オアシスの伝説的ライブが、ギャラガー兄弟の製作総指揮で『オアシス:ネブワース1996』としてドキュメンタリー映画化。9月23日(木・祝)より、新宿ピカデリーほか全国112館にて公開される。
本作の見どころを荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)に解説してもらった。

「オアシスのネブワースが映画化」と聞いて、ライブ・ダイジェスト的な記録映画を思い描いていたが、自分が想像していたものと『オアシス:ネブワース1996』は随分違う。もちろん2日間の演奏シーンはふんだんに入っているが、ここでバンドとほぼ同格に扱われるのは彼らをスターダムに押し上げたファンたち。インターネットが普及する直前のチケット争奪戦を勝ち残り、交通の便が良くない会場まで何とかたどり着き、伝説的なライブを目撃できた人々のエピソードも本作では並行して描かれる。彼らファンを巻き込んだ、ひとつの巨大な共同体としてのオアシス……その祝祭を克明に記録したドキュメンタリーだ。

ロック史的に言うと、ネブワースはローリング・ストーンズレッド・ツェッペリンピンク・フロイドといった”レジェンド”クラスのバンドが、キャリアを重ねてから到達した聖地。そこへデビューからわずか2年で乗り込み、2日間で25万人を動員してしまったオアシスは異例中の異例だった。ドラマーがトニー・マッキャロルからアラン・ホワイト(スタイル・カウンシルやポール・ウェラーのバックで活躍したスティーヴ・ホワイトの弟)に交代して2ndアルバム『(Whats The Story) Morning Glory?』をリリースしてから10カ月後のステージ。バンドとして上り調子ではあるが、まだグルーヴは完全には噛み合っていない。成熟の過程でこのような大舞台に立ててしまうほど、性急なサクセスの波にオアシスは乗っていた。

新ドラマーのアラン・ホワイトがバンドにもたらした変化は、「Supersonic」のシーンを見れば一目瞭然。前任のトニーが平坦な8ビートを繰り返すスタジオ・ヴァージョンと違って、アラン加入後はテンポがグッと上がり、しかもシェイク・ビートを混ぜて叩くようになった。
ギターとベースもそのノリに追従しようと奮闘、非常に攻撃的な「Supersonic」が生まれている。トニーには背負い切れなかったバンドのリズムを引っ張る役割を、明らかにアランが果たしていた。そうした変化は、11月19日に発売される『オアシス:ネブワース1996』の2CDを通して聴くと如実に感じ取れる。前任のトニーには酷だが、ここで聴けるアグレッシヴで骨太なバンド・サウンドを獲得するために、メンバー・チェンジは避けて通れない道だった。「Roll With It」のようなグルーヴ感を持つ曲も、アラン抜きではうまく表現できなかっただろう。

ジョン・スクワイアも見せ場を演出

ところで、ノエルも認めている通り、このバンドには強力な技巧を持つリード楽器奏者がいない。ノエルは味のあるギタリストだが、それは彼が作るフレーズありきの話で、本質的にはソングライター兼アレンジャーだと思う。派手に踊ったり走り回ったりするメンバーもおらず、リアムがたまに客を煽る以外は、基本的にステージ上での動きが乏しいバンド。このような大舞台を乗り切るのは楽じゃなさそうに見える。しかしネブワースでは、メンバーの代わりに見せ場を作ってくれるゲストが二人いた。

まず一人目は、ブルースハープで参加したマーク・フェルサム。パブロック隆盛期にナイン・ビロウ・ゼロの一員として脚光を浴び、その後セッションマンとして場数を踏んできた筋金入りのハープ奏者だ。
そのマークの泣きまくるハープをフィーチャーした「The Masterplan」は圧巻。ストリングス&ホーン・セクションも入れて、壮大なスケールでじっくり聴かせる。「Dont Look Back In Anger」もそうだが、近年のノエルの堂々としたヴォーカルが耳に馴染んでいるので、オアシスではこんなデリケートな歌い方をしていたことも久々に思い出した。

