ザ・ラスト・ディナー・パーティー(以下、TLDP)のフロントウーマン、アビゲイル・モリスが結婚披露宴のなまいきな子どものようにステージ上でくるくると回り、彼女の衣装のフリルもそれについていこうとする。昨秋、バワリー・ボールルームの外の路上には、あらゆる恥が堂々と置き去りにされていた。
ロンドンを拠点に活動するこのインディーロックバンドが、荒々しい愛と古き良き情交への抑えきれない頌歌であるデビューシングル「Nothing Matters」を演奏すると、オーディエンスは一斉に”何も問題ないみたいに、あなたをファックする”と大合唱した。モリスの隣では、リズム・ギターのリジー・メイランドが強烈に魅力的な野球帽をかぶって頭を振っている。もうひとりのギタリストであるエミリー・ロバーツはレースのロンパースを着ている。その横にはベースのジョージア・デイヴィーズ、鍵盤はスパンコールに覆われたオーロラ・ニシェフチだ。この曲はアンコールの終わりに披露されたが、彼女たちと一緒に咆哮する何百人もの人々はまだ家路につく準備がまったくできていない様子だった。
少女の頃を思い起こさせるバンドである――良い意味でも、そして間違いなく悪い意味でも。デイヴィーズのギターのネックで揺れるサテンのリボンにすらも、「ザ・マン(支配的な男社会やその価値観)」によって自分が何者であるのか告げられる前の若々しい衝動や、告げられた後のそうしたメッセージへの抵抗が感じられる。ステージ上では、彼女たちは礼儀正しさを振り払うことで愛されている。
「ステージの上でも下でも私たちはとても仲がいいから、グループでパフォーマンスしているとある種の安全を感じるんです」と、モリスはこのライブの数週間後、Zoomで語った。「重要なのは、私たちの誰も演技をしていないということ。誰ひとりとしてキャラクターを演じていない。ただ楽しんでいるだけ、本当に」 。
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TLDPが結成され、5人組として活動をはじめてから、まだ3年も経っていない。運命の出会いはモリス、メイランド、デイヴィスがキングス・カレッジで学びはじめる直前に訪れた。18歳の3人は他のアーティストのライブに一緒に行くことでたちまち親密になった。少し遅れて、ロバーツとニシェフチが現れた。2021年11月にジョージ・タヴァーンで初ライブを行ってから1年足らずで、ハイド・パークでローリング・ストーンズのオープニングを務めた。
イギリスでの猛スピードの成功によって、彼女たちが「インダストリー・プラント(業界の仕込み、ゴリ押し)」だという噂が広まった。彼女たちはこれを「汚い嘘」だとして否定している。なぜこれほどまでに急速にここまで上り詰めたのか、その答えはもっとシンプルだ。少しの運、たくさんの才能と練習、そして地元のパブで演奏した数え切れないほどの夜。
とはいえ、彼女たちはオーディエンスの急増に驚いている。「ものすごくありそうにないことで不思議」とメイランドは言う。「怖いけど、私たちは5人だから気後れしない。もしソロ・アーティストだったら、いまごろはもうすでにヒビが入ってたと思う。でも、私たちはみんな揃って狂ってる感じ」。
「この仕事にはやることがたくさんある……たくさんの会議や会話、ステージで演奏する以外のことをたくさんやってます」と、ディヴィスは付け加える。「でもステージこそが私たちが完全にクリエイティブ・コントロールを握れる場所なんです。
「存在すること」自体が政治的主張
彼女たちのデビューアルバム『Prelude to Ecstasy』には、「Sinner」や「Lady of Mercy」のような、宗教的な罪悪感と欲望についての曲が収録されている。その一方で、「Big Dog」は、いつかスヌープ・ドッグと共演したいと打ち明ける自信満々の大宣言だ。「Caesar on a TV Screen」は男性特有の妄想を巧みに想像しており、MVでは、バンドは胸当てと金箔の王冠を身に着けてシェイクスピアを演じている。
「Mirror」はモリスの目下のお気に入りの曲だ。”私はただの鏡/あなたの視線なしでは存在しない”と彼女は恋人にささやく。これがTLDPが他の多くのバンドと異なるところだ。彼女たちは怒りからセクシュアリティとアイデンティティの再生に至るまで、女性の体験を独断的に語るのではなく、ありのままに反映させているのだ。
ヴィヴィアン・ウエストウッドに、クロエ・セヴィニー、そして教会のステンドグラスの窓に影響を受けているであろうバンドの美学も多くを語っている。メッシュとふわふわの靴下が、優美なレースのセットアップやレザーと組み合わせられている。ハイ・フェム(極めて女性的なスタイル)でありながら「dont-fuck-with-me(なめんな)」でもあるルックは、彼女たちの作る音楽にマッチしている。コケットコア、バロックマキシマリズム、そして2007年頃のグラストンベリーという彼女たちならではの混ぜ合わせのインスピレーションを得られる場所は、ただひとつしかない。
どこからの影響なのか尋ねると、モリスは無表情で「Tumblr」と答えた。「フローレンス&ザ・マシーン、デヴィッド・ボウイ、クイーンみたいなたくさんのアーティスト」。TLDPのメンバーたちは、個人としての、またバンドとしてのアイデンティティをまだ考え中だ。彼女たちには政治や業界での経験について言いたいことがたくさんある。しかし、そうした意見を音楽の外で言うことに関しては慎重だ。
「意図的ではないし、思うに私たちは意識が高いわけでもなくて……」 モリスは説明しはじめる。
「『存在すること』自体が政治的主張」とデイヴィーズが口を挟む。「誰もが政治的スタンスを明確にする声明を出さなければいけないってわけじゃない。でも、重要なことだと思ったら、私たちも話さないことはないと思う」。
From Rolling Stone US.
ザ・ラスト・ディナー・パーティー
『Prelude to Ecstasy』
発売中
日本盤ボーナストラック収録
再生・購入:https://umj.lnk.to/TLDPPE
FUJI ROCK FESTIVAL'24
2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※ザ・ラスト・ディナー・パーティーは7月27日出演
フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/
FUJI ROCK SPECIAL
ザ・ラスト・ディナー・パーティー単独公演
2024年7月25日(木)恵比寿リキッドルーム
公演詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4213