エイベックスの次世代を担うシンガー、安斉かれん。お茶の間では今年放映されたドラマ『M 愛すべき人がいて』の主演女優(アユ役)として、またはバラエティ番組で見かけた人も多いだろう。
しかし彼女の本業はアーティストである。

7月にリリースされたシングル「僕らは強くなれる。」は、J-POP的な爽快感が表現される一方、奥行きのあるアンサンブルが重厚感を醸し出している。その鍵となっているのがブラスアレンジ。安斉本人もソプラノサックス奏者として参加し、共演の京都橘高校吹奏楽部(全日本マーチングコンテスト金賞受賞)とコラボレーションを果たしている。自身も吹奏楽部で部活に打ち込んできた安斉。作詞した歌詞の一節”破いたページの分だけ、僕らは強くなれる”にも当時の想いが綴られている。

1999年生まれの彼女は世間の狂騒とは距離を置き、自由に音楽を楽しんでいる。そして自分に求められていることと、自分がやりたいことの線引きもしっかりできている。今回のインタビューを通して、そんな彼女の等身大の声がもっと多くの人に広まればいいと思う。

ー「僕らは強くなれる。」の間奏のソプラノサックスって安斉さんが自分で演奏されたものなんですよね。歌録りとは違う体験だったと思うんですが、どうでしたか?

安斉:学生時代、吹奏楽部ではアルトサックスをメインに担当していたので、ソプラノサックスを触るのは中3以来だったんです。だから何日間もかけてすごく練習しました。
ずっと部活で取り組んでいたものをレコーディングするっていうのは新しい感覚で、歌より緊張したと思います(笑)。

ーアハハ。

安斉:歌と似たところももちろんありますけど……やっぱり違いますよね。今回吹かせてもらったのは曲のメロディラインではなく間奏部分だったので。逆に楽器でもメロディを弾けばヴォーカルと似たところも出てくるんですけど、今回は京都橘高校吹奏楽部の皆さんが奏でるブラスパートといかに合わせてキレイに聴かせるか、そして間奏としてちゃんと成り立つかを考えました。

ーサックスを始めたきっかけは、お父さんに連れて行ってもらったローリング・ストーンズのコンサートなんですよね。そこでサックスの音色に惹かれて。ギターでもベースでもドラムでもなく、サックスだったんですね。

安斉:そうですね。楽器選びって性格が出るって聞いたことあるんですよ。相性もありますし……私にはサックスしかない!って感じでした(笑)。

吹奏楽部時代に味わった挫折

ー吹奏楽部でのサックスの経験やそこから得た考え方や捉え方みたいなのって、今の安斉さんのアーティストの姿勢に影響を与えていると思いますか?

安斉:はい。
歌=曲というわけではないし、歌の後ろにある音を聴いたりとか、ここでこういうメロディが入ってくるんだとか、いろんなところを聴きながら音楽の構造を考えたりするんですけど、それは吹奏楽をやっていたことが関係していると思います。あと、吹奏楽もそうでしたけど、皆で一つの音楽を作るのが好きなんです。一人でカラオケで歌うよりもバンドで歌う方が好きですし。

ーサックスに目覚めたのはストーンズがきっかけだったわけですけど、吹奏楽ではなくてバンド活動には興味なかったんですか?

安斉:もちろんありました! 小学生のときから仲良かった友達が中学生になってギターやベースを弾いたりしていたので、「バンド組まない?」って話になって、地元のタワレコに行って「こういうバンドになりたいね!」って話していました。当時はBUMP OF CHICKENさんとかをたくさん聴いてて、「バンドやるなら私はドラムがいい!」って言ってたなー(笑)。

ーヴォーカルではないんですね(笑)。「僕らは強くなれる。」に話を戻しますが、安斉さんが手がけた歌詞には、ご自身が吹奏楽部時代に味わった挫折や悔しい出来事が反映されているそうですが、それってどういうものだったんですか。

