『Danse Macabre(死の舞踏)』と何やら不穏なタイトルを与えられた、デュラン・デュラン(Duran Duran)の2年ぶり16枚目のアルバムが届いたのは10月末のこと。ハロウィンに因んだ本作は、前掲のサイモン・ル・ボンとのインタビューでも触れていた通り、盟友ナイル・ロジャースやマネスキンのヴィクトリア・デ・アンジェリスの参加を得た様々な出自の曲で構成されていながらも、全曲が共有するゴシックな妖しさによってひとつの世界にまとめ上げられた、異色のアルバムだ。
そんな作品の成り立ちについて、イノベイティブな鍵盤ワークでデュラン・デュランの楽曲をアートポップの領域へと引き付けてきたニック・ローズが、改めて詳しく話してくれた。彼の熱っぽい言葉からは、デビューから45年が経ち全員が60代に突入してなお、身軽に、精力的に、心の赴くままに音楽作りをエンジョイする今の彼らの、絶好なコンディションが伝わってくる。

―『Danse Macabre』は、あなたたちの長いキャリアにおいても他に類を見ない1枚になりましたね。恐らく初のコンセプト・アルバムであり、発案からリリースまでに1年もかからず、思いつきを実行に移した非常にスポンテニアスな作品でもあります。そういうアルバムが誕生したことは、2023年現在のデュラン・デュランについて何を物語っていると思いますか?

ニック:今の僕たちはやりたいことをやれるポジションにあるんだよ。あれこれ細かいことを考え過ぎずに。
そもそもこのアルバムは、非常にオーガニックなプロセスで誕生した。僕らは去年のハロウィンにラスヴェガスでライブを行なうことになって、ショウをより面白くするために、カバー曲をやるのはどうかと僕が提案したのが全ての発端なんだ。トーキング・ヘッズの「Psycho Killer」、セローンの「Supernature」、スージー・アンド・ザ・バンシーズの「Spellbound」などなどダークなユーモアを含んだ曲をね。するとみんな賛成してくれて、次に僕ら自身の曲からハロウィンのムードに合致した曲を探した。「Hungry Like the Wolf」や「Wild Boys」といった定番だけでなく、「Secret Oktober」や「Lonely in Your Nightmare」みたいな初期の曲も含めて。だから一夜の公演のために多くの曲を新たに準備し、当日も大成功だったよ。
秘密にしていたからオーディエンスはビックリしていたしね。

そんなショウが終わったあとで、せっかくたくさんの曲を覚えたんだからレコーディングしたらいいんじゃないかと話が発展し、さらに「どうせなら新曲も作ろう」と言い出して、結果的に奇妙なミクスチャーを包含するアルバムが完成したわけだ。古い曲の新解釈があり、新曲があり、カバーがあり。でも全てが僕らによって、僕らのスタイルで演奏されていて、かつ同じムードで統一されているがゆえに、うまくフィットしたんだよ。しかもアップリフティングなアルバムでもあり、僕らの初期の作品にあったユーモアのセンスを備えている。今の世界情勢を考えると、そういうアルバムが必要とされているんじゃないかな。


―中世からヨーロッパで見られた美術様式を指す、『Danse Macabre』というアルバム・タイトルがまた素晴らしくて、いかにもニック・ローズ的な美意識にあふれていると思ったんですが、あなたが提案したんですか?

ニック:そうだよ(笑)。僕のノートに書き留めてあったアイデアのひとつだ。ハロウィンをテーマにしたアルバムを作ることが決まった瞬間に、僕はタイトルの候補をリストアップし始めて、例えば『Memento Mori(死を想え)』だったり……。

デペッシュ・モードに先を越されてしまいましたね

ニック:うん。だから『Memento Mori』は使えなくなってしまったけど、ほかに『Seances(降霊術の会)』も候補のひとつで、アートワークにはまさに降霊の様子が描かれている。
そんな中で『Danse Macabre』というタイトルをみんなが気に入ってくれて、特にサイモンはこの言葉にインスパイアされて新曲を書き始めた。「究極のハロウィン・パーティー・ソングになるぞ!」と張り切って(笑)。それが表題曲になったんだよ。

