30年前に公開されたザ・ビートルズ(The Beatles)の画期的ドキュメンタリー・シリーズを修復/リマスターし、完全新作のエピソード9が追加収録された『ザ・ビートルズ・アンソロジー』がディズニープラス スターで独占配信スタート。音楽プロデューサーのジャイルズ・マーティン、オリバー・マレー監督などが制作の裏側を語る。


『アンソロジー』が今なお画期的な理由

新たに修復された『ザ・ビートルズ・アンソロジー』の終盤、胸を打つ瞬間がある。ジョージ・ハリスンがバンドの未来について思いを巡らせる場面だ。「ザ・ビートルズはこの先もずっと続いていくよ」と彼は語る。「レコードや映画、ビデオ、書籍、そして人々の記憶や心の中でね。ザ・ビートルズはいまや、それ自体がひとつの存在になったんだ。ザ・ビートルズは、僕たちがいなくても存在し続けると思う」

そしてジョージはニヤリといたずらっぽく笑い、旧友ジョン・レノンが1966年に歌った「Tomorrow never knows」から一節を引用する──〈存在というゲームを、”始まりの終わり”までプレイせよ〉(Play the game existence to the end of the beginning.)。

ジョージは大げさに言っているわけではなかった。これは90年代初頭に語られた言葉だが、ザ・ビートルズという存在を見事に言い表した予言のようでもある。60年代当時、ファブ・フォーが90年代にこれほど巨大な存在になるとは想像できなかったし、90年代にも誰一人として、今日の彼らがここまで大きな存在になるとは予想できなかった。オリジナルの『アンソロジー』が1995年11月にテレビ・ミニシリーズとして放送されると、世界的な祝祭となり、3作の大ヒット・コンピレーションや豪華本まで生まれた。2025年の現在、いまや8部構成の『アンソロジー』は、1995年当時の人々にとっての『Rubber Soul』や『Revolver』と同じだけ昔の作品になってしまった──それでもザ・ビートルズは、ますます生命力と影響力を増し続けている。「Tomorrow never knows」とは、まさにこのことだ。


『アンソロジー』がついに長らく待たれた復活を果たし、11月26日よりディズニープラスで独占配信が始まった。今回の新バージョンは、ピーター・ジャクソン率いるウィングナット・フィルムズ(WingNut Films)のチームによってデジタル修復・拡張が施された。彼らは2021年にファンを驚嘆させた『ザ・ビートルズ:Get Back』と同じ技術を用いている。音楽はジャイルズ・マーティンがリマスターし、新たに『アンソロジー 4』となるアルバムも手がけた。さらに今回、新たに追加されたエピソード9は、ひときわ情感に満ちている。90年代初頭、当時生きていた3人のメンバーが再会し、このプロジェクトに共に取り組む姿に焦点を当てている。

『アンソロジー』は、4人それぞれの言葉によって語られるザ・ビートルズ・ドキュメンタリーの決定版として、今もなお揺るぎない存在感を放っている。この作品を革新的なものにし、今日に至るまで新鮮さを保っている理由のひとつは、”彼らだけ”で構成されている点だ。ナレーションも、識者の語りも、著名人の証言もない。ただポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスン、そして故ジョン・レノンのアーカイブ・インタビューが、彼ら自身の歩みと、その前にあった出来事を振り返るだけ。バンドとしての彼らの人生の狂騒ぶり──まだ若い少年たちが、たった10年で世界を変えていくさま──を見事に捉えている。エピソード9の監督オリヴァー・マレーは本誌の取材にこう語っている。
「ジョージが『Sgt. Pepper』を作り終えたとき、まだ24歳だったなんて、本当に信じられないよ。僕が24歳のときなんて、たしかジャガイモでボング(大麻吸引に使う水パイプ)を作ろうとしてたのに(笑)」。

