「もともとはもっとメディアに出たいタイプなんですけど、”謎のアーティストのほうがかっこいい”みたいな空気をずっと引きずっていて」──そう笑うBANVOXは、実はとてもよく喋る人だ。10代でFL Studioを買い、年間500曲という圧倒的な制作力を武器に、Google AndroidのCMソング「New Style」「Watch Me」などで世界に名を知られたアーティスト兼プロデューサー。
一方で、ヒップホップからロックまで横断的に愛するリスナーでもある。長くインターネット上だけだったSKY-HIとの交流が、メジャーレーベル時代、ASOBISYSTEM時代、そしてアメリカ移住の経験を経て、ついにBullmoose RecordsのFlexDealという形で結実。約8年ぶりの四つ打ちとなる移籍第一弾シングル「OB PKWY」を引っさげて、BANVOXがついに”宇宙”を目指して動き出す。

ー昨年のBMSGのコンベンションで、BANVOXさんのBullmoose Records加入が発表されました。ちょうどSALUさんの移籍も合わせて発表されていて、去年の春頃から本格的にBANVOXさんの新章が始まった印象があります。改めて、Bullmoose Recordsでやろうと思った理由から聞かせてください。

BANVOX:その当時、アメリカで生活していたんですけど、日本でも新しいアプローチを試したくなったんです。それで戻ってきて、フリーランスで1年くらいやりながらご一緒できる事務所やレーベルを探していて。そんな中でBMSGのスタッフの方とお話しをする機会があって、SKY-HIさんにもお声がけいただき、所属させてもらうことになりました。

ーもともと接点はあったんですか。

BANVOX:(SKY-HIさんとは)インターネット上だけでした。2012年くらいにフォローしていただいて、そこからDMで軽くやり取りするようになって。
しばらくして、また久々に話す機会があった、という感じですね。

ーアメリカでの経験を経て、日本で新しい環境を選ぶことになった。Bullmoose Recordsを決めた理由は何だったのでしょう?

BANVOX:やっぱり「アーティシズムファースト」を掲げているところですね。そこに惹かれました。もちろん、そういう言葉って掲げるだけなら簡単じゃないですか。でも実際に話をしてみて、本当に僕のことを尊重してくれる場所なんだなと思えたんです。契約したあとも、僕のほうからいろいろ意見を言わせてもらって、その中でちゃんと形になってきて。今はすごくやりやすい環境にしていただいています。本当に、その姿勢を体現している場所だなと思います。

ーBMSGのFlexDeal(オーダーメイド型の柔軟な契約システム。アーティストの要望に合わせてマネジメントやレーベル機能を個別に組み合わて契約できる)のアーティストでもあるんですよね。実際にやってみてどうですか?

BANVOX:やっぱりやりやすいですね。
楽曲面でのサポートもそうですし、出したい時に好きな曲を出せる。今回の「OB PKWY」も、「事務所のカラーに合わせているんじゃないか」と言われたりすることもあるんですけど、全然そんなことはなくて、僕がやりたいことをやっているだけなんです。どこかのカラーに寄せるんじゃなくて、本当に自然体でいられる契約をさせてもらっている感覚があります。

ーBullmoose Records合流時には、「今までのように世界規模でとどまらず、宇宙へBANVOXの音楽を届けます」というコメントもありました。この”宇宙”という言葉には、どんなビジョンが込められているんでしょうか?

BANVOX:個人的な意見ですがグローバルな活動をしていく中で、日本の音楽全体を世界に持っていくという発想だとそれぞれアーティスト個人が目立つのはすごく難しいんじゃないかと思っていて。だったらもっと違うスケールで考えたほうがいいんじゃないかと思ったんです。地球上の人に聴かせるなら、宇宙に届けるくらいの発想でいたほうが、自分の中ではしっくりくる。テンションで言っているわけではなくて、どうやってそこに持っていくか、みたいなことまで含めてちゃんと考えています。

ーそうしたビジョンや哲学は、SKY-HIさんとも共有しているんですか。

BANVOX:むしろ契約してからのほうが、そういう話は深くしましたね。それこそ『THE LAST PIECE』(STARGLOW誕生のきっかけとなった、2025年にSKY-HIが始動させたオーディションプロジェクト)で静岡に自分も行った時に、ホテルで深夜までSKY-HIさんやチームの方と話し込んだことがあって。すごく熱い話をしました。
最初は「見つけてもらった」という感覚が大きかったんですけど、契約してから、より深いところで話せるようになった感じはあります。2012年くらいからずっとつながりはあって、作品を出した時にコメントをいただいたりもしていました。まさかこういう形でSKY-HIさんとご一緒するとは思っていなかったですけど、ずっとゆるやかにつながっていたご縁が、今こういう形になったという感じですね。

