1986年にジェネシスが発表した「トゥナイト、トゥナイト、トゥナイト」 は、最近ではあまり聞かなくなったが、当時は絶対に避けて通れない曲だった。ジェネシスか、もしくはフィル・コリンズ、ピーター・ガブリエル、マイク・アンド・ザ・メカニックス、GTRといったバンドの分派による曲が、ラジオで流れている曲の半分を占めていたかのような奇妙な時代だった。
ジェネシスが1986年に『インビジブル・タッチ』のプロモーションのためにツアーを行ったとき、ミケロブ(訳注:バドワイザーで知られるアンハイザー・ブッシュ社製造のビール)が同ツアーのスポンサーとなったため、彼らはビール会社のために「トゥナイト、トゥナイト、トゥナイト」を使ったコマーシャルを撮影した。
その映像はジェネシスのパフォーマンスをバックに、魅力的なヤッピーたちがバーでミケロブを楽しんでいるだけで、ストーリーは特になさそうだ。YouTubeでこれ以上に80年代を感じさせる60秒間の映像を見つけるのは難しいだろう(今見ると『アメリカン・サイコ』のパトリック・ベイトマンがフレームの中に飛び込んできて、ジェネシスやヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの素晴らしさを語り始めるのではないかと期待してしまう)。
【動画を見る】ビールのCMに使われた「トゥナイト、トゥナイト、トゥナイト」
当時、これを止める者はいなかったようだ——「トゥナイト、トゥナイト、トゥナイト」が必死になって薬を手に入れようとしているドラッグ中毒者の曲であり、別の中毒性物質を売るCMにはふさわしくないであろうことに、みんな気づいていなかったのかもしれない。”ポケットにはいくらか金がある/燃やす準備はできている”。中毒者は売人にうめき声をあげる。”どこで手に入れたのか覚えていない/君に届けなきゃ/だから電話に出てくれ/僕が電話をかけ続けるから/しかし、君は家にいない/どうすればいいんだ?”
曲の終わりには、語り手は禁断症状の苦しみに打ちひしがれ、助けを求めて叫んでいる。”ここから出して/お願いだから出してよ/助けて、何でもするから、何でも/助けて、ここから出してよ!”この曲を聴きながら、ミケロブの冷たく霜の降りたグラスを楽しみ、あなたの問題が溶けていくのを眺めてみよう。
この時代はジェネシス以外にも、多くのロックスターが飲料のCMに出演した。
悲しいかな、フィル・コリンズはのちに重大な飲酒問題を発症し、それによって死の淵にまで追いやられた。最近は、何年間もシラフのままだ。彼にとって、「ミケロブの夜」はとっくに終わっている。
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