Photo by David LaChapelle
「Espresso」で駆け上がった1年の軌跡
「腕を入れて、胸まで水に沈めて……息はとにかくゆっくり吸って吐いて……大丈夫、うまくやれてるよ。ほら、あと20秒。まだ続ける?」
3月初めのある朝。ロンドン中心部の高級スパにあるプライベート・スイートで、世界的なポップスターが、筆者にコールドプランジ(冷水浴)を指導している。向かいにいるサブリナ・カーペンターは、水温4度の円筒形の木製アイスバスに肩まで浸かり、ベビーブルーのレースのビキニ姿で挑戦中だ。3分が経過すると、26歳の彼女は冷たい水から勢いよく立ち上がり、「終わった!」と弾む声で告げた。「すごいでしょ。もう『新しい自分になった』って思うはずよ」

Stockings: Palace Costume Earrings: Starling Jewelry
大ヒット曲「Espresso」で歌ったように、サブリナは〈歌手だから夜更かしする〉──でも実は早起きでもある。今は午前9時。2夜連続のO2アリーナ公演の初日を終えた翌朝だ。昨夜のステージには多くの著名人が姿を見せていた。ハリー・スタイルズ、ヒュー・グラント、ジャネット・ジャクソン(「彼女はgoatよね」とサブリナ)、スパイス・ガールズのエマ・バントン(この日の「Juno」では、彼女を”名誉ゲスト”に迎え、サブリナがフワフワのピンクの手錠で観客を”逮捕”する一幕もあった)、さらにジェームズ・コーデンは子どもたちを連れてバックステージでサブリナと対面した。
O2でのステージはこれが初めてではなかった。2017年には英ボーイズバンドのザ・ヴァンプスの前座を務めたし、つい先日にはブリット・アワードの幕開けを飾り、近衛兵を従えた熱気あふれるパフォーマンスを披露したばかりだ。だが昨夜は、彼女にとって”本格的な初日”に感じられたという。サブリナ自身が心の中でつぶやいた言葉はこうだ──「今夜は私の天下よ」。
その軌跡をたどれば、昨年リリースされた『Short n Sweet』に行き着く。この小悪魔的な傑作によって、ディズニーチャンネル出身の”音楽もやる元子役”から、真のポップ・スーパースターへと飛躍したのだ。ユーモアを効かせた失恋ソングの達人であり、痛みを大きな勝利に変えるカルチャーの超新星。恋人が〈レナード・コーエンの歌詞で自慰にふける〉ようなウェルネス狂いの退屈男だったり、神様が彼女に〈ゲイの目覚め〉を授けなかったせいでデートに苦労したりすることはあっても、サブリナは決して蚊帳の外にいるわけではない。むしろ、笑いを仕掛ける側にいるのだ。
キャッチーで巧みなラブソングに、磨かれたフックを添えるスターは数多い。だがサブリナの鋭いウィットは、そのさらに上をいく。「彼女は考え得るかぎりの知性を持っている。

Outfit from Victorias Secret Archives.
『Short n Sweet』はグラミー賞で6部門にノミネートされ、そのうち2部門──最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバムと「Espresso」での最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス──を受賞した。昨年5月には『サタデー・ナイト・ライブ』に音楽ゲストとして出演し、その後さらに2度番組に登場。今年初めの50周年スペシャルではポール・サイモンと「Homeward Bound」をデュエットで披露した(「すごく信頼して任せてくれたの。だって私、あれを台無しにしちゃう可能性だってあったから」と彼女は笑う)。さらに5月には、ホストを務めたキンタ・ブランソン(米コメディアン)のモノローグにもカメオ出演している。
その過程で、サブリナはもうひとりの伝説的人物とも共演を果たした。
そして今年、そのスケールはさらに大きく広がる。サブリナが『Short n Sweet』に続く新作『Mans Best Friend』をリリースするからだ。収録曲には、新シングル「Manchild」も含まれている。元恋人に向けた痛烈な決別ソングだ(どの元カレのことかと尋ねられると、彼女は「あなたのお父さんよ」と即答した)。「Short n Sweet』のいくつかの曲と同様に、この曲もジャック・アントノフ、エイミー・アレンと共作した。
ディズニーのスピンオフ作品『ガール・ミーツ・ワールド』で子役としてキャリアをスタートさせたサブリナは、2015年にデビュー・アルバム『Eyes Wide Open』をリリースした。そこから10年、ようやく彼女の時代が到来したのだ。いや、彼女は最初から”その瞬間”が来ることを信じていた。「偶然じゃなかったと思う」と彼女は言う。「私はずっと、宇宙とすごく不思議な関係を持ってる気がしてた。だから必ずうまくいくと思ってたの。でも同時に、『なんでこんなことが起きたの?』って気持ちもある。調子に乗りすぎたくはないけどね。10年ここにいる気もするし、10分しか経ってない気もする」
取材で初めて会ったのは、ロンドンの高級住宅街メアリルボーンにあるスパ〈Rebase〉。彼女は自分のマーチを着ていた。
「Espresso」がもうすぐリリース1周年を迎えると伝えると、彼女の目は驚きで大きく見開かれた。「あの曲、まだどこかのチャートに残ってるのよ」とメガヒットについて笑う。世間の記憶から消える気配もない。つい先日も、ホテルでルームサービスを頼んだ際、彼女はお決まりの飲み物を注文したという。「相手の女性がいきなり吹き出しちゃってね」とサブリナは言う。「私、思わず『どうして私の声で分かったの? 本当に私だって知ってるの? なんだかすごく変な気分!』ってなっちゃった」