ー「才能を殺さないために。」というBMSGのステートメントもありますが、今の環境にいるからこそ、その言葉が響く部分もありますか。

BANVOX:ありますね。これまでいろいろな経験をしてきた中で、自分がこうしたい、ああしたいということをちゃんと考えてくれる場所って、本当に貴重なんだなと思います。今はそういう環境にいられることにすごく感謝しています。

「OB PKWY」が告げる、現在地

ーでは、改めて移籍第一弾シングル「OB PKWY」について聞かせてください。4月17日にリリースされて、現時点での手応えはどうですか。

BANVOX:やっぱり久々のリリースだったので、不安はありましたね。でも、その不安以上の反応はあったと思います。ただ、もっともっと伸びてほしいという気持ちはすごくあります。
もっといろんな人に聴いてほしいし、もっと爆発的に広がってほしいです。

ーリリース前夜にはInstagramライブもされていました。これまで、そこまで顔を出して語るタイプではなかった印象もありますが、そのあたりの意識に変化はありましたか。

BANVOX:もともとはもっとメディアに出たいタイプなんですけど、売り方として「謎のアーティストのほうがかっこいい」みたいな空気がずっとあって。2013年くらいから、それを引きずっていたところはありました。でも僕自身は、表に出たいし、しゃべるのも好きなんです。だから本当はいろんな話をしたかった。Bullmoose Recordsに所属してから、そういうことがすごくやりやすくなりました。アーティスト写真も顔出しでしっかり出していただいたし、今回のジャケットもそうですし、Instagramライブも「やってみようよ」と言ってもらって。実際にやってみて、生でファンの方と交流する機会ってなかなかないので、すごくよかったなと思いました。

ー活動歴も長いですし、昔から応援しているファンも多いと思うので、ファンの人にとってはうれしいですよね。

BANVOX:はい。
いつもグッズを作ってくれる若い男性のファンもいて、ずっと応援してくれています。本当に10年以上。ファンの方たちの印象って、あまり変わっていないんですよね。リリースできなかった時期もあったのに、ずっと変わらず応援してくれているのは本当にありがたいです。海外から来てくれる人もいて、韓国から毎回来てくれる子もいますし、アメリカからいつもメッセージをくれる方もいます。

ーファン層としては、いわゆるクラブ・ミュージックのど真ん中だけではない感じもあります。

BANVOX:僕きっかけでクラブやEDMイベントに行くようになりました、という人が多い印象です。そもそも僕自身、クラブに行かないでクラブ・ミュージックを作っていたような人間なので、そういうところからファンになってくれた人が多いんだと思います。「BANVOXのイベントで初めてクラブに行きました」とか、「クラブは初めてです」という人も結構多いです。いわゆる”クラブ・ミュージック”のファン層とも少し違うし、かといってアニメとかのポップカルチャーの文脈でもなくて、独特なファンダムができているのはうれしいですね。

ーASOBISYSTEM所属時代を経て、また違う層も入ってきたんでしょうか。

BANVOX:そうですね。
中田ヤスタカさん周りの文脈で入ってきてくれた人たちもいましたし、僕きっかけで曲を作り始める子が結構多かったりもします。やっぱり僕自身がいろんなジャンルを作っているからかなと思います。ボカロもやらせてもらっていますし、ヒップホップもR&Bもやるし、ダンス・ミュージックも作る。それと、僕はあまり自分のことをDJと言いたくなくて。もともとDJをやりたくて音楽を始めたんじゃなくて、曲を作りたくて、ラッパーになりたくて始めたんです。アーティストとして曲を作っていたら、イベントに呼ばれるようになった、という感覚なので。もちろんDJにはリスペクトがありますけど、自分が一番届けたいのはオリジナルの音楽なんです。そこはずっと変わらないですね。

ー2015年のGoogle AndroidのCMソング(「New Style」「Watch Me」)も含めて、DJから入るというより、曲から入るリスナーが多い印象もあります。

BANVOX:Google AndroidのCMの影響は大きかったと思います。当時、あの曲から入ってくれた若い子たちが、ずっと「海外の人だと思っていた」みたいな感じでファンになってくれたりして。クラブよりも、音楽にアンテナを張っている人たちのほうがファン層としては多いのかなと思います。だから、音楽を始める子が多いのかもしれないです。

ーちなみに、”banvox”から大文字のBANVOXにアーティスト表記を変えたのも、自分の意思だったんですか。

BANVOX:はい。2020年頃に大文字にしたんですけど、2019年ぐらいから小文字がしっくりこなくなっていたんです。最初は小文字が尖っている感じで気に入っていたんですけど、フェスのフライヤーとかに載った時に、大文字のほうが読みやすいし目立つなと思って。ずっと変えたい気持ちはありました。ただ、名前を変えるのって難しいじゃないですか。だからSpotifyやApple Musicではまだ変わっていないんですけど、自分で発信する分は大文字でいこう、という形ですね。

ー「OB PKWY」は、かなりフロアを意識した曲にも聴こえます。タイトルはアトランタのホテルから見えたOakbrook Parkwayの略称とのことですが、アトランタで得たものは大きかったですか?