―そのアートワークですが、あなたが見つけた古い写真を用いたそうですね。

ニック:これもまたうれしい偶然で、1940年代にロンドン郊外で行なわれた降霊術の会の写真のオークションがあると、友人が教えてくれたんだ。当時非常に有名だった霊媒師が執り行なったという会でね。
出品予定の写真をチェックしてみるとアルバムにぴったりで、クオリティも素晴らしかったし、なんと現像前のネガフィルムも2~3本含まれていた。僕は俄然興味をそそられてオークションに参加してその写真を入手し、いざ現像してみると、思いがけない宝を掘り当てた気分だったね。降霊の儀式の現場が映っているわけだから、ある種のオーセンティシティを湛えていて。アートワークの仕上がりには大満足しているよ。

―そういうヴィジュアル面を含めて『Danse Macabre』の遊び心は、2021年の前作『Future Past』のエモーショナルな深みと、絶妙なコントラストを成しています。あの重みに対し、何かしら軽妙な作品でバランスを取ろうとしていたんでしょうか。


ニック:恐らく、無意識のうちにバランスを取ろうとしていたんだと思うよ。確かに前作は、エモーショナルな旅に身を委ねるようなアルバムだった。デュラン・デュランというバンドはこれまでも、常にライトとダークのバランスを取りながら作品を重ねてきたし、多くの人はアップビートなヒット曲のほうが馴染みがあるのかもしれないけど、どのアルバムにも人生のダークサイドに目を向けた曲が含まれている。このバランスを見つけることが重要だと思うんだ。いつもその時々に自分を取り巻く状況を作品に反映させたいし、メンバー全員の人生にもアップとダウンがあった。そして去年のハロウィーン・コンサートでは、色んな意味でおぞましい状態にあった世界を背景に、一夜の喜びを分かち合うことができた。だから、少しばかりの陽気さとライトネスを持つ作品を作ることで、現実とは異なる情景を眺められる窓を用意したという感じなのかな。僕自身、ほかのアーティストたちの作品を鑑賞することに多くの時間を費やしていて、自分の心のバランスを整える上で非常に大きな助けになっているからね。

―なるほどね。他方で本作には、かつてバンドの一員だったふたりのギタリスト、アンディ・テイラーとウォレン・ククルロが参加し、常連コラボレーターであるナイル・ロジャースのギターも聞けるとあって、ファミリーが勢揃いしたみたいなところがあります。

ニック:アンディとウォレンについては、昨年僕らがロックの殿堂入りを果たした際のセレモニーが発端でね。ふたりにも出席して欲しくて声をかけたんだよ。ウォレンは「スピーチの時間が限られているし、5人いれば十分だ。心は君らと一緒にあるから」と言ってくれて出席を見送ったんだけど、アンディは来るはずだった。ところが2日前になって、実は癌を患っていて体調がすぐれないから難しいと連絡があったんだ。大ショックだったよ。誰も知らされていなかったからね。あのあと僕は色々考えて、「次のアルバムにアンディに参加してもらわないか?」とほかのメンバーに提案してみた。元々アンディがプレイした曲をリメイクするわけだしね。彼がそういう企画に参加したい気分なのか、そもそもギターを弾ける状態にあるのかも分からなかったけど、ちょうど新しい治療法を試していて経過も順調だというから、無事レコーディングに加わってくれたんだ。となると、ウォレンにもオリジナル・ヴァージョンでプレイした曲「Love Voodoo」に参加してもらうのが理に適っているってことで、彼も誘ってみたんだよ。

新たな黄金期の背景、日本への熱い想い

―ロックの殿堂入りのセレモニーでは、あなたたちを紹介した俳優のロバート・ダウニー・Jr.が「デュラン・デュランは我々に、”最高の日々は今ここにある―それどころか、今後訪れるのだ”と諭している」というようなことを言っていました。すごく的を得ているなと感じたんですが、まさにその、常に前へ進もうとする意欲が息の長いキャリアを裏打ちしているのでは?

ニック:それももちろん、デュラン・デュランの強みのひとつだと思う。言うなれば、僕らは好奇心旺盛で、冒険心に恵まれているんだよ。だからこそ常に前を向いて活動している。それにアーティストなら誰でも、過去に試したことがないアイデアに挑戦したいと思うもので、新しい目標が見つかると、よりインスパイアされるし、同じことを繰り返していると停滞してしまう。どんな形のアートにも言えることだけど、心地良くなり過ぎると決していい作品は生まれない。すごくハッピーで、窓から太陽の光が差し込んでポカポカしているような状態に自分を置いていたら、何かしら可愛らしくてナイスなものは生まれるかもしれないけど、大きな進化にはつながらない。ほんの少しでも居心地の悪い場所に、遠くまで手を延ばさないと目当てのものに手が届かない場所に、ギリギリ水面に頭が出ていて呼吸ができる場所に身を置いてこそ、それは実現する。デュラン・デュランはそういったことをうまくこなしてきたと思う。

