神戸市の王子動物園が中国から貸借していた雄パンダ・興興の急死は、精液採取に伴う麻酔中の嘔吐(おうと)による窒息死らしく、普通に考えれば動物園側の言い訳できない医療ミスである。神戸市は50万ドルの賠償金を中国側に支払うことになりそうだ。
50万ドルとは、パンダ一年のレンタル料と同額だ。これを高すぎると思う人もいるかもしれないが、協議書でそう決めているのだから、早急に支払うのは当然だろう。

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 しかし、この件は賠償金を支払って、それで終わりではない。改めて考えねばならないのは「パンダ外交」の妥当性だ。

 日本のパンダ急死のニュースは、中国でもそれなりに報じられた。興興の死は9月9日、尖閣諸島海域で発生した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突の2日後で、ネット上ではほんの一部でだが「日本がパンダを仕返しに殺したのか?」といった言説も飛び出した。

 さすがに、それについては、「証拠もないのに決めつけるな」といさめる声もあるが、死亡原因が死亡原因だけに、中国のパンダファンには大切な国宝を死なせられたことへの悲しみと憤りはある。そして日本人としては、改めてレンタル料や賠償金の高さを思い知らされ、国宝級の動物を借り受けることの責任の重さに気付いただろう。一つ間違えば外交関係にも悪影響をもたらすのだ。

 中国では希少動物を政治の道具にしてきた中国のやり方を見直すべきだ、という声も大きくなっている。とある掲示板でこう書き込みがあった。「中国は数十年前のように貧しい国ではないのだから、パンダに出稼ぎさせて、その研究費を維持する必要があるのか、パンダは故郷で暮らすのが一番いい」

 つがいで年間100万ドルの貸与が中国にとって本当は研究目的以上に、外交的政治的目的であり外貨稼ぎであること、貸与される国にとっては動物園の目玉アイドルが欲しいという商業目的であることは、誰の目にも明らかだ。
本当に繁殖研究のためなら、異国の動物園のようなストレスのある場所ではなく、生息地に研究者を派遣する法がよっぽど効果的で安上がりなのだ。

 今後、神戸市はメスパンダ・旦旦をどうするか、ということを考えなければならない。旦旦と興興の貸与期間は今年6月に5年延長することで合意していたが、繁殖計画なら死亡した興興の代わりに雄パンダを借り受けなければならない。しかし、その意義は本当にあるのだろうか。いっそこれで契約を白紙にもどして旦旦をふるさとに返してやってはどうか。東京都も来年3月に上野動物園につがいのパンダを迎える予定らしい。だが、これを機会に、日本のパンダファンには、高額の賃貸料、外交上のリスクを伴い、パンダ自身にも重いストレスを負わせる「パンダ外交」の妥当性を問うてほしい。(編集担当:三河さつき)

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