だが『アンソロジー』が実現するまでには時間がかかった。バンドがぎくしゃくした終わり方をしてから25年、元ザ・ビートルズのメンバーが再び集い、長く曲がりくねった(Long And Winding)友情の物語を語るためには、時間と心の整理が必要だったのだ。「ある意味、勇気のいることだったんだ」と、ジャイルズ・マーティンは振り返る。「彼ら自身にとっても、他の誰しもにとっても予想外のことだった。でもそれは彼ら全員にとって浄化のプロセスだったと思う。解散してからというもの、あちこちから批判を向けられ続けて、彼らは”どんな関係だったのか”という感覚を忘れてしまっていたんじゃないかな。古いアルバムをふと開いて、写真の一枚ずつを眺めながら、『ああ、自分はこの人と素晴らしい関係を築いていたんだ』と思い出すようなものだったと思う」。

『ザ・ビートルズ・アンソロジー』復活秘話 当事者が明かす刷新のプロセス、4人の物語が「未来」であり続ける理由

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1995年に『アンソロジー』が初公開されたときの文化的ショックは凄まじいものがあった。ザ・ビートルズはそれ以降、60年代に起きた出来事ではなく、今なお成長し続け、変化し続ける現象として捉えられるようになった。今回のエピソード9では、生き残ったメンバーたち自身が、バンドの驚くべきアフターライフの理由を説明できないと告白している。
世界が自分たちをこれほど愛していることに、彼ら自身が戸惑っているのだ。「あれから30年経って、すっかり伝説みたいになってしまった」とポールは言う。「僕たちとしては”ちょっと伝説になりすぎ”なんだよ。だって、まだ現在進行形で生きてるんだから」。

『アンソロジー』は、ついにザ・ビートルズを60年代という枠から解放した。それまで、ザ・ビートルズの物語は「古き良き時代のメルヘン」として、甘いノスタルジーに覆われて語られすぎていた。しかし90年代に『アンソロジー』が登場した頃、新しい世代のファンたちはノスタルジーと無縁だったし、この音楽を”過去のもの”とは考えていなかった──なぜなら当時のザ・ビートルズは、音楽シーンのあらゆる分野で、これまで以上に影響力を発揮し、挑戦的であり続けていたからだ。「ザ・ビートルズは時代を超えた男たちが、時代を超えたことをしているだけさ」とウータン・クランのレイクウォンが言ったように。

当時、人々は自分たちがどれほど『アンソロジー』を愛しているかに驚かされた──楽しめること自体は誰もが予想していたが、ここまで夢中になるとは思っていなかったのだ。10時間を一気に観ようが、好きなところをランダムに覗こうが、とにかく一緒に過ごす時間が喜びに満ちていた(2025年の今もそうだ)。語り草のエピソードがあまりに多く、笑いどころも尽きない。ライトなファンが一夜にして狂信的なビートルマニアに変貌した。
アウトテイク、デモ、ライブの粗削り音源、スタジオでの雑談まで収めた『アンソロジー』三部作もまた、どれも当時の”音楽にお金を払う時代”においてメガヒットを記録した。そして1997年がロック・アルバム史上屈指の豊作年となったのは偶然ではない──あの年に出たどのバンドの新作にも、『アンソロジー』の魔法がかかっていたのだ。

新バージョンでの「刷新」

しかし『アンソロジー』には、長らく技術的なアップグレードが必要だった。多くのファンは、もう何年も本作を観返していないだろう。なぜなら、これまで視聴できたのは古いVHSやDVDのみで、アーカイブ映像は年を追うごとに劣化し、見づらくなっていたからだ。今回の新バージョンは『Get Back』プロジェクトから生まれた。ピーター・ジャクソンとウィングナット・フィルムズのチームは、それまで使用不可能とされていた大量の映像を鮮明に蘇らせた。ザ・ビートルズが大声で笑い、時に言い合いをしながら演奏する姿が、限りなく生々しく立ち上がったのだ。ジャイルズ・マーティンはこう語る。「今回の『アンソロジー』は、『Get Back』制作からの自然な流れの中で生まれたんだ。ピーター・ジャクソンとチームが、『30年経った今こそ『アンソロジー』を作り直すべきじゃないか』と言い始めてね」。

マーティンは今回、音楽面でも同じデミックス技術を使った。
56,000人の絶叫にかき消されていた伝説のシェイ・スタジアム公演でさえ、驚くほどクリアに聴こえるようになったのだ。「”まるで現場にいたかのような音だ”と言いたいところだけど、実際に現場にいたら何も聞こえなかったはずだからね」と彼は笑う。