安斉:私、喘息持ちで中2の夏休みか冬休みにドクターストップがかかってしまったんですよ……。それがめちゃくちゃ悔しくて。みんなは毎日練習してるわけじゃないですか。本来なら部活動に専念できる時期なのに私は何もできない。ドクターストップが明けてからは毎日誰よりも早く学校に行って練習して、絶対に(みんなを)抜かす!と思ってやっていました。
私、サックスになると本当に負けず嫌いで。同学年に私の他にもうひとりアルトサックスの子がいて。男の子だったんですけど、彼はずっとアルトサックスを習ってたんです。だから「絶対に負けたくない!」と思って必死に練習しました。

ー今回、作曲は五十嵐充さんがやられていて。五十嵐さんは僕ら世代だとEvery Little Thingのメンバーだった方で、その後もたくさんヒット曲を書いたプロデューサーでもあります。

安斉:五十嵐さんは普段は気さくに話しかけて下さるんですけど、制作になると五十嵐さんの世界がしっかりあって、いつも凄いなと思って勉強させていただいています。

ーさっき「皆で一つの音楽を作るのが好き」って話してくれましたけど、作曲にもそういう一面がありますよね。

安斉:私も作曲すごくやりたいなと思っているんですけど、まだまだ知識も足りない状態なので、これから勉強して自分も参加していきたいです。

スタッフ:でもバンドアレンジのときは「ブラス入れてみよう」とか言ってたよね?

安斉:そうですね! 意見は言います。

ー一流の方たちと一緒に曲作りできるだけでも凄いことですよ。

安斉:本当に勉強になります。


1999年生まれの安斉かれんが語るJ-POPとロックンロール

Photo by Kentaro Kambe

安斉かれんから見た「エイベックス黄金期」の曲

ー安斉さんって、もともと洋楽のアーティストを聴いて育って、今は海外のR&Bとかそういう音楽を主に聴く方だと思うんです。最近、安斉さんが参加したエイベックスのリバイバル企画「avex revival trax」でピックアップされていた、90年代~00年代初頭のいわゆる「エイベックス黄金期」と呼ばれる時代の曲って、リスナーとして聴いてどのように感じるんですか?

安斉:ずっと洋楽やロックを聴いてきて、自分が今やらせていただいているJ-POPのような曲には触れてこなかった分、新しくて楽しく感じます!

ーその新しさって何なんですかね。

安斉:歌詞ですね。洋楽だと1番と2番が同じ歌詞だったりして、メロディが主体の曲が多いと思うんです。でもJ-POPは歌詞にもこだわっていて、それが日本ならではの語の面白さだなと思うし、自分でも作詞していて楽しいです。

ーお父さんはストーンズの他にもハノイ・ロックスとか好きなんですよね。

安斉:ハノイのメンバーがやっているグリース・ヘルメットとか、あと日本だとザ・クロマニヨンズとか聴いてました。

ーマイケル・モンロー(ハノイ・ロックスのヴォーカル)のソロも聴いてるかもしれませんね。

安斉:聴いたことあるかもしれない! 父は(アンディ・)マッコイが好きでした!

ー安斉さんの口からアンディ・マッコイの名前が出るとは(笑)。お父さんはこうやって音楽活動してるのを喜んでくれてるんじゃないですか。

安斉:そうですね。音楽活動するってことは最初言わなかったんですよ。
でも、私のお父さんもお母さんも自分の好きなことは何でもしていいよっていうタイプの2人なので、昔から好きなことやらせてもらってます。今はすごく応援してくれています。

ーそういえば、ハノイ・ロックスの曲にもサックス入ってますもんね。

安斉:そうですね!

ーサックスをやるのはある意味必然ですね。

安斉:うんうん。

ーストーンズもハノイもバッドボーイでグラマラスな雰囲気というか、典型的なロックンロール・バンドでもあるわけじゃないですか。親の影響とはいえ、そういうバンドに興味を持たない子供もたくさんいると思うんですけど、安斉さんはどんなところに反応したんですか?

安斉:まず曲から入ったので、そのへんは全然気にしてませんでした。車でも流れてるから一緒に歌ったりして、とにかくずーっと聴いてました。で、あとからビジュアルを見て「こういう感じなんだ」みたいな(笑)。でも、ああいうバンドのライブを観ると、ステージによって演奏が変わるじゃないですか。いい意味でイージーな部分があるというか。

ーそうですね。


安斉:そういうのめっちゃカッコいいなって思っちゃいますね!

ーへぇー!

