7月・8月にかけて「Leeloo」「Utopia」とデジタルシングルを連続リリースしたAAAMYYY。

風変わりかつポップな音色を奏で、自身のソロ作のみならずTempalayやTENDREなどで圧倒的な存在感を放つトラックメーカー/キーボーディスト。
誰をも惹きつける人柄や浮遊感たっぷりの歌声も相まって、彼女は今や日本の音楽界における最重要人物の一人となっている。その類稀なるセンスはどうやって育まれたのだろうか。Rolling Stone Japan vol.10に掲載されたインタビューをお届けする。

キーボードは調味料? 臨機応変で優秀なツール

ー最初はお姉さんの影響でピアノを始めたそうですね。

AAAMYYY  はい。小学校1年生の頃、近所にあったピアノ教室に姉が通っていたので、私も真似して行くようになっていました。
教室には中3くらいまで通っていましたね。ピアノで弾くのは割とクラシックが多かったのですけど、ピアノの発表会でディズニー音楽などを演奏したこともありました。好きで聴いていたのは当時の歌謡曲とか、その頃に姉が椎名林檎さんのファンクラブに入っていたので、それで一緒にライブ映像をビデオで観るなどもしていました。

ー中学生の時に学園祭で、映画『スウィングガール』のサントラをカバーしたのはどんな経緯で?

AAAMYYY  地元の中学校は1学年2クラスしかなくて、クラス合同の出し物としてやることになったんです。ビッグバンドといえばブラスセクションですけど、私は管楽器が一切出来なかったので、他にやる人がいなかったドラムをやることになりました。それが初めてジャズに触れるきっかけにもなりましたね。
初心者キットみたいな、すごく安いドラムセットを父親に買ってもらって、離れの倉庫みたいなところでひたすら練習していました。田舎なので、土地はたくさんあるんですよ(笑)。

ーさらに高校時代はベースとギターもマスターしたのだとか。

AAAMYYY マスターと言えるほどは弾けなくて、ほんと「たしなむ」程度なんですけどね。「バンド組んだら友達が出来るかな」と、軽い気持ちで入部したのが軽音部で。GO!GO!7188BUMP OF CHICKENRADWIMPS東京事変などいろんなアーティストの楽曲を、時々メンバー内で楽器を持ち替えながらカバーしていました。
部活顧問の先生とかも特にいなくて、部室を好きに使って練習できるのが楽しかったです。

ーいろんな楽器を演奏してみた中で、最終的に鍵盤楽器を選んだのはどうしてだったのでしょうか。

AAAMYYY  自分にとって、一番自由に表現できる楽器だと思ったからです。もちろん、ギターにエフェクトを噛ませてサウンドを作り込んでいくのは楽しいし、ベースやドラムにもそれぞれ面白さはあると思うんですけど、キーボードの場合はプリセット(あらかじめ搭載されている音色)もめちゃくちゃ豊富にあるし、そこから自分で好きなように作り込めるところに大きな魅力を感じたんです。チープな電子音から深みのあるパッド音まで、どんな音でも出来てしまうのが楽しかったんですよね。

ーバンドアンサンブルの中で、キーボードはどのような役割を担っていると思いますか?

AAAMYYY  バンドの骨格となる楽器はドラムやベース、ギターだと思うんですけど、キーボードはそこに「360度感」を足すものなのかなと最近は思っていて。
ギターの役目もベースの役目も担えるんですけど、その隙間を埋めることもできるし、バンド全体を包み込むこともできる。そこがキーボードの面白いところなのかなと思います。しかも、キーボード1台と歌だけでも成立しますしね。すごく臨機応変で優秀なツールなんです。

ーキーボードの音色が、そのバンドのカラーを決定づけることもありますよね。

AAAMYYY  例えばお料理というのは「旨味成分」や「温度」「色味」など、いろんな要素が合わさって「美味しさ」が生まれると思うんですけど、ドラムやベース、ギターをお料理の素材と考えた時に、それに味付けをしたり、絡めやすくしたりする役割がキーボードなんじゃないかなって。


ーなるほど。スパイスや片栗粉みたいな。

AAAMYYY  そうそう、まさに!(笑)

音色が無限にあるからこそ「縛り」や「制約」を作る

ーそういう意味では、ソロ活動、Tempalay、TENDREなど表現形態によってキーボードの音色も意識的に変えているのですか?

