すると、彼は「君はどうして知っているの? 今日は娘の1歳の誕生日だ」と驚きながら、喜んでくれた。
どうやら彼は私の国際電話を娘の誕生日祝いのものと勘違いしたらしい。
そんなはずはない。Lさんは1983年に私の同期で大学卒業後、県政府機関に就職し、数年前に局長のポストにまで上り詰めた。公務員、かつ共産部幹部の彼は、大学1年生の息子がいるから、娘(しかも1歳になったところ)がいるはずはない。
「もしかして、娘さんは『養子』かい?」という私の直感から発した質問に対して、彼は声を潜めてその経緯を説明してくれた。
それによると、息子が1人いるけれど、大学入学のためすでに遠く離れている大都会で暮らしている。なかなかの名門大学だから、卒業後に地方の地元へ戻ってくる確率はほぼゼロだ。息子にも将来があるから、お膝元に留めることができない。一方で、夫婦の老後生活はやはり寂しさに耐えられない。自分自身は共産党幹部だから、計画出産の国策を十分に弁えているつもりだが、妻はどうしても女の子を育てて、将来に備えたい。だから仕方なく、今流行っていることに習って『養子』をもらったという。
中国では、『養子縁組法』が1992年に施行され、1998年に改正された。
ところが、中国は『上には政策があり、下には対策がある』というお国柄。条件を満たしていなければ養子縁組をしてはならないと法律では定められているにもかかわらず、現実では多くの者はそれを無視して二人目の子を養子としてもらっている。しかもそれが今となって大流行するようになった。それは一般住民に止まらず、公務員、ひいては共産党幹部の間でも急速に浸透している。
一般の状況では、公職に就いている者は計画出産の法律に違反した場合、処罰がもっとも厳しく、降格をはじめ、懲戒免職の処分もありうる。しかし、養子縁組となると、どうやらそれを大目にみる傾向があるようだ。実際、養子縁組のために処分を受けたようなケースはまったく聞いたことがない。
『養子』の最大の供給源は病院の産科である。
地方では、どうしても男の子が欲しい者(特に農村住民)は、女の子を産んだら、それを遺棄する場合が今も多い。
後は戸籍登録だけとなる。これも簡単にできることである。中国では新生児の戸籍登録において原則として病院の出産証明書が必要だが、その証明書はコネクションさえあれば、簡単に手に入るし、証明書がなくても、戸籍登録係にお願い(もちろん賄賂を渡すこと)すれば、特段の支障が生じるものではない。
なぜ中国政府公表の総人口数や計画出産政策の成果がなかなか信じられないのか、このような事情とも深く関係するといえる。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授)
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