調理による煙や油煙に含まれる成分は種類が大きく、200種類以上の物質の存在が確認されている。多くは揮発性有機物で、少なくとも数十種類は人の健康に有害とされる。
油煙の大きさは一般的に0.01-10ミクロンで、空気中で長時間にわたって浮遊する。他の物質と容易に反応し、改めて微小粒子のPM2.5を生成することにもなる。2013年初頭の調査によると、北京・天津・河北地区における調理に伴う煙や油煙が大気中のPM2.5の由来の6%、北京地区だけでは13%と、放置できない状況という。
北京市では、大気汚染に対する住民の関心が高まり、2013年1-6月に市環境保護局に寄せられた大気汚染についての苦情や指摘は前年同期に比べて60%増加した。
最も多かったのは調理による油煙で全体の20.1%、その他は自走者などの排気ガスが7.4%、工場排気が25.1%、土ぼこりが11.5%、ボイラーの煙が12.7%、その他が23.2%だった。
北京大学環境科学・工程学院の胡敏教授によると、北京市内では2005年末時点で企業登録がある飲食業者だけで4.1万社があり、油煙などとして大気中に微粒子2157トンを放出と推定された。
同学院の謝紹東副院長によると、大気中に存在するPM2.5の由来は極めて複雑であり、自動車などによるものが比較的多いと考えられるが、それ以外の原因については、それぞれあまり差がない。
国際的な経験にもとづけば、汚染源それぞれについて、排出の抑制を行うことが必要で、その意味から、飲食業による油煙の排出を抑えることは必要という。
大気汚染防治法では、飲食業者が油煙などを排出しないように必要な措置を取ることを求めているが、実際には油煙の浄化装置などを備えている業者は少数だ。
北京市ではそのため、市の中心部の公共の場所と、郊外地域で設ける禁止区域における、屋台方式でのバーベキューや焼き肉の営業を取り締まる。
その他の飲食店に対しても排出する油煙の浄化装置の設置の指導を強化し、95%以上の設置率を確保する考えだ。
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◆解説◆
北京などでこれまで多く見られた屋台での焼き肉の多くは、ウイグル式の「羊肉串(ヤンロウチュワン)」だった。串に刺した羊肉を塩、唐辛子、クミンパウダーで味付けして炭火で焼く、いわゆるシシカバブだ。
売り手の多くは風貌からして、内陸部からやってきたウイグル族だ。夏などになると屋台を中心に、ビールを片手に屋外で「羊肉串」を楽しむ庶民も多く見られた。
中国で多くの庶民が外食を楽しめるようになったのは、改革開放の成果といってよい。さまざまな問題点はあるにしても、国全体で経済発展に努力した成果と言ってよいだろう。
しかし、多くの人々が物質的欲望を相当に満足させられるようになった一方で、環境汚染はますます深刻になりつつある。庶民の「ささやかなお楽しみ」も、今後は我慢せざるをえない局面が増えていくと考えてよい。
逆に言えば、中国人が自制と禁欲の必要性をわきまえずに「欲望最優先」の生活を続けたのでは環境問題はますます深刻化し、健康被害も増加していくことになる。