10月に入り、ついにオアシス来日公演へのカウントダウンが始まった。再結成ツアーは世界各地でチケットが完売。
2009年の解散から16年を経て実現した奇跡のリユニオンは、単なる懐古ではなく、Z世代をも巻き込んだ”社会現象”となっている。2025年の今、なぜギャラガー兄弟はここまで求められるのか。今年8月に刊行された『オアシス―不滅のロック物語―』の著者で音楽ライターの小川智宏に、その理由を読み解いてもらった。

オアシス再結成はなぜ社会現象に? 若い世代も巻き込んだ一大熱狂の背景を探る

『オアシス―不滅のロック物語―』(ハヤカワ新書)
30年の時を経て「ロックの衰退」や「洋楽離れ」が語られる今なお、なぜ彼らの曲は人々を魅了し続けるのか。ブリティッシュ・ロックの系譜、名曲の誕生秘話、ギャラガー兄弟のカリスマ性、衝撃の解散と再結成——オアシスが歩んだ歴史をたどりながら、ロックという音楽文化と、彼らが体現してきたロックスターという存在が放つ永久不変の魅力に迫る。
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新世代による「オアシス再発見」

今年、ついに実現したオアシスの再結成。7月4日のウェールズ・カーディフ公演で幕を開けた「LIVE 25」ツアーは、ここまでおよそ3か月でイギリス、アイルランド、カナダ、アメリカでの公演を完遂。世界各地を熱狂させているステージが、この後韓国を経て、10月25日・26日、いよいよ日本へとやってくる。

何せ、1990年代を代表するロックバンドの、満を持してのリユニオンである。もちろん世界規模の「お祭り」となることは想像していたが、実際に今世界中を席巻しているのは、そんな筆者の想像をあっさりと超えた大フィーバーである。正直なところ、これほどまでの狂騒が巻き起こるとは、とちょっと驚いている。イギリスとアイルランドでの公演のチケットにはじつに1000万人を超えるエントリーがあったらしいし、東京ドームで2日間行われる日本公演ももちろんチケットは文字通りの即完売。
90年代の「黄金期」を含めても過去最大の勢いで、オアシスを取り巻く状況は過熱する一方なのだ。

筆者はまだ今回のツアーを観ていないが(東京公演はもちろん行く)、実際にイギリスに飛んでこの歴史的ギグを目撃した人の体験談によると、現場に渦巻く熱はとんでもないものらしい。ツアーに合わせてオープンしているポップアップストアには長蛇の列、国内はもちろん、さまざまな国から集結したオアシス・ファンの熱気は、さながらワールドカップのようだという。そんな熱を支えているのは、90年代にオアシスに衝撃を受けたリアルタイム世代──だけではない。SNS上に流れている現地の映像を観ればそれがどういうことかは明らかだ。当時のオアシスを体験していない世代のファンが興奮の面持ちでオアシス・クラシックスを大合唱していて、今回の再結成を機に、このビッグ・バンドのファンベースに劇的な新陳代謝が起きていることがはっきりとわかる。

オアシス再結成はなぜ社会現象に? 若い世代も巻き込んだ一大熱狂の背景を探る

2025年7月4日、オアシス「Live 25」ツアー初日の英カーディフ公演にて。若いファンの姿が目立つ(Photo by Gareth Cattermole/Getty Images)

オアシスが今改めて若い世代に響いていることを示す証左はいくつもある。ひとつ挙げるとすれば、7月の全英アルバム・チャートで、サブリナ・カーペンターやエド・シーランらに並んで、オアシスのアルバム3作がトップ5入りを果たした。そのラインナップがファースト・セカンド、そしてベスト・アルバムの『Time Flies...1994-2009』だったことからもわかるとおり、再結成ツアーが始まったタイミングに合わせてライブの「予習」的に彼らのアルバムを手に入れたファンが大勢いたということだろう。ちなみにトップ5を埋め尽くすようなことはもうなくなったが、今でもチャート上位20位くらいの間には常にオアシスのアルバムがランキングされている。今から30年前にリリースされた作品が、次々と新たなリスナーを獲得しているのが現在なのである。
大袈裟ではなく、老若男女が今、オアシスというロックバンドを求めているのだ。

オアシス再結成はなぜ社会現象に? 若い世代も巻き込んだ一大熱狂の背景を探る

2025年7月11日の全英アルバムチャート(Official Chartsより引用)

