「俺たちぐらいだよな。ロビー・ウィリアムスとアルバート・ハモンドJr.を同じアルバムに登場させられるバンドなんてさ! そう思わない?(笑)」
得意気に語るのはザ・ストラッツのフロントマン、ルーク・スピラー(Vo)だ。
現在、ロサンゼルスを拠点としているイギリスの4人組ロック・バンド、ザ・ストラッツが突如発表した3rdアルバム『ストレンジ・デイズ』はグラマラスでクラシックなロックンロールを身上としている彼らが招くには、ちょっと意外に思えるゲストの顔ぶれをはじめ、確かにストレンジな作品かもしれない。
そもそも、『ストレンジ・デイズ』はその制作過程からしてストレンジだった。新型コロナウイルス蔓延の影響で世界中のミュージシャンがライブ活動の自粛を迫られたことはご存じのとおりだが、ミュージシャンそれぞれにライブに代わる活路を見つけようと試行錯誤していた頃、ザ・ストラッツの4人は早速、新曲のレコーディングに取り組み始めていた。
「ちゃんと検査を受けて全員陰性とわかったから、そのまま10日間、プロデューサーとエンジニアを含めた顔ぶれで、自主的にロックダウンに入ることにしたんだ」(ルーク)
演奏することに生き甲斐を見出している連中だ。そこに迷いはなかったはずだ。とは言え、いきなりアルバムを作ろうと考えていたわけではなかった。いわゆる自粛期間中に、その当時手元にあったアイディアを、とりあえず形にしておきたかったのだろう。しかも、場所はプロデューサーであるジョン・レヴィーンの自宅だ。ライブができないなら、ぐらいの気持ちだったことが窺える。
ところが、レコーディングを始めてみたところ――。
「多分できるのは2曲か3曲、うまくいっても4曲と自分たちでは思ってた。ところが3日目、4日目あたりに差し掛かってきたあたりで、それどころの順調さじゃないことが見えてきたんだ。『ワオ! なんかすごくいい流れができてるんじゃないの?』ってね。それで結果、アルバム1枚作ってしまおうってことになったんだ。ホント急転直下って感じだった。世界が停止してしまったことがきっと、何かやりたいという俺たちの燃えるような欲求の炎に油を注いだんだろうな。そして持ち前の創造性がドッカーンと爆発したというわけ」(ルーク)
結局、KISSの「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」のカヴァーを含む全10曲を10日間でレコーディングしてしまったという。
「1日に3曲書けちゃったりすることもあって、自分でもビックリだった。なんかそれもまたストレンジな体験ではあったな。あらかじめ考えてあったメロディのアイディアは、いくつかあったとは言え、数えるほどだったし、曲としてまとまって仕上がっていったのは、ほぼすべてその場でのことだったから」(ルーク)
ギタリストのアダム・スラックが付け加える。
「俺が何か弾くと、みんながノッてきて、その場でジャムが始まる。
メンバー全員が簡易ベッドを使い、ルームシェアしながら、という下積み時代を思い出させる環境もかえってよかったのかもしれない。ルークとアダム2人の言葉が伝えるのは、レコーディング中のグッド・ヴァイブレーションだが、彼らはそれを秘密裏に――レコード会社はもちろん、マネージャーにさえ知らせずにやり遂げたのだった。
「理由は、外部の大勢の人間の意見から自由になりたかったから。マネージャー連中も例外ではなくて、彼らもすべて完成するまでひとつの音たりとも耳にしてない状態だったんだ。そういう意味じゃ、かなりの実験だよね。そして、最高の結果が生まれたってわけ」(ルーク)
「前々からこうやってアルバムを作りたいと思ってたんだ。プレッシャーを感じずに、曲を細かく解剖するようなこともせず……。これまでは毎回そうだったんだよ。いわゆるヒット曲を期待されて、それを書こうとしてしまう、みたいな傾向もあった。でも、今回はそういうのは一切なしで、自分たちがいいと思ったら何でもあり。実際こういうのは初めてだったから、すごく新鮮だった」(アダム)
ロビー・ウィリアムスとの共演秘話
ロック・スター不在の現代のロック・シーンに突然、フレディ・マーキュリーとミック・ジャガーからロックの遺伝子を受け継いだと謳われるカリスマティックなフロントマンを擁する4人組が現れたのだ。ザ・ストラッツに対して、多くの人が期待するのも大いに頷ける。
そんなとき、誰からも指図されることなく、自由に音楽を作れるチャンスが訪れたんだから楽しむしかないだろう。その意味では、タイトルにストレンジと掲げながら、『ストレンジ・デイズ』は実のところバンドの根源的な部分が反映されているようにも思える。
前2作――2016年の『エヴリバディ・ウォンツ』、2018年の『ヤング&デンジャラス』からの若干の路線変更を印象づける80s風のハード・ロック・サウンドと同じくらい聴きどころと言える豪華ゲストも話題作りなどではなく、純粋にメンバーたちが共演したいと思った人たちに声を掛けたようだ。誰でもよかったわけじゃあない。その意味では、幅広さも含め、意外に思えるゲストたちも彼らの中では、ちゃんと繋がっているのだった。

ロビー・ウィリアムスとルーク・スピラー(Photo by Sonny Matson)
アルバムのトップを飾るアンセミックなバラードの「ストレンジ・デイズ」にロビー・ウィリアムスを招いたのは、ルークとアダムにとってオアシスと並ぶ少年時代のヒーローだったことに加え、ルーク曰く「彼のような昔ながらのソングライティングの感じが欲しかったから」だそうだが、「参加してもらうんだったら彼の最高傑作に負けないくらい豊かなテクスチャーを持つ曲じゃないと駄目だ」とも思ったという。
「彼の曲で言うなら『エンジェルス』『フィール』『シーズ・ザ・ワン』みたいな、それこそザ・ビートルズが書いたんじゃないかと思えるような素晴らしいバラードじゃなきゃ」
