同じ中国の国土といっても、香港とマカオは別世界。香港は1996年までイギリスに、マカオは1998年までポルトガルに統治され、独自の発展を遂げてきた。
中国に返還されたとはいえ、現在は特別行政区として、独自の行政機関と法律、通貨がある。中国人が香港・マカオに行く時には、国外と同じような出入境手続きが必要。この出入境手続きに必要な身分証明書にスマートフォンを使うのが電子身分証明書「E証通」だ。インターネットサービス中国最大手の騰訊HD(テンセント・ホールディングス)が7月にも、「E証通」の試験運用を開始すると、中国メディアが一斉に伝えた。

 現在、香港・マカオに行くためには中国の公安局出入境管理部門が発行する「往来港澳通行証」(入境証)を取得する必要がある。申請には、写真、居民身分証、それから公安局が求めるその他の資料を用意する。その上で、渡航許可(ビザ)も必要だ。今回の「E証通」はテンセントが提供するアプリで登録申請を行い、中国公安部の認証などを経て取得する。利用する際は、「E証通」のQRコードをスキャンするほか、顔認証システムなどを使って本人確認を行うという仕組みだ。スマートフォンで本人確認ができるようになるので、様々な書類を用意する手間が省ける。

 テンセントは、まず、広東省、香港、マカオを含むベイエリア地区「粤港澳大湾区」で、一部の機能を試験的に導入する。将来的には、身分証や入境証などをスマートフォンで表示できるようにし、出入境やホテル宿泊、航空チケット購入、銀行口座開設などさまざまな場面での利用が可能になる見込みという。


 実際の「E証通」の運用には、政府当局との連携が不可欠で、まずは広東省の住民のみを対象とした運用となる見込み。香港政府は2020年にデジタル身分証明書「eID」の導入を計画していることから、香港住民による「E証通」の利用はそれ以降となる可能性があるという。

 中国政府は今年3月、広東省、香港、マカオの経済連携などを強化するベイエリア構想「粤港澳大湾区」を打ち出した。対象地域には、珠江デルタ地帯の9都市(広州、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、仏山、江門、肇慶)とマカオ、香港が含まれる。同構想の実施に伴い、中国本土と香港・マカオ間のヒトの流動性が高まる見通し。現在は、ビザなし渡航が認められた一部の国・地域(日本も含まれる)よりも、中国人の香港・マカオへの渡航は手続きが面倒といわれている。「粤港澳大湾区はロサンゼルス、ニューヨーク、東京湾区と肩を並べることができる」と言われており、ヒトの移動の自由度を高めて一体感のある開発が期待されている。(イメージ写真提供:123RF)


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