ジャイルズ・マーティンにとって、これは”ひとつの輪が閉じる瞬間”でもある。彼は、父ジョージ・マーティンがザ・ビートルズを手がけてから何年も後、初めての『アンソロジー』制作時に、まだ10代のアシスタントとして携わっていたからだ。「父と一緒に初めてアビイ・ロードに行ったのは『アンソロジー』のときだったんだ」とジャイルズは語る。「そのとき初めてテープを聴いて、完全に魅了されたよ。こんなにすごい音だったなんて信じられなかった。あの部屋で4トラックの『A Day in the Life』を聴かせてもらったのを覚えている。僕にとっては、とても感慨深い体験だった。というのも、それ以来、僕がザ・ビートルズに関わってきたすべての仕事で抱いてきた目標は、あのときの”感動”をもう一度取り戻すことだったからなんだ」。

『ザ・ビートルズ・アンソロジー』復活秘話 当事者が明かす刷新のプロセス、4人の物語が「未来」であり続ける理由

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4人の物語を「内側から」語る

バンドの右腕だったニール・アスピノールは、1970年に『アンソロジー』プロジェクトに着手し、『The Long and Winding Road』というタイトルで公開するためドキュメンタリーの映像素材をまとめ始めていた。しかし当時、元ザ・ビートルズの面々が最も望んでいなかったのは、自分たちの過去を振り返ることだった。
「あの頃、僕らは戦時中だったからね」とポールはエピソード9の中で語る。隣に座るジョージも「ほとんど口をきいていなかったよ」と付け加える。(もっとも、「Sue Me Sue You Blues」「How Do You Sleep?」「Dear Friend」「Early 1970」「God」など、互いに向けたソロ曲で言い合いをしていたのだが)。それでも年月が経つにつれ、彼らの傷は少しずつ癒えていった。ジョンとヨーコが一時的に別居した際には、ヨーコはロサンゼルスにいるジョンのもとへポールを送り、”どうやって彼女を取り戻すか”という助言を託した。1979年にはジョージ、ポール、リンゴの3人がエリック・クラプトンの結婚式で共にジャム演奏をしている(ジョンは招待されなかったことに激怒した)。

しかし、いま思えば奇妙なことだが、1969年以降、ザ・ビートルズの4人全員が同じ部屋に集まった瞬間は一度もなかった。彼らは「時間はまだある」と思っていた。だが、実際にはなかった。

再結成の夢が完全に途絶えたのは1980年12月、ニューヨークでジョンが見知らぬ男に銃で殺害されたときだった。それから10年後の1991年、イギリスの監督ボブ・スミートンとジェフ・ウォンフォーが、ニール・アスピノールが棚上げにしていた映像企画を新たなプロジェクトとして拡張し始めた。ようやく、生き残った3人が、自分たちの視点からザ・ビートルズの物語を語る準備が整ったのだった。

「ジョージとポールは、ときどき一緒に夕食をとったりしていたんだ」とマーティンは言う。「もちろん連絡は取り合っていた。人々が誤解しがちなのは、彼らが長年ずっと”別々の世界にいた”と思い込んでいること。でも『アンソロジー』を一緒にやるとなると話は別なんだ。同じ土俵に立つ、というかね。彼らにとっても新鮮だったはずだよ。というのも、彼らがいつも言うように、ザ・ビートルズであるとはどういうことだったのか──それを理解しているのは、あの4人しかいないのだから」。

とはいえ、彼らが衝突を抱えていたのも事実だ。ポールが財政問題をめぐる不仲のせいで、ロックの殿堂入り式典をボイコットしたのは、ちょうどその数年前のことだ。作品名が『The Long and Winding Road』から『アンソロジー』になったのは、ジョージが”ポールの曲のタイトルをつけるなんて耐えられない”と拒んだからである。ヨーコは最終的に本編をストップウォッチ片手に観て、ポールとジョンが画面に映る時間を測った。それでも、グループの絆は決して壊れなかった。「ビジネス上の問題を乗り越えたとき」とリンゴは本編で語る。「僕たちは”ザ・ビートルズの決定版の物語を作ってみよう”と決めた。他の人たちが散々ザ・ビートルズについて語ってきたけれど、外側からじゃなく、内側から語るほうがいいと思ったんだ。もうあらゆる人が語ってきた──だから今度は僕たち自身の言葉を聞いてほしいんだ」。