つまり、「ストレンジ・デイズ」はそういう曲になったということだろう。因みに、そんな堂々のオープニング・ナンバーにロビーの歌声を加えるレコーディングは感染防止対策を徹底するため、ロビーの豪邸の玄関の前に広がる庭で行われた。
「あれはマジで滅多にない経験だった。まず俺は、ビバリーヒルズにある彼の豪邸に赴いたんだけど、のっけからすごくストレンジな感じでね。
「ストレンジ」な面々との共作エピソード
ザ・ストラッツらしいアンセミックな魅力も持つハード・ロッキンなブギの「アイ・ヘイト・ハウ・マッチ・アイ・ウォント・ユー」に参加しているデフ・レパードのジョー・エリオット(Vo)とフィル・コリン(Gt)は、今回一番、らしいゲストだろう。
「ジョーとは、ずっと前からメールのやりとりをしてきたんだ。彼は2015年、2016年あたりからザ・ストラッツの庇護者であり、大のサポーターであり続けてくれてる。俺たちという存在が、ずっと彼のレーダーに引っ掛かってたんだよ(笑)」(ルーク)
ルークから客演を頼まれたジョーが快諾したことは言うまでもない。ジョーに誘われ、参加したフィルとアダムが重ねるギター・ソロは聴きどころだ。
トム・モレロが参加している「ワイルド・チャイルド」は、レッド・ツェッペリンを彷彿とさせるヘヴィなギター・リフが鳴る異色曲だが、現在のザ・ストラッツは、自分たちでは使えないと思ったリフでも臆せず、どんどん自分たちの曲に使っていこうと考えているようだ。トムの参加はアダムのアイディアだった。
「途中、すごくレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンっぽい”♪ダダーンダダーン”みたいなところがあって、『これは!』と思い立ち、ルークが彼の電話番号を知っていたから連絡してみたんだ。作っていても楽しい曲だった。
そしてゲストはもう1人。ザ・ストロークスのギタリスト、アルバート・ハモンドJr.は、今回一番ストレンジな存在だが、ルーク曰く「何度かラジオ番組で一緒になったんだ。俺、『男が男に一目惚れ』みたいな感じになっちゃって(笑)、連絡を取り合っていた。それがしばらく続いて、今回、直前に電話してみたんだ」とか。
ロックダウンのせいで落ち込んでいたらしいアルバートは最初、あまり乗り気ではなかったものの、バンドが送った「アナザー・ヒット・オブ・ショーマンシップ」を聴き、がぜんやる気になったという。
アルバートが彼ならではと言えるギターのカッティングを加えたその「アナザー・ヒット・オブ・ショーマンシップ」をはじめ、今回、ゲストの参加が単に賑やかしで終わらずに、ちゃんとアルバムの中で、いいアクセントになっているところが素晴らしい。そんなところも『ストレンジ・デイズ』の聴きどころの1つだが、それに負けないブギの追求という大きな聴きどころがあることも忘れずに記しておきたい。
ところで、KISSの「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」のカヴァーは、ルークに言わせると、イギリスのグラム・メタル・バンド、ガールがカヴァーした同曲のカヴァーなのだという。
「実を言うとね、最初に考えていたのは、ジョーとフィルをフィーチャーした形で、ガールの『ドゥ・ユー・ラヴ・ミー』をやることだった。フィルは昔、ガールのギタリストだったからね。だから『ドゥ・ユー・ラヴ・ミー』を一緒にやれたらストーリーが一巡する感じになってクールなんじゃないかと考えて、実際、曲を送ってみたんだ」
しかし、ジョーとフィルに断られてしまい、改めて「アイ・ヘイト・ハウ・マッチ・アイ・ウォント・ユー」を提案したそうだが、そんな裏話を思い出しながら、「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」を聴けば、聴こえ方もまた違ったものになりそうだ。
来年4月には、ザ・ストラッツの来日史上最大規模となるジャパン・ツアーが予定されている。今のところ、何とも言えない状況ではあるのだが、「信号が青になったらすぐに動き出す。それは俺の口から保証してもいい。誰よりも先に飛び出せるように、すでにラインの後ろで助走の準備をしている」とルークはすでにジャパン・ツアーへの情熱を燃やしている。最後は、そんなルークからの日本のファンへのメッセージで締めくくろう。
「みんなが新しいアルバムを気に入ってくれますように! なぜなら、このアルバムはファンのために書いたもので、それはもちろん世界中のファンのことを指してるわけだけど、日本のファンは俺たちがこれまで出会ってきた中で一番情熱的でユニークな人たちだし、このレコードのユニークさも理解して楽しんでもらえるはずだと思うからね。俺たちは作っていて楽しかった。すごく楽しかった。だから、楽しんで欲しい。また会えるのが楽しみだよ!」
※文中のルークとアダムの発言はすべて、増田勇一氏によるオフィシャル・インタビューからの引用。

ザ・ストラッツ
『ストレンジ・デイズ』
10月16日発売
日本盤ボーナス・トラック「ライヴ・フロム・サマーソニック2019」
試聴・購入:https://umj.lnk.to/struts-strange-days
ザ・ストラッツ JAPAN TOUR 2011
2021年4月12日(月)新木場STUDIO COAST
2021年4月13日(火)新木場STUDIO COAST
2021年4月15日(木)NAMBA HATCH
2021年4月16日(金)梅田CLUB QUATTRO
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/the-struts2020/