「『少年ジャンプ』みたいな漫画雑誌にしたいのよね~」という。つまり、ストーリー漫画中心の雑誌だ。「少年誌だけれど、大人までよめて女性受けもいい内容にしたい」「タイトルは『少年××』にしたいところだけど、そうすると女の子が手にとってくれるかなあ」「月刊誌で価格帯は他の中国の漫画雑誌と同じように5元ぐらいにしたいけれど、クオリティを追求すれば7元くらいになるかも……」。語りだすと止まらない。
彼女は中学校すら出ていない。先天的な下肢障害があり、歩行が困難だ。彼女の生まれ育った江蘇省の片田舎では当時、学校へ行くことも、結婚も、外で働くことも論外だと思われていた。
ところが彼女はそんな障害にも環境にもへこたれるタイプではなかった。彼女は家にあった国内外の小説を読みふけり、その物語の主人公のイラストを描くことに楽しみを見出した。偶然、母親がベッドの下に隠されていたアンナ・カレーニナのイラストを見つけて、その巧さに驚いた。その絵は新聞にも紹介され、またたく間に評判になった。
ここで彼女はまだ満足しない。漫画家になりたいと考えて、漫画先進国の日本に武者修行に飛び込んだ。「中国で連環画家は他におり、ナンバーワンにはなれない。でも漫画なら私が第一人者になれるもの」。
日本でアシスタント経験をつむ一方で、デビューの機会を狙った。絵は巧いが、セリフの日本語表現が不十分だと気付いて、原作者を探してデビューにこぎつけた。そんな挑戦をしながらも、プライベートでは年下の日本人男性と恋愛をし、結婚し、子供を産んだ。なんというバイタリティ。
胡蓉さんはまだ満足していない。漫画家として編集長として中国にいままでなかったタイプの漫画雑誌を発行して、新人を発掘して、中国漫画の未来を拓く、と夢は果てしない。夫が彼女にいう口癖は「あなたといると、退屈しない」。
中国は日本の影響をうけて、漫画ブームの最中にある。日本漫画の翻訳を読むだけからようやく、作家が登場しはじめた。女性差別も障害者差別もまだ残る中国で、その第一世代の筆頭に彼女が立ったのは、単に中国漫画の創始者という以上の使命を負っているような気がする。彼女のような人が、さまざまな矛盾を抱える中国を少しずつよい方向に動かしていくのだ。
写真は広州で開かれた中国漫画家サイン会。(編集担当:三河さつき・水野陽子)
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