エピソード9制作の真意

新たに追加されたエピソード9では、90年代の”スリートルズ”の姿が描かれる。ポール、ジョージ、リンゴの3人は『アンソロジー』の制作に取り組むために集まり、ジョンが残した未完成曲にも取りかかった。「Free As A Bird」「Real Love」「Now And Then」は、ジョンが70年代後半にダコタ・ハウスで録音したホームデモであり、ヨーコが提供したカセットに残されていたものだ。「初めてあのテープを聴いたときは本当に感情が揺さぶられた」とポールは語る。「リンゴに言ったんだ、『これを聴くときはハンカチを用意しておけ』って。だって、かなり胸にくるんだ。昔の仲間がそっと歌っている声がそこに残っているんだから」。

彼らは「Free As A Bird」と「Real Love」を録音し、どちらもヒットシングルとなった。しかし「Now And Then」については、わずか半日の作業で諦めてしまった。ほかの2人は、ポールほどこの曲に魅力を感じておらず、プロデューサーのジェフ・リンも同様だった。誰もポールがこの曲のどこに可能性を見いだしているのかわからなかった──だが、いかにもマッカートニー的な頑固さで、彼は手放そうとしなかった。「普通の誰かとの仕事なら、これで完全に終わりだっただろうね」とポールは認める。「でもザ・ビートルズの場合は気をつけないといけない。彼らなら、やってのけるかもしれないんだ。どこかに必ずサプライズが潜んでいる。その曲は、消えてなくなるようなものじゃないと思ったんだよ」。その直感は正しかった。何十年も経ったのち、ポールはこのデモを、彼が本来あるべき形と信じていたザ・ビートルズの曲へと仕上げた。古い友への深い敬意が込められた、魂のこもったトリビュート。「Now And Then」は2023年、ザ・ビートルズ最後の新曲として世界的なヒットとなった。

エピソード9は、オリジナル版『アンソロジー』と同じく、胸を締めつけるようなシーンで幕を閉じる。ジョージ、ポール、リンゴが草原に座り、太陽の下でギターをつま弾きながら、気ままに歌を口ずさんでいる場面だ。「今日は本当にいい一日だったよ、みんな」とリンゴが言う。ほかの2人は軽口を返すが、リンゴは微笑みすら浮かべず、ひどく真剣な表情で続ける。「僕にとっては本当に美しくて、心が動かされる一日だった。君たち2人と一緒にいられるのが好きなんだ」。

ジョージのフライアー・パークの芝生の上、穏やかな陽射しの中でギターを奏でる3人の姿は、いま見るといっそう胸に迫るものがある。彼らは、これからの人生でも10年ごとにこうして集まれると信じていたに違いない。けれど、ほんの数年後、ジョージは自宅に侵入した男に襲われ、危うく命を落としかけることになる。その場所は、まさに彼らが腰を下ろしていた場所のほど近くだった。そしてその2年後の2001年、ジョージ・ハリスンは58歳というあまりに早すぎる若さで、癌によりこの世を去った。

「エピソード9には、新たなセルフリフレクション(内省)のレイヤーを持たせる必要がありました」とオリヴァー・マレーは語る。「これは他のエピソードとは息づかいが違う。単純に、後の時代に作られたものだから。いわばコーダ(終章)となるエピソードなんです。私の指針は、”彼らはザ・ビートルズであることをどう感じていたのか””ザ・ビートルズであることにはどんな代償があったのか”を見つめ直すことでした。ところどころ、とてもメランコリックでもあります」。彼らが共有してきた歴史は、いま見ても痛ましいほど生々しく映し出されている。「彼らの間で続いている”生きた会話”のようなんです」とマレーは言う。「ここにあるのは暖炉の前に座って、過去を懐かしむような語り口ではありません。ザ・ビートルズであったことは、彼らが”身にまとっている”ものであり、ときに重荷になることもある。だからエピソード9では、単に外へ向けて語るのではなく、内側を見つめる彼らの姿に向き合える時間を作りたかったんです」。

