その年の8月に初めてバンドセットのライブを経験して、そのときは「バンドよりも音源のライブのほうがいい!」って思ってたんですけど、そこから半年かけて「これがベストな形なんや!」って胸を張れるライブができたんです。ただ、会場を埋められなかったことが唯一の心残りとしてあったので、あれから3年かけて2日間ともソールドアウトさせることができたことが、グループとしても自分としても大きくて。
―わかります。
だからこそいいライブをしたい、成長した姿を見せたいっていう気持ちがあったんですけど、1日目は上手にライブが出来なくて、ライブが終わった時点では「ああ、どうしたらいいんだろう。困難を乗り越えたと思ったけど、また同じことの繰り返しになるのかな」っていう不安のほうが大きくなってしまって。もう、夜も眠れないぐらい。「明日はどうするべきなんだろう」「何を話せばいいんだろう」「1日目と同じようになったとき、自分がどう対処したらお客さんに『観に来てよかった』と思ってもらえるんだろう」「どうしたらこれからも観たいって思ってもらえるようなグループでいられるんだろう」とか、そんなことばっか考えて2日目を迎えて。
勝負の2日目、ステージで語った武道館への覚悟
―そのときのやちいさんの心情を思うだけで辛いです。
あと、以前から「日本武道館を目指す」という話がチーム内で出ていて、2日目のMCのときにそのことをお客さんに向けて発表しようかという話になっていたんです。だけど、私的にはいつも上手にライブができているわけじゃないから、そんな状態で発表することへの不安がまずあったし、1日目みたいなよくないライブを2日目にも見せてしまうことになったらそんな発表はとてもじゃないけどできない、ということをライブギリギリまでスタッフさんと話し合ってたんです。でも、実際にMCで話すのは自分だし、いくら「話してね」ってスタッフから言われても自分が言わなかったらお客さんは知りようがない。そんなふうにどっちにも転べるような状態にしてステージに上がって、「どうしようかな……」と思いながら1曲目「ATLAS」のイントロが流れたときに、「あ……今日はイケるかもしれへんな」って。それで、序盤は「本当に大丈夫かな」とかそういうことを考えてたんですけど、ライブが進んでいくうちに「今日はイケる!」っていう確信が生まれて。アンコールのMCが始まったときは何を話そうかまったく考えてなかったし、武道館の話をするかしないかすら決めてなくて。だけど、ほかのメンバーのMCを聞いてるうちに「今なら言える」と思ってああいうMC(「2021年、日本武道館でライブしてもいいですか?」)をしました。
―そんな心の動きがあったんですね。
あの2日間は自分たちの歴史を辿ってる感覚があって。2日間来てくれた人には、本当に辛くてどうしようもないときがありながらもそれを乗り越えようとしている自分たちの姿を見せられたと思います。
―新木場公演では僕もバックヤードにいましたけど、やちいさんは声をかけるのも憚られるぐらいピリピリしてましたよね。
自分でも気づかないうちに1日目のライブでかなり力が入っちゃってたみたいで、ツアーに同行してくださっていた鍼師の方に鍼を刺していただいたんですけど、体のどこを刺しても涙が出るぐらい痛くて、それぐらい身体的にバキバキやったし精神状態もよくなかったから、2日目は満身創痍でステージに出ていくような状態でした。
―それでもあの宣言ができたことは大きいですね。
自分たちが今できることを全部やったっていう感覚があったのと、ほかの3人のMCを聞いてるなかで希望が生まれたというか。
―ただ、宣言をした今、そこへ向けて走っていかなければならなくなりました。コロナは別としても、プレッシャーがかかる状態になっているわけですよね。
プレッシャーというより、約束が増えたというか。ファンの方と約束したことは絶対にやらなきゃという思いもあるし、今、自分たちができることよりも大きいことを約束した分、そこへ向けてやらないといけないことが増えたなっていう感じです。言ったからには絶対にやらなきゃっていう責任感はもちろん芽生えましたけど、宣言してなかったとしても、そういう大きなところを目指していかなきゃなっていう感覚はあったと思います。
―今の話を聞いていて改めて感じましたけど、PassCodeは日に日に信頼できるグループになってきていますよね。変な質問になりますけど、なんでそんなふうに思わせることができているんだと思いますか。
いやぁ~、それはわからないですね(笑)。でも……誠実でいようとは思っています。もちろん、関わってくださる人がたくさんいるなかでやっていることなのでお金も大事ではあるんですけど、メンバーとしては、お金じゃなくてファンの方に対して何をどう伝えたいのかとか、利益のことを取っ払った上で物事を考えようと思ってます。仕事ではあるんだけど、売れるためだけにやっているのではないっていうことをわかってもらえるように誠実でありたいなと思ってます。
「誰かの真似をしてできるようなことはやってない」
―これは僕が最近感じていることなんですけど、有名なフェスに出演することとか、より多くの人に届きやすい曲を出すことが必ずしも一番大事だと思わなくなっていて。やちいさんとしてはどうですか。
PassCodeの曲が大衆に受けるタイプのものではないことは変わらず理解した上で、ちゃんと届くような曲をつくらないといけないと思ってます。ラウドとかEDMとか、日本でたくさんの人が聴いているようなジャンルではないからこそ、メロディのよさとか、ダンスや歌でしっかりアプローチできるグループでいなきゃなっていう気持ちはあります。あと、フェスにも出たいし、出る気でもいますけど、そこが絶対的なものではないというか、「それはあとから付いてくるものだしな」っていう感じですね。
―以前よりもフラットに見ている感じですね。
出られないからって「なんでだ!?」という感じではないですね。「なるほどね……!」としか思わない(笑)。
―あはは! これは結果的にですけど、自分たちで道を切り開いてる感じがしません?