そうした熱狂は、音楽を離れたカルチャーにも波及している。先日はアディダスとオアシスのコラボアイテムがリリースされ話題となったが、それ以外にもさまざまなブランドがオアシスのモチーフを使ったTシャツなどのアイテムを売り出し、ひとつのブームを生み出している。それこそニルヴァーナメタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズのようなバンドのTシャツはファッション・アイテムとして完全に市民権を得ているが、そこに割って入るように、この1年あまりで街中でもオアシスのTシャツを着た人を見かけるようになった。今回のツアーのマーチャンダイズもかなり力の入ったものになっているが、それもそうした背景を踏まえてのものだろう。オアシスのあのデッカ・ロゴやアートワークが、急にファッション的に「アリ」になったのである。これは画期的なことだ。なぜなら、オアシス関連のアイテムが、そうした価値基準においてここまで評価され、巷に広まるということはこれまで想像もしていなかったからだ。。むしろかなりのファンの間でさえ、オアシスのグッズは「ダサい」という認識を持つ人が少なくなかったと思う。先日は「ZARA」でオアシスのファースト・アルバムのアートワークをモチーフにしたキッズ用Tシャツを発見してひっくり返った。マーケティングに特化したあのブランドが、子ども向けの服としてオアシスを売る。
ここまできたか、と思わずにいられなかった。

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復活を支えたZ世代リスナー

もっとも、そうした状況は再結成にあたって突然起きたというわけではない。それ以前からじわじわと、新世代による「オアシス再発見」は進んでいたのである。振り返れば、2009年にバンドがその歩みを止めるはるか以前から、彼らを取り巻く状況は決して順調ではなかった。とりわけ2000年代に入ってから、つまり4作目のアルバムである『Standing on the Shoulder of Giants』以降はブリットポップの残り火も完全に消え去るなか、オアシスは「迷走」していたといっていい。セールスや観客動員の面ではそのスケールをキープしていたものの、少なくとも同時代の若いロック・リスナーのあいだでは、オアシスはアウト・オブ・デイト、つまり「オワコン」扱いされることが珍しくなかった。もちろんそのなかにも浮き沈みはあり、たとえば「Lyla」というヒット・シングルを生んだ6作目『Don't Believe the Truth』から最初のベスト・アルバム『Stop the Clocks』、そして解散前最後のアルバムとなった『Dig Out Your Soul』にかけてバンドは再び上昇気流にのったようにも見えたが、それとてかつてのような大爆発を誘引するまでには至らなかった。

メンバー構成の変化やそれに伴うノエル・ギャラガー以外のメンバーのソングライティングへの参加、あるいはリアム・ギャラガーの声質の変化など、さまざまな要因が絡まり合って、オアシスはその形を変えてきたが、それはバンドに新たな刺激とアイディアをもたらす一方で、移り変わりの速い音楽シーンの栄枯盛衰を物語るものでもあった。90年代のブリットポップの熱狂から遠く離れ、音楽のトレンドも時代の空気も変遷していくなかで、オアシスはオアシスのままではいられなかったのである。2000年代はロックンロール・リヴァイヴァルなどのムーヴメントもあって90年代末の閉塞感を打破するようにロックバンドが再び元気を取り戻した時代であり、オアシスもその追い風のなかで野心的に活動を繰り広げたが、リヴァイヴァルが終息していくとともに、オアシスもいったんその歴史にピリオドを打たざるを得なかったのである。

だが、またしても時代は移り変わっていった。2010年代前半はノエルがノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズとしてソロ活動を展開する一方で、リアムにとっては鳴りもの入りでスタートした新バンド=ビーディ・アイの失敗をはじめ苦悩の時期だったのだが、そこから彼らのキャリアは再び輝きを取り戻していく。
ノエルは2015年以降立て続けにアルバムをリリース、ソロアーティストとしてのポジションを確立させていき、リアムも2017年にソロシンガーとしてカムバックを果たすと、その後もコンスタントに作品をリリースし、新たな脚光を浴びることに成功する。