BANVOX:大きかったです。アメリカではいろいろイベントにも出させてもらっているんですけど、アトランタの反応がすごく印象に残ったんです。最初はLAに移住するつもりで行っていたんですけど、アトランタに行ったら「めちゃくちゃ熱いな」と思って。お客さんの反応が全然違ったんですよね。アメリカって、バックボーンを知らなくても、純粋にかっこいい曲がすごく受けるんです。日本だと、知っている曲のほうが盛り上がりやすい場面もあると思うんですけど、向こうは知らなくてもかっこよければちゃんと反応が返ってくる。逆に、これはいけるだろうと思ったものがそこまで響かなかったりもして、そのシビアさも含めて面白かったです。その空気感や爆発力みたいなものを、タイトルに残したいと思ったんです。

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ー今回は約8年ぶりの四つ打ちでもあります。この8年間、あえて四つ打ちから距離を置いていた理由はあるんでしょうか。

BANVOX:単純に、作りまくったからですね。2010年から2015年ぐらいまで、ずっと四つ打ちを作り続けていて、もう作り尽くしたなという感覚があったんです。でも少し時間を置いてみると、やっぱり四つ打ちっていいなと思うんですよね。最近はみんな回帰している感じもあるし、自分の中でももう一回やってみたいという気持ちが出てきた。今回やるなら、昔みたいなコンプレクストロやエレクトロっぽい感じより、もう少しハウス寄りの爽やかなものが面白いかなと思って、結果的にああいう形になりました。

ーベースハウス的な質感もありますが、リファレンスにしたものはありましたか。

BANVOX:明確なリファレンスは特にないです。本当に、「今のBANVOXってどんな感じだろう」と考えながら作っていった感じです。ただ、本当はもっとトラップをやりたい気持ちもあって。僕の中ではずっとヒップホップ、トラップが好きなので、第一弾がベースハウスで大丈夫かなという不安はありました。でも、そこで少し裏切る感じがあるのも面白いかなと思ったんです。

ー今後はトラップ寄りの曲が出てくる可能性もある。

BANVOX:全然あります。むしろそういうものもちゃんと出していきたいですね。

ヒップホップから広がるBANVOXの制作思想

ー日本のヒップホップ・シーンから受ける刺激についても聞かせてください。

BANVOX:今、すごく熱いですよね。ずっと面白いなと思って見てきましたけど、さらに面白くなっている感じがします。若い子が入りやすくなった分、今後どう広がっていくのかも気になるし、海外とのつながりも含めて、これからがすごく楽しみです。僕自身、昔から日本語ラップも追い続けてきたので、その流れの中で今の動きもちゃんと見ています。

ー最近気になっている名前はいますか。

BANVOX:日本人だとSieroですね。すごく面白いなと思います。今って、個人で配信したり、いろんな人をフックアップしたりできるようになっているじゃないですか。昔は、そういうことをするにも大きい媒体が必要だったけど、今はそれがもっと自由にできる。その状況自体が面白いなと思います。

ー昨年は梅田サイファー「OOKAMI」のプロデュースを手がけられました。あの仕事はどんな感触でしたか。

BANVOX:久々のヒップホッププロデュースでしたね。普通にトラップをやるのは面白くないなと思って、あえてBPM128にして、でも四つ打ちにもせず、ブレイクビーツっぽい方向に持っていこうと考えました。しかも、シンセを一切使わないという縛りを自分の中で決めて、全部ギターとベースの生音源で作ったんです。ドラムだけはエレクトロだったりジャージーだったり、いろんな要素を混ぜていて、メンバーが多いからバースごとに展開も変えていった。あの曲に関しては、マキシマム ザ ホルモンの影響がかなり大きいですね。ずっと好きで聴いてきたものが、あのタイミングでうまく形になった感じがありました。

ーアウトプットの印象以上に、インプットの幅がすごく広いですよね。

BANVOX:そうですね。ミクスチャーロックもパンクロックも好きだし、ヒップホップも好きだし、ポップスも聴くし、本当にいろいろ聴いています。だから何かを作る時も、「こういうエッセンスを入れたい」と思ったら、その瞬間にバコンと入れる感じなんです。あまり”今こういう時代だからこれをやる”みたいな意識はなくて、気づいたらトレンドのエッセンスが入っていることはある、というくらいですね。

ー音楽の聴き方もかなり能動的だそうですね。

BANVOX:そうですね。僕は結構Beatportで買う派で、自分でプレイリストを作っています。ストリーミングでも聴きますけど、気に入った曲は買うことが多いです。音質のいい状態で手元に置いておきたいんですよね。それは分析したいからでもあって、どこが好きなんだろう、というのを波形で見たり、DAWに落とし込んだりしながら確認することが多いです。だから、ただ流して聴くというよりは、構造まで含めて聴いている感じかもしれないです。

ー面白いです。制作環境は変わりましたか?