誰かの真似をしてできるようなことはやってないっていう感覚はずっとあって、だからこそ何が正解なのかわからないし、逆にお手本がないことがよかったとも思ってます。もしちゃんとした道があったとしたら、「このとおりに歩めば売れるんだからそうしたほうがいいよ」っていろんな人から言われて、自分でも「そうなのかも」って思ってたかもしれないけど、そういうのがないからこそチームでいろんな意見を出し合えてるんだと思います。
―アイドルのシーンに行けば「バンドのイベントに出たらいいのに」と言われ、バンドのほうにいけば「アイドルのイベントに出たらいいのに」と言われ、そういう悔しさや、数々の敗北を正しく経験してきたからこそ獲得することができた強さはPassCodeには確実にありますよね。
昔はそういうところで感じる怒りをパワーに変えてライブをしてたんですけど、今はそうじゃなくて、バンド主体のフェスで求められるようになったり、アイドルのイベントに出ないとしても「PassCodeがいたらうれしかったのに」って言われるようになったら私たちとしては正解だと思ってるので、前よりも構えずにいろんなことに挑戦できてるし、もっとジャンルレスになってると思います。
―音だけではなく、気持ちの上でもしっかりクロスオーバーしてきてるんですね。さて、シングル「STARRY SKY」ですが、今や「どんな曲を出してもPassCode」という感じになってきたと思います。
本当ですか? よかった。「PassCodeっぽくない」っていうものがなくなればいいなと思います。最初は「違うな」と思ったとしても、次に似たような系統の曲を出すときには「これがPassCodeだ」って思ってもらえると思います。
―カップリングの「Tramonto」みたいなバラード調の曲も今やまったく違和感ないですよね。
前作『CLARITY』に入ってるバラード調の曲のなかでも「WILL」に雰囲気が近いと思ってるんですけど……自分の中では新木場2日目のライブDVD(「PassCode CLARITY Plus Tour 19-20 Final at STUDIO COAST」)を観たときに、PassCodeの第1章がここで終わったような気がして。ライブをやってるときはそういう感覚はなかったんですけど、DVDのエンドロールを観てるときにそう思って。そんなタイミングで「Tramonto」みたいに新たなスタートを歌う曲があるのが、今のPassCodeにはぴったりだなと思いました。
―これまでにない優しさや穏やかさが表現されてるように感じました。
平地さんからは「春っぽく歌って」って言われてて(笑)。これまではバラードは切なく歌うことが多かったんですけど、これは新しい門出に向けての温かい歌なんだなと思って、いつもよりも温かみのある歌い方ができたらいいなと思いながら録りました。
―自粛期間が終わって、いつの日か再びライブができるようになったとき、現実的な話は置いといて、最初に立ちたいステージはどこですか。
どこやろう……。コーストかな? すぐにライブができるようになるとは思っていないので、これからすごく悩む時期がくると思うんですよ。そのときにどうしたらいいかわからなくなっても、最初のライブが新木場でできたらすべてを取り戻せる気がしてます。
―日々、いろんなことを考えていると思うんですけど、なぜやちいさんはPassCodeとしてステージに立っているんだと思いますか。
なんで……? それは考える必要もないというか……私は今年24歳になるんですけど、人生の1/3をPassCodeとして過ごしてきて、自分の人生で一番大きな8年はPassCodeを始めてから今までのことで、そこがなかったら自分が自分じゃないって思ってるんですよ。だから、今までお世話になってきた人たちに恩返しをしたいとか、メンバーを大きな場所に連れていきたいとか、ファンの人たちにそういう大きな場所で一緒に歌ってほしいとか、いろんな気持ちはもちろんあるけれど、そのためにPassCodeをやってるという以前に、「PassCodeじゃない自分は自分じゃない」っていう感覚があるんです。だから、「なんで」なんてないんです。ただPassCodeが大好きなんです。
<INFORMATION>
「STARRY SKY」
PassCode
USM JAPAN
発売中
初回限定盤

通常盤
