誰も知らない中国調達の現実(51)-岩城真

 生産工場の品質レベルの指標には、「直行率」と「歩留まり率」というものがあります。「直行率」とは、工程内検査、出荷前検査すべての検査に一発で合格したものの比率を言い、「歩留まり率」とは、一度検査で不良となっても手直し後、再検査で合格となったものも含め最終的に出荷となったものの比率を言います。


 生産工場は高い直行率を目標とすることがあるべき姿です。検査で品質を確保する(検査で不良品を弾く)ものづくりでは、直行率をあげることができません。品質の工程での作り込み(不良を作らない)こそが、高い直行率を実現します。

 しかし、技術レベルの低い工場が高い直行率を目標とすることには、無理がある場合がしばしばあります。特に材料費に対し人件費の安い中国工場の場合、収益確保の観点から重視すべきは、歩留まり率です。言うまでもなく歩留まり率が低いということは、材料ロスが大きく収益性の低下に繋がります。どのような理想を掲げても利益にならない仕事をサプライヤーは受注しません。

 またバイヤーとしても、出荷数量と納期の確保の観点から見れば、直行率よりも歩留まり率を重視したくなるという理由はあります。手直しに時間が掛かり納期確保に問題が発生すれば、本来の直行率向上となりますが、直行率を重視するあまり、手直しの効かない不良を作ってしまうと、材料手配から再スタートとなり、納期確保はより困難になるからです。

 中国のサプライヤーは、穴(メス)ならば、公差の下限を狙い小さめに作り、オスならば、逆に公差の上限を狙って大きめに作るという手法をとります。これは公差を外しても(不良を作っても)手直しで再生できるという歩留まり率向上を狙った施策です。当然、公差の中心値を狙わないので、不良率(直行率)は高くなりますが、歩留まり率が向上し、収益性は向上します。
私が中国調達の仕事をはじめた10年ほど前は、担当したほとんどのサプライヤーでこの施策が恒常的に実施されており、「中国ものづくりの鉄則」といった感さえあるほど蔓延していました。

 その後、歩留まり率重視から直行率重視への転換は、技術レベルの向上に従い順次転換していくといった生易しいものではありませんでした。中国の企業経営者は、日本以上に短期的な収益性を重視します。特に南部の経営者は「ものづくり」も投資の一貫として捉えているので、その傾向はより顕著です。つまり歩留まり率向上で一定の利益確保が実現すれば、あえてリスクを冒してまで、直行率を向上させる動機付けがありませんでした。

 バイヤーがひとつ上のステージへのアップデートという理想を掲げても、なかなか経営者層の理解が得られない中、直行率向上の決定的な動機付けとなったのは、受注増に伴う設備負荷の増大(加工機械を手直しのために占有されるより、増産に振り向けたい)であったと思われます。

 結果として歩留まり率重視から直行率重視への転換が図られたことは、「ものづくり」発展の観点からは、喜ばしいところです。しかしながら、経営者層の意識そのものが改革されていないとしたら、設備の負荷が低下している今、歩留まり率重視へ逆行する危険性はあります。ある意味では、これからが、中国製造業の真価が問われる時代なのかもしれません。(執筆者:岩城真)

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