ライブプロモーション世界最大手の米ライブ・ネイションが2020年第2四半期の決算を発表し、前年の同時期と比べて収益が98%減少したことを明かした。これにより、新型コロナのパンデミックによってライブ・エンターテイメント業界が被ったダメージの深刻さが浮き彫りになった。
4~6月の第2四半期といえば、従来は音楽フェスのシーズンだ。メジャーアーティストにとっては夏のツアーの季節であり、ライブ・ネイションにとってはまさに繁忙期だ。だが、イベントの相次ぐ延期・中止によって同社は活動停止同然の状態に追い込まれてしまった。ライブ・ネイションのコンサート部門の前年の第2四半期の収益が約26億ドル(約2745億円)だったのに対し、今年の同時期の収益は1億4180万ドル(約149億円)——およそ95パーセントの減少だ。さらに同社は、チケット販売収益が8600万ドル(約90億円)減少したと発表。この原因として、チケット購入者を対象に行った払い戻しが挙げられる。それに対し、前年の第2四半期のチケット販売収益は3億7100万ドル(約391億円)アップしていた。
公演の相次ぐ延期や中止にもかかわらず、音楽ファンの86%がチケットの払い戻しではなく、振替公演に向けてチケットを取っておくという選択肢を選んだとライブ・ネイションは表明した。同社曰く、フェスに関しては3分の2の音楽ファンがフェスの振替公演のためにチケットを保有している。さらに同社は、2021年に予定している4000本のフェスとコンサートのおかげですでに1900万枚のチケットを販売したと付言した。
Withコロナ時代にライブ・エンターテイメントに近いものを提供しようと、ライブ・ネイションは新たな形のコンサートを模索してきた。同社が開催した「ドライブインコンサート」もそのひとつで、社会的距離が保てる環境においては一部のイベントが復活した。だが、こうしたイベントの収益は、通常であれば劇場、スタジアム、アリーナで行うイベントのそれとは比較にならないほど少ない。ライブ・ネイションは、こうしたイベントのセールスには言及しなかった。
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同社のマイケル・ラピノ最高経営責任者(CEO)兼社長は、長引くパンデミックを乗り切るための長期的な対策としてバーチャルコンサートというプラットフォームにも期待を寄せていると語った。パンデミックとともにライブ配信が急成長を遂げ、一部のアーティストは、有料オンラインコンサートを中断になったツアーの代替手段ととらえている。「4~6月は、世界中で開催された1万8000本のコンサートやフェスを6700万人の音楽ファンが視聴しました。そのなかでも印象的だったのが、我々が手がけたオンライン版ロラパルーザのために先週末に配信した150のパフォーマンスです」とラピノ氏は述べた。
ライブ・ネイションの発表を読む限り、同社は2021年のライブ・エンターテイメント本格復帰に向けて舵を取り直しているようだ。これは、新型コロナウイルスによってライブ・エンターテイメント業界がダメージを被ることはないとウイルスに関する情報がまだまだ不足していた今年の初めに同社のジョー・ベルヒトールト社長が放った発言とは対照的だ。
「この3カ月間、我々は財政的なポジションの強化を最優先してきました。イベントがゼロという長期的な状況を乗り越えるために必要な流動性と柔軟性の確保に努めてきたのです」とラピノ氏は5日の決算報告で語った。
ライブ・エンターテイメント業界のなかでも、パンデミックの被害を受けなかった業種はごくわずかだ。ライブ・ネイションのライバルである米ライブビジネス大手のアンシュッツ・エンターテイメント・グループ(AEG)は従業員の一時帰休や解雇を言い渡し、WMEやParadigmといったハリウッドの大手ブッキング・エージェンシーも同じような対策を講じた。多くの独立系ライブハウスは、将来に対して不安を抱いている。パンデミックの最中の4月に設立された独立系音楽会場の非営利組織、アメリカ独立系会場協会(NIVA)の調査によると、今後半年以内に政府の追加援助がない限り、1000軒を超えるライブハウスが廃業に追い込まれるかもしれない。