皮肉なことに、サブリナはコーヒーをほとんど飲まず、好んで口にするのはマテ茶だ。「飲んでみて。全部よ」と彼女は言う。南米のハーブティーは〈Rebase〉のスイートには置かれていなかったが、その他のウェルネス系ドリンクはほぼ網羅されていた。
前作のツアーを続けながら新作を出すのは、今の時代では珍しい選択だ。しかしサブリナは、自分のやりたいことを優先し、周囲の雑音を遮断する術を身につけている。「その気になれば『Short n Sweet』の活動をもっともっと長く続けられたはず。でも今の私は『ちょっと待って、ルールなんてないじゃない』って思うの。新しいインスピレーションが湧いて曲を作りたいなら、その方がいい。わざわざ”3年空けるための3年”を待つ必要なんてないのよ。大事なのは自分の感覚に従うこと。正しい・間違ってるって世間に言われることより、自分の直感に耳を傾けるようになってきたの」
少なくとも今は、新作『Mans Best Friend』がまだ秘密のベールに包まれているおかげで、他人の意見を気にする必要はない。「誰にも聴かれていないし、誰も知らないからこそ、気にしなくていい。その状態を満喫してるの」とサブリナは笑う。「だからこそ、どうでもいいって思えるの。だってただもうワクワクして仕方ないんだから」
冷水浴もいよいよ最後のラウンド。これが一番きつい。1分だけにしようと決めたものの、その時間は永遠のように感じられる。「今ほんとに人生について考えてる」とサブリナは言う。亀甲柄のヘアクリップで髪をまとめた彼女は私のほうをのぞき込み、気を紛らわせようとする。「ロンドンでいいパブ知らない?」
「Manchild」が開く新章
新曲「Manchild」は、サブリナの二言から幕を開ける。含みをもった〈Oh, boy〉だ。『Short n Sweet』のデラックス版に収録された遊び心あふれる「Busy Woman」が〈Oh, hey〉で始まるのと少し似ているが、このイントロにはメッセージが込められている。「あれは本当に”前回のあらすじ”って感じなの」と彼女は説明する。「ちょっと久しぶり、だから『さあ戻ってきたよ』っていう合図。深呼吸して、目をひとつ転がして、また物語の続きを始めるっていう感覚ね」
だがその”物語”の中身を明かす前に、サブリナは言葉を止める。「私はいつも、人生も音楽も映画みたいに考えちゃうの」と彼女は言う。「25歳っぽい発言よね」(彼女は5月11日に26歳を迎えたばかりだ)。「でも、この曲を聴いたときほど、自分が青春映画の主人公だって思ったことはなかった。その感覚をビデオにも反映させたかったの」

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サブリナの楽曲が生まれるのは大きく2パターン。計画的なソングライティング・セッションか、あるいは場所も時間も選ばない、感情が爆発して曲が形になる瞬間だ。「Manchild」は後者のケースだという。「あのときはまさにそんな感じだったから、より特別に思えるの」と彼女は言う。「今この瞬間にスタジオで曲を書いてなかったら、死んじゃうって思うくらいなの」。彼女にとってソングライティングは、自分の感情を時間に封じ込める作業でもある。「自分の気持ちや経験を理解して、紙の上に書き留めないといけないの」
彼女の発言は文字どおりのことを意味する。サブリナは普段、私たち一般人と同じようにスマホのメモアプリを使って曲を書き留めている(いまはiCloudの容量がいっぱいになりかけているらしい)。それとは別に、友人から贈られたノートも愛用している。「Pop Hits, Sabrina Carpenter」と題されたそのノートには、『Short n Sweet』の大半が書き込まれている。「まさか自分が紙に書きつけるタイプの女になるなんて思わなかった」と彼女は冗談めかして言う。
新しいアルバムを意識的に作ろうとしたわけではなかった。『Short n Sweet』の制作を終えてからも、サブリナはジャック・アントノフやエイミー・アレンと曲作りを続けていた。期待やノルマはなく、じっくりとした歩み。「ダメな曲を何曲も間引いて、やっと”ひとつのいい曲”が見つかる」──そんな過程だったが、苛立ちはなかった。むしろ彼女は夢中でワクワクしていたのだ。
「ただ作って、それにワクワクして、また次へ進む。その繰り返しなの」と彼女は語る。「大げさに聞こえるかもしれないけど、足が動くうちに何ができる? 体が柔らかいうちに使わなきゃ。頭が冴えているなら書かなきゃ。すべてが永遠じゃないことを悲しく思わないようにしてるけど、本当に、いまはすごく美しい時間なの。だから、この気持ちをたっぷり味わって、作り続けたいの」
サブリナはポップの研究者でもある。彼女がドリー・パートンからリンダ・ロンシュタットまで、お気に入りのアーティストのディスコグラフィを振り返ったとき、大切な気づきを得た──それが『Short n Sweet』のすぐ後に新作を出す決断につながっている。「彼女たちは毎年10曲入りのアルバムを出してたのよ」とサブリナは言う。「『いつからそれをやめちゃったの?』って思ったの。作家は書いて、曲を作って、そして発表する。姿を消す美学があることも分かってる。でも私の過去2枚は制作に2年半かかったし、それは必要な期間だった。だから結局、作品ごとに違うの。ただ”しっくりくるかどうか”が大事ってこと」
ジャックも同意する。「文化として、僕らはちょっとマーケティングに執着しすぎてきたと思う。今回の制作で話した教訓はね、音楽以外のものを指針にするなんて馬鹿げてる、ってことだったんだ」