BANVOX:全然変わっていないです。FL Studioと、ずっと使っているDELのスピーカーがメインですね。一応ノイマンのモニターもあるんですけど、ベースを確認する時に使うくらいで、メインは変わらず同じ環境です。

BMSGの現場で見えた、新しい役割

ーBMSGでの仕事という意味では、BE:FIRSTのベストアルバム『BE:ST』(初回生産盤のみに収録)で、30曲をつないだノンストップミックスも手がけました。あれは、実際にどういう意識で作ったんですか?

BANVOX:一番大きかったのは、BE:FIRSTのファンの方を失望させたくない、ということでした。だからレーベルの方や担当の方に、「この曲はファンにとってどういう曲か」とか、「BE:FIRSTにとってどういう意味を持つ曲か」ということをかなりヒアリングして、それを踏まえて曲順も含めて細かく考えました。いろんなジャンルの曲があるので難しかったですけど、とにかく違和感がないように、ファンの方がちゃんと楽しめるように作ることを意識しました。

ー深く聴き込んだうえで、BANVOXさんから見たBE:FIRSTの音楽的な強みはどこにあると感じましたか。

BANVOX:やっぱりトラックが強いですね。すごくしっかりしているし、その中にちゃんと面白さもある。王道に見える曲の中にも、一個ひっかかる要素が入っていたりして、すごくよく作り込まれているなと思いました。かなり聴き込んだので、普通に歌えるくらいにはなりました(笑)。それくらい聴いたからこそ、トラックもメロディもすごく強いグループだなと感じましたね。

ー『THE LAST PIECE』でも審査曲を提供するというきっかけを通して、若い世代と向き合う時間がありました。

BANVOX:僕はずっとひとりでやってきたので、まず単純に「仲間がいるっていいな」と思いましたね。みんなで何かを作り上げていく感じがすごくよかったし、羨ましさもありました。そういう環境って、クリエイティブを広げてくれるんだなと思いましたし、見ていてすごくいいなと思いました。

ーSTARGLOWのKANONさんが、トラックがBANVOXさんだったことを喜んでいました。若い世代に自分の名前が届いている実感はありますか?

BANVOX:ありますね。みんな知ってくれているんだ、というのは普通にうれしかったです。音楽をやっている子たちは、どこかで一回通ってくれているんだなと思うと、すごくありがたいです。

ーSTARGLOWのような若い世代のアーティストに、今後さらに楽曲を提供していく可能性もありますか?

BANVOX:やりたいです。やりたいですけど、今はまずBANVOXをもっと強くしていきたい気持ちのほうが強いですね。自分がもっと強くなった上で関わったほうが、もっといい結果を出せるんじゃないかと思っているので。

ーでは最後に、Bullmoose Recordsでの今後について、現時点で話せることを聞かせてください。

BANVOX:今回はかなり久々のリリースになったんですけど、こんなふうにまた長く空くことはないと思います。アルバムを作れるくらいのストックはもうあるので、それをどう出していくかは自分次第なんですけど、今年はかなりリリースしていきたいです。もっとBANVOXを強くしていきたいし、もっとファンの数も増やしていきたい。そのために、音楽も発信もちゃんとやっていきたいなと思っています。

ーSNSやファンとのコミュニケーションも含めて。

BANVOX:そうですね。ずっと制作していると外に出ないから、発信するトピックがないんですけど(笑)、そういう日常的なことも含めて、もっと見せていってもいいのかなと思っています。特にリリースのタイミングでは、Instagramライブみたいにファンと密に交流できる場を作っていけたらいいですね。ああいう場って、意見が直接聞けるのがすごく大きいので。僕は別に隠したいこともないし、知りたいことがあるなら聞いてほしいタイプなんです。そういう意味でも、今の環境はすごく合っているなと思います。

ーBullmoose Recordsに入ってよかった、と。

BANVOX:本当にそう思います。自分がやりたかったこと、表に出したかったことをちゃんと後押ししてくれる場所だし、すごく相性がいいなと感じています。ここからもっとちゃんと前に進んでいきたいですね。

BANVOXが語る、四つ打ちに帰ってきた理由──アトランタの現場とBullmoose Recordsで手にしたもの

「OB PKWY」
BANVOX
Bullmoose Records
配信中
https://lnk.to/OBPKWY
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