AAAMYYY  変えていますね。ソロ活動では携帯アプリやソフトシンセを使うことが多く、Tempalayではエグ味があって存在感の強い音色をよく使っています。逆にTENDREでは、ベル系のサウンドと、カットオフで表情をつけられるパッドサウンドの2種類しか音色を使わないようにしようと自分の中で決めていて。シンセでは出せないような「音ネタ」「声ネタ」が欲しいときにはサンプラーも使ってますけど、TENDREってライブだと割と大きな編成なので、それぞれを引き立たせるためにも自分は音色少なめにしているんです……これもまたお料理に喩えて恐縮なのですが(笑)、最後に塩胡椒を振るような感じというか。


【画像】AAAMYYYの使用機材(Tempalayライブ時のセッティング)(写真5点)

ー塩と胡椒の2種類で味を引き出すわけですね(笑)。Tempalayではどんなシンセを使っているのですか?

AAAMYYY 割とエフェクターを噛ませることが多くて。例えば BANANANA effects ABRACADABRAというシマーリバーブやピッチシフトが搭載されたエフェクターを、ピアノに噛ませたり、Prophet08にシタールエフェクターをかけて、(Tempalayの)「のめりこめ、震えろ。」の間奏のフレーズを作ったりしていますね。

ーシンセは音色をセレクトするセンスも問われると思うのですが、AAAMYYYさんは普段どんなところから音色のインスピレーションを得ているのですか?

AAAMYYY  やっぱり、いろんなアーティストのライブですね。アーティストのライブ映像を観たり、フジロックでは他の人たちのステージを覗きに行ったりするんですけど、そこで使われている機材や音色などに刺激を受けたり、「あの曲ってこのシンセの音だったんだ!」って発見したりするのがとにかく面白いんですよ。

ー最近だと誰に刺激を受けました?

AAAMYYY  Tame Impalaの新作『The Slow Rush』がすごく良かったです。元々彼らの音楽は好きだったんですけど、今作を一通り聴いた後にいろいろと分析してみましたね。「これはきっと、この機材を使っているのだろうな」とか(笑)。インパラの曲ってシンセのように聴こえても、実はギターで出しているところとかも彼らは面白いんです。それからUnknown Mortal Orchestraのルーバン・ニールソンが、ポートランドにある自宅の工房で楽器や機材を作っていて、そういうところからも刺激を受けています。

ー今、AAAMYYYさんが最も共感するキーボディストは?

AAAMYYY  KINGというR&B系の女性グループのキーボーディスト。歌いながら右手と左手で別のシンセを弾いていて、その佇まいが何というか「音が全て見えているんだろうな」という感じでカッコいいんですよ。私もその境地に行きたいなと思っています。

ーDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使い始めたのは、カナダ留学中にAppleのGarageBandを触るようになったのがきっかけだそうですね。

AAAMYYY  はい。GarageBandはAppleのコンピュータにバンドルされていますし、使い方さえ覚えてしまえば誰でも気軽に音楽を作れるツールなので「Appleさまさま」ですね(笑)。それと、さっき話したようにソロではPropellerhead「Figure - Make Music & Beats」という携帯アプリを使って曲作りをしています。

ーどんなきっかけで使い始めたのですか?

AAAMYYY 今はいろんな機材があって、誰もがハイクオリティな音源を作ることができるじゃないですか。そんな中、アプリ形式でお手軽に曲が作れるツールって軽視されがちなのかも……って思ったんです。他にもKORG Monotronのような、コンパクトサイズのシンセも使っているんですけど、意外とこういうチープでシンプルなものを工夫して使った方が、面白いアイデアが出てくることが多いんです。「いい機材を使わなければ、いい曲が書けない」みたいな、自分の中にもあった先入観を一旦リセットする意味で使い始めたのだけど、もう手放せない。移動中とかでも曲が作れる「Figure」は、とっても便利なんです。

ギターやベースとは違うキーボードに抱く愛着感

ーところで、今年2月にリリースされたTempalayの新曲「大東京万博」ですが、これはどのように作っていったのですか?