多くのアーティストなら、”人生を夢のように変えた”アルバムの次作という重圧に押しつぶされるだろう。だがサブリナにとっては、それがむしろ創作の燃料になった。『Mans Best Friend』は「”どうやって自分を超えるか”とか”どうやって前作を再現するか”なんて気持ちからは生まれてないの」と彼女は語る。「『Short n Sweet』は魔法のような贈り物で、私自身を満たしてくれたし、世界中の多くの人を満たしてくれた。私にとって本物だと感じられたし、たくさんの人にとってもそうだった。そんな一致はめったに起こらないし、まして二度も起きるなんて稀よ。それがきっかけで、自分をもっと知れるようになったの」
ジャックにとって、「Manchild」が生まれた瞬間から新しい時代が始まった。年末直前に完成したその曲と、続けて仕上げた2曲を聴いたときの衝撃は鮮烈だった。「あの3曲を聴いた瞬間『なんてこった』と思ったよ」と彼は振り返る。「そこからアルバム全体が想像できた。曲たちが強烈なアイデンティティを持っていたからね」
彼はさらにこう付け加える。「このアルバムは、僕がこれまで聴いたなかで最も誠実な作品のひとつだと思う。音としては祝祭的なんだけど、歌詞の多くは人間関係の失望や、それがさまざまな形で訪れることについて書かれている。だからこれは、”あなたを失望させた人たち”への祝福なんだ」
過去の音楽とレジェンドへの敬意
冷水浴の合間、木製パネルのサウナに腰を下ろした私たちは、サブリナのBluetoothスピーカーから流れる音楽を聴く。サム・クックの「Nothing Can Change This Love」、スティーヴィー・ワンダーの「My Cherie Amour」、ボブ・ディランをジョーン・バエズがカバーした「It Aint Me Babe」、そしてフリートウッド・マックの「As Long as You Follow」。彼女は”クリスティン派”だといい、マックの中でも1974年の隠れた名曲「Prove Your Love」をお気に入りに挙げている。
リベースのスタッフ、リコという痩せた青年がペパーミントオイルを染み込ませたスノーボールを持ってきてくれた。彼が部屋を出ていくと、サブリナは「彼、私の王様よ」と笑う。「人生の面倒をぜんぶ見てくれそうな気がするの」
サブリナはアロマオイルが大好きで、生理のときにはラベンダー、ゼラニウム、カモミールをブレンドしたものを使うという。「もう今日か明日には来そうで、ほんとに最悪」と彼女は言う。「ショーのときに……ねえ、”ルテアル期”って知ってる?」。排卵後から月経前にかけての周期のことを、彼女はさらりと口にする。「いま私、ルテアル期にめっちゃハマってるの。『ああ、だから毎月10日間くらいブスになるんだ』って納得したの」
コールドプランジにハマったきっかけは、元カレたちだという。「私が付き合ってた男の子たちがやってて、それをからかってたんだけど、実際には彼らから教わったの」と彼女は説明する。『Short n Sweet』収録曲「Dumb & Poetic」でも、キノコを摂取して自己啓発書を読み、瞑想にふける〈ウェルネス兄さん〉を皮肉っている。この曲には〈レナード・コーエンの歌詞で自慰にふける〉という一節があり、ネット上でも話題を呼んだ。さらにサブリナは姉でクリエイティブ・パートナーのサラとともに、1966年のコーエンのテレビインタビューをツアー演出に取り入れている。
コントラストセラピーを始めた経緯について、彼女は率直にこう語る。「ほんとにそのままよ。『冷たいシャワーを浴びたってメンタルヘルスは治らないでしょ。ちゃんとセラピストに会いなさい』っていつもバカにしてたの。でも実際やってみたら、『あれ、ちょっと効くかも』って。人生が整うほどじゃないけど、体の回復には確実に役立つし、少し頭がクリアになってエネルギーも出るの。残念ながらカルトっぽいけど、私は乗っかってる」。そして彼女は肩をすくめて付け加える。「私、好みがハッキリしてるのかもね」

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サウナにビージーズの「Emotion」が流れる中、サブリナは先日『サタデー・ナイト・フィーバー』を見直したことを話してくれた。「最近知って一番びっくりした豆知識は、あの映画のために、彼らの大ヒット曲のうち4曲が書かれたってことなの。信じられる? 本当に集中して作り上げたんだと思う」
ペパーミントの香りで目にしみる蒸気の中、会話は『サタデー・ナイト・フィーバー』の裏側──多幸感あふれる音楽と汗まみれのダンスフロアの背後に潜む、レイプや自殺、人種差別といった痛ましい場面──へと及んだ。さらに10代が車の中で公然とセックスする描写も多い。
「みんな普通に友達の前でやってるのよ」とサブリナは言う。「『昔の人って本当にそうしてたの?』って思っちゃった。私は当時生きてなかったから分からないけど、いまじゃプライバシーがすべてでしょ。彼らはただ車でたむろして、友達の前でやっちゃうの。もし私の友達が隅っこでやってたら、私は本気でショックだし、怖くなっちゃうと思う。でもあの時代は本当に違ったのよね」
そんな70年代音楽の中でも、サブリナの心を掴んで離さない存在がABBAだ。彼女は筋金入りのファンで、2匹のブリティッシュショートヘアの猫に「ベニー」と「ビョルン」と名付けたほど(ベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァースにちなむ)。さらにライブの「お泊まり会」セクションでは、ABBAの楽曲をカバーするのが恒例になっている。「このショーにとっては運命的なアーティストなの」と彼女は言う。「私をこんなに幸せにしてくれるアーティスト、ほかにいるか分からない。楽しい音楽を作る方法を知っていて、それが安っぽくも陳腐にも聞こえない。たとえそう感じても、彼らが本気で売り込むから、つい乗ってしまうのよ」