安斉:定型的にならずに、その時々でやるじゃないですか。私も悲しいときに書いた歌詞を歌うとき、そのときの感情によって歌い方も変えていいやって思ってるので(笑)。そういうの、すごくいいなと思います。

「自分らしくできるところを伸ばしていかないといけない」

ー幼少期の頃にエレクトーンを習い、中学生でサックスを始めて一時はサックスのインストラクターになりたいという目標を持つくらい熱中し、その次は自分の「喉」という楽器で何かしたいという好奇心から歌のスクールに通い始めたりしたそうですけど、ヴォーカルならではの難しさはどういうところに感じましたか?

安斉:楽器ってこのパーツを変えればこういう風に音が変わるとか――例えば、楽器そのものを変えてしまえば音も変わるじゃないですか。サックスだったらマウスピースを変えれば音も変わるし、チューニングで表情も変えられる。だけど喉って自分の持ってる声でもあるわけだし、音程も自分で合わせにいかないといけないし、それに喉の構造も知らないといけない。自分の持ってるものをいかに良くするしかないから、楽器よりも難しいですね(笑)。

ーコンディションにも左右されますよね。安斉さんは自分の「喉」について客観的にどう見てますか? 自分のヴォーカルの特徴に関して何か自覚してることはあります?

安斉:客観的に見れる部分と見れない部分がもちろんありますけど、J-POPを歌うときって「僕らは強くなれる。」だったらサビの部分だったりとか、音域に合わせて声を張るところが好きなんだと思います。J-POPと普段歌うR&Bっぽい曲では、声の出し方とか歌い方とかは変わってくるんです。

ー自分の中にある現時点でのヴォーカル面の課題ってありますか。

安斉:はい。低い音域をキレイに出したいとか、もっと高い音域を出せるようになりたいとか、いろいろあるんですけど、それよりも自分らしくできるところを伸ばしていかないといけない気がする。自分の得意な音域をもっと強化していきたいです。

ー安斉さんの音楽活動のモチベーションって今は何が一番大きいですか? 

安斉:「音楽をやりたい」というのは昔から思っていたことなので、それしかないですね。今は音楽ができる環境にいるっていうだけで有難いなって。

ー有名になりたいとかは?

安斉:そういうのはないです。

ードラマやバラエティにもたくさん出てますけど、そういうところで見かける安斉さんと素顔の安斉さんは必ずしも同じではないということですね。

安斉:そうかもしれません(笑)。でも、いろんな形で私の音楽を知っていただくのはうれしいことですし、これから私がいろんなジャンルの音楽に挑戦することになったとき、少しでも多くの人に知ってもらいたいので、そういう意味で今は自分でもギャップを楽しんでます。

ー実際、以前の曲では「パラレル・リリース」と題して既発曲をクラブミュージック寄りにアレンジし直して発表したりしてましたよね。メジャーとかアンダーグラントとか関係なく世界観を表現できるアーティストだと思いますし、幅広いフィールドで活躍できるのは強みですね。

安斉:チャンスになりますしね! 「安斉かれんといえばこの感じ!」ってなるのがちょっとイヤなんです。柔軟にいろんな音楽をやっていきたいです。それが自分の好きなことだから。

1999年生まれの安斉かれんが語るJ-POPとロックンロール

Photo by Kentaro Kambe

・安斉かれんがセレクトした好きな曲のプレイリスト

<INFORMATION>

1999年生まれの安斉かれんが語るJ-POPとロックンロール

NEW SINGLE「僕らは強くなれる。」
サブスクリプション音楽配信ストリーミングサービス限定で配信中
https://avex.lnk.to/KalenAnzai_bokutsuyo

僕らは強くなれる。ドキュメンタリー② 『レコーディング篇』
https://www.youtube.com/watch?v=eXyJCBBpIeY&t=4s

僕らは強くなれる。ドキュメンタリー③『ダンス篇』
https://www.youtube.com/watch?v=_UyH6_iWyFY&t=7s

◼️安斉かれんInstagram:https://www.instagram.com/kalenanzai/
◼️安斉かれんTwitter:https://twitter.com/kalen_anzai
◼️安斉かれんOFFICIAL SITE:http://kalenanzai.com/
◼️安斉かれん Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCOFXUN-4bc36S1hEhdl3MIg
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