AAAMYYY 最初に(小原)綾斗がデモを持ってきて、それをもとにみんなで構成を考えてから肉付けをしていきました。例えば転調だとか、尺を伸ばしたりなどのアイデアを出すことが私は多いですね。今回、綾斗が持ってきた民族音楽っぽいイントロのフレーズを、曲の中で引き立たせるにはどんな音色がグッとくるのか試行錯誤したり。あとは、もともとシンセソロで入れようと思っていたフレーズを、ギターソロのアタマにもってきたりもしました。

ー「大東京万博」は元々「AKIRA」という仮タイトルが付けられていたそうですが、最初にこの曲を聴いた時にAAAMYYYさんはどんな印象を受けましたか?

AAAMYYY  まずカッコいいなと。それはデモが送られてくるといつも思うことなんですけど、この曲には綾斗が育ってきた背景や、親しんできたアートなどの要素が入りつつ心象風景が投影されていて、聴いていてちょっと切なくなりましたね。その切ない叙情的な雰囲気が、背景を知らずに聴く人にもちゃんと伝わるようにするためには、どんなアレンジにしたらいいかたくさん考えました。

ーこの曲、個人的にはゴダイゴを聴いた時の衝撃を思い出したんです。それと、ちょっとASMR的な要素もあるなと。

AAAMYYY  ゴダイゴはメンバー全員大好きなので、彼らの影響はきっとあると思います。水の音はデモの段階で既に入っていたんですよ。本番のレコーディングでは、紙コップに水を入れてストローでブクブクさせた音を入れました(笑)。これは、エンジニアの奥田泰次さんのアイデアでした。

ーところで今、気になっている機材は何かありますか?

AAAMYYY ライブで使っているKORG minilogueですが、酷使し過ぎてボロボロになってきているので、新たに黒いタイプ(monologue BK)を狙っています。以前購入したProphet08も、自宅用の機材ではなくライブ機材として導入したい。他にも気になる機材はいっぱいありますね……そうそう、ZAHL EQ-1(API 500フォーマットのモジュール化したもの)とMOOG ONEがものすごく欲しいです。ライブで使うとしたら、私の周りだけ要塞化してしまいそうだけど。

ー(笑)。よく、ギタリストやベーシストが語っているような「愛器を愛でる」みたいな感覚って、キーボディストにもありますか?

AAAMYYY もちろんありますよ(笑)。例えば私が使っている機材とか、他の人が使ったときに「うわ、使いづらい!」ってなると思うんです。そこが逆に可愛かったりするんですよね。ライブで音が出なくなった時とかの応急措置とかも把握するようになると、余計に愛着が湧くというか。

ークルマに喩えるならクセのあるヨーロッパ車みたいな感じですかね?

AAAMYYY ああ、近いものがあると思います。アクセルの踏む角度にコツが必要だったり、ドアは強めに閉めなきゃいけなかったり(笑)、そういうところはキーボードにもあって。そこに魅力を感じているのかも知れないですね。

AAAMYYYが語る、楽器とサウンドメイキング

AAAMYYY
長野出身。カナダ留学中に宅録に目覚め、帰国してすぐ音楽活動を開始。2017年よりAAAMYYY名義での『WEEKEND EP』を皮切りにEP3作品を連続発表。また、Ryohuのゲスト・ヴォーカルやTENDREのサポート・シンセ、DAOKOへの楽曲提供やCMソングの歌唱、モデルなど多岐にわたる活動を展開、2018年6月からはTempalayに正式加入。2019年2月には1stソロ・アルバム『BODY』をリリースした。2020年には5月の「HOME」を皮切りに配信シングルを連続でリリースしている。

AAAMYYYが語る、楽器とサウンドメイキング

「Utopia」
AAAMYYY
SPACE SHOWER MUSIC