ABBAのバーチャル公演「ABBA Voyage」は、『Short n Sweet』ツアーの衣装にも影響を与えた。特に、アグネタ・フェルツクグがまとっていた淡いブルーの衣装はその象徴だ。これが行きすぎだと思う人もいるかもしれないが、彼女はさらに踏み込む寸前だったという。「本当は蓄光仕様の衣装にしようと思ったの。だって彼らのショーでは光る衣装を着ていたから。でも結局こう思ったのよ──『ホログラムなら簡単にできるけどね』って」
今年4月、スウェーデンでの公演に合わせてABBA博物館を訪れたサブリナは、思いがけずビョルン本人と対面することになる。しかも、彼が直々に館内を案内してくれたのだ。「彼女はとても親切で知的な若い女性だった」とビョルンは語る。「一緒に歩いている間、頭の中でいろんなことを考えているのがよく分かったよ」
ビョルンはサブリナのお気に入りの曲として「Espresso」と、2022年の『emails i can't send』収録の「Nonsense」を挙げる。後者はおどけた名曲で、彼女は当時のライブで毎回、会場ごとに異なる(しかもかなりセクシーな)アウトロを即興で付け足していた。「あのプロダクションは……すごい! 本当にトップクラスだね」と彼は語る。「彼女の歌唱力は抜群だし、フックも抗えない。これぞ真のポップ・ミュージックだ」
サブリナは、自身のアイドルの”子ども世代”に感謝している。「ネポベイビー万歳よ」と彼女は笑う。「だって彼らは私のファンで、私はその親に会う必要があるから」 たとえばビョルンにとっては16歳の孫娘イーディス、ポール・サイモンにとっては30歳の娘ルル、そしてドリー・パートンにとっては10代の甥や姪たちだ。「私がサブリナと一緒に何かをやるって聞いたとき、まあ大変! 急に私の株が上がったのよ」とドリーは語る。「それまではただの”ドリーおばさん”だったのにね」
『SNL』50周年スペシャルでポール・サイモンとオープニングを務めるよう依頼されたとき、サブリナは最初場違いに感じたという。「『私のことちゃんと分かってて頼んでる? 人違いじゃない?』って思ったの」と彼女は振り返る。だがいま、彼女はそうした伝説的なアーティストたちの輪に少しずつ居心地のよさを感じている。
「実際、自分が何をしているのか分かるようになってきた気がする」と彼女は言う。「もちろん私はまだ専門家じゃないし、学ぶことはたくさんある。でも、ずっと憧れてきた人たちの隣に立って、ちゃんと自分が誰なのか分かっている──それを感じられるなんて、本当にすごいことだと思う」
子役からポップスターへ、「ブロンド」のレッテル
サウナに入って10分。残り5分のはずが、ペパーミントの香りに圧倒されてしまう。ついにはスマホが熱でダウンし、音楽も止まってしまった。「あと30秒で水に濡れたネズミみたいになっちゃう」と彼女は言う。結局、予定より早くサウナを出ることにした。
スパを後にして、サブリナのチームと黒いSUVに乗り込む。広報担当がこんな話をする。さっきタクシーの運転手に「O2で誰がやるんだ?」と聞かれ、「サブリナです」と答えたら、不満げに「知ってるよ」と返ってきたというのだ。それを聞いたサブリナは吹き出した。「年配の男性を怒らせるの、これが初めてじゃないのよ」と笑う。
やがてチルターン・ストリートに到着し、私たちは可愛らしい〈モノクル・カフェ〉へ。サブリナは緑茶を注文し、憧れた様子のバリスタに「そのイヤリング素敵!」と声をかける。その後はおしゃれな雑誌ショップをひとまわり──だが、通りでファンに気づかれたため、長居はできなかった。彼女はとても優しく対応し、ある人には自ら写真撮影を提案し、別の人には「すごくいい匂いがするね!」と声をかけていた。

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子役として育ってきたサブリナにとって、人前で注目されることには慣れている。だが『Short n Sweet』以降、その視線は一気に千倍に膨れ上がった。彼女はしばしば茶色のウィッグで変装するという(「ブロンド爆弾の髪は帽子じゃ隠せないのよ」と彼女は指摘する)。「これで私の変装をばらしちゃったわけだけど、まあいいの。新しいのを探すから」と笑う。
こうした公の場での交流はたいてい心地よいものだが、ときに怖さも伴う。「私は本当に穏やかな人間だと思うの。相手が普通に人として接してくれるなら、もちろん会いたい。問題は、相手が変な感じになったときよ。その瞬間『うわっ、しばらく家に閉じこもろう』ってなる」
サラと親友のパロマ・サンドヴァルは、しばしばサブリナの安全を心配している。彼女たちは最近の出来事を教えてくれた。ツアーでイギリスに滞在していた休日、サブリナを〈Urban Outfitters〉へ連れて行ったときのことだ。ウィッグに帽子、顔を覆うスカーフ、さらに大きなコートまで着込んでいたにもかかわらず、目ざといファンは彼女を見つけてしまったのだ。「彼女の眉がすごく特徴的だから、変装が難しいのよ」とサラは言う。
ある意味、サブリナは人生を通じてこの瞬間の準備をしてきたともいえる。彼女は1999年、ペンシルベニア州クエーカータウンに、4姉妹の末っ子として生まれた(異母姉のケイラが長女、次いでシャノン、サラ、そしてサブリナ)。母エリザベスは、エタ・ジェイムズ、パッツィー・クライン、ホイットニー・ヒューストン、アレサ・フランクリンといった歌唱力抜群のシンガーを彼女に聴かせ、父デイヴィッドはクイーン、ビートルズ、そしてラッシュなどクラシック・ロックを教えてくれた。「『The Trees』って、私が今まで聴いた中で一番長い曲よね」と彼女はカナダのプログレ・バンドについて冗談を飛ばす。「子どもの頃はずっとあれが流れてたの」
