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引き分けについて語った山本キャスター

「NPBで唯一変えたいルール! 引き分けをなくす!」

8月2日(日本時間3日)に、元西武のマキノンさんが自身のXでポストした内容です。日本だけのルールではないでしょうが、海外から見るとかなり特殊なルールに思えるようです。

メジャーでは延長の回数に制限がありませんし、トラブルなどがあった場合には一時中断し、後日あらためて再開するサスペンデッドが適用されることもあります。コロナ禍の際に延長タイブレーク制(ノーアウト、ランナー二塁の状態で攻撃を開始)が導入されて現在も継続されていますが、やはり「決着をつけることが当たり前」という考えが強いのでしょう。

日本の高校野球でも2010年代の中ごろから、延長タイブレークが導入されるようになりましたね。9回終了時の打順を継続するのはメジャーと変わりませんが、ノーアウト、ランナー一、二塁からスタートします。

しかし、日本のプロ野球では採用されていません。9回まで同点でもそのまま回が進み、12回まで決着がつかない場合は引き分けとなります。「できる限り試合時間を短縮する」という目標はあり、そのための施策もさまざまありますが、引き分けに関しては「やむなし」という色が濃いように感じます。

過去のプロ野球の歴史をひも解いても、引き分けという文化をとても大事にしてきたことがわかります。引き分けの良さは、選手の消耗を抑えられること。長いペナントレースでは、ただでさえ投手、野手ともに疲労が蓄積されていきますからね。

また、日本で引き分けが導入される大きな理由のひとつに、交通事情があるのではないでしょうか。アメリカは車でスタジアムに行くファンがほとんどで、試合終了が深夜になっても帰宅することができます。

しかし、電車を使う人も多い日本だと、終電がなくなる深夜まで試合が続いたらクレーム必至です。

野球の「引き分け」について【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第178回
こちらは先日の、スワローズファンが集う居酒屋さんでアルバイトをする......という企画中の1枚です。

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別の面では、タイブレークが延々と終わらなかった場合、選手の成績をどう評価するのかという難しさもあると思います。メジャーでは、延長戦では野手が投手としてマウンドに立つことも許されていますが(点差が大きく離れた場合も可能)、タイブレークが続けば選手が疲弊することに変わりはありません。ヘロヘロになった状態でのプレーも査定されるとなると、つらいものがあるんじゃないかと思います。

日本独特の「引き分けの文化」のお話をしてきましたが、ひと言で引き分けといっても、さまざまな色があると思っています。勝ちに等しい引き分け、負けに等しい引き分けといった言葉もよく使われますね。また、12回までだからこそ、クローザーも投入できる。最後の1球まで目が離せませんし、そこに勝負の妙があると思うのです。

もちろん日本でも、必ず勝敗をつけるルールにするべきという意見もあるでしょう。それは議論が尽きないと思います。「くじ引き」を用いて勝者を決めるスポーツもあるようですが、日本のプロ野球であれば、その試合のスタッツなどで決める手もあるかもしれません。

例えば、「12回で決着がつかなかった場合は、安打数が多いチームが勝ち」というルールだったら......こんなシーンが生まれるかもしれません。

12回裏2アウト走者なし。両チームの安打数はまったく同じで、ヤクルトがチーム随一の俊足・並木秀尊選手を代打に送る。そこで並木選手がセーフティーバントを決める......と見せかけ、セーフティ警戒で前進するサードの頭を越えるヒットを放ち、その時点でサヨナラ勝ち――。新たな駆け引きも生まれて、これはこれで楽しそうですね。

引き分けでいいのか。それとも決着をつけるべきか。その際はどういう方式がいいのかも含め、みなさんのご意見を聞かせいただけたらうれしいです。

それでは、また来週。

野球の「引き分け」について【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第178回

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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