石井食品は現在の自社の立ち位置を第4創業期ととらえ、2016年から「地域と旬」をテーマとした取り組みに注力している。このプロジェクトは同社が各地の農家・生産者と連携し、地域の味を全面に出した商品の開発を通じて地域食材の価値を生活者に伝え広げることを目的としたもの。
これまで約30地域の旬の食材を採用している。5月から5年目の販売が始まった「千葉白子町の新玉ねぎをつかったハンバーグ」の材料の一つである新玉ねぎの産地である千葉県長生郡の白子町に向かった。

白子町は、千葉県内最大の玉ねぎの産地として知られる。毎年5月には「白子たまねぎ祭り」が行われ(昨年、今年は中止)、玉ねぎ狩りも盛んだ。その歴史は、大正10年ごろに数人での栽培から始まったと記録されている。昭和30年代からは、落花生との輪作野菜として急速に普及し、野菜指定産地として認められた昭和41年には町の畑地面積の4割強にあたる250haまで規模を拡大した。


白子町が玉ねぎの栽培に適しているのは、ミネラルを含む砂質土と水はけの良い土壌によるもの。九十九里浜に面し、塩分をたっぷり含んだ潮風がもたらす天の恵みと言える。この条件が揃うことで、みずみずしい玉ねぎが育つ。生産者はこの気候と土壌に適した栽培法を研究し、これまでさまざまな品種を栽培してきた。現在は昭和60年代から導入したソニックが中心。また冬場にも販売できると栽培を始めた葉玉ねぎは、いまでは全国一の生産量を誇る。


白子町産の新玉ねぎは、県内では圧倒的な生産量を誇るものの、ピークの昭和40年代と比べると現在の栽培面積は10分の1程度。近年は後継者不足が深刻だ。白子町玉葱出荷組合組合長の大矢忠一さんは「子どもたちは、農家は割に合わないと言ってサラリーマンの道を選ぶ。実際、農業で生計を立てるのは楽ではない」と厳しい現状を口にする。

こうした中、石井食品は「地域と旬」をテーマとした「山梨県大月市産新玉ねぎを使ったハンバーグ」に続く新製品として、本社のある千葉県産の玉ねぎを使ったハンバーグの開発を着想。白子町の玉ねぎにたどり着いた。
肉厚で水分をたっぷり含んだ甘みのある玉ねぎの特徴を生かすべく、同社では試作を繰り返し、生産者の意見を取り入れながらピューレ状のオニオンソースを開発。玉ねぎはソースだけでなく、パティにもふんだんに使用した。また、その年に収穫した玉ねぎに合ったおいしさを提供すべく、毎年試作を重ねるなど素材の味の良さを最大限生かせるよう工夫している。

大矢さんは「白子の新玉ねぎは水分が多く生でも食べられる。一方で気温が上昇すると賞味期限が短くなる。石井食品さんには、玉ねぎを加工食品に利用することで、この短所をカバーしてもらった。
ハンバーグの味と食感は白子の玉ねぎの特徴をうまく表現している」と高く評価する。

ハンバーグの売れ行きだが、17年の約3万個が20年には29万個まで成長。玉ねぎの仕入れ量も約30tまで増え、今年は35tに達するという。販売エリアも順調に拡大しており、地域の旬の味を全国で楽しめるようになった。大矢さんは「玉ねぎが加工されることで白子町の名が全国に広がればうれしい」と喜ぶ。

石井食品では5月から販売を開始しているが、新玉ねぎがなくなる7月末で今シーズンの販売を終了する。