近年の中国で現代アートの躍進ぶりは目を見張るものがある。北京、上海などで続々と大型のアート街が誕生、国内の若いホワイトカラー層や欧米の観光客・美術関係者で賑わっている。
5年ほど前から市場で急騰を続けた中国現代アート作品は今年に入って値を下げ始めているという。これまでの盛り上がりは一時的なバブルに過ぎなかったのか、それとも値が落ちる今後こそが旬で、さらなる躍進の可能性を秘めているのか? 投資対象としても中国の今を理解する上でも注目に値するであろう。
日本にいると、中国現代アートの盛り上がりは想像しづらいかもしれない。なぜ中国で現代アートが躍進したのか、今後はどうなるのか、当のアーティストたち関係者はどのように見ているのか? 長年中国現代アートの現場を見てきた栗山明さんに、中国現代アートの置かれている状況を聞いた。
――まず、これから中国現代アートがどうなっていくとお考えですか?
正直予想は難しいですね。市場は今も高い価格が付いていますし、世界中でもてはやされてもいます。ただ、このままいい気でやっていていいのかな、とは思います。たとえば韓国ですね。韓国はこれまでどちらかと言えば内輪だけで流通していたのですが、新興の画廊・アラリオがニューヨーク、北京に進出し、さらには東京にも進出するとの噂を聞きます。彼らは韓国の村社会的な閉鎖性を打ち破って国際社会に進出していく。そうなると、韓国作品がどんどん世界に出てきて、相対的に中国作品の価格が下がっていくことも考えられます。
――すでにそうした状況は始まっているのですか?
それはまだです。ただ、今の中国作品の値段の付き方はあまりにもすごいと思います。キャリアもなく、たいして勉強もしていない大学を出たての若者の作品に、多い例だと500万円もの値段が付いたりして、主に海外の画廊から青田買いされているわけですが、ちょっと浮かれているのではないかと。
――やはり海外の画廊ですね。
ええ。ただ最近は中国の投資家も買い始めています。798(※1)を歩いてみても、たとえば黒龍江省の企業家がとりあえず画廊を作り、若手のキュレーターを雇って、試しに経営してみる、そんな例にいくつも出会いますよ。画廊の数はここ数年でずいぶんと増えました。今は北京も上海も需要が多いんです。日本では貸し画廊制度が一般的で、すなわち日本の普通の現代アート作家だと、バイトで稼いだお金で画廊のスペースを借りて展示するわけですが、中国はそういう状況ではなくて、画廊がお金を出して現代アート作家を抱えているのが普通ですから、すごいことだと思います。
<北京で出会った衝撃的なパフォーマンス>
――栗山さんの中国現代アートとの出会いは15年前に遡りますね。
大学の授業で選択した東洋美術史に興味を持って、初めは軽い気持ちで北京に留学したんです。中国現代アートのことはよく知りませんでしたが、北京に行ったらあるだろうと思って。でも、なかなか出会うことがなくて、悩んだりもしました。そうしたらある日、展覧会で出会った中国人に「現代アートを探している」と話しかけたところ、「おもしろい所を紹介してやる」と農村に連れていかれました。1994年9月のことです。
――そこが東村ですね。
そうです。そこには馬六明や張〓(※2)たち12、3人がいました。今でこそパフォーマンスアート生成の場としてよく知られる東村ですが、当時は紹介されてなく、すごく貧しい農村でよくもこんな物凄いパフォーマンスをやっているな、と驚きました。
――実際にパフォーマンスを見て、いかがでしたか?
張〓の≪65公斤(65kg)≫を見ました。小屋に全裸の彼が吊るされて、腕から抜き取られた血がチューブを伝って皿の上に落ち、皿の下の加熱器で血が沸騰していく。65kgとは彼の体重ですね。
――中国現代アートの歴史に残る有名な作品ですね
今でこそそうですね。ぼくが行った頃はまだ東村も有名ではなくて、なにしろぼくが一番最初に訪れた外国人でした。
――栗山さんは一貫して中国現代アートと関わってきましたね何がひきつけたのでしょうか?
93年に多摩美を卒業する少し前あたりから、あれだけ衝撃的だった天安門事件の影響が徐々に払拭され、改革開放にまい進する中国が横にありました。社会全体が新しい時代を迎える、高揚感に満ちて日々激変する場から一体どういう芸術表現が生まれるのか、そこに強い興味を覚えました。それは今も基本的に同じです。
90年代前半の北京東村に代表される前衛性の強いもの、そして90年代半ばから始まる大衆社会の本格的な勃興と娯楽の多様化に伴う前衛という概念自体の衰退、そして今に続く市場での異常なまでの中国現代美術バブルと、それに伴う様々な弊害と矛盾、最初は水と油のようだった体制側との関係の変化、798の登場や美術館などインフラの急増などによる環境の激変など、中国現代美術を取り巻く状況は現在でも非常に特徴のあるものです。
こうした今までどの国も経験したことのない状況展開から発生する芸術表現として、私は中国現代美術に強い関心を持つのです。
――それにしても中国の変化はすさまじいです。
私は昭和38年生まれですが、私の世代は物心ついたときには東京オリンピックも大阪万博も学生運動も過去にあった大きなお祭りみたいで実感がありません。中国のように今、社会全体が何か大きなうねりをもって新しい時代に突入してゆくことに、漠然としたあこがれのようなものもありました。
――中国現代アートがここまで注目されるとは思いましたか?
確かに香港で93年に開催された中国大陸の現代美術展が注目を集めたこと、ベニス・ビエンナーレに初めて中国が参加したことなどは知っていました。
※1 798……北京市朝陽区大山子にある大型美術施設。かつての国営工場の建物をほぼそのまま使った画廊やアトリエが数百軒あるほか、最近ではウーレンスなど美術館をはじめカフェ、上映施設、ライブスペースもでき、中国現代文化の発信基地のようになっている。
※2 張〓……中国の著名なパフォーマンスアート作家。1965年河南省生まれ。中央美術学院卒業後、北京郊外に東村と呼ばれる芸術家村を作り、前衛パフォーマンスを展開。現在はニューヨーク、上海在住。
※3 ポリティカル・ポップ……中国語では政治波普。80年代末-90年代前半にかけて資本主義の流入を諷刺的に扱い、文化大革命時のプロパガンダ様式の絵などを欧米的なポップアートに転化させた作品。
※4 シニカルリアリズム……中国語では玩世。ポスト天安門事件の潮流として、改革などの理想を捨て、冷めた目線で集団に埋没する人間などを描いた。方力鈞や岳敏君が代表的アーティスト。
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