――「沖縄国際映画祭」に出席した感想からお願いします。
母を始めとした家族と一緒に来たので、印象深い映画祭になりました。会場の近くにある野球場を見て、大好きな村上春樹さんを思い出しました。村上さんは野球観戦中に小説家になろうと思ったそうですし、空っぽの野球場が出てくるエッセイもあります。だから僕も実際に球場に行って、野球観戦してきましたよ。沖縄の思い出になりましたし、舞台挨拶で観客のみなさんにあいさつできたことも、とても楽しかったです。
――『建築学概論』は大人の男女が共感できる、素敵な作品ですね。タイトルからはラブストーリーのイメージがしませんが、韓国でもこのタイトルだったのでしょうか?
同じです。私がつけましたが、実はタイトルを考えるのは苦手。
――脚本も手がけたイ監督が、映像化するにあたって一番こだわった点はどこでしょう?
こだわりよりも、不安が先立っていました。監督というのは、イメージ通りの映像を撮りたいもの。現場で思ったように撮れない状況になるのは避けたいので、イメージを貫くための進行に苦労しました。キャストの良い演技を引き出す、環境作りも大変でしたね。この作品で映画デビューしたチョ・ジョンソクが演じた、男性主人公・スンミンの親友・ナプトゥクは特に思い入れのあるキャラクターで、ジョンソクには完璧な準備と演技を要求しました。それが本人に大きなプレッシャーを感じさせたようです。
――コミカルな男性で、ジョンソクの存在感が光っていました!
韓国でも爆笑を誘っていたのですが、沖縄の観客のみなさんはあまり笑ってくれなくて、ちょっとショックでしたよ(笑)。日本のほかの地域の方はいかがでしょうか。
――建築士としてのキャリアを持つイ監督は、この作品にご自身のエピソードを取り入れたのでしょうか?
初恋というキーワードは、僕にはあまり関係ありません。
――オム・テウンとハン・ガイン、キャリアのある2人のスターが主演をつとめましたが、どんな印象を持ちましたか?
2人のスケジュールが忙し過ぎて、事前打ち合わせができずに心配でしたが、撮影しながら打ち解けていきました。ガインは細やかな神経を持った女性で、テウンは楽天的。持っている性格が、役にマッチしていたと思っています。そしてテウンが母親に、ガインが父親に抱いている思いがそのまま役に活かされた。台本を読んで個人的に共感できる役だったので出演を決めた、と言われました。裏話としては寝転ぶテウンにガインが寄り添うシーンで、テウンが本当に眠ってしまったこと。いびきが聞こえてNGになりました。ガインは撮影当日には朝4時頃起きて準備万端で取り組む真面目なタイプで、ツンとしていることもあれば気さくな面もある魅力的な女優です。
――テウンとガイン演じる現代の男女と若い頃の2人が交差しますが、見ている内に区別がつかなくなっていく所に、この作品の素晴らしさを感じました。撮影は現代と過去、分けていたのでしょうか?
最も苦労したポイントです。テウンとガインのスケジュールがつまっていたので、順序良くまとめた撮影ができませんでした。現代を数カット撮ったら過去に戻るという繰り返しで、調子づいた時に同じ設定が続けられなくて、集中できずに悩むこともありました。
――過去を演じた、若い2人も魅力的でした。
イ・ジェフンは抜群の才能を持つ男優です。それが全身からにじみ出ていて、前作とはガラリと変わったこの作品の役を見事に演じ切った。スジは10代とまだ若く、映画は初めてなので心配していましたがどんどん馴染んで、全力で取り組んでいました。強さを感じさせる女性でした。K-POPユニットMiss Aのメンバーとしても活躍している彼女が現場に来る日は、スタッフがみんな元気になって頑張っていました。現場を明るくするムードメーカーになってくれたので、監督としてうれしかったですね(笑)。ジェフンがスジを気遣う面も、たくさんありました。
――良かったと納得できる反面、考えてしまうラストシーンでもありました。韓国ではどんな声が届きましたか?
同じような反応でした。現実的な選択をしたハッピーエンドだという感覚ですね。
――上映を楽しみにしている日本のファンに、メッセージをお願いします。
脚本を書いている時から、日本の方たちが好きになってくれるストーリーになると思っていました。韓国人の感情表現や情緒で描いていますが、日本人の方も理解してくださると感じていたのです。僕は日本のアニメをよく見ていますが、この作品は『海が聞こえる』のテイストがどこかにある。たくさんの日本の方に認めていただけたらと、期待しています。(取材・文責:饒波貴子)