中国では各地で、有毒物質・微粒子を含む濃い霧が立ち込める現象が多発している。香港で2月に発表された、霧の多発は地震や旱魃(かんばつ)の前兆という文章が改めて注目され、人々の間に不安が広まった。
中国国営・中国新聞社は11日付で「専門家は霧と地震に関連性は認められないと表明」とする記事を掲載した。

 香港の情報サイト「天大研究」が、研究員として文章発表を続ける姜冬梅氏が著した霧の多発と地震や旱魃を結びつける文章を2月25日付で掲載した。同サイトは政治経済問題を解説する文章が多く、姜氏の文章も多くは政治経済を扱っている。

 姜氏は、中国地震局地球物理研究所の王健研究員が2012年4月に発表した「地球内部の深層部の運動原因とその気候変化に対する影響」を参考にしたと説明した。

 姜氏は2月25日掲載の文章で、中国で多発する汚染された霧について。「環境汚染は霧の発生を加速したが、霧の多発の根本原因は地球内部の活動。したがって旱魃(かんばつ)や地震に警戒する必要がある」と主張。

 「王研究員の理論を推し進めれば、マントル対流が活性化したことにより、岩石が大量の水蒸気を放出し、水蒸気が地表付近に大量にある汚染物質と結合して霧となった。霧以外にも地震や旱魃などその他の災害も続々と発生する。政府関連部門は事前に対策をとるべきだ」との考えを調べた。

 中国新聞社は、王研究員の文章を確認した上で、姜氏の主張には飛躍があると批判。王研究員は「マントルの湧き出しはプレートの運動を推し進め、地震や火山の噴火、旱魃などの災害を多発させる」と論じているが、霧の多発との関係には触れていないと指摘した。


 中国新聞社は中国国内の地震や気象の専門家を取材。専門家らはいずれも、マントル対流と霧の多発を結びつけることを否定する見解を示した。

 中国新聞社は「『霧は地震の前兆』との説明が成り立つのは難しい」との見方を示した上で、「霧の研究に新たな視点を加えたことは事実。わが国の専門家はさらに大きな視野を持って、科学の多くの領域から霧の研究をしてほしい」との考えを示した。

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◆解説◆

 中国では伝統的に「天変地異」を人間社会の大変化に結びつける考えが強い。まず、人間社会の支配者(秦代以降は「皇帝」と称する)は、天が定めた「徳のある者」と考えた。為政者が徳を失い悪政を続けると、天との調和が破れ、天変地異や不可思議な現象が続くとの考えだ。

 言い方を抽象的にすれば、「人災」と「天災」を一体のものととらえる考え方だ。そして「天の命」を失った為政者は滅び、別の者が社会の支配者になる。「天の命が革(あらた)まる」、すなわち「革命」だ。

 「革命」が起こり新しい王朝が成立すると、度量衡の基準を変更することも珍しくなかった。前王朝は天との調和を失ったから滅びたのであり、人間社会で生活を律する度量衡にしても、前王朝と同じ「尺度」を利用しつづけることはできないとの考えだ。
天との調和は、中国の伝統的な考えでは人間社会についての本質的な問題だった。

 現在も、災害の発生と社会の大変化を結びつける感覚は強い。例えば、1976年7月28日に発生した唐山大地震と、同年9月9日の毛沢東の死を「あれは偶然の一致には思えない」と言う人は、特に当時の記憶がある世代の場合、そう珍しくない。

 中国政府は大災害が発生した場合、軍も大量投入するなど全力で救助・支援に取り組む。自国民に降りかかった被害を最小限に食い止める行動で、当然のことであり批判する理由もないが、共産党・政府にとっては「大災害に勝利した」との構図を作ることが、伝統的な感覚による不安の増大を阻止するためにも、どうしても必要と理解してよい。

 「大災害に勝利」を強調するために、救助やその後の復興への取り組みの紹介・報道にも力が入れられる。

 記憶に新しい例では、2008年5月の四川大震災がある。手抜き工事の問題など「人災面」への批判は出たが、救助や復興についての政府の迅速で積極的な姿勢は人々にほぼ受け入れられた。同年夏の北京五輪開催もあり、中国当局は人々の不安増大を食い止めることに成功したと言ってよいだろう。

 なお、姜氏は「毒霧」発生について「面積を拡大し、長期に渡っている」と論じ、「地球そもものに原因がある」と主張したが、「異常発生しているのは中国だけ」ということの説明はしなかった。中国新聞社も、姜氏の主張に「霧はなぜ、中国で発生しているのか」についての説明が欠落していることには触れなかった。(編集担当:如月隼人)
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