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『アンソロジー』は何より友情の物語である。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴ──この4人はあらゆるカルチャーにおいて最も有名な”友だち”であり、グループであることの喜びも苦しみも象徴する存在だ。だからこそポールは今年の秋のツアーで、ザ・ビートルズ解散以来初めて、ジョンが1965年に綴った「Help!」をステージで歌っている。80代のポールが、20代前半だった親友ジョンの叫びに再び向き合い、ジョンの痛みを理解しようとし続け、壊れた絆を癒そうとし続けている。その気になれば、自分のヒット曲をいくらでも歌えるのに──それでも彼は、心の底ではジョンのために歌っている。

もちろん、『アンソロジー』全体にジョンの死の影は濃く落ちている。「ジョンのことを思うとかわいそうになるんだ」とジョージはエピソード9で語る。「ザ・ビートルズは楽しい時間もたくさんあったけど、同時に波乱の時期もあった。ご存じのとおり、僕たちが解散したときには、お互いにうんざりしていた。でもリンゴとポールと僕の3人は、そこから年月を重ねて、嫌なものを全部流し去り、新しい光のもとでまた集まることができたんだ。でもジョンはそれができなかった。そのことを少し気の毒に思うよ。ジョンだって、この機会を心から喜んだだろうに」。

9つのエピソードを通して、ザ・ビートルズの笑い声や仲間意識は視聴者にまで伝染するほどで、たとえばポールが『White Album』を擁護する有名な場面などは、その象徴だ(「あれは最高だろ! 売れたし! ザ・ビートルズの”ホワイト・アルバム”なんだぞ! 文句言うなよ!」)。しかし同時に、このシリーズは胸が痛む瞬間にも満ちている。リンゴが、ある日突然バンドを辞めた理由をこう語る場面のように──「愛されていない気がしたし、仲間外れみたいだった。君たち3人は本当に仲が良いように見えたんだ」。すると他の3人はそれぞれ、「いや、仲が良いのは君以外の3人だと思ってた」と返すのだ。

ジョージは辛辣なひと言を放つ達人だが、エピソード9では、他のメンバーが「ポールはいつも僕らを働かせようと口うるさい」と責めたとき、ポールが言い返す言葉に胸を打たれる。「僕はザ・ビートルズが好きなんだ。ザ・ビートルズと一緒に仕事をするのが好きなんだ。それを恥じる必要なんてない。僕は人生でこれがとにかく好きなんだ──音楽を作るということが」。

「エピソード9はシリーズを締めくくるものですが、”終わり”ではありません」とマレーは語る。「私としては、世代と世代をつなぐバトンの受け渡し、あるいは”会話”のようなものになってほしいと思っています。答えと同じくらい、たくさんの問いを残したかったんです。ザ・ビートルズを見つめることは、彼ら自身以上に、今の私たち自身の文化的な位置を見つめることにもつながると思うからです。このレガシーがこれほど生き生きと受け継がれていること自体、驚異的なんです。ザ・ビートルズは、世代から世代へと受け渡されてきた文化言語のような存在で、今や地下水脈のように世界にしみわたっている。僕たちはみんな、その”ビートル水”を知らず知らずのうちに口にしているんです」。

デミックス技術を駆使した音源修復

ジャイルズ・マーティンは本作の音楽、特にライブ演奏部分のリマスターに力を入れた。「ライブ音源は本当に難しい作業だったよ」と彼は語る。「ロン・ハワードと作った『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』(2016年)や、『ビートルズ '64』(2024年)で少し挑戦していたけれど、シェイ・スタジアム、ワシントン公演、日本武道館などの素材は特に大変だった。そこで、ピーター(・ジャクソン)と開発したデミックス技術を使ったんだ」。

もちろん、音楽そのものが変えられたわけではない。単に、その日その場で彼らが実際に鳴らしていた音が、よりクリアに聴こえるようになっただけだ。「最も難しいのは、”どこまで良くするか”と”どこまでリアルに保つか”のバランスなんだ。僕はいつだって、可能な限りリアルを優先する。今回の技術で、ワシントン公演のジョンの声を完全に分離できるんだ──”ジョンだけ”を聴ける。こんなこと、今まで誰にもできなかった」。