そんなリアムの復活を支えていたのが、他ならぬイギリスのZ世代の若いリスナーたちだった。2022年に彼がリリースしたソロ3作目のアルバム『C'mon You Know』のアートワークはキッズでごった返すライブのフロアのなかにリアムが紛れ込んでいるというものだが、まさにそうしたファン層がリアムを「古きよき」ロックンロール・スターとして再発見し、浮上させていったのである。その『C'mon You Know』リリース直後の2022年6月に彼はかつてオアシスが伝説的なギグを行ったネブワースで2日間のソロ・ライヴを開催し17万枚のチケットをソールドアウトさせた。そのライブの模様はドキュメンタリー映画にもなったが、それを観ると、オーディエンスのなかにはティーンエイジャーも多数いたことがわかる。彼らにとって、リアムのようなロックスターはとても新鮮で、同時にちょっと懐かしいものだったのだろう。

オアシス再結成はなぜ社会現象に? 若い世代も巻き込んだ一大熱狂の背景を探る
C'MON YOU KNOW / カモン・ユー・ノウ

リアム・ギャラガー『C'mon You Know』アートワーク

『リアム・ギャラガー:ライブ・アット・ネブワース 2022』10月17日(金)より劇場公開

不安定な時代が呼び戻したロックスター

では、なぜ彼らはオアシス的なる存在を求めたのだろう。2010年代後半から2020年代初頭にかけて、音楽のジャンルは多様化し、そのなかでロックは相対的にその地位を縮小させていった。もちろん、たとえばThe 1975のようにグローバルな成功を手にするロックバンドもいたが、彼らはそれこそオアシスのようにふてぶてしいまでに「ど真ん中」のロックスター像を体現するタイプの存在ではなかった。2009年にバンドが終わって以来、彼らの座っていた椅子はずっと空席のままだったといっていい。だが、空席であることと、それを誰も求めていないということはイコールではない。圧倒的な存在感と自由さでロックのメインストリートを闊歩する(余談だが、リアム・ギャラガーほど「闊歩」という言葉が似合うアーティストもいない)──そんなアイコンを、不在だからこそ若いファンたちは望んだのかもしれない。


オアシス再結成はなぜ社会現象に? 若い世代も巻き込んだ一大熱狂の背景を探る

2025年7月11日、英マンチェスターのヒートン・パーク前で座り込むオアシスのファン(Photo by Shirlaine Forrest/WireImage)

じつは2020年代のイギリスの情勢は、オアシスが登場した1990年代半ばから後半にかけてあの国が置かれていた状況とも非常に似通っている。当時のイギリスは長く政権を担ってきたサッチャー政権が翳りを見せ、ついには1997年にトニー・ブレア率いる労働党が18年ぶりとなる政権交代を実現させるという、重要な政治的転換点にあった。一方現在はといえば、2020年に正式に成立したブレグジット以降経済的にも政策的にも不安定ななか、昨年の総選挙で14年ぶりに労働党が政権に返り咲いたばかりである。不安定で不透明な時代だからこそ、人はブレないものを求める。そして、ブレないといえば絶頂期のオアシスである。スターでありながら歯に衣着せずに言いたいことを言い、警察沙汰だろうがドラッグだろうがお構いなし、やりたいようにやって生きる。当時のオアシスの言動は今のコンプライアンスやモラルの観点からいえばレッドカードに値するものばかりだし、年齢を重ねてリアムもノエルも丸くなり、昔のような無茶苦茶はしなくなったとはいえ、それでも彼らの基本姿勢は変わっていない。そんな姿がリアルタイマーではない世代にとってはとても「エモい」ものとして映ったとしても不思議ではないだろう。

そうした時代背景と、若い世代からの熱烈な支持が、現在進行中の再結成ツアーの盛り上がりを生み出す一因となっている。逆にいえば、そうした「追い風」を味方につけることで、ファンのあいだでは「絶対にない」とまで思われていたオアシス復活が実現したのである。次々と届いてくるレポートを読むと、今回の再結成が単なるレトロスペクティヴだけにはとどまらないものになっていることがひしひしと伝わってくる。オーディエンスは「今」欲しい音楽としてオアシスに向き合っているし、ノエルもリアムもそれをしっかりと実感しているのだろう。
非常にポジティヴなモードでツアーを走っている彼らの様子からは、もしかしたらこの先も……と予感が膨らむ。実際、9月末に行われたウェンブリー・スタジアムでの公演で、リアムは「来年また会おう」と発言したらしい。それがどういうことなのか、現時点では知る由もないが、時代とギアががっちり噛み合って、オアシスは再び走り始めた。10月25日・26日、東京ドーム。イギリスに次いで熱狂的なファンをもつこの場所で、最強のオアシスを目撃できることが楽しみで仕方ない。

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営業時間:11時~21時(予定)
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