建築・デザイン雑誌の編集者として世界中の「ビックリ建築」を20年以上にわたり追いかけてきた著者・白井良邦が、その集大成としてまとめたビジュアル本が発売。北欧のUFO型住宅から、 フィデル・カストロのつくったトロピカル建築まで。
ブラジル・メキシコ・キューバ・フランス・スイス・フィンランド...と巡り見つけた、 驚愕の建築ばかりを紹介する、 今までにないカルチャー本だ。
世界のビックリ建築を追え:前書きより
1968年、 フィンランド人建築家マッティ・スーロネンによりデザインされたUFO型 住宅フトゥロの模型。BRUTUSという雑誌の編集部に配属されてすぐの、 僕がまだ20代だった頃、 新しい雑誌をつくらないか、 と当時の編集長に声をかけられた。 その新しい雑誌というのが「Casa BRUTUS」という建築を切り口にしたライフスタイル誌だった。 時は1998年夏。 当時スマートフォンなんていうものはなく、 編集部ではようやくパソコンが会社から支給され、 各編集者にメールアドレスが割り当てられ始めたばかりだった。 だから当然、 インターネットで検索なんていうことはまだできず、 調べものがあったら、 その分野の詳しい人物を探し出して話しを聞くか、 本屋や図書館をいくつも回り文献をあたるしかなかった。 建築には興味があったが全くの素人だった僕は、 その日も海外の雑誌がたくさん置かれている図書館へ行き、 当時担当することになっていた北欧デザイン特集のネタ集めをしていた。 そんな折、 パラパラと洋雑誌をめくっていると目に飛び込んできた奇抜な建築があった。 写真こそ小さかったが、 そこには岩肌にへばりつくように建つ無数のUFO型の家のようなものが写っていた。 よく読んでみると、 1968年フィンランドで生まれた未来の住宅フトゥロと書かれている。 「なんだ、 これは!」身体中を電流のようなものが駆け巡った。 と同時に、 ムクムクと好奇心が湧いてきた。
そこにロマンを感じた。 謎のこの建築を自分の目で見てみたい。 建築ってなんだか難しくて、 固いものだと思っていたけれど、 こんな得体のしれない建築もあるのかーー。 これが僕のビックリ建築との出会いだった。
それから約20年。 ブラジル、 キューバ、 フランス、 メキシコ、 ジョージア、 そして日本各地……僕は世界中を巡りビックリ建築を探し捉えてきた。 なぜ不思議なフォルムをもつ建築が生み出されたのか? それは時代のせいなのか?それともマッド・サイエンティストのような建築家のせいなのか??? この本ではその一部ではあるけれど、 「ビックリ建築」という不思議な建築が世にあることをお伝えすると共に、 その魅力や、 生まれるにいたった時代背景や建築家の思想など、 リポートしてみたい。
著者コメント
「この本で紹介している建築の多くは、 人類が宇宙に飛び立った1960~70年代初頭という時代につくられたものばかりです。 この時代のデザインは今も色あせない魅力を放っていますが、 その60~70年代カルチャーを、 社会情勢・スピリチュアル世界の話しなどを織り交ぜながら、 建築を通じ紹介しています。 建築をよく知らない人でも、 大いに楽しんでもらえる内容になっています」
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