サブリナの両親の結婚式で流れたのは、ぴったりの選曲──カーペンターズの「愛のプレリュード(Weve Only Just Begun)」だった。「『親戚なの?』って聞かれると、本当に光栄なの」とサブリナは言う。「そうだったらよかったのに。私が歌う理由も説明がつくでしょ。でも残念ながら、母はカイロプラクターで、正直いって歌はダメ。同じく父も。だから私がどこから来たのか分からないのよ」
サラにとって、サブリナの音楽は幼少期のサウンドトラックだった。姉は歌のレッスンに同行し、両親が家中で彼女のYouTube動画を流すのを聴いて育った。「ほんとに大げさじゃないの」とサブリナが口を挟む。「残念ながら事実なのよ」。今でもネット上には、10歳前後の可愛らしいサブリナが、エタ・ジェイムズの「At Last」、シネイド・オコナーの「Nothing Compares 2 U」、さらにはテイラー・スウィフトやクリスティーナ・アギレラ、アデルのヒット曲を堂々と歌い上げる映像が残っている。中にはガンズ・アンド・ローゼズの「Sweet Child O Mine」をミニ・アクセル・ローズさながらに、ヘドバンまで真似して歌う姿も──まさに”子どもの頃の記憶”そのものだ。
サラがいまも鮮明に覚えている場面がある。サブリナがひどい風邪をひいて、地元のフェスで歌えそうにないときのことだ。「どうしても治らなくて、声も出なかったの。でもステージに立った瞬間、まるで誰も歌ったことのないくらいに歌ったのよ。そのときに思ったの。この子はこういう運命なんだ、ここにいるべきなんだって」。サブリナ自身も、その記憶は胸に刻まれている。「いつもそうだったの。体調が悪くても、痛みに耐えていても、ステージに立ったら全部消えてしまうの」と彼女は言う。「『これって私だけのすごいトリックだな』って思った。小さなスーパーパワーみたいなものよ」
幼い頃から、サブリナは音楽をキャリアにすることを決意していた。「これは”無給の仕事”だって思ってたの。毎週やらなきゃいけないし、もっと上手くならなきゃいけないって。子どもがそんなふうに考えるのって変よね」と彼女は振り返る。「コネがあったわけでも、やり方の情報があったわけでもない。両親もそう。だから間違いもたくさんした。でも絶対に後悔はしてない。おかげで打たれ強くなったし、誰かに操られそうになったときに少し賢く立ち回れるようになった。悲しいけど、それが事実。どんな分野でも成長の一部だし、特に若い女性ならなおさらね」
12歳のとき、彼女はディズニー傘下のハリウッド・レコードと契約。翌年には『ガール・ミーツ・ワールド』でマヤ・ハート役を得て、母とともにロサンゼルスへ移り住んだ。その後も『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』や『LAW & ORDER: 性犯罪特捜班』などに出演したが、3シーズン続いた『Boy Meets World』のスピンオフで見せたコメディ演技が彼女の才能を広く知らしめ、ファンを獲得することになった。その役を今でも見返すことはあるのだろうか?「私の意思に反してね」と彼女は笑う。「年をとって振り返るときは、すごく不思議でトリッピーな気分になると思う。でも今はただ、衣装を思い出して震えてるわ」
初期の音楽に対しても、彼女のスタンスは似ている。「もし昔のアルバムを聴いたら……いや、聴かないで」と彼女は苦笑する。それでも、当時のポップ・アルバムにはフォーク、カントリー、R&B、さらには80年代風の要素まで取り入れられていたと指摘する。「私が本当にやろうとしていたことは、いまやっていること。『Short n Sweet』でそれを成し遂げられたと思ってるの」
『Short n Sweet』について批評家たちが称賛したのは”ジャンルの越境”だが、特筆すべきはそれが不思議なほど一貫して聴こえることだった。その理由は、ほとんどサブリナ自身の存在感にあるとジャックは語る。「彼女のパーソナリティがここまで強ければ、ジャンルは自然に開かれるんだ」と彼は言う。「ジャンルが表現の本質じゃなくなったときにこそ、自由が生まれる。僕らが一緒に仕事するとき、ジャンルは二次的な要素でしかない。遊びのようなものなんだ。『今回は予想外のジャンルに少し傾いたな』なんてことが何度も起きる。新作でもそうだった。でもそれがむしろ、スタジオを笑顔で満たすんだよ」
サブリナは非常に自己認識が強い。特に、自身のユーモア感覚については。皮肉やジョークに関する質問にはいつも深く、雄弁に答える。それは何度も問われるテーマだからというだけでなく、彼女がこれまで以上に自分を理解しているからでもある。10代の頃から彼女は、ユーモアを「最も鋭利な道具」として捉えてきた。言いたいことを正確に伝えるための手段として。
「本当は愛想よく振る舞ったり、人を喜ばせたりしたくないときでも、皮肉を使えば正直でいられる。それでいて無礼とか、嫌な奴とか、扱いづらいって思われずに済むの」と彼女は言う。「でもこれは、女性が”誤解されないように”会話や意図そのものを言い換えなきゃいけないっていう大きな問題につながる。実際には、自己主張したり、自分の欲しいものを分かっていたりすることは、人として悪いことなんかじゃないって気づいたの」

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サブリナはまた、ジョークは衝撃を和らげ、誰かを傷つけないための工夫でもあると気づいている──その戦略は音楽にも表れている。「曲を書くとき、ちょっとしたウィンクがないことを言うのはすごく難しいの。それが私の話し方だから」と彼女は言う。「友達や家族、恋人と話すときのコミュニケーションの方法なの。私には悪意なんて一つもない。だから嫌な日でも、ジョークにすれば”ちょっと意地悪な女”っぽさが薄まるのよ」(ちなみに彼女は不安やストレスに苛まれることもあり、その気分を「Bitchy Brina」と名付けている。)