そしてもうひとりのゲストがさらに強力。この年の4月にストーン・ローゼズから脱退したばかりのギタリスト、ジョン・スクワイアが終盤の「Champagne Supernova」に登場する。演奏シーンにはストーン・ローゼズからオアシスへの「王位継承」についてノエルの強気なコメントが被せられるが、黒のレスポールを抱えた立ち姿といい、感情の赴くままに弾き倒すギターソロの切れ味といい、ジョン・スクワイアのカリスマ性はやはり圧倒的。ここが映画のクライマックスのひとつなのは間違いないだろう。彼は翌97年、新たに結成したシーホーセズのデビュー・アルバム『Do It Yourself』を全英2位に送り込み、華々しくカムバックを果たす(同作にはジョンがリアム・ギャラガーと共作した名曲「Love Me And Leave Me」も収録)。シーホーセズは後期ストーン・ローゼズの延長線上にありながら、オアシスからの影響も感じさせるグループだった。

ネブワース公演の2日目、ジョン・スクワイアと「Champagne Supernova」を披露

そうしたシーン内への影響について考えると、忘れられない曲が「Cast No Shadow」。ライブ中のMCでも語られる通り、志半ばでザ・ヴァーヴを解散してしまった友人、リチャード・アシュクロフトに捧げられた曲だ。リアムとノエルのデュエットで切々と歌われる様は、二人が袂を分かってから長い時間が経過した今見ると何とも感慨深い。
オアシスからの声援が届いたのか、リチャード・アシュクロフトはメンバーを呼び戻してザ・ヴァーヴを再結成。翌97年に発表した起死回生の3作目『Urban Hymns』が全英1位を獲得し、オアシスと共にこの時代を象徴するバンドへと大きく躍進した。

この頃オアシスのUKインディ・シーンに対する影響力は絶大で、明らかにオアシスの影響下にあるノーザン・アップロアーのような若いバンドが続々登場。60s的なメロディをラウドなサウンドに載せるオアシスのスタイルは、この時代のフォーミュラとなった。一方、ライドを解散させたアンディ・ベルは、オアシスを意識した編成のロックンロール・バンド、ハリケーン#1を結成。2枚のアルバムを残して活動を終えると、99年にアンディはオアシスに電撃加入、解散までベーシストとしてバンドを支えていくことになる。

社会現象化したバンドの核心

このように文字通り「台風の目」になっていた96年のオアシスだが、映画で観る限りギャラガー兄弟の関係はまだ良好。あっという間にネブワースまで来てしまったことに戸惑いを見せながらも、未来のことは考えず、流れに身を任せて楽しんでいるバンドの姿が記録されている。オフステージの映像では、当時交際中で翌年結婚するパッツィ・ケンジット(元エイス・ワンダー)を横に乗せ、場内をゴルフカートでうろつくリアムが微笑ましい。

もうひとつ注目すべきは、制作の準備段階にあった3枚目のアルバム『Be Here Now』(97年)から、「My Big Mouth」「Its Gettin Better (Man!!)」を早くも披露していること。どちらもストレートかつ簡潔なアレンジで、リアムの持ち味がよく出た好演だと思う。ぜひ『Be Here Now』ヴァージョンと聴き比べてみて欲しい。
のどの調子を悪くしてステージを途中で放棄してしまうことも珍しくなかったリアムだが、ネブワースでは割と安定していて、ノエルが「シンガーとしてのピーク」と言っているのも理解できる。

オアシスに誰もが熱狂した理由とは? 『ネブワース1996』で振り返る絶頂期の勇姿

Photo by Roberta Parkin 

オアシスに誰もが熱狂した理由とは? 『ネブワース1996』で振り返る絶頂期の勇姿

Photo by Jill Furmanovsky

全編を通して観て改めて再認識したのは、問答無用の”曲の良さ”。初めて「Cigarettes & Alcohol」を聴いたときの、”T・レックスみたいな曲にジョニー・ロットンみたいな歌い方のヴォーカルが乗っている!”という衝撃が甦ってきた。大胆な足し算だが、そんなことを実践してしまうバンドは他に誰もいなかったのだ。それは「Live Forever」も同様で、ストーンズとビートルズが混ざったようなせつないメロディを持つ曲なのに、ギターソロでは平気でジミー・ペイジ風の濃いフレーズをぶっ込んでくる。これとこれを合わせるのは無しだろう、という躊躇が微塵もない。それはサンプリングにおける「大ネタ使い」と、どこか似た印象を与える作法だ。そしてどの曲も単に足し算では終わらず、耳に残る魅力的なメロディが楽曲の真ん中にあった。かつてザ・ラーズのリー・メイヴァースが歌った”タイムレスなメロディ”という概念を、彼らより後に最もわかりやすく形にしていたバンドがオアシスだった、という言い方もできるかもしれない。

