北京市内の歴史教師を務め、関連著作やテレビ出演で知名度が高い袁騰飛氏がこのほど、インターネットの動画講座で、中華人民共和国の歴史を痛烈に批判した。毛沢東主席は「皇帝であり教主」で、「思うままに人を殺した」と主張。
さらに、「中国共産党はチベットを武力侵略した」などと論じた。袁氏に対する、猛烈な反発が発生したが、擁護の声もあがった。

 袁氏は、中国の歴史教科書が「デタラメだらけ」と主張。毛沢東主席については、文化大革命時代の青少年の熱狂と本人の満足ぶりを「皇帝はみんな、そうだった」と指摘。「毛沢東は皇帝になり教主になった。すべての独裁者の心理は不健全になり知力はなくなる。毎日のように、万歳と叫ばれるからだ。合理的判断はできなくなる」と論じた。

 袁氏によると、毛沢東主席はヒトラー、スターリンと並ぶ20世紀の三大魔王。ただし、「ヒトラーは外国人を殺戮(さつりく)」、「スターリンは自国民を殺戮。ただし、法律的手段を用いた」点は異なり、「毛沢東は、殺したいと思っただけで、自国民を次々に殺した」という。

 天安門広場にある人民英雄記念碑には毛沢東主席の字で「人民の英雄は永久に朽ちることがない(人民英雄們永垂不朽)」と書かれている。
抗日戦争や国民党との内戦の犠牲者をたたええるものだが、袁氏はこの文句を「(中華人民共和国が成立した)1949年から1978年までの恐怖政治で犠牲になった人々のため」とすべきだと論じた。

 また、チベットは、中華人民共和国が成立した後も独立していたと主張。ダライラマが1989年にノーベル平和賞を受賞したのは、中国共産党のチベットに対する武装侵略に抵抗しているからだとの見方を示した。

 袁氏は、中国の近現代史における「タブー」にまで踏み込んだ。ただし、日本絡みの歴史観で、中国の公式見解と大きな違いはない。靖国神社に参拝する日本人に「病的なファシスト。極右分子」がいるとした上で、「私は靖国神社を見学したが、参拝はしなかった」と述べ、「あなたも、(毛沢東主席の遺体を安置している)毛沢東記念堂を見学するのはよいが、参拝はすべきでない」、「毛沢東記念堂は、靖国神社と同じだ」と主張した。

 袁氏に対しては、多くの非難が寄せられた。インターネットには、同氏を裏切り者などと罵る(ののしる)書き込みが殺到。著作を売るためなどの、売名行為との批判もある。

 一方で、文明論を専攻する作家・研究者の北野氏(姓が北、名が野。中国人)は「“でたらめ”であっても、発言の自由はみとめるべきだ。
言論の自由には副作用がつきものだ。ただし、自分の考えによる発言を許し、(受け取った側が)自分の脳で判断することが、社会全体の知恵を高める最初のきっかけになる」などと擁護。単語を“ ”で囲うのは「本当は異なる」とのニュアンスなので、北野氏は袁氏の主張そのものにも、共感する部分があると考えられる。

 袁氏の「問題の動画」は、削除されたもよう。袁氏は10日までに別の動画をインターネットで公開し「私は大丈夫。心配してくれてありがとう。もう、舌戦をおこなう気はない。法律が公正な裁決を下してくれるだろう」と述べた。

 袁氏は黒板の前に立ち、両手を体の後ろに組むような姿勢だったため、「実際には当局に連行され、手錠をかけられているのだろう」と考える人もいる。(編集担当:如月隼人)

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