「Manchild」がネット上で大きな話題になることは、彼女自身も分かっていた。歌の対象が誰なのか突き止めようとするリスナーたち──しかも曲中ではその男性の母親までユーモラスに登場させているのだ。一部では、彼女の元恋人である俳優バリー・コーガンのことではないかと推測されている。彼は「Please Please Please」のMVにも出演しており、その曲も二人の関係を歌っているのではとファンの間で話題になった。
数カ月前にタブロイド紙が二人の破局を報じた後も、メディアは未だに「交際の時系列」を記事にしている。サブリナはなるべく目を通さないようにしているが、ネットのゴシップには「免疫がついて、もう感覚が麻痺している」と語る。「深い穴に入り込んでしまうのは、人々があなた自身のことや外見についてコメントし始めるとき。本当は自分でも日々考えていることなのに。アーカンソーに住む見知らぬ誰かに、それをわざわざ思い出させてもらう必要なんてないのよ」
それでもサブリナは、ときどき記事の不正確さに目をとめずにはいられない。特に交際のタイムラインについてだ。「『それはその時じゃなかったし、それは確かにあった。あと重要なところをいくつか抜かしてる』って思うの」と彼女は言う。「若い女性として恋愛を経験しながら、それを見知らぬ大勢が好き勝手に論じる──その厄介さをみんな分かってないのよ。だってコメントしてる人たち自身が同じようにプライベートを顕微鏡でのぞかれたら、私みたいにうまく話せるとは思えない。昔からある物語だってことは分かってるけど、それがいまだに続いてるのは残念ね」
いま彼女はシングルなのかと尋ねると、サブリナは首をかしげる。「私、今”シングル”をやってるのかしら?」と彼女は問い返す。「いまは”25歳をやってる”って感じ。それがどういう意味かは分からないけど」
ネットが彼女の恋愛模様に夢中になったのは2021年からだ。あの1月、失恋パワーバラード「drivers license」が登場し、世界を席巻した。オリヴィア・ロドリゴ──こちらもディズニー出身のスター──が歌った〈きっとあのブロンドの子と一緒なんでしょ〉という一節に、世間のPCもスマホも炎上した。あなたの祖母でさえ耳にしたかもしれない。ロドリゴ、ドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の共演者ジョシュア・バセット、そして”悪役”にされたサブリナによる、あの10代の三角関係の話題を。
サブリナはその騒動のあと「Skin」を発表した。多くの人は、この曲が一連のドラマへの返答だと推測した(〈韻を踏むためにブロンドって言っただけかも〉と彼女は歌っている)。さらに『emails i can't send』に収録されたバラード「Because I Liked a Boy」では、その破壊的な余波を赤裸々に描いた──〈いまや私は家庭を壊す女、私は尻軽/死の脅迫がトラックいっぱいに積み上がる〉。
それらがもし遠い昔のことに思えるなら、サブリナにとってはまさに「ひと昔」どころか「別の人生」のようだ。だが私は、その出来事自体ではなく、彼女の絶え間ないワーク・エシック(労働倫理)が──意識的ではないにせよ──「あのブロンドの子」というレッテルを完全に振り払いたい思いに突き動かされているのではないか、と気になっていた。
「意図的にそうしたわけじゃないの」と彼女は言う。「ただ一つ分かっていたのは、どんなことがあっても自分の好きなことをやめたりはしないってこと。それがずっと私のスタンスなの。大事なのは、自分がどれだけ強くいられるかってこと。あの時代から学んだのは、自分を信じること。そして、すべてはあるべきように収まると信じること。人との出会いは必ず意味があるって信じること。その瞬間には分からなくても、後になって分かるものなのよ」
どれくらいの頻度で当時を思い出すかと尋ねると、サブリナは少し間を置き、まるでドン・ドレイパーのような無表情でこう答えた。「一度も考えたことないわ」
もちろんこのやりとりの最後も、サブリナらしいひと言で締めくくられる。「ブルネットにしたことあるけど、似合わなかったの。だからこれでいいのよ」
混沌の中で、それでも笑う
曲の歌詞とは裏腹に、サブリナは休暇をとるのが大の苦手だ。普段は”気にしない精神”を家や仕事に持ち込み、週3~4回は〈Sculpt Society〉というフィットネス・プラットフォームを使ってトレーニングしている。そんな彼女がようやく休暇をとったのは、ツアーの合間に訪れた3月末。バンドやダンサーの仲間とともにコモ湖へ出かけた。標高で耳がポンポン鳴りっぱなしだったが、それでも行ってよかったという。「2日間ずっとランニング・シャレード(※走りながら行うジェスチャーゲーム)をして、リモンチェッロ・スプリッツを飲んでたの」と彼女は笑う。「『ああ、すごくいい。ちゃんと回復できた』って思った。もう一度やらなきゃ。今年の目標ね。働くのは昔から苦じゃなかったから、今度は”休暇が下手”なのを克服しないと」
5月初め、私は再びサブリナと会った。場所はニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジのイタリアン・レストラン〈Palma〉だ(コーネリア・ストリート沿いにあり、彼女の友人テイラー・スウィフトのおかげで有名になった通りだ)。彼女はバブルガムピンクのセットアップに白いサンダルと白いショルダーバッグを合わせ、ブロンドの髪をまたもクロ―クリップでまとめて現れた。
そして私の姿を見るなり固まった。私のケリーグリーンの服と、同じくヘアクリップで留めた髪を指差して──「ファック! 私たち『ウィキッド』みたいじゃない!」

Top: RABANNE. Courtesy of ALBRIGHT FASHION LIBRARY.