その結果、ライブ音源には彼らのむき出しの原始的エネルギーが強烈に焼き付いている。「これが彼ら本来のサウンドなんだよ」とマーティンは言う。「僕は何も付け加えていない。魔法みたいな”演奏力アップのプラグイン”があるわけでもない。彼ら自身が本当にうまいんだ──違うのはいまようやく、そのうまさをちゃんと聴けるようになったってこと。システィーナ礼拝堂の修復と同じだね。あれで、ミケランジェロは実はあんなに暗く重い色彩の画家じゃなかったとわかった。ザ・ビートルズも同じで、クリーニングしてみると、基本的には生々しいパンクバンドみたいな存在だってわかるんだ」。

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マーティンは、父ジョージ・マーティンが当時手がけた『アンソロジー』3作すべてに加え、新作『アンソロジー 4』もリミックスした。「テレビシリーズを作り直すのであれば、ファンのために新しいレコードを1枚作るのも自然な流れだった」と彼は語る。『アンソロジー 4』には、未発表音源が13曲(数え方によっては16曲)収録されており、その多くは1964~65年のアーカイブからのものだ。「Tell Me Why」「If I Fell」「Ive Just Seen a Face」など、名曲の素晴らしい別バージョンも含まれる。その他の20曲は、ジャイルズが過去10年にわたり制作してきたスペシャル・エディション──『Sgt. Pepper』『White Album』のボックスセットから始まるリイシュー・シリーズ──から選ばれた。「ただ純粋に、”ねえ、これ聴いてみてよ。めちゃくちゃ面白いから”っていう発想だけで構成したんだ」と彼は言う。「マーケットの都合じゃなく、素材自身が自然に形を決めていくような感じだよ」。4作品すべてを収めた『アンソロジー Collection』は、全191曲という規模になった。

ザ・ビートルズが「未来」であり続ける理由

最初の『アンソロジー』旋風は、音楽業界を丸ごと揺るがすほどの衝撃だった──誰より驚いていたのは、生き残ったザ・ビートルズ自身だった。「これが最後のフロンティアだろう」と誰もが思っていた。なのに、何百万人もの人々がアウトテイク音源を買い漁ったのだ。一体みんな、どうかしているのか? ポールは冗談めかして言った。「ジョージ・マーティン曰く、これ以上何か出すとなったら、(熱狂的なファンがどうにかなりかねないので)政府の健康警告付きで発売しなきゃならないらしいよ」。

しかし、彼らはまだ知らなかった。マーティンでさえ想像できなかったのだ──21世紀に入り、彼の”4人の息子たち”がさらに巨大で愛される存在になることを。『アンソロジー』が”終着点”だとみんなが信じていた数年後、ベスト・アルバム『1』は2000年代で最も売れたアルバムとなり、約3,000万枚を売り上げた。今もアデル『21』と肩を並べ、21世紀で最も売れたアルバムの座を競っている──しかも収録曲はすべて、アデルが生まれる前にヒットしていた曲なのに。

それこそが『アンソロジー』の奇妙なパラドックスだ。ザ・ビートルズは”過去”に属したことが一度もない。彼らとその音楽は、いつだって”未来”に属している。そして彼らの未来について言えば、明日が何を知っているというわけでもない。ザ・ビートルズについて確実に予測できることは二つのみ。(1)人々がザ・ビートルズを狂おしいほど愛していること、(2)その渇望は世界中でますます大きくなり続けていること。「ジョージがエピソードで語っていること以上に、うまく表現する言葉はありません」とマレーは言う──「ザ・ビートルズは、4人の誰かが欠けても歩み続ける。だって彼らは、もう僕たちみんなのものなんだから」。

しかし『アンソロジー』はこの物語を、リヴァプール出身の4人の少年たち──そして彼らを結びつけた唯一無二の化学反応へと引き戻す。「彼らは僕にとって、生涯で最も親しい友人になったんだ」とリンゴは語った。「僕は一人っ子だったけれど、突然3人の兄弟ができたように感じた。僕らは本当にお互いを気にかけていた」。『アンソロジー』を見るということは、この絆を讃えるだけでなく、その一部になるということでもある。残された音楽がビートルズをもう一度、生き生きと蘇らせるのだ。

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