5人編成のバンドなのに、ほぼ全編がギャラガー兄弟の話題のみで占められているところも象徴的。ギターのボーンヘッド、ベースのギグジーにスポットが当たらない点はかわいそうだが、バンドの性質を考えると致し方ない。その辺の背景は、もう1本のドキュメンタリー『オアシス:スーパーソニック』(2016年)を観るとすんなり飲みこめると思う。
また、当時注目されたブラーとのバトルについては敢えて突っ込んでいないので、これもドキュメンタリー『LIVE FOREVER』(2002年)で当事者たちの発言を確認して欲しい。90年代の社会状況や、ブリットポップの成り立ち、政治との繋がりまで把握することができる。

それにしても、オアシスの何に人々がこれほど熱狂したのか――そうした問いに対するひとつの見解を、映画の終盤にノエルが示している。彼にとっての”リアル”が何を意味するのか、これほどまでにわかりやすい説明はないだろう。メンバーの予想を遥かに越え、全英を席巻する一大社会現象になってしまったバンドの核心に迫る、実に生々しい音楽ドキュメンタリーだ。エンドロールを見ればわかる通り、ノエルとリアムが協力して作り上げた作品であることも、長年のファンとしては感慨深い。血は水よりも濃いのだ。

オアシスに誰もが熱狂した理由とは? 『ネブワース1996』で振り返る絶頂期の勇姿

映画『オアシス:ライヴ・アット・ネブワース 1996.8.10』
監督:ディック・カラザース
出演:オアシス
上映時間: 約110分
制作年:2021年/制作国:イギリス 
2024年10月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
© Big Brother Recordings Ltd
© Jill Furmanovsky
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/oasisknebworth1996810

オアシスに誰もが熱狂した理由とは? 『ネブワース1996』で振り返る絶頂期の勇姿

『オアシス:ネブワース1996』
2021年9月23日(木・祝)より、新宿ピカデリーほか全国112館にて公開
配給:カルチャヴィル
出演: オアシス
監督: ジェイク・スコット
製作年: 2021
製作会社: ブラック・ドッグ・フィルムズ
プロデューサー: ガーフィールド・ケンプトン
製作総指揮: リアム・ギャラガー、ノエル・ギャラガー、アレック・マッキンレイ
本編尺: 111 mins
日本語字幕監修:粉川しの
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/oasisknebworth1996

オアシスに誰もが熱狂した理由とは? 『ネブワース1996』で振り返る絶頂期の勇姿

オアシス
『ネブワース1996』(画像:②)
2021年11月19日(金)発売
予約:https://SonyMusicJapan.lnk.to/artistOasispageKnebworth1996RJ

①2CD <スタンダード・エディション> 税込¥3,300
DISC1 & DISC2:ネブワース2公演音源より、フルセットリストを構成【Blu-Spec CD2仕様】

②2CD + Blu-ray <デラックス・エディション> 24Pハードカヴァー・ブック仕様 税込¥6,000  
DISC1 & DISC2:ネブワース2公演音源より、フルセットリストを構成【Blu-Spec CD2仕様】
DISC3:劇場版 『オアシス:ネブワース1996』(日本語字幕付) 【ブルーレイ】  

③3DVD 税込¥7,500 
DISC1:劇場版 『オアシス:ネブワース1996』(日本語字幕付)
DISC2:1996ネブワース公演初日フルライヴ
DISC3:1996ネブワース公演2日目フルライヴ  

④Blu-ray(映像全部入り1DISC)税込¥8,000
■劇場版 『オアシス:ネブワース1996』(日本語字幕付)
■1996ネブワース公演初日フルライヴ
■1996ネブワース公演2日目フルライヴ

※以下、輸入盤のみ

⑤アナログ盤LP3枚組
⑥2CD+DVD

オアシスに誰もが熱狂した理由とは? 『ネブワース1996』で振り返る絶頂期の勇姿

ネブワース公演セットリストのプレイリスト
https://lnk.to/oasisKnebworthSETLISTJPRJ

日本初Oasisの公式オンラインショップOPEN!
https://www.rocket-exp.com/Oasis/
編集部おすすめ