サブリナはプライベートキッチンの席に腰を下ろす。左手には自分のイニシャルをかたどったダイヤのリング、右手には中が空のロケットリング。唇にはローズ色のリップライナーを引き、度付きのキャットアイ眼鏡をかけていて、まるで60年代の秘書のようだ。木製のテーブル一面にはピンクのシャクヤクが生けられた花瓶が並び、そこに灯されたキャンドルと柑橘類のボウルが加わり、まるで映画『トスカーナの休日』のワンシーンのような光景が広がっている。
両開きのドアは屋外の庭へとつながり、階段を上がった先の部屋では人々が集まり始めていた。階段を上がるゲストの列から顔を隠すようにしながら、サブリナは「ウケる、女子会だわ」と観察し、「怖くて振り返れないの」と笑う。やがて天井を指さし、上から響く賑やかな声を示すと「なんで私たち、あんなふうに祝ってないの?」と冗談めかす。
彼女はロサンゼルスとニューヨークを行き来しているが、ニューヨークでは特にパパラッチを避けやすい。2021年から暮らすファイナンシャル・ディストリクトでは、当初『emails i can't send』を書くために2カ月の予定でAirbnbを借りたのが、そのまま住み続けているという。「ありがたいことに、オーナー夫妻が私と姉をとても気に入ってくれたの」と彼女は言う。
以来、サブリナは〈Palma〉に通い続けている。ここはミュージシャンでもある友人アンバー・マークの家族が経営するレストランなのだ。「シェフが”君の好きなカリフラワーがあるよ”って3回も言ってたよ」とウェイターが伝え、やがて運ばれてきたのは、香ばしく焼かれたカリフラワーに、アランチーニとカリカリのアーティチョーク。
サブリナは飲酒に関してはかなり選り好みをする。特にツアー中はそうだ。アルコールが体を分解していく感覚が分かる、と彼女は言う。「ただでさえ外見について毎日のように批判されるのに、中から不調を感じると本当に悪夢みたい。すごく暗い気分になっちゃうの」
私たちはノンアルコールのアペロール・スプリッツを注文し、飲まないことの利点──睡眠の質や頭のクリアさ──について語り合う。「でもね、友達と一緒で”物語的に必要”なら、飲むわよ」と彼女は笑う。「ちなみに、もし私が家でひとり、ワインのフルボトルを抱えて、理由もなく誰とも話さず飲んでたら、警察を呼んでちょうだい」
自宅にいるときのサブリナには、ファンがほとんど見たことのない別の一面がある。冗談やダブルミーニングを連発することのない、静かで内省的な姿だ。ステージ上での自分は「演技じゃなくて、そのときの気分そのもの」だと彼女は言う。しかし「常にあのエネルギッシュさと幸福感を保てるわけじゃない。だから家に帰れば、ずっと落ち着いた、静かでクールな自分になれるの。エンターテインするのは大好き。でも、ただ黙って自分だけでいる時間も同じくらい好きなの。観察したり、本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたり。頭の中で過ごす時間はすごく多いの。それは良いことでもあるし、悪いことでもある」
サブリナのよりシリアスな一面は、「Lie to Girls」のような楽曲からも感じ取れる。『Short n Sweet』に収録されたこの曲は、ジャックとエイミーと共作した彼女の最も優れたソングライティングのひとつで、最低な恋人たちの”醜い真実”を女性がどうにか避けようとする切実さを描いた失恋アンセムだ。彼女はこう歌う──〈女の子に嘘をつかなくてもいい/彼が好きなら、自分に嘘をつくから〉。
ツアーではこの曲をアコースティックギターで弾き語りする。装飾を削ぎ落とした親密な瞬間だが、映像や写真に残ることはほとんどない。というのも、ツアーの多くの注目が性的な演出に集まっているからだ。衣装はスパンコールのコルセット付きボディスーツ、ガーターベルト、レースのベビードール。振り付けも挑発的で、ステージスクリーンには「horny(欲情)」という言葉が文字通り点滅する場面さえある。
2007年のティーン妊娠を描いた映画にちなんだインディーポップの名曲「Juno」で、〈あなたにジュノにされちゃうかも〉と歌うだけでは足りなかったかのように、彼女はさらに一歩踏み込む。〈変わった体位、試してみる? これやったことある?〉と歌いながら、彼女は実際にさまざまな体位を演じてみせる──毎回違う内容で(ちなみに、ファンがその動画をオンラインでまとめているのは言うまでもない)。さらに「Bed Chem」では、ハート型のベッドに寝そべり、幕の後ろで男性ダンサーと性交を模したシーンで幕を閉じる。こうした”バイラルな瞬間”はネット上で議論を呼び、一部の保護者からは「子どもに不適切」と非難されることもあった。
「人が文句を言うのって、いつもすごくおかしく思うの」と彼女は言う。「『彼女はそういうことばかり歌ってる』って言うけど、それってあなたたちが人気にした曲でしょ。つまりあなたたちがセックスを好きだってこと。夢中になってるのよ。それが私のショーにも表れてる。『Juno』の体位ばかり取り上げられるけど、実際はもっとたくさんの瞬間があるのに。バラードだってやるし、内省的な曲だって聴ける。でも毎晩ポストされて、コメントされるのはそっち。私はそれをコントロールできない。だからそこに皮肉とユーモアを感じるのよ。そういうのが繰り返しのテーマみたいになってる。でも怒ってはいない。ただ、たまに”面白くなきゃいけない”っていうプレッシャーは感じるけどね」
この話題はサブリナにとって重要で、数週間後の電話インタビューでも再び触れることになった。「悲観的に聞こえるかもしれないけど、女性がこれほど細かく切り刻まれ、あらゆる面で批判される時代に生きたことはないと思う。私だけの話じゃなくて、いまアートを作っているすべての女性アーティストについて言ってるのよ」
私は彼女に、ちょうど話が合っていると伝える。なぜならコーネリア・ストリートの外では、ファンたちがスウィフトのかつての家の前で写真を撮っていたからだ。「そう、それが言いたいの」と彼女は答える。「”ガールパワー”とか”女性同士の支え合い”の時代だって言われてるのに、現実は違う。誰かがドレスを着てレッドカーペットに立った写真を見た瞬間、30秒以内に悪口を言わなきゃ気が済まない──そんな時代なのよ」

Outfit from Victorias Secret Archives.
