ニューヨークにあるギターショップのドキュメンタリー映画『カーマイン・ストリート・ギター』が全国で大ヒット公開していることを記念し、さる8月24日(土)に鈴木茂(ミュージシャン)と萩原健太(音楽評論家)が登壇するトークショーが渋谷のシアター・イメージフォーラムで行なわれた。
チェルシー・ホテル、街で最古のバー・マクソリーズ…、それらは長年愛されてきた街のシンボル。工事の知らせを聞きつけるたびに現場からヴィンテージ廃材を持ち帰るリックは、傷も染みもそのままにギターへ形を変えるのだった。
ルー・リード、ボブ・ディラン、パティ・スミスら大御所が彼のギターを愛用し、人気ギタリストたちが次々と来店。さらには映画監督、ジム・ジャームッシュの姿も。足早に表情を変えゆくニューヨークと、変わらずにあり続けるギターショップの1週間を捉えたドキュメンタリーが、本作『カーマイン・ストリート・ギター』だ。
8月10日より封切った本作は、当日は満員となり、リピーター客も多く押し寄せるほどの人気ぶり。公開記念トークショー第2弾となった当日は、鈴木茂と萩原健太が登壇した。
まず、本作へ絶賛のコメントを寄せる鈴木は「職人は、作る気持ちや姿勢というのが一番大事。職人を、そこまで突き動かすものは何か? それは素材だったりするんですよね。主人公のリック・ケリーさんのようにニューヨークの廃材を使うという部分もそう。
続けて「特にリックさんは僕のアンプを修理してくれる職人の方と共通する部分があって、しみじみいいなぁ…と感じました」と感慨深そうにしつつ、「でも僕が本作で一番面白いと思うシーンは、リックさんたちが“あの”廃材を持ち出しちゃうことだけどね(笑)」と、面白かったポイントを明かし、観終えたばかりの観客の笑いを誘った。
実際に「カーマイン・ストリート・ギター」へ訪れた経験があり、本作のパンフレットにも寄稿している萩原は、「実は、僕、間違って入ってしまったことがあるんです。当時、アコースティック・ギターを探していたから、すぐ出ちゃったんですけど、今思えば惜しいことしたなぁ(笑)。そんな一瞬の印象ではありますが、独特な雰囲気を醸し出しているんですよね」と当時の貴重な経験を語った。

そして、当日は特別にニューヨークから直輸入したリック・ケリーの実際のギターが登場。会場からは一斉に驚きの声が上がり、鈴木の手に渡ると興奮する人が続出。
リックのギターについて鈴木は「丸太を半分に切ったようなネックの太さですね! どうしてこうなったんだろう…」と不思議そうに眺める様子に、会場からも笑いが。
萩原も「そこが彼のこだわりなんでしょうね」とフォローしつつもギターに興味津々。「自分独自の新しい形を追求しているよね」と鈴木もギターから感じ取ったリックの職人魂を伝えた。

現在20本のギターを所有している鈴木は、「例えば、70年代後半~80年代の楽器ってなぜか重かったり、58~62年代のギターは、どこのメーカーのものでも音が良かったりします。本作を観て、木の状態が重さにも音にも影響してくるのだなぁ、と改めて感じることができました」とリックのギターを持ちながらしみじみ。
萩原は「本作を何度も観ると、泣けてくるシーンがたくさんあるんですよ。ギタリストたちがどういう目的で訪れるかという、短いけれどそれぞれのストーリーが垣間見えて面白いんです!」と本作の見所をおすすめ。
鈴木も「リックさんも訪れた人々の意見をギターに反映しているのが分かる」と語り、「本作で僕が一番注目しているのは、現代のアメリカで、将来的に値段が高くなってしまうかもしれないけれど、こだわりを持ったギターをそこまで高く売らずにいる姿勢です。欲しいと思わせてくれることがすごいし、尊敬します」とリックを最後まで絶賛した。
最後に、「茂さん、もし良ければ一曲弾いてください!」と、今か今かと鈴木がギターを弾くのを待ちわびる観客の思いを伝える萩原。すると、鈴木は自身のシングル「砂の女」を特別に披露した。鈴木の大サービスに会場も今日一番の盛り上がりを見せ、トークショーは終了した。