「では、ここに息を吹き込んでください」――。女性ドライバーは警察官の求めに素直に応じた。
飲酒運転の取り締まりだ。いずれにしろ、酒は飲んでいない。ところが測定器は「ディー、ディー、ディー!」と警報音を発した。女性は思わず「うっそー!?」。ありえないことだった。中国新聞社が報じた。

 警察官は冷酷に告げた。「100ミリリットル当たり27ミリグラムのアルコールが検出されました。車から降りてください」。女性ドライバーは車から降りながらも抗議した。「そんなはずはありません。全然飲んでいません」――。


 江蘇省南京市内で起きた出来事。10日午後9時ごろだった。同市中華路で、同市第三大隊交通警察が、飲酒運転の取り締まりをしていた。中国では、飲酒運転に絡む重大事故が多発している。世論が厳しく批判していることもあり、罰則は厳密に適用せねばならない。女性ドライバーには罰金1000元(約1万2300円)、反則点12点、運転免許停止6カ月の罰則が科せられるはずだった。

 警察官は女性の抗議を認めない。運転席の窓を開けてもらったとき、車内から強烈な酒の臭いがした。だからこそ、測定を求めたのだ。車からは、女性ドライバーに続いて、男性が降りてきた。「たぶん、ボクが原因かも」と言って、事情を説明しだした。

 男性によると、ふたりは交際中の恋人で、その日は一緒に食事をした。
男性は「白酒(バイヂウ)」を相当に飲んだ。「白酒」は中国伝統の蒸留酒で、度数が50度以上の場合もある。通常は水で割ったりせず、ストレートで飲む。

 男性によると、「飲酒運転は違法」ということは十分に認識しており、だからこそ酒を飲んでいない“彼女”に運転をまかせた。ただし、女性の吐息からアルコールが検出されたことについて、心当たりがないわけではない。駐車場に車を取りに言った時、ふたりでキスをかわした。道路に出て運転しはじめた直後に、飲酒運転の取り締まりに遭遇したという。

 改めて説明を聞き、取り締まりの警察官は「うそを言っているのでもなさそうだ」と直感した。職業柄、処罰を逃れたいばかりに、適当な言い訳をするドライバーには多く接している。2人はそうでもなさそうだ。

 そこで、提案した。設備のある病院まで行って、改めて血液中のアルコール濃度の測定を受けてもらう。
「その結果をもって、飲酒運転の事実の有無の判断とします」と告げた。女性は同意した。

 病院に到着し、血液を採取したのは、それから約10分後だった。血液100ミリグラム中のアルコール濃度は4ミリグラムで、飲酒運転の基準となる20ミリグラムを大きく下回っていた。警察官は「飲酒運転の事実はなかった」と認めた。

 南京市の交通管理関係者によると、吐息によるアルコール測定では、酒を飲んでいなくても、口中にアルコールが存在すれば、測定結果に反映されてしまう。そのため、飲酒した者とキスをすれば「飲酒運転」と判断されることもありうるという。ただし、実際に飲酒していなけれれば10分程度でアルコール濃度は正常値に戻る。

 同関係者によると、吐息による「飲酒運転」の判定に納得できなければ、取り締まりの警察官に対して、病院に行っての再測定を要求することができるという。(編集担当:如月隼人)
編集部おすすめ