この話は『Short n Sweet』のアナログ盤限定ボーナストラック「Needless to Say」とも響き合う。そこでサブリナは、自分が直面するオンラインでの監視に切り込んでいる──〈きれいなドレス、不自然な角度/きっと拡大して友達みんなに見せたんでしょ〉と歌うのだ。「繰り返し戻ってくるテーマなの」と彼女は言う。「私たちは打たれ強くならなきゃいけない。でも、あの人たちは口を閉じる方法を学ばなくてもいいわけ」
この点で、サブリナはドリー・パートンを尊敬している。「彼女はいつも機知とユーモアで対処してきた」と語る。二人は「Please Please Please」のMV撮影でピックアップトラックに何時間も一緒に乗り、途中でマイクを切ってしまうほど深い話をしたという。「あのときスタッフはきっとウズウズして、『何を話してるのか知りたい!』って思ってたに違いないわ」とドリーは振り返る。
「私たちは多くのことを気にしなかったけど、それでもプライバシーというものは存在する。あのとき私はサブリナに『自分の道徳や魂や信念、そして自分自身の価値を絶対に犠牲にしちゃダメよ』って伝えたの。あの時間を私はずっと大切にするし、彼女を心と記憶のなかで大事に抱いていくわ」
サブリナにとってポップスターとして生きることは、ある種の狂気や混沌と共存することだ。数時間ごとに”ビデオゲームの悪魔”と戦わなければならないような感覚、と彼女は言う。「みんなが気づいてないのは、注目されればされるほど、自分のやっていることを愛するのが難しくなるってこと。そしてそれでも創ることを、パフォーマンスを愛し続けるために戦わなきゃいけないの。批判的な視線は物事を濁らせて、楽しさを奪っていく。友情や恋愛だって楽しめなくしてしまう。でも、それでも光や善意はたくさん残ってる。もしそれを”愛していて、なくてはならないからやってる”ならね」
彼女は今年、その心持ちを保つよう努めている。コールドプランジのように、新しい時代に飛び込み、何が起きても受け止めようとしているのだ。「1年のあいだに、自分のことを最高に思えたり、最悪に思えたり、その間の全部を感じることができるの」と彼女はディナーの席で語っていた。「いつも素晴らしい気分なわけじゃないし、自分が何をしてるのか分からないことだってある。でもいま、パルマでスプリッツを飲みながら、少なくとも近い未来に自分が何を望んでいるのか、少しはっきり見えている気がするの。これはとても稀有なことよ。いまこの瞬間にちゃんと”存在している”と感じられる場所にいられる私は、本当に幸運だと思う」
けれどサブリナは知っている。5年後の自分がこの瞬間を振り返れば、またジョークにしてしまうだろうということを。これまでもずっとそうしてきたように。では、未来の自分に何と言うのだろうか。
彼女は笑みを浮かべた。
「大ウソつき(Fucking liar.)」
From Rolling Stone US.
Production CreditsProduced by MAAVVEN. Executive Producer COLEEN HAYNES. Production Manager DESIREE LAURO. Styling by JARED ELLNER at A-FRAME AGENCY. Hair by EVANIE FRAUSTO at STREETERS USING REDKEN. Hair Colorist AUSTIN WEBER. Hair Piece by SHOWPONY. Makeup by CAROLINA GONZALEZ at A-FRAME AGENCY using ARMANI BEAUTY. Nails by ZOLA GANZORIGT at THE WALL GROUP using OPI. Spray tan JENNI BLAFER FOR SUNKISSED BY JENNI. Production Designer ANDREW NOWLING. Video Director MAC SHOOP. Digital Technician JOHN SCHOENFELD. Photo Assistants FERNANDO VENEGAS and PAUL GILMORE. Set Decorators JUAN MORALES, DANIEL GARCIA JASON and JASON PUGA PAINT. Production Coordinator HENRY SANTA MARIA.Studio Manager ETHAN HAUG. 1st Assistant Director MARIANO ANDRE. Production assistance CAITLIN JOY WESTERMAN, ADELAIDE GAULT, PAUL SIGWERTH, JOEL TREVINO and TOMMY PAGANO. Styling Assistants SARA JAMESON, MAYA SAUDER, CHRISTIN SHERRARD, LEINEA MUELLER, BROOKE FIGLER, EMILY ESSEN and LAUREN GARCIA. Retoucher GLEN VERGARA. Animals provided by WORKING WILDLIFE. Dove provided by SOCAL WHITE DOVES.

サブリナ・カーペンター
『Mans Best Friend』
再生・購入:https://umj.lnk.to/SC_MBF