それにラッキーなことにメンバーが4人いるから、誰かひとりが水中に沈みかけたら、ほかの3人で引き揚げればいい(笑)。その一方で、もうひとつ僕がデュラン・デュランの強みだと思っていることがあって、それは非常にフレキシブルだという点だ。例えば、明日いきなりオーケストラとのコラボ・アルバムを作る可能性だってある。アンビエント・アルバム、あるいはスポークンワード・アルバムを作ったとしてもおかしくない。掘り下げる価値があると感じさえすれば、その目標に向かって一致団結できる。バンド活動をしていて一番楽しいのは、そういうフレキシビリティなんだよ。

2022年、「ロックの殿堂」入り式典でのパフォーマンス映像

―それは世代的な特徴でもあるんじゃないでしょうか。というのもあなたたちに限らずポストパンク世代の英国のバンドは驚くほどクリエイティブで、多くが今も現役で活動しているだけでなく、常に変化し、時代の動きに寄り添う作品を作り続けています。今年新作を発表したエヴリシング・バット・ザ・ガール然り、OMD然り、デペッシュ・モード然り。

ニック:はっきりしたことはは分からないけど、そこにはもしかしたら理由があるのかもしれない。例えば僕らはみんな、親の世代が聞いていた60年代の音楽と、自分たちにとってリアルタイムの音楽だった70年代の音楽に耳を傾けて育った。つまりビートルズローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリクッスにドアーズといったアーティストたちがいて、さらに70年代へ入るとファンク、ソウル、プログレ、グラムロック、ディスコ、パンク、エレクトロニック・ミュージック……といった具合に、シーンは多方向に拡大していった。そしてふと気付くと音楽的パレットは途方もなく広がっていた。

デュラン・デュランはこうした、子どもの頃から親しんできた多彩な音楽の中から好きなものをピックアップして、独自のパレットを構築したんだよ。同世代のアーティストの多くが、同じようなアプローチで音楽を作っていた。しかもそれぞれ志向が異なっていて、他と差別化することを最も重視していた。独自のサウンド、独自の思想、独自のファッションを確立して。何よりも個性が大切だったんだよね。だからこそ、君も何組か名前を挙げてくれたけど、ザ・キュアーもインエクセスもザ・スミスもマドンナもプリンスも、みんな同時期に頭角を現したものの音楽性が見事に違っていた。それをずっと維持してきたんだよ。と同時に、僕らは労働観も共有していた。誰もが地道にライブの回数を重ねて成功を手にし、実際にみんなで音を鳴らしながらハンドメイドで曲を作ってきた。その点も変わっていないよ。

―労働観と言えば、2021年に『Future Past』を発表して以来あなたたちはコンスタントにツアーを行なって、今までにも増して精力的に活動しています。2024年も忙しくなりそうですか?

ニック:現時点で決まっているのはいくつかのフェスだけだけど、僕自身が一番やりたいのは、最後にアンディと一緒に作った未完のアルバム『Reportage』を仕上げることだね。あれは2006年だったかな、当時は一旦お蔵入りにして、異なる路線のアルバムを新たに作ったんだよ。なのに、今になってどうこうしようというのもおかしな話だけど、先週スタジオに全員で集まって音源を聞いてみたんだ。仕上げるべきなのか否か判断するために。するとその出来栄えの素晴らしさに驚かされて、来年ぜひ完成させようと確認し合った。だから『Reportage』が来年の最優先事項だよ。

―日本ツアーも忘れないで下さいね。

ニック:それが実現したら最高だね。僕は日本が大好きだし、恋しいよ。実は個人的に携わっていて、やはり来年中に完成させたいプロジェクトがある。日本の第二次大戦後の写真表現に関するドキュメンタリー映画なんだ。5年前に着手して、森山大道や荒木経惟や細江英公といった偉大なフォトグラファーたちのインタビューもしているしね。非常に光栄な体験だったよ。貴重な映像が取れているだけに、これを仕上げて、日本で披露できたらと願っているよ。

デュラン・デュランのニック・ローズが語る日本への想い、「80年代の象徴」が今も変化し続ける理由

デュラン・デュラン
『Danse Macabre』
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