昨年デレク・トラックスにインタビューした際、すでにテデスキ・トラックス・バンド(以下TTB)の新しいスタジオ・アルバムが完成済みで、2026年にリリースすることをいち早く教えてくれた。その時デレクが興奮気味に言っていた「今まで僕たちがバンドとして書いた中でも最高の楽曲群じゃないかな」「前よりちょっとアグレッシブになっている曲もあれば、バラードもあるし、スーザン(・テデスキ)の現時点で最高のボーカルも入っている。すごくエキサイティングな内容なんだ」という言葉が、実際に新作『Future Soul』が届いた今は素直に納得できる。聴くなりダイレクトに五感を刺激してくる、即効性抜群で親しみやすいアルバム、というのが筆者の第一印象だ。
彼らの近年のリリースを振り返ってみると、2021年にデレク&ザ・ドミノスによる不朽の名作『いとしのレイラ(Layla And Other Assorted Love Songs)』(1970年)を全曲演奏したライブの記録『Layla Revisited』(2019年録音)、そのデレク&ザ・ドミノスのアルバムにヒントを与えたことで知られる、ペルシャの詩人ニザーミー・ギャンジャヴィーの「ライラとマジュヌーン」にインスパイアされたアルバム4枚に及ぶ一大プロジェクト『I Am The Moon』(2022年)、そして昨年はジョー・コッカーの名盤『Mad Dogs & Englishmen』(1970年)を同作の監督役だったレオン・ラッセルと共に再現したライブの実況録音盤『Mad Dogs & Englishmen Revisited』(2015年録音)を発表。企画色の強いアルバムが続いたので、”通常のスタジオ・アルバム”に戻ったのは2019年の『Signs』以来、約7年ぶりということになる。
制作陣に、長年の友人だったというプロデューサー、マイク・エリゾンドを迎えたことも注目すべきポイント。エミネムをはじめとするヒップホップ作品から、フィオナ・アップルやレジーナ・スペクターといったシンガー・ソングライター、マストドンなどメタル系、トゥエンティ・ワン・パイロッツやターンスタイルも手掛けている彼は、デレクの兄貴分であるドイル・ブラムホールIIと交流があり、ベーシストとしての顔も持つ。『Future Soul』でも3曲でベースを弾いた他、キーボードなども担当、八面六臂の活躍を見せている。
冒頭を飾る「Crazy Cryin'」から、ミーターズを思わせるファンキーなリフとビートに驚いた。デレク・トラックス・バンドの『Out Of The Madness』(1998年)でミーターズの「Look-Ka Py Py」をカバーしているし、デレクはファンキー・ミーターズとの共演歴もあるので不思議ではないが、アルバムのオープナーにこれを持ってくる意外性には目が覚める思いだ。しかしファンク色の強いアルバムかと言うとそんなことはなく、むしろ1曲ずつ異なる魅力を持った、過去最高にこのバンドの多様性が楽しめる内容になっている。
フォーク・ロック風の軽快な「I Got You」を書いたのは、シンガーのマイク・マティソン。これまでになかったタイプのキャッチーな曲だが、こういうメロディが書けるソングライターを擁していることもTTBの強みだ。続く「Who Am I」はデレク、スーザン、マイクと、キーボード担当であるゲイブ・ディクソンの共作。デレクの繊細なトリルと、サザン・ソウル味を活かしたアレンジが見事にはまり、感情を揺さぶる。彼らが敬愛するJ.J.ケイルを思い出す人もいるだろう。デレクとマイク・エリゾンドが最初に出会ったのも、2006年頃、J.J.ケイルとエリック・クラプトンとスタジオにいた時期だったという。
ここまではスムーズな流れだが、「Hero」でムードが激変する。ツイン・ドラムの一翼を担うタイラー・グリーンウェルがモチーフを持ってきたというこの曲は、まさかのオルタナ仕様。「ブルース歌手のスーザン・テデスキがグランジを歌っている!」とのけぞらずにいられない曲だが、考えてみればカート・コバーンもマーク・ラネガンも、マッドハニーの面々も皆ブルースを愛聴していたではないか。TTBのヘヴィな側面に意外と合っているし、こんな思い切ったトライが可能だったのも、きっとマイク・エリゾンドの采配によるものでは、と推測する。
長いキャリアに裏打ちされた深みと遊び心
「What In The World」を書いたのはマイク・マティソンが在籍するもうひとつのグループ、スクラポマティックのメンバーで、マイクにとって長年の相棒であるポール・オルセン。優れた楽曲であればバンド外の仲間からも採用していくオープンな姿勢も、実にTTBらしい。
マイク・マティソンが書いたタイトル曲「Future Soul」はブラインド・フェイス「Presence Of The Lord」の後半を思い出させるリフにニヤリとさせられる。そうしたいにしえのロックを思い出させるパートがありながら、リズム・アレンジの妙によって新鮮に聞こえる好例だ。本作でマイク・マティソンが歌う唯一の曲「Under The Knife」も、初期のビル・ウィザースを彷彿させる曲調ながら、ビートの処理によって今日的な質感をまとっている。
一方、ゲイブ・ディクソンもソングライターとして貢献しており、ゴスペル・ロック的な高揚感をポップに表現した「Be Kind」をスーザンは「ポール・マッカートニーとチャック・ベリーが出会ったよう」と絶賛。同じくゲイブが書いた「Devil Be Gone」は一転してシャッフルのブルースで、引き出しの多さを見せつける。後者で聴けるデレクのソロも実にホットだ。
「Shout Out」はタイラー、マイク、デレク、スーザンの共作で、後期ビートルズを思わせるスケールの大きい曲。離れて行ってしまったブラザーに語りかける歌詞が、何とも意味深に聞こえる。具体的に相手がいる、呼びかけの歌なのだろう。
アルバムを締めくくる「Ride On」はデレクとケイブの共作。
思えばデレクとジョン・メイヤー、ジョン・フルシアンテがローリングストーン誌の表紙を飾り、”The New Guitar Gods”特集の顔として打ち出されたのは2007年で、あれからもう19年経っている。その件をデレクに訊くと何とも居心地悪そうにしていた時期もあったが、本作のジャケットでスーザンと夫婦揃ってスーパーヒーローになってしまえるところまで来ていて、長いキャリアを経た余裕がこんな遊びもOKにさせたのだろう。無論、このジャケットはタイトル曲のイメージと同時に「Hero」の歌詞〈私はあなたのヒーローではない〉ともつながっていて、このひねり具合もまた、これまでにないTTBのあり方を示しているように思うのだ。
敢えて長尺曲を減らして5分以下の曲で揃えたことも、ベテラン特有のマンネリズムを回避する上で有効な判断だったのでは。ライブでのジャム・バンド的な魅力はもちろん維持されるだろうが、それとはまた違うスタジオ作品ならではの、”現役バンドとしての声明”をはっきりと、わかりやすく提示してくれたことに、本作の意義はあると思う。新曲がライブでどんな風に化けるのかも、楽しみに見守って行きたい。
テデスキ・トラックス・バンド
『Future Soul』
発売中
SHM-CD 3,300円(税込)
※日本盤ボーナストラック、解説・歌詞対訳付き
再生・購入:https://ffm.to/ttb-futuresoul
商品詳細:https://www.universal-music.co.jp/tedeschi-trucks-band/products/ucco-1248/


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